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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

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サッカークラブの広報は、見えないところでチーム選手を支える仕事。

横浜FC広報 藤野絵理香さんの心に残る家族の言葉と仕事の醍醐味

2018/08/20

前編▶毎日、新しい発見がある。小さなことで心が動く───。横浜FC 広報 藤野 絵理香さんが模索する、全員がハッピーになれる方法とは

11年前、藤野さんが横浜FCで広報担当になった頃も、まだまだサッカークラブで働く女性スタッフは少なく、サッカー業界は男性中心の社会だな。と感じることが多かったそうです。

「私がこの世界に入る前、Jリーグが誕生した今から25年前は、男尊女卑の世界と言ってもいいかもしれないくらいだったそうで(笑)。もちろん私が入ったときも、まだまだ男性中心の社会だったので、女性がいることそのものが珍しかったところもあったと思います。それに当時は20代ですから、選手たちも年上ばかりでしたし、私の頼む仕事の優先度が低いと思われていたのか、ちょっとしたサイン1枚をもらうのに10日くらい待つこともあって(笑)。毎日『どうしたらいいんだろう?』と考えていましたよ。お願いして拒否されるわけではないんですが、『やっておくよ』と快諾してもらったのに、全然戻ってこないなんて日常茶飯事でした(笑)。

それに、私自身の仕事のやり方も良くなかったのもありますね。どうしても男性に負けたくない一心で、男性社員のやることだったら全部やってやる!と肩肘を張って背伸びしていたところもあったと思いますし……」

最初はうまくいかないことも多かったと語る藤野さんですが、時間が経つにつれ、自分の仕事に対する思いに変化が出てきました。

「だんだん時間が経つにつれ、この世界で珍しいとされている女性だからこそできる役割ってあるんじゃないか? と考えられるようになったんです。

仕事がしやすくなったのは、選手のみんなが私のことを受け入れてくれたことが一番大きいんですが…….。あ、勝手に自分のやり方を受け入れてもらっていると思えるようになった図々しさかもしれませんが(笑)。今は男女関係なく、自然体でナチュラルにいれたらいいなと思うんです。女性だから、とか今は考えなくなりましたね。選手みんながハッピーで、気持ち良く取材を受けてもらえるのか、その方法は今も模索していますね」

――広報として常に気をつけていることは?

「『プレイヤーズファースト』ですね。どんな理由があっても選手が最優先!『まずは、選手に聞く』ことを徹底しています。選手の希望する日が、自分の会議と重なっていることもよくあるんですけど(笑)。それは私が調整する。自分のスケジュールはいったん後回しで、選手がこの日がいいんだったらそこに合わせます」

――結果的に、それによって仕事がどんどん良くなっていく?

「そうです。選手を最優先にすることで団体行動もスムーズに行えたり、結果としてチーム全体がうまくまわると信じています。横浜FCのオフィスはフリーアドレスなんですが、私は練習の様子が見えるように、向かいにあるグラウンドが見える窓側に必ず座っていますね。本当は練習をずっと見てたほうが良いのですが、それは広報担当者ひとりでは難しいこともあるので、業務の合間にチラチラ見ています。そろそろ終わった頃だと思ったら外に出て、取材がいつですよ、とか選手とコミュニケーションを取っていますね」

負けて勝つ――。理不尽なことを乗り越えるとき、今も心に残るおばあちゃんの言葉

サッカークラブの広報として多くの人の間に立つことを求められる藤野さん。ときに理不尽なトラブルが起こることもあります。乗り越えることができた理由のひとつは、大好きな祖母の言葉があったからだそうです。藤野さんのご実家は家族のイベントを大切にする古風な家庭でした。昔ながらの家庭で育った藤野さんは今、家族の絆を改めて感じています。

「仕事で理不尽なことがあると、いつも祖父母とのできごとを思い出すんです。私の実家って、THE 昭和の家! っていう感じで、私が中学生になるまで祖父母、両親、私と妹の6人で住んでいたんです。祖父がいわゆる、昔気質の頑固な人で……。私たち孫にはとても優しくていいおじいちゃんなんですけれど、祖母にはぶっきらぼうで亭主関白(笑)。あるとき、明らかに祖母は悪くないのに、祖母が謝っていたんです。私と妹は『おばあちゃんは悪くないのに、なんで?』って聞いたら、祖母は『負けて勝つのよ』と教えてくれました。

子どもの頃はよくわからなかったのですが、『負けて勝つ』私の中でこの言葉がとても残っていて、理不尽だと思う状況では自分に言い聞かせています。さまざまな立場や想いのある人たちの中で、自分がいかに謙虚に立ち回ることができるか参考になる言葉なんです。今の時代には少しそぐわない価値観かもしれないのですが、昭和な古風な家で育ってよかったなと思います」

ご家族の影響は今でも大きいのでしょうか?

「そうですね。私は家族が大好きなんです(笑)。昔から家族や親戚とのイベントを大切にしている家庭で育ってきて、家族と過ごすことが私にとって大切な時間なんです。だからサッカーファミリーじゃないですけど、“横浜FC”という枠組みを超えて、『サッカーを盛り上げている人たちが喜んでくださるならいくらでも!』 っていう気持ちはとても強いです。選手のことも、取材の依頼も“同じサッカーファミリーのお願いだから叶えたい”って思う部分は強いですね」

――“横浜FCファミリー”を今後どのように伝えていきたいと思いますか?

