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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

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記者は「一生涯をかける仕事」だからこそ、続けるためには必要なことがある。

朝日新聞社・朽木誠一郎さんの“メディア人材の生存戦略”(後篇)

2019/12/09

“記者としてだけではなく、運営者として手を動かすため”ーー140年の歴史を持つ朝日新聞社を新天地として選んだ、朽木誠一郎(くちきせいいちろう)さん。これまでの彼のキャリアで大きなウエートを占めているのが「ネットと医療」をテーマにした情報発信です。ウェブメディアの現状とマスメディアの将来を見つめた、メディア運営者としての視点で語ってくれたインタビュー前篇に続き、後篇ではメディア人材としての今後を中心にお話を伺いました。

−−転職後の「運営」と「記者」の仕事の比率はどのようなバランスでしょうか?

「医療専門記者だった前職ではほとんどすべての時間を、執筆や取材に費やしていましたが、現在は『編集者・運営者』の仕事が7、記者の仕事が3くらいです。『7』の内訳は、社内の無料広告型ウェブメディアwithnewsを中心に、一般的なウェブ編集者と同様に連載の企画や、専門分野に特化したコーナーを立ち上げる準備をしています。また、リアルイベント開催や番組配信など、“場の編集”にも取り組んでいます。先日も企画、運営をした複数のイベントがTwitterの『日本のトレンド』に入ったり、配信番組の視聴者が約60万人にのぼるなど、記事コンテンツ以外でのチームの成果も積み上がってきています」

--収益化という側面では、どのような仕事を担当されていますか?

「“場の編集”に加えてもう一つ、業務の中心になっているのがwithnewsチームに受託制作機能も持たせ、持続可能なメディアにする施策。要するに『ウェブメディアの知見を備えた新聞社内の編プロ』です。社内に需要がとても大きいとにらんだからでした」

--すでに、具体的な事例や成果などはあるのでしょうか?

「まず手がけたのは、弊社内に複数ある朝日新聞デジタル(朝デジ)とナショナルクライアントのコラボメディアの改善です。朝デジとの連携でメディア規模は順調に伸びているものの、例えば、SEOやSNSなど、ウェブ最適化という点での課題も抱えていました。でも、これらの課題はウェブ編集のノウハウがあれば、解決できるものです。大きなメディアであるゆえに、細かい、でも大事なデジタル施策が手つかずになっていたりする。細かいデジタル施策を積み重ねて規模を大きくしようとするウェブメディアと逆の課題があった。それなら私ができます、と手を挙げました」

--持続可能性の問題を解決する、一つの糸口になりそうですね。

「コンテンツ制作の範疇でこれらの課題を解決できたことで、来年からは、さらに大きなメディアの編集部体制の構築や企画・運用を担うことになりました。私は編集側の人間なので、ビジネス側に直接関わることはありませんが、このように、たまりつつあるノウハウをフレーム化して、新商品開発を支援する流れができれば、メディアの持続可能性という問いへの答えにつながると思っています」

--「3」のほうの「医療記者」としての活動に変化はありますか?

「引き続き医療や健康といったテーマを追っていますが、少しアプローチを変えています。2018年に出版した『健康を食い物にするメディアたち』が、ネットのマニアックな話と受けとめられてしまった感はあって。本当は、みんなの手元にあるスマホで起きていることなのに、ネットに詳しい人にしか届かなかったと反省しています。そこでwithnewsでは、興味を持つ人が多いであろう“ダイエット”をテーマに据えました。知っている人もいらっしゃるかもしれませんが、私はもともと体重が120kg弱あって、そこから40kgやせて現在の体形になりました。このことをフックに『人はなぜ太るのか、どうすればやせるのか』という連載をしています」

--私も拝見しました。Yahoo!トピックスにも掲載されていましたね。

「そのおかげもあって累計で数百万回閲覧されています。この連載は、単なる“ダイエットのノウハウ”にはしないように心がけています。あまり知られていないことですが、肥満には社会経済的要因が強く関わります。つまり、相対的貧困や長時間労働、ストレスなどが肥満のもとになるのです。今はまさに、第一線の研究者に取材をして、もっと知られてほしいことを、キャッチーな情報と共に届ける実験中といえるかもしれません。これらの記事をもとに、来春をメドに新しい本も出ます。こんなふうに、いろんなやり方を試してみたいですね。『7割』の仕事で視野が広がり、『3割』の仕事にもいい影響を与えています」

オールドメディアの内側から見えてきた、ウェブメディアの未来像

記者をしながら、運営サイドへも軸足を移す理由は「記者という職能単独では、この先ずっと書くことを続けられないのでは、という危機感があった」と語る朽木さん。多くの記者が抱えている悩みを、当事者の一人として自身も感じているといいます。運営として、紙媒体に変わる受け皿へとウェブメディアを成長させる役割と同時に、医療記者としても新たな役割を担おうとしています。

--オールドメディアのウェブメディアが担う役割や未来像はどのようなものでしょうか?

