学生向け就活・キャリアムック『1冊まるごと、令和の就活』の巻頭を飾るロバート キャンベル氏とウォンテッドリー株式会社のCEO、仲暁子による対談後篇。
仕事とやりがいについて2人が意見を交わした前篇に引き続き、経団連が発表した就活ルール廃止により激変する就活事情や、「自由恋愛化」する令和のキャリア選択についてじっくりと話し合いました。
自由恋愛化する、これからの就職活動。
仲:ここでキャリアを取り巻く環境の変化について私見を述べさせていただくと、以前の日本には社会主義的な面があって、それが雇用の安定にも一定の貢献をしていたと思います。ひとつの会社でキャリアを開始したら、退職後まで会社が面倒を見てくれるという前提がありましたから。そのことには良い面と悪い面があったと思っていますが。
キャンベル:社会から零れ落ちる人が生まれないようにということですね。
仲:そうです。「窓際族」という言葉があるように、組織の中で目立った成果を残せていない人にも居場所があるという実態がありました。その人にも養うべき家族があるわけですから、それは社会を安定させる一助となっていた。結果として日本の治安は非常によい。サンフランシスコは大成功している人が多い事で知られていますが、街に一歩出ればホームレスが沢山路上で寝泊まりしている。
日本は何故そこまで深刻な状況ではないかというと、先に述べたような社会主義的な一面が社会の安定に貢献してきたからですね。それが、今回の就活ルール廃止は得をする人もいる一方で落ちこぼれてしまう人も出てくるという意味で、これまでの社会主義的な方針からの大きな方向転換だと思います。これまでは親が結婚をセットアップしてくれていたのが、突然、自由恋愛になったようなイメージです。ですから、今回の就活ルールや働き方の変化は、もしかするとパンドラの箱を開けることになるかもしれません。
キャンベル:大きな風潮ですね、1990年代からの。
仲:一方で今起きている変化は、良し悪しは別として、グローバルな流れ、グローバルな競争社会で企業が生き残っていくためには合理的なことでもあります。ウォンテッドリーとしては多くの学生や若手が一歩踏み出して、いろんなものを味見してみて、これが本当にやりたいものなんじゃないかと、ビジョンとパッションを見つけることを手伝えたらと思っています。
キャンベル:いまのお話を聞いて、意欲や能力がそれほど高くなくても共同体の中での立場が保障されてきた戦後の日本の社会モデルと、そんなに矛盾しないような気がしています。むしろ機会を与えることで、意欲や能力を引き上げられるかもしれない。
仲:そうですね、もしかしたらアメリカのような超競争社会ではなく、自由市場なのだけど保証も一定あるようなハイブリッドモデルが日本では生まれうるかもしれません。
キャンベル:意欲や能力というのは、それ自体が環境によって左右されると思います。たとえば、東京大学の学生は就活に有利だとされていますが、彼らの親は平均的な国民の所得よりはるかに高い。そして世帯収入に歴然とした格差が存在している以前の問題として、かつての日本社会には就労に関する生の情報にアクセスする機会もその人の生まれ持った運によって左右されているという問題がありました。どんな職場であれば自分の能力を発揮することができるかを知るために、コネクションであったり、偶然の出会いであったり、不確定な要素に頼らなくてはいけなかった。
なので、自分の専門を決める前に生の情報に触れられるようなインターンシップのような機会は、学生にとっても有意義なものなのではないでしょうか。そういう機会や情報を与えるウォンテッドリーの活動は、情報の非対称性を乗り越えるという意味で、このインターネット時代にとてもマッチしたものだと思います。
仲:ありがとうございます。自由化の流れが加速している今だからこそ、キャリアの選択肢を万人に示すことで結果的に機会の平等をもたらすような開かれたプラットフォームが必要だと思っています。「Wantedly Visit」のサービス運営を通じて、そんな未来を描きたいですね。
大学で学んだことは何に活かされるのか。
仲:キャンベルさんは2018年の東京大学入学式の式辞で、「幸いめざしていた学問の道筋と与えられた環境が一致した」と述べられています。さきほど、学問と就業の断絶というお話になりましたが、興味を持って勉強をしていることをそのまま仕事に活かせないことで悩んでいる学生もいると思います。そういう学生たちにアドバイスをするとしたら、どんな言葉をかけますか?
