約90件の修正指示が約40件になった。変わったのは仕組みだけだった。
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ある現場で、こんな指示が延々と続いた。
テロップの縁の太さが雛形と違う。
フォントが雛形と異なる。
音声が左に偏っている。
「様」か「さま」か、表記を統一してほしい。
専門用語が出てきたが、視聴者向けの注釈がない。
話し終わってからトランジションが始まるまでの間が短すぎる。
これが最初の企業案件だった。そして私の原点になった。
・・・
誰かが悪いわけじゃない。
編集者も、私も、ディレクターも、PMも、制作会社も、クライアントも。
全員がちゃんと確認していた。
それでも修正は収束しなかった。
なぜか。構造に問題があった。
編集者が納品する。私が確認して修正指示を出す。
編集者が直す。次にディレクターへ渡る。
ディレクターがチェックして修正指示を出す。
編集者が直す。さらにPMへ、制作会社へ、クライアントへ——。
数珠つなぎのように、チェックが重なっていった。
そのたびに、新しい修正指示が生まれた。
前の人がOKを出した箇所でも、次の人が別の基準でNGを出す。
これらは全部、どこかに書いてあるルールではなかった。
各担当者の頭の中にある「正解」だった。
しかもこの構造には、さらに深刻な問題があった。
チェックが進むほど上位者になる。
上の人がNGを出すと、下の人のOKは無効になる。
さらに上位者同士の言うことが違えば、
編集者はどちらに従えばいいかわからなくなる。
誰も悪くない。ただ構造が、人を消耗させていた。
どうにかできないか、と考えるようになった。
問題はシンプルだった。
上流の判断基準が、言語化されていなかった。
チェックする側も、自分の基準が正しいかを知らない。
編集者は何を直せばいいかを毎回推測するしかない。
チェックする側は自分の感覚で判断するしかない。
全員が「なんとなくの正解」で動いていた。
何がOKかの基準が、どこにも書いていなかった。
これは能力の問題ではなく、基準がない仕組みの問題だ。
私がやりたかったのはシンプルだった。
編集者が迷わず動ける環境をつくること。
管理する側の仕事は、指示を出すことではなく
現場が動きやすい仕組みを整えることだと思っている。
・・・
だから、動いた。
マニュアルを完成させ、
チェックシートを全員で共有し、
過去の修正指示を知識として蓄積する場所を作った。
関わる全員が「何をOKとするか」を
一箇所にまとめた基準表を作った。
現場のミスが、そのまま知識になる仕組みだった。
現場が動くほど、仕組みが精度を上げていった。
・・・
結果はこうだった。
約90件あった修正指示が約40件まで減り、
修正ラリーも大幅に短縮された。
同じチャンネル、同じ編集者。変わったのは仕組みだけだった。
・・・
あの現場で関わっていた全員は、
本当に真剣に仕事をしていた。
手を抜いていた人は一人もいなかった。
それでも現場は消耗していた。
仕組みがなかった。ただそれだけだった。
現場で学んだのはひとつです。
現場が消耗しているとき、
問題は人ではなく仕組みにある。
「修正が収束しない」
「確認のたびに担当者だけが消耗する」
そんな現場で困っている方がいれば、
気軽に声をかけてください。
真剣に仕事をしている人が、
仕組みのせいで消耗しない現場をつくりたい。
それが今も変わらない私の動機です。