社長が自分の人格クローンを作ってSlackに放った会社の話
先日、弊社のSlackに「社長のクローン*0」が現れた。
冗談ではない。
本当に、社長本人が作ったAIである。
しかもただのチャットボットではない。
社長の思想や考え方を学習させた「人格クローン」だ。
名前はv24(バージョン西)。
どうやら「自由に使っていい」らしい。
質問内容は一日の終わりに、まとめて社長本人に届くという。
つまり、社長の代理思考エージェントである。
もちろん、遠慮なくこき使わせてもらった。おそらく、生身の社長におなじことをしたら「しばらく君の顔はみたくないです」と言われると思う程度に。
1週間使ってわかったのは、AIの限界ではなく、人間の仕事だった。
社長という「壁打ち相手」
マーケティングの仕事をしていると、時々こういう瞬間がある。
「この施策、社長の考えとズレてないだろうか」
マーケティングの意思決定は、正解が後からしかわからないことが多い。
会議に呼ぶほどではない。
しかし、チャットだといつ返事が来るかわからない。
独断で進めて、あとから「それ違う」と言われるのも避けたい。
とはいえ、社長というものは忙しい。
弊社のようなベンチャーならなおさらだ。
ベンチャーの社長は、経営判断だけをしているわけではない。
自分で手を動かして案件を動かすこともあれば、メンバーをフォローし支えることもある。
要するにベンチャーの社長というものは、なかなか捕まらない。
もちろん、私はCMOなので、自分の権限で判断できることは判断している。しかし、生成AI時代のマーケティング稼業は高速でPDCAを回す競技と化した。
だからこそ、「雑談レベルで壁打ちできる相手」がほしい。
GPTでは少し足りない。
なぜなら、GPTで済むような内容はすでにGPTに聞いてしまっているから。
欲しいのは、GPTと壁打ちして「これでいこう」と決めたアイデアをさらに磨いてくれる存在である。
自分のアイデアがダイヤモンドだとは思わない。
ただ、ダイヤモンドを磨くにはダイヤがいる。
そんな、ある日。Slackに「闇落ちした見た目の社長*1」が現れたのである。
社長の人格クローン、V24
Slackに突然現れた見慣れないアイコン。
何の悪ふざけかと思ったら、社長本人が作ったAIクローンだった。
名前は「V24(バージョン西)」。
社長の思考パターンや価値観を学習したAIエージェント。
用途は自由。
質問内容は一日の終わりに、社長本人のところへ送られる。
最初は一応、社長に話すように敬語で。
しかし三回目くらいから扱いが変わる。
「これはどうなの?」
「私はこう思うんだけど?」
「そのセリフは代表は言わない」
「代表の解像度が低い」
「同じ返信は不要」
「もう回答はしなくていい」
「この内容をタスクリストにして代表に送って」
完全にGPT扱いである。
しかしAIというのは雑に扱い始めてからが本番だ*2。
遠慮がなくなって初めて「本当に使えるツールかどうか」が見えてくるものだと思う。
そして1週間、みっちり使ってみた結果。
「これ、GPTでよくない?」
率直な感想はこれだった。
結局のところ「会社の文脈の判断は、社長本人しかできない」
AIは賢い。しかし企業の意思決定は、
・過去の経緯
・社内の人間関係
・会社の価値観
・リスク許容度
といった文脈の塊でできている。
それを最後に判断するのは、やはり人間。
ただし、思わぬ副産物があった。
私が普段ひっそりやっていたマーケティングの壁打ちが、Slackの公開チャンネルで行われるようになったのだ。
結果として社内では「CMOってこんなこと考えてるんだ」というのが可視化されてしまった。良かったのか悪かったのかは、まだよくわからない。
が。
ある日、「大変お忙しいところ失礼いたします」という、社内チャットとは思えない丁寧さのチャットが届いたところを見ると…。
あまりいい影響だったとは言えないかもしれない…。
いつもの私なので、いつも通りに接してほしい。
クローンはまだ「社長の代わり」ではない
理想を言えば、AIには映画「エイリアンシリーズ*3」に出てくるアンドロイドのように働いてほしい。
人間の意思を理解し、補助し、最後は本体が「YES / NO」だけ言えばいい。
先週登場した社長のクローンには、まだそこまでは難しい。
ただし、作業者としてなら、とても優秀だ。
定常業務と、少し考える作業。
この組み合わせなら、人間より便利。
私のクローンを同じように作って、いくつか仕事を渡してみたら、定常業務のかなりの部分は任せられそうな雰囲気であった。
感覚としては、一人部署でフリーランスを雇った感じに近い。
「私も、自分のクローンが欲しい」と強く思ってしまった。
社長がクローンの仕様書を社内共有してくれたので、来週のAI実験の全社ミーティングでは自分のクローンを作ろうと思う。
AIを使うと「人間の仕事」が見える
社長のクローンを使ってみて改めて認識したことがある。
それは、AIを使えば使うほど、人間の仕事がどこにあるのかが、はっきりするということだ。
AIが得意なのは
・作業
・整理
・仮説出し
・壁打ち
人間がやるべきなのは
・文脈の判断
・責任を取る意思決定
・組織文化の設計
クローンが「社長の代わり」ではなく、社長の思考の外付けメモリになってしまったのもそのせいだろう。
もし社員全員が自分の思考エージェントを持つようになったら。
会社という組織は「人間+AI」のチームになるのかもしれない。
社長のクローンを契機に、弊社では自分のクローン作りが加速しそうだ。
正直にいうと、かなり楽しみだ。
会社に自分がもう一人増えるのだから。
ーーー
*0 本人がクローンを紹介しているポストはこちらを。
https://x.com/macchaice/status/2028782783137714235?s=20
*1 普段の社長のアイコンをダークモードっぽいモノトーンにしたアイコンのため、ぱっと見「闇落ち」しているように見える。なお、この呼び方をしているのは私だけである。
*2 社長を雑に扱いたい欲求があるわけではない。
*3 エイリアンシリーズでは、アンドロイドがキーパーソンですね。プロジェクトマネージャーもアンドロイド。ああいう事故が起こらなければ、優秀な相棒で終わるんでしょうけどねぇ…。
アンドロイド起因の絶望があふれるエイリアンといえばコヴェナントかな…。
余談
ClaudeCodeをWindowsに入れるのに苦労しました
見かねたデータエンジニアがインストールまで付き合ってくれました。そのときの流れを大まかにまとめたスライドはこちらから。
https://www.slideshare.net/slideshow/claude-code-windows-pdf/286386541
メルマガ登録のご案内
私が編集長をしているメルマガの登録はこちらから。
毎月2回。お昼休みに読み切れる分量で、読んだすぐあとに行動に移せるような内容をお届けてしています。
登録ページには、過去配信分のアーカイブも掲載中。内容が気になる方はそちらもぜひ。
会社案内資料のご案内
この記事でご興味を持つ方がいるか微妙なところですが…。ご興味のある方はこちらから。