「うん、これで大分ヨット教室らしくなって来たんじゃないかな」
片桐一郎は、OPヨットの船体が20個重なって置かれている姿を眺めながら呟いた。
横浜のマリーナ奥の敷地に、余っていた小さなプレハブ小屋をジュニアヨット教室の場所として使わせておらえることになったのだった。
そこにOPという四角い石鹸箱のようなヨットを20隻、ミニホッパーという三角に先が尖ったヨットを一隻用意することができた。
「本当は、もう一隻分、ミニホッパーを用意したかったんだよな」
片桐一郎は、ミニホッパーの白い船体が一隻しか艇庫に置かれていないのを眺めながら考えていた。
紺色の石鹸箱の形をしたOPに比べて、YAMAHA製のミニホッパーは一隻当たりの艇体価格が高いのだ。
「まあ、明日からのヨット教室のスタートは、まずこの数でのスタートで仕方ないか」
生徒の数も、一応30名ぐらいは参加の応募があった。
「片桐くん」
片桐一郎が、後ろを振り返ると、土居さんがいた。
「あ、土居先生!」
片桐一郎は、土居先生に慌てて挨拶を返した。
土居先生は、横浜のマリーナに20フィートの小さなセーリングクルーザーを保管しているヨットオーナーであると同時に、ヨット業界では、その名を知らない人はいないぐらいの権威だった。
若干20フィートの小さなセーリングクルーザーで日本全国を周ったり、太平洋をシングルハンドで横断してしまったりしている人だった。
「大分、ヨット教室らしくなって来たじゃないの」
「ええ、おかげさまで」
片桐一郎は、土居先生に答えた。
片桐一郎が、今回ジュニアヨット教室を開講したいと理事会に提案した時、一番ジュニアヨット教室の開講を応援してくれたのが、土居先生だった。
むしろ、土居先生が是非開講しようと言ってくれたからこそ、開講できたといっても良いくらいだった。
「本当は、もう一隻だけミニホッパーが欲しいところなんですけどね」
「ミニホッパーは一隻だけなの?」
「ええ、なのでミニホッパー同士で競い合うってことができないんです」
「それは、寂しいね」
「もう予算がギリギリで・・」
「まあ、また予算が少し割り当ててもらえた時に、もう一隻購入すれば良いさ」
「そうですね」
艇庫の中のヨットを、2人は眺めていた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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