単価100円から始めた私が、「世に出せない」求人検索ツールを作り切るまで
障害者向けの求人をまとめて探せるツールを作りました。名前は「とびら」です。
このツールは公開していません。正確に言えば、今のままでは公開できません。世の中に出すには、法律上の許可が必要だと分かったからです。
それでも「とびら」は、いま社内で使われています。そして先日、私はこのツールに機能を足すのをやめました。もう足さなくていいところまで来たからです。
単価100円のライティングから始まった
私は事故で脊髄損傷を負い、ベッドの上での生活になりました。
そのときのショックと落差からか、最初に私の中に居座ったのは「自分にはもう何もできない」という思い込みでした。だから、受注単価100円のライティングから始めました。それが自分にできる仕事の全部だと、当時は本気で思っていました。
少しずつ仕事は増えていきました。けれど単価の安い仕事が続き、業務委託の案件を受けられるようになっても、「自分のやりたいことができていない」というストレスは消えませんでした。
何かを生み出したい、作りたい、人の役に立ちたい。そう思っていても、形にする手段がありませんでした。
変わったのは、ChatGPTが登場してからです。AIを使えば、頭の中にあるものを自分の手で形にできる。ようやく、そういう仕事ができるようになりました。
「AIでできますかね?」という一行
現在、私は合同会社TOBIRA(現・TOBIRA FACTORY株式会社)の業務を受けています。就労継続支援A型事業所を軸に、EC、クリエイティブ、農業まで手がけている会社です。
ある朝、代表からチャットが届きました。
色んな募集から障害者雇用の募集など探すことAIでできますかね?条件や、勤務地を入れて検索
私は一度、引いています。その日の昼にこう返しました。
>検索ツールの制作だと、かなり大掛かりな開発になるかと思います。
このとき私の手元には、ほかの依頼が並んでいました。Amazonの商品説明画像をAIで作る検証をしていて、画像が途中で出なくなる不安定さに当たり、別のAIに画像づくりを任せる手順へ切り替えている最中でした。代表から届いた写真で画像を作り直し、その手順書を書き、商品タイトルの表示形式も直していました。
その合間に考え直しました。どんなに大掛かりな仕組みでも、条件をきちんと整えて伝えることができれば、AIを使って実現できる。そこに気づいたのです。
まず、すぐ使えるものとして、障害者雇用の求人を探すためのプロンプトと、4つのAIへ同じ質問を一度に送れる自作の拡張機能を渡しました。そしてほかの作業と並行しながら、相談から約32時間後の夕方に、「とびら」の試作を送りました。
3分後に届いた「文字化けしてます」
「とびら」は、勤務地とキーワードを入れると、障害者向けの求人をまとめて一覧できるツールです。一般公開はせず、社内のパソコンで動かす道具として作りました。
翌朝、配布用のファイルを送りました。3分後に返信が来ました。
windowsだと文字化けしてbatファイル見つけられませんね 💦
その日のうちに作り直しました。
「使う人たちAI音痴です!」
数日後、もっと根本的な指摘を受けました。
障害者雇用検索ってPythonインストールしてないと動きませんよね?
そのとおりでした。私が渡したのは、Pythonという開発環境が入っていないと起動しない道具でした。続けて、こう言われました。
使う人たちAI音痴です!
私はAIに強い興味を持っていて、毎日のように触っています。でも、そんな私でさえ、AIが世に出てからまだ4年ほどです。誰もが同じスタートラインに立ってから、たった4年しか経っていません。
だから「AI音痴」を、能力の問題として受け取るのは違うと思いました。やり方を分かりやすく伝えれば、必ずみんな使えるようになる。変えるべきなのは使う人ではなく、私の渡し方のほうでした。
起動の手順を作り直しました。ダブルクリックするだけでインストールされて、すぐ使えるようにしました。
給料で並べたい
次に代表から届いた要望は、「給料の高さで並べ替えたい」でした。
簡単そうに見えて、そのままでは並びません。月給の求人と時給の求人が混ざっていると、数字を比べても意味がないからです。そこで、まず月給か時給かを選んでから、高い順・低い順に並べ替える形にしました。
求人を探す人が最初に知りたいことは何か。現場を見ている代表は、それをよく分かっていました。
外に出すには、許可が要る
さらに探せる求人を増やそうと、ハローワークの公式APIを調べました。ハローワークには障害のある方向けの求人がまとまっていて、つなげられれば一覧は大きく厚くなります。
ところが申請画面を開くと、選べる区分は「有料/無料の職業紹介事業者」「自治体」「学校等」などに限られていました。つまり、まず職業安定法にもとづく職業紹介事業の許可・届出が前提になります。
AIに調べさせた説明には誤りが混じることもあるので、私は代表にそう前置きしたうえで状況を共有し、公式の窓口で裏付けを取る段取りを組みました。
調べるほど、これは求職者を守るための線引きだと分かりました。人の仕事探しに介在するというのは、本来それだけ責任の重いことです。私は「求人を見やすくする道具」を作っているつもりでしたが、外に出した瞬間、それは職業紹介の入口に立つことになります。
外に出す道を選ぶなら、許可を取るところから始める。社内で使う道具としてなら、今の形ですでに役に立っている。私たちは後者を選びました。
足すのをやめた日
AIを使うと、機能はいくらでも足せます。足せてしまうからこそ、いちばん難しいのは「どこで止めるか」です。
探す、並べる、比べる。社内で求人を確認する道具として必要なものが揃ったところで、私は「とびら」の開発を終えました。使われなくなったからではありません。これ以上足さなくていい形になったからです。
当事者だからこそ
この仕事の途中、代表からこう言われたことがあります。
障害者雇用の再設計はちゃんと聞いて欲しいです。障害当事者だからこそ世の中に伝えられることがあると思ってます
かつて「自分には何もできない」と思い込み、単価100円の仕事しか選べなかった私が、いまは障害者の求人を探すための道具を作る側にいます。
「とびら」は、社内の小さな道具です。でも、求人を探しにくいという問題は、社内の外にもそのまま残っています。
次は、その問題を、仕組みの側から一緒に作り直していきたいと思っています。