キャンベル:具体的なアドバイスの前にちょうど先ほどあったことについてお話しさせていただくと、ウォンテッドリーの編集担当の男性と名刺を交換したら、博士課程で文学研究をしていたが30歳で中退して、初めて定職に就いたとおっしゃっていたんですね。これはすばらしいことであり、人材の活用であると思います。
仲:本人も喜んでいると思います(笑)。
キャンベル:なぜこの話をしたかというと、企業を含めて日本社会は20代の多産な時間をなんらかの学業に捧げた人たちの使い方がとても下手なんですね。博士中退もそうかもしれないですけれども(笑)。20代の瑞々しい感性とエネルギーを注いで、コツコツと足場を紡ぎ、自分の学説を組み立てていくという場数を実際に踏んでいる人たちの能力と経験を応用できない社会であるということは、私はまずそこに大きな問題があると思います。そしてこの問題は、日本の就職のシステムに起因している。
仲:新卒一括採用という仕組みが、レールからはみ出た人を活用できなくしている。
キャンベル:おっしゃる通りです。20代前半でひとまとめに採用された人だけで構成される組織というものは、多様性の面から見て、非常に貧相です。職場における人材の多様性という意味では、いま、日本の企業そのものがグローバルな経済や文化の中で、一歩間違えると転落してしまうようなきわどい尾根伝いを縦走しようとしている。それは学歴だけでなく、国籍や性別、セクシャリティについても言えることですが。
仲:企業も成長のフェーズに合わせて、多様な人材の受け皿を作った方がよいということは経営の分野でもよく言われるようになってきましたね。学生としても、日本企業のそんな現状について知っておくことは有意義であると。
キャンベル:そうです。まずはそれについて押さえた上で、ここからが学生の皆さんに対するアドバイスなのですが、自分がいま勉強していることが直接的に仕事に活かせなかったとしても、もう一方にある自分は何をしたいのか、どういうことをしてお金を稼ぎたいのかを断絶したものだと考えないでください。いまの仕事とやりたいことを断絶していると考えるのではなく、螺旋階段のようにどこかでつながっていると考えてみてください。
たとえば文系であっても理系であっても、卒業論文を書く時に、何かの問いかけを自分で見出し、それに向かっていくための素材を集めて、解析をして書き上げたり、あるいは映像を作ったり、何らかの表現にする。そしてそれが批評に晒されるという、高等学校ではあり得ない深い経験をするんですね。ひとつの職業を極めたり、あるいは職を考えたりする時に、この経験が役に立ちます。
仲:学業も仕事と同じく自己表現であり、没頭すること自体に価値が生まれると。それに、いざ社会人になってみないと学生時代のどんな経験が役に立つかわからないということは往々にしてありそうですね。人文系の学問であれば、それを通じて培ったライティングスキルや言語感覚が仕事に役立つ場面がいくらでもありそうです。
キャンベル:はい。だから自分はイタリア文学専攻だからとか、基礎化学だから就職に不利だとは思わないでいただきたいと思います。もしかすると書類審査の時点で「国文学はダメ」という採用担当者がいるかもしれませんが、どっちにしたってそれはあまりイケてる会社じゃない(笑)。自分のキャリアに対して、いま大学で勉強していることが何も役に立たないとその可能性を閉ざすのではなく、もう少し幅広い選択肢を見ていっていいでしょうね。
仲:文学を学んでいても卑屈になるなという主旨のことをおっしゃっていましたが、私は大学教育のなかで大事なのは課題を発見する力を養うことだと思っています。世の中において課題を解決する方法ってたくさん出てきていて、特にコンピュータがどんどん進化していって、課題を与えれば解決できるようになってきています。文学とか思想とは、そもそも人類は何が幸福なのかのように、課題設定の視点を歴史に戻って自分の中で醸成していくのものだと思うのです。ちょっと話が逸れましたけれど。
キャンベル:いやいや、全然逸れていないです。近すぎるくらいです(笑)。
仲:だから意味があると思うんですね、マーケティングとかじゃない文学のような学問にも。
キャンベル:まさに課題発見が重要で、最近、アクティブラーニングということで学習指導要領が変わり、これから10年間は日本の義務教育の中では与えられた知識を習得してそれを再生するのではなく、自らの問題を見つけて、学ぶ喜びや深い学びを生徒たちに味わってもらおうということになっています。だから仲さんがおっしゃる方向ですね。
20代に広がるキャリアの選択肢。
仲:では最後に、これから就職活動に本格的に乗り出す学生に向けて、これまでにお話しさせていただいたような社会の変化を踏まえたアドバイスをお願いします。
キャンベル:先ほど就活ルールの撤廃によってパンドラの箱が開けられたというお話がありましたが、その背景には、日本型雇用モデルが限界を迎えている現状があります。つまり、これまでの不毛な新卒至上主義の破綻がここにきて露わになっている。新卒の無垢な素材を採用して自分たちで磨き上げるという日本の会社の従来のありようが成功を収めた歴史はあるのですが、仲さんがおっしゃるように2年後に激変する現代ではほとんど意味をなさない。だからある企業に所属しながらも、常に会社の外を見ながら、あるいは会社の中で自己研鑽しながら働くことができるかが個人にとっても企業にとっても勝負だと思います。
仲:学生がヨーイドンで就活をスタートして、運よく大企業に就職できたら老後までの安泰が保証されるという時代ではなくなっていますよね。終身雇用が崩れ、人材の流動化が加速している現代においては、個人のキャリアは企業から与えられるものではなく、自らで切り拓いていくのが当たり前になった。キャンベル先生のお話の中に「自己研鑽」というキーワードがありましたが、複数の職場を渡り歩く事を前提に、自らのスキルに磨きをかけていくことがこれからますます重要になっていくのだと思います。
キャンベル:そうですね。就職をすればその職場の研修を受けることになると思いますし、最初の1年、2年は雑巾掛け的な仕事もあると思うんですが、その中でもそれを改善するのか、応用するのか、あるいは組み替えるのかという目線を絶対に閉ざしてはいけないと思います。
仲:若いうちに仕事の「型」を身につけながら、それを自分流にアレンジするということですね。キャリアにおける「守破離」の原則というか。
キャンベル:まさしく。そしてそのためにもエチオピア料理のように、もしくは仲さんの言葉で言うところの「つまみ食い」を通じて、学生の時点から幅広い選択肢を目の前に並べてみることをおすすめしたいです。若い皆さんには豊かな機会の世界が常に開かれているということを忘ないでいただきたい。
仲:ありがとうございます。私としては、幾ら稼ぎたいとか、有名な企業で働きたいとか、表面的な部分から一歩踏み込んで、自分はどう生きたいのか、どんなスタイルで働いていきたいのかを、行動を通じて発見してほしいと思います。じっくりと時間をかけてキャリアを模索できるのは、大学生の特権ですから。また、実際に社会に出た後でも、これは違うと思ったら、一歩を踏み出す勇気を持っていつもとは違うものを食べてみる。そうやって、自分の現在地点を相対的に把握するためにも、私たちのサービスで話を聞きに行ってほしいですね。
『1冊まるごと、令和の就活』について
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