「ウェブメディアで限界を感じたのは前述の通りですが、オールドメディアに入ったことで見えてきた、現時点での未来像もあります。紙媒体はまだまだ、それこそ一般的なウェブメディアの一千倍に達する巨大な売り上げをあげています。これは『当座の安心』を意味すると同時に、一般的なウェブメディアには受け皿としてのポテンシャルがまだないことも意味します」

−−“ジャンボジェット”といえども、これまでのようには飛んでいられない状況ですね。そうかといって、その乗客すべてがツール・ド・フランスのアスリートになれるわけではない、と。

「弊社だけでも約2,000人の記者がいます。受け皿を一刻も早く作らなければ、一体どれくらいの人数がこぼれ落ちてしまうのか。これは私などがいわずもがなの話で、みんな危機感を抱いているでしょう。その準備に失敗すれば、紙媒体から数千人の書き手がライター市場に放出され、ウェブで飽和することも考えられます。そうなったとき、自分にできることは多ければ多いほうがいい。編集も企画も、イベントも、メディア運営も、運営モデルの構築も……と、より上流の工程に入っていかなければならない」

--同じように、医療記者としての仕事や役割にも変化せざるを得ない部分が多々ありそうですね。

「自分の専門分野である『ネットと医療』というテーマでも、WELQ問題の当時やその直後とはフェーズが変わってきています。顕著なのが、SNSなどを通じて医師などの専門家の方々が積極的に情報を発信するようになってきたことです。“信頼できる”医師が医療情報を直接発信してくれるのであれば、記者である私が発信するよりも望ましい。とすれば、“信頼できる”医師とメディアを結びつけたり、それこそイベントを開催して医師らが発信しやすい環境を作る裏方に需要が生まれるはず。私は『課題解決』のために発信をしているタイプなので、究極的には課題が解決するなら誰がやったっていいと思っているんですよね。もちろん、自分でしか取れないスクープは死ぬ気で取っていくつもりですし、医療情報の課題は根が深く、そう簡単に解決はできない、まさに一生涯をかける取り組みです。だからこそ、新しい市場をどんどん開拓して、“上位互換”が可能になったらバトンを渡す。その繰り返しをしていきたいと思っています」

継続的に発信していくために、書く以外のことをする必要が生まれている

--記者として、書き手としてのキャリアについては、どのような未来像を描いていますか?

「変化の激しいメディア業界では『考えるだけムダ』という声もあるのですが、私はそれについてはちょっと怒っていて(笑)。そういえるのは生存者バイアスなのでは、と感じるからです。編プロ時代に30代・40代・50代と世代の異なるライターさん同士が語り合うイベントを開催したことがあるんですが、年代が上がるにつれて、本当に“消える”というか、いなくなってしまうメディア関係者の方ってたくさんいるんですよ。『考えるだけムダ』というのは生き残っているからこその、正直な実感なのだとは思います。少なくとも『名前を聞かなくなったな』という方は、そういうことをいわないので。どんなに準備をしてあっても、どこかで道が絶えるかもしれない、その恐怖は常にあります」

--個人はもちろん、メディア企業でさえもその恐怖を感じているように思います。

「だからこそ、どこに自分の需要があるのか、逆に何に需要があるのかは、いつでも考えていたい。もちろん人によるのだと思いますが、私はそういうタイプです。だって、情報発信はやっぱり必要だから。難しいいろいろな医療の課題に困る人、悩む人を減らすためには、メディアという機能が必要だと私は思います。その中で継続的に発信していくために、逆に今、書く以外のことをする必要が生まれている。そんな状況を嘆いていても始まらないので、まずは自分にとってのユートピアを作らないと、と思っています」

朝日新聞社という伝統メディアの一員となった朽木さんは、メディア運営者として新たな一石を投じようとしています。かつて、医療記者として投じた一石は大きな波紋を生み、「医療デマ」にまつわる状況を変えたように、新天地での次の一投はメディア企業の未来も変えるものになるのかもしれません。「朽木さんに求められているのは、メディア企業を持続可能にする処方箋ですね」と問いかけると、笑いながら次のように答えてくれました。

「新聞社が今後どうすべきかということに関しては、日本のみならず世界的に皆が悩んでいることなので、そんな画期的なことを思いつけるんだったら、僕は今ここにいませんよ。それを思いついたのであれば、今ごろ海外の大メディア企業で、経営者として陣頭指揮を執っていると思います(笑)」

Interviewee Profiles

朽木 誠一郎
記者・編集者・デジタルディレクター
1986年生まれ。2014年3月に群馬大学医学部医学科を卒業。2014年4月にオウンドメディア運営企業に入社。同年9月に編集長に就任し、退任までにPVを250万から650万へ引き上げる。2015年10月に編集プロダクション(有限会社ノオト)入社。記者・編集者として基礎からライティングや編集を学び直し、『WIRED』『Forbes』などで執筆。2017年4月にBuzzFeed Japan News入社。医療報道部門のBuzzFeed Japan Medicalの立ち上げに従事し、医療記者としての活動を開始。2018年3月に単著『健康を食い物にするメディアたち』を出版。2019年3月にネットメディアからマスコミに移籍、朝日新聞社デジタルディレクターに就任。引き続きネットと医療を主なテーマとして追いかけながら、プランナーとして事業開発に取り組む。雑誌『Mac Fan』で「医療とApple」連載中。
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  • Written by

    坂本茉里恵

  • Photo by

    長島大三朗

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