現場観察から言語化した仕事・育成・評価の考察集
私について
自己紹介
私は、上司と部下、両方の視点を行き来しながら組織や仕事の構造を捉えてきました。
どちらか一方の正しさを主張するのではなく、なぜその行動をとるのかを考え、摩擦が最小になる進め方を探ることを大切にしています。その結果、上司を含め誰かに何かを伝える際も、相手の前提に合わせた言葉選びや説明の順序を意識するようになりました。そして上司の言葉の真意が理解できない後輩に思考の通訳者としてわかりやすく伝えることに繋がりました。新人トレーニングやマニュアル作成なども通して、業務の標準化することにも取り組んできました。
仕事観の核
私は仕事の中に含まれる暗黙知を減らし、言葉にして伝えていくことが重要だと考えています。なぜなら私自身が、暗黙知の理解に苦戦してきたからです。
私と同じように暗黙知の理解に時間がかかる人はたくさんいます。しかし、時間がかかるだけで、理解できないわけではありません。私は暗黙知を言葉にして伝えることで、属人化を減らし、組織全体の再現性向上につながると考えています。
そしてそのためには、心理的安全性を確保することが不可欠です。下記の一覧に記した私が考察したテーマはどれも最終的には心理的安全性を確保することに繋がります。心理的安全性が確保された職場は、学習速度と再現性が高く、結果として組織の成果にもつながると考えています。
私が考えてきたテーマ一覧(目次)
正解のない仕事の進め方
新人トレーニングと心理的安全性
「やりたい仕事に挑戦できる」の罠
昇進・評価における構造的リスク
本考察は、特定の企業や制度を否定するものではなく、現場で起こりがちな構造的課題を整理したものである。
1.正解のない仕事の進め方
問題意識
トラブル対応から企画職、仕組みを作るような仕事まで、いわゆる正解のない仕事はどのように進めるかがあまり言語化されていない。私は仕組みを一から作る仕事について、どのように進めれば良いかわからず、なかなか仕事を進めることができなかった。過去の職場を見ても肌感覚でできるようになる人と、どうすれば良いかわからずに躓いてしまう人と両極端であった。
構造の整理
肌感覚でできる人にとっては、それが当たり前の事なので、うまく人にやり方を伝えることができない、もしくは経験で身につけるしかないという教え方になってしまう。結果できる人と躓く人との乖離がどんどん大きくなってしまう。
私なりの整理・実践案
私は正解のない仕事を進めることが上手い上役の元で仕事をする機会をいただいた際にその人の仕事の進め方を観察した。観察する中で感じたこと、考えたことを本人に確認をとらせていただくことを何度も繰り返し、正解のない仕事の進め方を下記のように整理した。
- 仕事の依頼者に「仕事の完成形のイメージ」をヒアリングしてイメージのすり合わせを行う。
- 出戻りの回数を減らせるようによくヒアリングを行う。5W1Hを埋めるように詳細を聞いていく。
- すり合わせた完成形イメージと、現状とのギャップをどのように埋めていくか、現実的に取れる手段を考えて大まかなロードマップを作る。
- 考えた手段を依頼者に提案する。
- 承認を得ることができれば取り掛かる。
- 完成度60〜70%くらいで一度依頼者に見せて、方向性が合っているかどうか確認する。
- 方向性がずれていれば、再びヒアリングを行い、修正する。
- 方向性の修正は多くても3回までに収める。
- 「完成のイメージ」に辿り着けば完了。
この考えが活きる場面
この考え方はトラブルやクレーム応対のような場面でも応用することができる汎用性の高い型である。正解のない仕事や特定のやり方が決まっていない仕事において、仕事に取り掛かる前に、どのように仕事に取り掛かるかロードマップを敷くことができる。正解のない仕事に苦手意識がある人でも、この型に沿って仕事を進めることで習得までの期間を短くできると考えている。
2.新人トレーニングと心理的安全性
問題意識
