答えられない質問に、私なりの言葉で答えてみた「軸って何?」
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Ⅰ.面接で言われた「軸がない」「一貫性がない」という言葉
「転職活動の軸がないですね」「これまでの転職理由に一貫性がありません」
面接のたびに、そう言われてきました。
でも、私には確かに“軸”があります。
プロダクトや理念に共感できる場所で働きたい。
成長できて、評価してもらえる環境で働きたい。
人を大切にする組織で、長く働きたい。
これは「軸」ではないのでしょうか?
私は、退職理由が毎回同じである必要はないと思っています。人は変わるし、選ぶ基準も揺れ動くのが自然です。でも、私がこれまで選んできた会社には共通点がありました。
それは「理念やプロダクトへの共感」があるかどうか。つまり、私の中では一貫した“選ぶ理由”があるのです。
テンプレのような言葉を使えば、面接ではうまくいくのかもしれません。でも、私は嘘をついてまで内定がほしいとは思いません。自分の言葉で伝えたい。
だからこそ、時に「ハマらない」と言われて、落とされることもあります。
けれど私は、自分の言葉で、自分の軸を表現することをやめたくない。
そんな思いで、「転職の軸」と「一貫性」という言葉に向き合い、今ここに文章を残します。
Ⅱ.「そもそも軸って何?」時代背景と定義を見つめ直す
「転職活動の軸は何ですか?」
もはや定番になったこの質問。
でも、“軸”ってそもそも何を指しているんだろう?
転職サイトやエージェントの記事を読むと、「軸」とは“仕事を選ぶ上での価値観や判断基準”だと書かれている。たとえば、「成長できる環境で働きたい」「ワークライフバランスを大事にしたい」「社会貢献性のある事業に関わりたい」などがその例としてよく挙げられる。
でも、そうした“軸らしい軸”を最初から明確に持っている人が、どれだけいるんだろう?
転職するたびに自分を見つめ直し、働く意味や価値観を探していく中で、ようやく見えてくるものもあると思う。
この「軸」という言葉が一般的になったのは、おそらく2010年代後半以降、キャリア選択に“自分らしさ”や“共感”が重視されるようになってきた時代背景がある。
特にWantedlyのような、「給与や条件ではなく、理念やカルチャーに共感して働く」ことを大事にするサービスの登場によって、価値観ベースのマッチングがスタンダードになり、「あなたの軸を教えてください」が採用面接での“お作法”のように扱われるようになった。
でも私は、この「軸」という言葉の扱われ方に、少し違和感を抱いている。
軸とは、“ブレてはいけないもの”なのか? “他人に説明できる形”であるべきなのか?
もしかしたら今、“軸”という言葉は、自分を正当化するためのテンプレートになってしまってはいないだろうか。
Ⅲ. 人は変わる、それでも変わらない“通底するもの”がある
「一貫性がないですね」
面接でそう言われたとき、私はいつも少し戸惑ってしまう。
でも本当に、一貫性ってそんなに大切なんだろうか?
人は変わる。
体調や心の状態、置かれた環境、人間関係──何かひとつでも変われば、選ぶ道も、願う未来も変わっていく。私自身、そうだった。
初めての転職では、「もっと裁量のある仕事がしたい」と思った。
二度目の転職では、「人が大切にされる環境で働きたい」と願った。
選んだ理由も、辞めた理由も、その時々で違っていた。
けれど、選んできた会社には一つの共通点がある。
それは「理念やプロダクトに共感できる場所だった」ということ。
ミニシアターという空間を愛する人々と働きたい、女性の健康を思うメッセージに共感したブランドで働きたい
そんな想いが出発点となり、これまでのキャリアを選択してきた。
共感を出発点に、自分の力を役立てたいと願っていた。
成長したい気持ちや、正当に評価されたいという思いもずっとあった。
そして、どこかで「人が大切にされていない」と感じたときに、私は立ち止まった。
そう考えると、「人は変わるけれど、自分の中に流れている価値観には一貫性があった」と、今でははっきり言える。
転職理由の表面だけを並べれば、バラバラに見えるかもしれない。
でも、“何を大切にして選び、どんな時に立ち止まったのか”という背景まで見てもらえたなら、そこにはちゃんと「軸」がある。
自分の変化を否定するのではなく、変化の中にも通底する価値観を見つけていくこと。
それが、私にとっての“キャリアの一貫性”だと思っている。
そもそも、「一貫性」という言葉の扱いにも、私はどこかモヤモヤしている。
あたかも、過去と今が一本の線でつながっていなければいけないかのように、
キャリアを“物語”として語ることを強いられている気がしてしまう。
でも本当に、人の歩みは一直線なんだろうか?
