解約を防ぐCSから、売上も生みだすCSへ。Live Searchがカスタマーサクセスを売上の第二の柱に変えるまで
(聞き手:広報部)
「カスタマーサクセス」という言葉は、ここ数年で一気に一般化しました。
一方で、「結局どんな仕事なのか」「カスタマーサポートと何が違うのか」は、まだ曖昧なまま語られることも少なくありません。
一般的にカスタマーサクセスとは、サービスを導入した顧客が成果を出し続けられるように伴走する役割を指します。
不動産テックのリブ・サーチは、サービスを提供する立場であると同時に、多くのSaaSを利用する"受け手"でもあります。
そんな環境の中で、リブ・サーチは、ここ半年でカスタマーサクセス組織を大きく組み替えてきました。
「解約を防ぐ」だけから一歩踏み込み、既存顧客の売上を伸ばす柱に帰るために、何を捨て、何を残し、何を仕組みにしたのか話を聞きました。
株式会社Live Search(リブ・サーチ)
福井 隆太郎(ふくい りゅうたろう)
1990年、宮崎県宮崎市生まれ。2016年、福岡県福岡市でリブ・サーチを創業。現在10都道府県で不動産会社向けBPaaSサービスを展開。
「違和感」が、ずっと残っていた
― この半年間で、カスタマーサクセスチームを大きく変革してきたと聞きました。まず、福井さんにとってカスタマーサクセスとは何でしょうか。
福井:リブ・サーチも不動産テックの会社であると同時に、いろいろなSaaSやスタートアップのサービスを使っています。
多くの企業でカスタマーサクセスの担当の方がついてくれますし、一般的に言われている「導入後の成果に伴走する役割」という定義自体には、もちろん同意しています。
ただ、個人的にはずっと小さな違和感がありました。
― どんな違和感でしょうか。
福井:オンライン中心で、定例があって、定着のために必要なことはやってくれる。
でも、それ以上は踏み込んでこない。悪い意味ではないんですが、どこか「仕事として割り切っている」ように見えてしまう瞬間があったんです。
不動産業界の現場って、もう少し複雑で、泥臭い。
カスタマーサクセスが"守り"にとどまっている限り、本当の意味で顧客の成功には近づけないんじゃないか。
そんな問いが、ずっと頭の中にありました。
リーダー退職は、再定義の「余白」だった
― その問いが、今回の組織変化につながったのでしょうか。
福井:半年前に、カスタマーサクセスチームのリーダーが退職しました。
正直、組織の中では不安に感じる人も多かったと思います。
ただ、振り返ってみると、僕にとっては「誰かが辞めた」という事実以上に、組織と人にどう向き合うかを考える時間だったと思っています。
これまでチームを支えてくれたことへの感謝はもちろんあります。
そのうえで、今のカスタマーサクセスチームが本当にメンバー一人ひとりの力を活かしきれているのか、正直に見直す必要がありました。
当時は、組織が少し硬直していて、パフォーマンスも伸び悩んでいた。
だからこそ、このタイミングは役割や構造を見直すための「余白」だと捉えました。
そこから改善を重ね、解約率は低い水準を保ちながらも、アップセル※は今までの過去最高を、さらに3倍以上も更新する状態になりました。
セールスチームが新規獲得する売上と同水準の売上をアップセルからも作れるようになり、売上の第二の柱となる段階にきました。
※アップセル…利用中の製品・サービスの上位プラン変更や追加オプション追加で、顧客により活用していただきながら売上もアップすること
― 最初に決めたことは何だったのでしょう。
福井:カスタマーサクセスの役割を、はっきりさせることです。
「解約を防ぐ部署」ではなく、既存顧客の売上を伸ばす"第二のエンジン"である、と。
この前提に立ち返ったことで、やるべきことが自然と整理されていきました。
AIとスピード。ルールは、できるだけシンプルに
― 見直しの第一手は?
福井:まずは、定型業務はAIで自動化する。
カスタマーサクセスが「人である意味」を発揮すべきところに、ちゃんと時間を使いたかったんです。
同時に、顧客対応スピードをルール化しました。自分たちのサービスが「どのスピード感なら顧客に満足してもらえるか」「自分たちは胸を張っていられるか」という基準をあいまいにせず、明確にしました。
我々のサービスは不動産業界向けの物件撮影サービスというBPaaS型(BPO+SaaS)サービスを提供していることもあって、サービスや機能に対しての質問だけでなく、撮影予定の物件や納品データに関する問い合わせも多い。
そういった背景もあって問い合わせのAI化は見送りましたが、顧客対応スピードは「30分」「2時間」「4時間」。4時間以上はNGと明確に決めていて、毎週末に集計して振り返りをしています。
― かなり割り切ったルールですね。
福井:でも、スピードって信頼に直結するんですよね。
信頼がないと、提案も通らないし、深い情報も出てこない。
実際、導入時のキックオフ※で顧客理解が一気に進み、その場でアップセルにつながるケースも出てきました。カスタマーサクセスが売上に踏み込むなら、なおさらスピードは重要だと思っています。
※キックオフ…サービス利用開始時に導入目的やゴール、活用方法などの目線を合わせて効果的な運用を目指す最初のミーティング
「訪問」が残ったのは、文化ではなく成果だった
― 一方で、効率化とは逆に「訪問」も重視していますよね。
福井:そこは正直、僕にとっても意外でした。
僕自身、カスタマーサクセスはオンラインで効率的に回すべきだと思っていた側なので。
でも現場では違いました。
会いに行った方が関係性が深まり、顧客理解も進む。結果として売上にもつながる。
そこは現在のカスタマーサクセスチームのメンバーが不動産業界という特性や顧客第一に考えた結果として、オンライン対応という選択肢に縛られずに成果を重視してくれた結果だと思っていて、誰かが指示した文化ではないです。
成果を出したメンバーの選択が積み重なった結果として残った。
机上の方針じゃなくて、現場の勝ち筋なんですよ。だから強くなったと思っています。
属人化させない。育成を「仕組み」に落とす
― とはいえ、訪問が増えると属人化のリスクもありますよね。
福井:そこは意識的に防ぎました。
Day1からDay50までの育成カリキュラムを整備して、動画や資料で自己完結できる環境を用意しています。
大事なのは、個人の熱量で終わらせずに、再現性を持たせることだと思っています。
カスタマーサクセスチームだけでもメンバーが増えていて、すぐに数十人規模になることが見えているからこそ、再現性を持たせて、仕組みを継続できる形にすることだと思っています。
次は、セールスのオンボーディングも担う
― 今後、カスタマーサクセスに期待している役割は?