人によってOJTの技能にばらつきがある。仕事の習得が早い人ほど評価されやすく、より早く教える側に回る可能性が高くなる。一方で仕事覚えの早い人ほど躓いた経験が少ないため、躓きがちな人がどこでどのように躓いているのかを想像したり共感することが難しくなる。そのため仕事を覚えられないのは本人の問題とされがちである。そしてそれが仕事が早い人と躓きがちな人の間で、感情的なすれ違いを生む場合も多々ある。
構造の整理
どのようにすると仕事をスムーズに覚えられるかは、人によって異なるものである。本来であれば一人一人に合わせたOJTを実施することが理想である。しかし、仕事の教え方は、教わる機会がなかなか得られないために個々の経験や感覚に依存しやすい。結果、OJTの技能は職場内でばらつきが生じる。また、教え方を教える人がいてもその人自身の経験ややり方を伝授する場合が多く、その職場での紋切り型の教え方になりやすい。その職場で良いとされているOJTの手法により仕事をスムーズに覚えられない新人がいても、「どのような方法が本人に合っているか」という視点で検討されることは少ないと感じる。
私なりの整理・実践案
- OJT基本
- ①業務を説明する。
- ②業務を実演する。
- ③業務をやらせてみる。
- ④フィードバックする。
- ③④を繰り返す、場合によっては①や②に戻る。
- 段取りを含めて自走できるようになることが目標。
- 関係性の築き方
- 挨拶と自己紹介をする。(名前だけで良い)
- 事前に「説明がわかりづらかったら遠慮なく言って欲しい」とお願いしておく。
- 新人が自分とどれくらい体の距離をとるかで、心理的な距離感を測る。
- 雑談をどのくらい入れるかは、新人の反応次第で臨機応変に調整する。
- フィードバックをする際に、良い点から伝え、改善点は、「このように改善すると良い」という伝え方をすることで角を立てずに伝える→新人が安心してトレーニングに臨める。
- 教える人ではなく、業務習得まで伴走する人というイメージで接する。
- 説明の仕方
- 論理的に順序立てて話す。
- 「〇〇について説明します。」と概要を述べてから説明に入る。
- その仕事が「なんのための」「どんな」仕事なのか、から説明する。
- 説明の順序は、前提→結論→例え→再び結論
- 例え話は、その人の頭の中にあるものを使って例える。
- メモをとっている最中は待ってあげる。
- 質問は歓迎する。
- 常に新人の頭の中を想像しながら説明や段取りを行う。(表情から理解度を測る。)
- 新人の覚えが遅い場合
- 真っ先に考える可能性
- 説明やOJTの進め方がその新人に合っていない。
- 「わかったつもり」に陥っている。
- わからないことがあるけれど、質問ができていない/質問をしてもらえる関係性を築けていない。
- 次点で考える可能性
- 新人の方の取り組み方に理由がある可能性
- メモをとっていない、できないままにしているなど
- 原因を踏まえて、OJTの進め方をより本人に合うように調整する。
- ロールプレイや、練習の回数を増やす。
- 理解の追いついていない部分を炙り出す。
- 説明の仕方を変える
- 指示の出し方
- 新人のOJTなので、指示は一度に一つまで。
- 終わったら報告してもらう。
- 指示を出すときに必ず質問はないか聞く。
- 他は説明の仕方に同じ。
- 指示が伝わっていなかったとき
- コミュニケーションの主役は「聞き手」。伝わらなかったのは、自分の伝え方が悪かったと考える。
- ちゃんと伝わっているかどうかの確認はしたか振り返る。
- 伝わる説明になっていたかどうか振り返る。
- 新人がミスをしたとき
- 新人ではなく、ダブルチェックで見落とした自分の責任。
- お客様を怒らせるような事態になったときは代わりに対応し謝罪する。
- なぜミスが起こったのか。不注意で終わらせずに、仕組みから再発防止策を一緒に考える。
- 感情的に怒らない。なぜそうしたのかをまずヒアリングしてからフィードバックをする。
- 伝わる言い方を心がける。
- 全体の流れ
