第1回 子どもとの対話からはじまる学び
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導入:ひとつの声が生まれた瞬間
「先生、幸せって、人と比べなくても感じられるものなんじゃないかな。」
ある日の授業での、この一言が忘れられません。
テーマは「幸せとは何か」。
生徒たちは最初、軽やかに答えていきました。
「お金が欲しい」「有名になりたい」「美味しいものを食べたい」──。
けれどその言葉を聞いた瞬間、教室に静けさが訪れました。
やがて沈黙を破るように、一人また一人と「自分にとっての幸せ」を語り始めたのです。
私はその場で確信しました。学びの核心は、知識の伝達ではなく、問いを通して考え続けることにあるのだと。
子どもたちは「問い」を恐れていない
大人はつい「正しい答え」を求めがちです。けれど子どもたちは、まだ答えのない問いに向き合うことをそれほど恐れていません。
むしろ「自分の考えを言っていいんだ」と実感すると、想像以上に豊かな発想を広げてくれます。
対話の場では、子どもたちが互いの言葉を受け止め、考えを深め合います。
教師や大人が「答え」を与えるのではなく、「問い」を一緒に抱え続けることで、学びがはじめて自分ごとになります。
対話を深める問いのデザイン
もちろん「問いかけ」の仕方には工夫が必要です。
単なる「知識確認」ではなく、自分の経験や価値観に触れざるを得ない問いであることが大切です。
たとえば、
- 「もし明日から学校がなかったら、何を学びたい?」
- 「大人になった自分は、どんなことを大切にしていると思う?」
- 「誰かを幸せにするって、どういうことだろう?」
こうした問いは、正解を競うのではなく、自分自身と向き合い、他者と考えを交わすための入り口になります。
教師は「ファシリテーター」へ
子どもたちとの対話では、教師は「知識の伝達者」ではなく「場のファシリテーター」としての役割を担います。
- 誰かの意見をすぐに評価しない
- 沈黙を恐れず、考える時間を共有する
- 小さな気づきを拾い上げて次の問いへつなげる
こうした関わりを通して、子どもたちは「自分の言葉を持っていいのだ」と実感していきます。
学びは未来を信じる行為
あの日の教室での出来事を思い返すたびに、私はこの言葉に立ち戻ります。
学びとは、未来を信じる行為である。
まだ答えの見えない問いを子どもと共に抱え、考え続ける。
その営みの中で育まれるのは、知識だけでなく「自分で問いを立て、未来を切り拓いていく力」です。
そしてその力こそ、これからの社会に最も必要なものではないでしょうか。
おわりに:ここから始まるシリーズへ
この連載では、「学びとは未来を信じる行為である」という視点から、私自身の実践や研究を紹介していきます。
第1回では「子どもとの対話」を取り上げました。次回は「地域での探究活動」について、子どもと大人が共に未来を描いた場面をご紹介します。
学びは一人で完結するものではなく、共に問い続けることで広がっていくもの。
このブログが、読んでくださる皆さんにとっても「問いを共にする場」となれば嬉しく思います。