旬の味通信 ― 第二章:島をめぐる、風と祈りのレシピ
旬の味通信 ― 第二章:島をめぐる、風と祈りのレシピ
風の道、祈りの庭
― 島をめぐる旅の終わりに ―
朝の風が、庭の月桃の葉をやさしく揺らしている。
その香りに包まれると、不思議と心が静まる。
厨房に立つ前のこの時間が、いちばん好きだ。
火も包丁もまだ眠っているその空気の中で、
私はいつも「今日もいただきます」と小さくつぶやく。
この数か月、島をめぐる旅を続けてきた。
豆腐職人の比嘉さん、塩を生む新里さん、月桃細工のツルさん、
そして黒糖の上原さん。
みんな、それぞれの“祈りの仕事”をしていた。
火や水や風、自然の力と共にありながら、
人の手が最後のひとしずくを添える──
その姿に、料理人としての自分を重ねていたのかもしれない。
ある日、上原さんがこんなことを言った。
「風ってのは、道をつくるんだよ。
人と人をつなぐのも、風の仕業さ。」
思えば、この旅で出会った人たちはみな、
風に導かれるようにして、私の前に現れた。
そして、その風が運んできたのは、
“食べる”という行為の本当の意味だった。
料理とは、誰かの心を包むこと。
同時に、自分の中の祈りをそっと差し出すこと。
それを教えてくれたのは、島の人々と自然だった。
苦みのある黒糖も、しょっぱさの中に甘みを宿す塩も、
みんな命の循環の中に生きている。
その味の奥に、人の暮らしと祈りがある。
夜、店の灯りを落とすとき、ふと庭の方から風が通り抜けた。
月桃の葉が鳴り、塩の香りがかすかに混じる。
その風の向こうに、比嘉さんの釜の音、
新里さんの平釜の光、ツルさんの手のぬくもり、
上原さんの火の匂い──
すべてがひとつにつながっていくのを感じた。
この島には、見えないけれど確かな“風の道”がある。
そこを流れるのは、祈りの気配。
人がつくり、自然が受け取り、
また人へと還っていく、やわらかな循環。
私はこれからも、この小さな店の台所で、
その風を聴きながら料理をつくっていく。
一皿の中に、島の祈りと人のぬくもりを映すために。
そして願う──
食べるという行為が、誰かにとっての“祈りの庭”になりますように。