目次
ちょっと変わった仕事の話をしたい。
主役は、人ではない。
ザリガニだ。
料理人はおいしく仕上げた。カメラは食欲を消した。
メンバーはそろった。チームワークは、まだだった
2023年の秋。
私は、ある飲食店のPRプロジェクトを任された。
1週間ほどで、オーナーが数人のスタッフを集めた。
メンバーはそろった。
ただ、仕事の進め方までそろうのは、まだこれからだった。
撮影担当のAさんは、店に向かった。
料理人が作る中国のザリガニ料理を撮るためだ。
届いた素材を数秒見て、こちらの気持ちまで冷えた。
光は、ザリガニに味方していない。
画角の中で、主役が迷子になっている。
構図も、たまたま通りかかった人が撮ったように見えた。
料理人は、ザリガニをおいしそうに仕上げた。
カメラは、見る側の食欲をきれいに消していた。
少し意地の悪い考えまで浮かんだ。
これ、「とりあえず撮りました」で、そのまま提出したのでは?
怒りは、編集ソフトに読み込めない
正直、腹が立った。
でも、私の怒りは編集ソフトに読み込めない。
素材の露出も上げてくれない。
怒ったところで、素材が生き返るわけでもない。
その後も、同じチームで仕事を進めなければならない。
そこで選んだのが、チーム投票だった。
Aさんに結果を見てもらいたかった。
同時に、自分の判断も確かめたかった。
素材が本当に厳しいのか。
それとも、その日の私が厳しく見すぎていたのか。
質問は一つ。
「この動画素材は使えるか?」
選択肢は、
「使える」
「なんとか使える」
「あまり使えない」
「まったく使えない」
四段階評価に、「その他の意見」までついた。
ザリガニ動画なのに、妙に人事考課っぽい。
こうして一本のザリガニ動画が、チーム全員による審査会にかけられた。
記憶では、ほかのメンバーの判断も似たものだった。
少なくとも、私一人がザリガニにケチをつけていたわけではない。
録画ボタンを止めれば、「撮影終了」にはなる。
でも、それだけで「納品完了」とは限らない。
次の編集工程で使えて、初めて素材になる。
もちろん、投票したところで、光は良くならない。
構図も反省しない。
最後は、使えない理由と次の撮り方を具体的に伝えた。
「ちょっと撮ってきて」は、意外と長い
ザリガニ動画は、当時の仕事の一場面にすぎない。
同じ時期、グループチャットにはこんな連絡も届いていた。
「10月11日(水)の夜。ホールで団体宴会。4卓。メニューは決定済み」
店では、もうメニューが決まっている。
こちらの確認事項は、そこからフルコースで始まった。
誰が、何時に行く?
料理、来店客、宴会のにぎわい。
何を、どのくらい撮る?
その素材は、編集で使える?
「ちょっと撮ってきて」は、一言で終わる。
実行しようとすると、一枚の表が必要になる。
機材の要望も届いた。
カメラ、三脚、ジンバル、照明、予備バッテリー、予備のSDカード。
最後に、カードリーダー。
どれも必要そうだ。
ただ、このままでは買えない。
機種は?
個数は?
予算は?
候補のURLは?
まとめて読むと、購入担当にとっては、ちょっとした謎解きだ。
第2回ザリガニ動画審査会を防ぐために
そこで私は、チャットに散らばっていた情報を整理した。
作ったのは、機材・備品の購入希望リストと撮影計画表だ。
別に、表を作るのが大好きだったわけではない。
撮影後に、
「第2回ザリガニ動画審査会」を開きたくなかっただけだ。
購入希望リストは、「全部必要」を「具体的に何を買うか」に変える。
撮影計画表は、「ちょっと撮ってきて」を具体的にする。
誰が、いつ、どこで、何を、どのくらい撮るのか。
メンバーには、もともと業務リストがあった。
業務リストが答えるのは、「何を担当するか」。
撮影計画表で確かめたいのは、
「私たちは、同じ仕事をイメージしているか」。
料理か。
来店客か。
宴会の楽しそうな空気か。
そして、その素材は編集で使えるのか。
出発前に1分確認しておけば、
帰ってから一晩かけて素材を救出せずに済むかもしれない。
表は、ジンバルを出してくれない
もちろん、表はお守りではない。
照明を当ててくれない。
構図も直してくれない。
機材が足りなくても、
引き出しからジンバルを出してはくれない。
実際、日付や担当者、撮影内容を決めた後にも、
「機材不足」というメモが残っていた。
当時の記事にも、この表は完成版ではないと書いた。
実際の状況に合わせてメンバーが追記・修正し、最後に私が取りまとめる運用にした。
表の役割は、問題を消すことではない。
問題を、見えないままにしないことだ。
ザリガニは真っ赤。でも、動画は赤点だった
当時の記事には、こんな意味のことも書いていた。
「運営責任者は、結局チームの何でも屋だ」
今読むと、少し大げさだ。
でも、かなり正直でもある。
運営を任されるということは、
プロジェクトの隙間を埋めることでもある。
情報が足りなければ、補う。
流れが切れたら、つなぐ。
素材が使えなければ、
次は同じことが起きないように段取りを整える。
本当に、分身できればよかった。
一人は表を作る。
一人は撮影を見る。
もう一人は、ザリガニの「きれいに映る権利」を守る。
だって、ザリガニはもう真っ赤なのだ。
動画まで赤点では困る。
※見出し画像、料理映像を確認する場面、一人三役の場面は、生成AIを用いて制作したイメージ画像です。図中の投票画面、チャット、表には、個人情報を加工した当時の記録を使用し、周囲に日本語説明を加えています。中国語表記は原資料のままです。
出典:筆者が2023年10月10日〜12日にWeChat公式アカウント「成长思维实验室」で公開した業務記録(中国語)。