📖 旬の味通信 vol.6
📖 旬の味通信 vol.6
― 春を迎える“クーブイリチー”と受け継がれる心 ―
執筆:東嶋尚弥(1960年12月1日生まれ)
海の恵みと大地の力がひとつになった、祝いの味。春の息吹を感じながら。
🌸 春の光が差し込む台所
冬の冷たい風が少しやわらぎ、
軒先のハイビスカスがまた花を咲かせ始めるころ。
沖縄では、新しい季節を迎える準備が始まります。
そんな春の食卓に欠かせないのが、「クーブイリチー」。
“クーブ”は昆布、“イリチー”は炒め煮。
昆布、豚肉、かまぼこ、こんにゃくを炒めてから煮含める、
祝いの席で欠かせない一品です。
🍽 今日の一皿:「クーブイリチー」
私の店では、祖母から受け継いだ味を守っています。
出汁は昆布の戻し汁をそのまま使い、
かつお節と黒糖を少しだけ加えて、深みのある甘辛さに仕上げます。
「昆布は長寿の象徴、黒糖は人のぬくもり」と祖母はよく言っていました。
春を迎えるこの時期にクーブイリチーを作るのは、
“これからの一年も、健康で幸せに”という願いが込められているからです。
湯気の立つ鍋をのぞきながら、
かすかな潮の香りと黒糖の甘い香りが混ざる瞬間――
ああ、また春が来たんだなと思います。
👵 受け継がれる心
母も祖母も、行事ごとには必ずこの料理を作ってくれました。
手間のかかる料理だけれど、
「手間の中に、心が宿る」と笑っていました。
料理を通して受け継がれてきたのは、
味だけではなく、“生き方”そのもの。
素材に感謝し、食卓を囲む人を思い浮かべながら、
ひとつひとつの工程に心を込める――
その姿が、今も自分の料理の原点です。
🌿 祈りの味、未来へ
春は「はじまり」の季節。
クーブイリチーの香りに包まれた食卓には、
これから始まる一年への希望が静かに漂っています。
料理は、過去から未来へ続く“手のぬくもりのリレー”。
祖母から母へ、母から私へ、
そして、次の世代へ。
その味を受け継ぐことが、
私なりの“祈り”であり、
沖縄に生きる者としての誇りです。
☀️ あとがき ― 春の祈りとともに
クーブイリチーの湯気の向こうには、
いつも家族の笑顔と、穏やかな時間がありました。
料理は、思い出を包み、未来へ渡す小さな舟のようなもの。
今日もその舟を、ゆっくりと海へ漕ぎ出します。