- まずは全体的に基礎を身につけられるように段取りをとる。いきなり応用まで教えると負担が大きい。
- 最初の1回目は説明と一緒にやってみて流れを体験してみることにフォーカス
- 回数を重ねるごとに1人でやる形に持っていく。それでも必ず新人の成果物は確認し、フィードバックを行う。
- 必要であれば段取りの取り方、ミスのリカバリーの仕方など、抽象的なことも教えていく。
- 応用編を教える。応用は先に抽象的な概念を教えておくと説明しやすい。
- 研修期間内に目標とする業務を自走して取り組めるようになるように、スケジュールを調整してOJTを進める。
この考えが活きる場面
この考え方は、スムーズにOJTを進めるだけでなく、新人が躓くたびにトレーナー側の説明や実施方法を見直す機会ができる。ケーススタディがしやすく、トレーナーとしてOJTの回数が増えるごとに対応できる幅と深さが増していく。さらには属人化しやすいOJTを安定させることができる。また、新人との関係性づくりについても具体化しているので、心理的安全性を作りやすくしている。以上から、再現性、心理的安全性、成果の三点のバランスが取れており、OJTのノウハウが確立されていない職場ほど効果が見込める考え方である。
3.「やりたい仕事に挑戦できる」の罠
問題意識
求人で「手を挙げればやりたい仕事に挑戦できます。その成果によって評価されます。」とうたっている求人がある。チャレンジ精神旺盛で主体的な人材が集まる一方で、以下のデメリットも考えられる。
構造の整理
「やりたい仕事に挑戦できる」というメッセージは、個人の主体性を刺激する一方で、雑務や調整、フォロー、誰がやったか評価されにくい仕事、組織運営に必要な仕事を軽視させる構造を生みやすい。
私なりの整理・実践案
第一にこのような求人に魅力を感じる人は、「やりたいことを仕事としてやる」前提で入社してくるため、職場を運営する上で必要になってくる「誰もやりたがらないけれど、誰かがやらなければならない仕事」の押し付けを行う社員が出てくるリスクが高まる。
第二に、上記と重なる部分があるが、「私はやりたい仕事をやるためにこの会社に入ったから」という前提があるが故に、他社員のサポートや手伝いをしなくなる社員が出てくる可能性が高まる。
第三に、やりたい仕事ができたとしても、そう簡単に成果が出るわけではない。人事評価前に成果の横取りや奪い合いをする社員が出てくる可能性は高い上に、最悪の場合、他の社員の足をわざと引っ張るような事態が起こる。
上記三点はいずれにせよ、「真摯に仕事に取り組み、きちんと成果を出そうとする社員」にとっては、モチベーションの低下を招き、離職してしまうリスクにつながる。
そもそも仕事とは、「誰かにとって大変/面倒/できないこと」を代わりにすることであると私は考える。
「やりたい仕事で成果を出せば評価される」ということを前面に押し出す求人は、短期的に求職者を集められても、長期的に高い離職率につながる可能性を考えることができるのではないだろうか。
改善案として求人にて「やりたい仕事に挑戦できる」ことを押し出すだけではなく、それを支える「誰かがやらなければならない仕事」にも協力して取り組むことを前提として示したり、評価項目に加えることで、一人一人がやりたい仕事に挑戦できる環境を整えつつ、協力することが合理的に評価につながると同時に、利己的にやりたい仕事だけをすることが、本人の評価を下げることにつながる制度を整えることが挙げられる。
この考えが活きる場面
この改善案は間接的に社員間で良い相乗効果を生み出すと考える。理由としては、自分のやりたい仕事のために他者の協力を得られるチャンスを全員が享受できるようになるからである。誰かの負担を減らすために協力する姿勢をとることで、自身のやりたい仕事を成功させるために他者の協力を得やすくなる。誰もやりたがらない仕事から相互協力の空気感を作ることで、いずれはお互いのやりたい仕事にも協力できる可能性が出てくる。それにより誰もがモチベーション高く業務に取り組めるようになる。
4.昇進・評価における構造的リスク