「選手はもちろん、サポーター、スポンサー、横浜FCに関わる多くの方に横浜FCのファミリーになってほしいと思うので、まずはそれを伝えたいですね。『私の応援している選手ってこんなに素敵なんだ』とか、『うちの選手が日本代表になったんだよ!』 とか、そんな“自分のところのファミリーが”という会話が横浜の街で起こって、それが横浜FCだったらいいなって思います」

いつか「小学生のなりたい職業」にランクインしたい! 女性も働きやすい職場を目指して――。

サッカー業界は非常に楽しい世界であると感じる反面、まだ“サッカークラブの広報”という職業は確立していない部分があると語ります。

「最初に広報の仕事について教えてくれた先輩が女性で、その先輩にあこがれて背中を必死で追いかけてきたんですね。私は目標とする先輩がいて、本当に恵まれていたんだと思うんです。だからこそ、もっとサッカークラブの広報という職業を一般的にして、もっと働きやすい環境を作りたいと思っていますね。

いつかみんなが憧れる職業に『小学生のなりたい職業』のトップ10とか、そういうランキングに10位でいいから入りたいです!“第10位、サッカークラブ職員”みたいに」

サッカークラブの広報の仕事は、子どもたちの憧れになれるだけの楽しさがたくさんあると語ります。

「すごく大変ですけど、それをひっくり返すくらいのやりがいがあるというか……。毎日、小さな発見や刺激がたくさんあります。それにクラブチームはプロ契約ですから、次の年はどうなるかわからないんですね。選手たちは試合に出られなければ、次の契約はありませんし、試合に出たら勝たなければいけない。結果がすべての厳しい世界で生きているプロのアスリートたちを近くで見守ることができる仕事って少ないと思います」

――藤野さんがサッカークラブの広報のロールモデルになるかもしれないですね。 

「いやいや、そんなにおこがましいことではなく(笑)。私は選手たちを見守ることしかできません。でも、多くの人の未来の選択肢にサッカークラブの広報があってほしいですし、そうなったら嬉しいなって思うので……」

子どもたちに仕事の最大の魅力を伝えるとしたら?との質問に、藤野さんはこう答えます。

『自分を成長させてくれる、心を鍛えてくれる仕事。そして多くの人にハッピーを届けられる仕事』。

広報になったことで精神的な成長をさせてもらっていると感じるから、選手だけでなく、他のスタッフの皆さんやメディアの方にも、本当にたくさんのことを教えてもらっているというのは大きいです。目の前にいるプロの選手が、とても厳しい条件の中で必死に結果を出そうとしている以上、自分も広報のプロとして妥協はできない。でも、まだまだプロとして足りていないなと、成長しなければっていつも思っています」

藤野さん仕事道具。これが試合のとき常に持ち歩いているものだそうだ。

――どんな人がこの仕事に向いていると感じますか?

「うーん。難しい質問ですね。私自身もこの仕事に向いているかといわれると、自分ではわからないのですが、10年以上続けてこられている仕事なので天職と思いたいですけど(笑)。
サッカーが好き。というよりはサッカーのある生活を好きになれる人が向いているのかもしれないですね。私は特に横浜FCで仕事をしてからは、ひとりでサッカークラブの広報という仕事をしていることもあって、プライベートも仕事に合わせるような生活をしている部分があるんですが、それが苦ではなくて、週単位、年単位でサッカーの世界のリズムがあるんです。例えば週単位だと当たり前ですが、週末に試合があってそのために週初めから準備をして週末の試合を迎える。年単位だと1月に新加入の選手が決まり、記者会見をして、チームが始動し、2月にキャンプがあり、開幕戦を迎える……。
仕事のリズムに自分の生活を合わせなければいけない部分が多いので、外から見ると華やかに見える部分が多くて、『いつもサッカーを観れていいよね』とか、『かっこいい選手と一緒で羨ましい』とか思われがちなのですが、憧れの部分が強すぎると、実際の仕事とのギャップが大きすぎて落胆してしまうケースもあるみたいなので、憧れ過ぎていないのが良いのかもしれないですね」

――お話を伺っていると藤野さんにとって天職だと感じます。

「先ほどもお話したのですが、天職でありたいと思いますし、何より続けてこられてよかったな。と思いますね。でも、先日松井大輔選手が取材で、『調子のいい時はドリブルの道が見えるんです』って話をしていて、まさに、サッカー選手になるべくして生まれてきた人なんだな。サッカー選手が天職なんだな。って思わせられた瞬間があって。それに比べたら私はまだまだ足元にも及ばないと思うんですが……。」

――では最後に、叶えたい夢を教えてください。

「やっぱり、満員のスタジアムで選手にプレーしてほしいというのが一番なので、満員のスタジアムで常にホームゲームができるようになりたいですね。それが、今、直近の夢であり、それを継続したいです!」

 

常に選手のことを最優先に考え、チームのために行動してきた藤野さん。10年以上続くサッカークラブの広報の仕事には語られない苦悩もあったのではないかと思います。それでも「私は何もしていないんです。選手が結果を残してくれる姿を見守っているだけです」と笑顔で答えた印象的でした。どんなときも謙虚で、穏やかな藤野さんだからこそ、サッカー界の未来をもっと明るいものにできるのではないか? そんな風に感じます。彼女の夢である小学生のなりたい職業ランキングにランクインしたとき、また藤野さんにその先の夢をお話を伺いたいと思いました。

Interviewee Profiles

藤野 絵理香
横浜FC広報
1981年、宮城県生まれ。養護教諭を目指し大学へ進学。卒業後、専門学校に就職。2005年、ヴィッセル神戸に就職し広報、営業を担当。2007年、横浜FCに広報として転職。現在も横浜FCの広報としてチームを支えている。

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