福井:次は、セールスのオンボーディングにも踏み込んでいきます。
現在のセールス組織は商談動画をAIで解析して、どんなトークやキーワードが使われているのかを抽出したりと、ここでもAIを活用した取り組みをしたりしています。
ここの部分はカスタマーサクセスに従事する人にとってあるあるだと思うんですけど、導入キックオフ時に、顧客がサービス理解を十分にできていなかったり、認識の齟齬が出ることもあると思います。もちろんその場で丁寧に説明し直しますが、同時にセールスチームにもフィードバックができる体制を作ります。
「どの部分が理解不十分になりやすいか」
「サービスのどの部分をどう説明すれば価値が伝わりやすいか」
こういう情報は、キックオフ時の顧客のサービス解像度から傾向が掴めると思っているし、おそらくセールスメンバーひとり一人がそれぞれの課題を持っていると思っています。
企業によってはセールスとカスタマーサクセスが分断されていたり、もしくは対立し合っているという構図は珍しくないと思っています。
各セールスチームメンバーごとの特性を分析し、セールスチームの成約率を向上するための育成の一端をになっていく体制を作り、カスタマーサクセス側からも「セールスの勝ち筋」を一緒に作っていける状態にできれば、さらに強いカスタマーサクセスチームが生まれると確信しています。
NRRは、ストック型ビジネスの「強さ」を映す指標
― いよいよ"売上に踏み込む"組織へ。
福井:そうですね。カスタマーサクセスは、もっと売上に踏み込んでいい。というより、踏み込まないと顧客の成功に届かないケースが多いと思っています。
リブ・サーチのプロダクトは、解約率も月次0.5%前後を数年間推移しています。月次1.0%でも「良い」と言われる中で、比較的低い水準を保てている。
合わせて、我々のようなサブスク型のストックビジネスの場合、NRR※(Net Revenue Retention)という指標も重要で、NRRが良ければ企業として非常に強みになります。
一般的な単発取引のビジネスは、基本的に一度の取引で代金を受け取ったら売上は終わりで、次の売上を作るにはまた新たに受注をし続ける必要があります。
一方、ストックビジネスは、顧客が継続してくれる限り売上が積み上がっていきます。ただ、解約がゼロということはあり得ません。
解約がゼロだったとした時をNRR100%だとして解約が生まれればその分だけ90%、80%と下がっていくわけです。
NRRが100%なら顧客が契約した時から更新後も売上をキープできているということです。
このNRRが100%を超えることが、ストック型ビジネスとしての強みが引き出せている状態であり、100%を下回っている場合は、更新時期を迎えるたびに売上が縮小していくということです。
つまり、解約は一定数起きる前提で、それでもNRRを100%以上に引き上げるかが、ストック型ビジネスとしての強さになりますし、その鍵がアップセルなどによる利用拡大です。
※NRR…既存顧客からの収益が期間中にどれだけ維持・拡大されたかを示す指標
最低ラインでNRR120%を目指す。「月5%」ずつ積み上げる感覚
― 数値目標についても教えてください。
福井:従来でもNRRは100%を超えてはいました。ですが、もっともっと売上を拡大できる余地があると思っていました。まずは、このNRRを120%まで持っていきたい。
そのためにはサービスを磨くことはもちろん、カスタマーサクセスの伴走によって顧客の成功事例をどんどん生み出していき、同時に顧客対応などのホスピタリティも高めていくことが重要だと思っています。
そのため、カスタマーサクセスは今も積極的に採用しています。
インタビューを終えて(広報部)
「カスタマーサクセスは、解約を防ぐ部署なだけではなく、既存顧客の売上を伸ばす第二のエンジン」。
この言葉が、リブ・サーチの半年間の組織変化を端的に表している。
AIで定型業務を削り、スピードをルール化し、それでも「訪問」が残ったのは、方針ではなく成果がそうさせたからだ。
属人的な熱量を、仕組みに落として再現性に変える。
"守り"と"攻め"の間にある難しさから逃げずに、真正面から向き合っている組織だという印象が残った。