問題意識
昇進させるかどうか。評価者から見たその人の行動と、実際に一緒に働いている人から見たその人の行動が一致しているとは限らない。ときには、評価者には良い実績のようにアピールするのは上手だが、人事評価に影響しない一緒に働く人たちへ蔑ろにするような態度をとる人というのは一定数存在する。
評価者が個々人の働きぶり全てを把握することは困難である。しかし、アピールが上手なだけの人が評価され、実際に着実に実力を伸ばしている人が評価されない事態が生じると、後者にはモチベーションの低下を招く事態となる。真面目に働いている人が割を食う環境は、本当の意味で会社の戦力となる人材の離職を招きかねない。
構造の整理
問題は「周りの人を蔑ろにする人」そのものではなく、そういう行動が合理的になってしまう評価制度である。
評価者は主に評価対象者よりも上役の人物が担うが、上述の通り、評価者が一人一人の働きを全て把握することは難しい。そのため下記のような評価構造だと、適切でない昇進が生まれやすくなる。
- 評価者から見える範囲だけの行動が評価対象になってしまうこと。
- 成果に注目がいってしまいプロセス評価が十分でないこと。
- 自己報告や数字が過度に評価される。
評価者にはアピールするが、周りの人を蔑ろにする人が昇進すると、戦力となる人材の離職を招くことは上述した。私は別の観点から、離職だけでなく職場環境、ひいては昇進したその人自身にもデメリットがあることを次の項目で述べたい。
私なりの整理・実践案
上司として立場が上がれば上がるほど、責任の範囲も広くなる。そのため責任を負っている範囲の全ての仕事を1人で回すことは物理的に不可能になる。
上司は部下に仕事を指示することができるが、それは逆に部下の協力がなければ仕事を完遂することができないことを示している。
よっていかに部下の協力を得られるかどうか、部下に「この人のために協力しよう」と思ってもらえるかどうかがとても重要になる。
評価者にはアピールするが周りの人たちを蔑ろにするような人が昇進して上司になった場合、その人の仕事を支えることになるのは、かつて自分が蔑ろにした人たちである。
はたしてそんな人と協力して働きたいと思ってもらえるだろうか。
上司として発言するようになるため、指示は聞いてくれるかもしれないが、権威と立場さえあれば人からの尊敬の念を勝ち取れるわけではない。職場の雰囲気がどんどん悪くなっていくことは想像に難くない。むしろ蔑ろにされた感情的なしこりから、足を引っ張ろうとする人が出てくる可能性もある。
組織全体としてデメリットがあることはもちろんだが、昇進したその人にとっても、ためになる状況ではない。昇進するまでは良かったかもしれないが、自身が責任を負う組織のマネジメントの段階で大きく躓くことになる。
改善の案は二つある。一つは評価者が、アピールが上手なだけなのか、ちゃんと実力のある人なのかを見極めるだけでなく、同僚や後輩との関係性がどうなのか、多角的に評価できると良いと考える。
その人の同僚や部下に匿名でアンケートを実施したり、普段から相談しやすい職場環境を作るなどの工夫をすることで、全員の職業能力や人間関係の透明性が増し、より良い人事評価につながると考える。
もう一つは、他者を蔑ろにして評価を得るようなやり方が、私が上述したように昇進において不合理であること、助け合いの考え方を実施できることが合理的であることを、評価者の方から常に伝える。そうして職場の文化として根付かせることが有効であると考える。
この考えが活きる場面
これらの改善案も「3.『やりたい仕事に挑戦できる』の罠」の中で挙げた改善案に通ずる。昇進を狙うなら、周りの人たちとの良い関係性が必要であるとわかれば、お互いに協力し合うようになることが期待できる。文化として根づかせれば恒久的に良い職場環境を作ることができる。また、上司として、ただ周りの人との関係性を強いるような言葉や、他を顧みない行動を咎めるよりも、よほど効果を期待できる。なぜなら本人の「評価されたい」という欲求に根ざしているからである。