制作物をつくる仕事では、こんなことが起こります。
担当者に初稿を提出する。
「いいですね。これでお願いします。」
OKをもらって仕上げる。
すると、上司が確認して、
「ここ、もう少し分かりやすくしてください。」
修正して再提出する。
今度こそ完成かと思ったら、最後に経営者が確認して、
「そもそも、この打ち出しでいいの?」
……振り出しに戻る。
クリエイター側からすると、
「それ、最初に確認してほしかった。」
となります。
私自身、制作する側も、制作物を依頼して確認する側も経験してきました。
告知文ひとつでも、何度も修正したことがあります。
そして気づいたのが、
検収者が変わると、見ているものも変わる
ということでした。
同じ制作物でも、見る人によって視点が違う
例えば、イベントの告知物をつくったとします。
制作担当者は、
「依頼された内容が反映されているか」
「文字や画像のバランスはどうか」
を見ているかもしれません。
イベント担当者なら、
「日時や場所に間違いがないか」
「参加者に必要な情報が入っているか」
を見る。
広報担当者なら、
「初めて見る人にも伝わるか」
「ブランドイメージと合っているか」
を見る。
経営者なら、
「会社としてこの内容を発信していいか」
「そもそも、この企画をどう見せたいのか」
を見るかもしれません。
同じ制作物を見ているのに、
確認しているポイントが違うんです。
だから、担当者からOKをもらったからといって、別の人が見ても必ずOKになるとは限りません。
これは、誰かの確認が間違っているという話ではありません。
それぞれが、それぞれの立場から必要な確認をしています。
問題は、
誰が、何を確認するのかが決まっていないまま制作が進んでいることです。
「確認お願いします」だけでは足りない
制作物ができたとき、
「確認お願いします。」
と関係者へ送ることがあります。
でも、この「確認」という言葉は意外と曖昧です。
誤字脱字を確認するのか。
掲載情報が正しいか確認するのか。
デザインを見るのか。
内容そのものを判断するのか。
会社として公開していいか決裁するのか。
全部「確認」という言葉で済ませてしまうと、確認する側も自分の視点で見るしかありません。
そして後から別の人が、
「私はここが気になります。」
と言い始める。
すると、制作物はまた戻ってきます。
だから、
確認する人だけでなく、何を確認してもらうのかまで決める。
これが必要です。
最終決裁者を、最後に登場させない
特に手戻りが大きくなるのが、
方向性を変えられる人が、最後に初めて確認するケースです。
担当者と何度もやり取りして、
文章を整え、
デザインを作り込み、
画像を選び、
細かな修正まで終えた。
そこで初めて最終決裁者が見て、
「この方向じゃない。」
となったら、細部をどれだけ丁寧に作っていても意味がありません。
また上流工程からやり直すことになります。
だから、方向性そのものを判断できる人には、
完成してからではなく、できるだけ早い段階で確認してもらう。
例えば、
企画の目的。
ターゲット。
打ち出し方。
大まかな構成。
参考イメージ。
こうした部分を先に共有して、
「この方向で進めていいですか?」
を確認する。
方向性が決まってから、細部を作り込む。
これは前回書いた「いい感じ」の認識合わせにもつながります。
ただし、今回はもうひとつあります。
誰と認識を合わせれば、制作を進めていいのか。
ここまで決まって初めて、制作側も安心して進められます。
誰が「OK」を出すのか決めておく
制作側からすると困るのが、
「担当者からOKをもらったので進めたのに、あとから別の人の意見で全部変わった」
という状態です。
だから発注するときには、
誰が窓口なのか。
誰が内容を確認するのか。
誰が最終的なOKを出すのか。
ここを整理しておいた方がいい。
そして、複数人が確認するのであれば、
できれば制作側へバラバラに修正を送らない。
Aさんから、
「文字を大きくしてください。」
Bさんから、
「文字は今くらいでいいです。」
Cさんから、
「そもそも、この文章いらないのでは?」
と来たら、制作側では判断できません。
それを決めるのは、制作側の仕事ではないからです。
発注側で意見を整理し、ひとつの修正指示として渡す。
これだけでも、制作の往復はかなり減ります。
外注への依頼窓口は、一人にする
社内で複数人が制作物を確認すること自体は問題ありません。
ただし、外部の制作者へ修正を依頼するときは、窓口を一人にした方がいいと思っています。
例えば、外注の制作者を社内のグループチャットに入れ、複数のメンバーがそれぞれ、
「ここを直してください。」
「私はこっちの方がいいと思います。」
「この情報も追加してください。」
と直接伝える。
これでは、制作側は誰の指示を優先すればいいのか分かりません。
特に、それぞれの意見が矛盾したときに困ります。
外注側が独自に判断して一方を採用すれば、
「なぜこちらの意見は反映されていないのか」
という話にもなりかねません。
社内で意見を出す人は複数いても、外注へ指示を出す人は一人にする。
社内で確認する。
意見を集める。
必要なら最終決裁者に確認する。
そのうえで依頼担当者が修正内容を整理し、ひとつの指示として制作側へ返す。
外注側に、社内の意見調整までさせない。
これは外注を使ううえで、とても大切な役割分担だと思います。
意見が多いほど、品質が上がるとは限らない
多くの人に確認してもらえば、品質が上がるようにも思えます。
もちろん、複数の視点が必要な制作物もあります。
でも、確認する人が増えるほど、
「私はこっちが好き。」
「私はこの表現が気になる。」
という好みも入りやすくなります。
すると、
何のための制作物なのかより、
全員の意見を取り入れることが目的になってしまう。
だから確認するときには、
誰の意見を聞くかだけでなく、その人に何を判断してもらうのか
を決めておく。
全員が全部を見る必要はありません。
事実確認をする人。
表現を見る人。
運用上の問題を見る人。
最終判断をする人。
役割が違えば、確認するポイントも違います。
修正地獄は、制作能力だけの問題ではない
修正が何度も続くと、
「クリエイターの理解力が足りない。」
「発注者の指示が曖昧。」
という話になりがちです。
もちろん、それが原因の場合もあります。
でも、
担当者との認識は合っていた。
依頼どおりに制作した。
その担当者からもOKをもらった。
それでも後から大きな修正が入るのであれば、
一度、制作物ではなく承認の流れを見た方がいいかもしれません。
誰が確認するのか。
何を確認するのか。
どの段階で確認するのか。
誰が最終的に決めるのか。
そこが曖昧なままでは、クリエイターが何度修正しても終わりません。
検収者が変われば、正解も変わる。
だからこそ、
最終決裁者を最後に登場させない。
方向性を変えられる人ほど、早い段階で確認する。
確認する人ごとに、見るポイントを決める。
発注側で意見を整理してから、制作側へ返す。
制作物の品質を安定させるために必要なのは、クリエイターの技術だけではありません。
発注、制作、確認、承認、決裁。
そこまで含めて、ひとつの仕事です。
修正地獄から抜け出すために設計するべきなのは、
制作物だけではなく、
「誰が、どこで、何を判断するのか」という仕事の流れなのだと思います。