学生時代、私は卒業制作で「結婚式への違和感」というテーマを選んだ。
そのときに先生から言われたのが、「作品をつくるときには、縦軸と横軸を持ちなさい」という言葉だった。
縦軸はテーマや社会との接点。横軸は自分自身の体験や関心。
私は横軸に、幼い頃に読んでいた絵本を選んだ。
当時はまだうまく言語化できなかったけれど、今振り返れば、
「個人的な記憶(横軸)」と「社会的な問い(縦軸)」が交差する地点にこそ、
自分の“伝えたいこと”があったのだと思う。
転職活動も、同じなのかもしれない。
「何を大切にして働きたいか(縦軸)」と「どんな経験や感情を抱いてきたか(横軸)」
その交点に、“軸”と呼ばれるものがあるんじゃないか。
そう考えると、「一貫性がない」と言われたことにも、少し違った見方ができるようになった。
Ⅳ.一貫性という言葉に感じる、静かな息苦しさ
面接で何度も言われてきた「一貫性がないですね」という言葉。
そのたびに私は、「ああ、またか」と思いながらも、どこかで胸をざわつかせてきた。
表面的な転職理由の“整合性”を求められる場面では、
一貫性とは、「わかりやすさ」や「つじつまの合う物語」のような形で期待される。
でも私は、そうした型にはまった言葉で自分の選択を語ることが、どうしてもできない。
嘘をつきたくない。
言葉を飾りすぎたくない。
選んだ理由も、辞めた理由も、すべてが完璧な論理で説明できるわけじゃない。
感情も、迷いも、その時の状況もあって、人は決断する。
それを「一貫性がない」のひと言で片づけられるのは、やっぱり違うと思う。
私は、自分の感覚に嘘をつかないでいたい。
だからこそ、「評価されるためのストーリー」を組み立てることに、少し抵抗がある。
面接の“正解”を言えば受かるかもしれない。
でも、そんなふうに受かった会社で、本当に自分らしく働けるだろうか?
「あなたの軸は何ですか?」
「なぜ前職を辞めたのですか?」
その質問の背景には、“企業の期待する人物像に当てはまるかどうか”という尺度が潜んでいる。
けれど私は、誰かの「正解」に当てはめられることよりも、
自分の中にある「納得」の方を大事にしたい。
たとえそれが、わかりやすい一貫性を持っていなくても──
自分なりの「縦軸」と「横軸」を交差させながら、誠実に選択をしてきたこと。
それこそが、私のキャリアの“骨格”なんだと思っている。
Ⅴ.“私(そこで働く人々)を大切にしてくれる場所”に出会うまで歩き続けたい
これまで、いくつかの会社を経験してきた。
そしてその中で、自分の中にある「軸」も、「変化」も、ずっと一緒に歩んできた。
面接で評価されなかったこと、正解の言葉が言えなかったこと、自信を失いかけた日もあった。
それでも、自分の感じてきた違和感や、信じてきた価値観にだけは、背を向けたくなかった。
だから私は、これからも自分の言葉で、自分の選択を語っていこうと思う。
一貫性のある“物語”は語れなくても、私の中には確かに、
「こういう場所で、こういう人たちと、こういうふうに働きたい」という願いがある。
プロダクトや理念に共感できる場所。
成長と評価の仕組みがきちんと整っている場所。
人を大切にする文化が根づいている場所。
そういう職場に出会えるまでは、焦らず、立ち止まりながらでも、自分の納得のいく転職活動を続けていくつもりだ。
それは決して“わがまま”じゃない。
それが、私にとっての誠実なキャリアの築き方だから。
2025.07.22 山本うみ