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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

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日本が持つデザイン感覚を活かし、海外事業を開拓していく。『SCHEMA,Inc』で奮闘する若き台湾人ディレクター

日本への留学、そして軍隊生活で気づいた“自発性”を胸に日々奮闘する仕事術

株式会社スキーマ

2016/07/04

学研ホールディングスの70周年スペシャルサイトや、株式会社JTBとPayPal Pte. Ltd.による「おでかけ電子チケットサービス『PassMe!』など、WebやスマホアプリなどのUI/UXデザインで一気に急成長を遂げているクリエイティブ集団『SCHEMA,Inc』。

昨年から今年にかけて台湾での事業を拡大するなど、ワールドワイドな視点を持って活動し、2015年11月には台北オフィスも設立しました。その中で重要な役割を果たしたのが2014年8月にWantedly経由で入社した、ディレクターの林可(リン・コー)さん。台湾出身である林(リン)さんだからこそわかる日本デザインのストロングポイント、そして母国に貢献するためのビジネスプランについて語ります。

JR渋谷駅を降りて、多くの自動車と人が往来する明治通り。立ち並ぶビルの中の一室に、デザイン・プロダクト集団『SCHEMA,Inc』(以下、スキーマ)があります。

ドアを開けて目に飛び込むのは、ホワイトを基調にしたオフィス。デスクが一直線に並び、シンプルながら開放感のある仕事空間になっています。

「林(リン)です、よろしくお願いします!」

現在29歳の林さんは、日本語学校を経て明治大学に入学。2014年夏からスキーマに入社し、日本で社会人としてのキャリアをスタートさせています。

「僕は子供のころから旅行でよく日本に来ていましたが、そのときはまさか日本の会社で働くことになるとは思っていませんでした」

少しはにかみながら話を進める林さん。日本に強く興味を持ったきっかけについて問うと、こう答えてくれました。

「やっぱり日本が好きになったきっかけは、実家がラムネ工場だということが大きいですね。ラムネは日本発祥のものらしく、昔から日本との接点があったんです。それから日本を知る中で和食も好きになり、料理にも興味が湧きました。大学進学については実家が工場ということもあって、機械工学が学べる理工学部へ入ったのですが、料理好きなのも影響し、昼間は物理や数学を学び、夜は飲食店のバイトでひたすら料理を作る生活でしたね(笑)」

料理と機械工学。一見すると現在のスキーマとは無縁の印象です。実際、就職活動でWantedlyを使っていたときは食に関連する企業をメインにチェックしていたそうです。

偶然が重なり、母国である台湾での事業拡大へ

ここで偶然が重なりました。スキーマは、Wantedlyを利用して新たな人材を探していました。林さんはその募集を発見した瞬間をこう振り返ります。

「Wantedlyを通してスキーマのFacebookページを見たとき、台湾での事業について書いてあったんですよ。僕は台湾出身ですし、もちろん台湾に関連する仕事にも興味があったんで連絡を入れました」

それから代表である志連さんらと面談をしてとんとん拍子で選考が進み、2014年7月に入社が決まりました。実は当時は台湾での事業内容は具体的でなく、出していた募集は日本での事業拡大に向けたものだったそうです。しかし林さんの応募によって、流れが加速します。志連さんと二人で「台湾では、どういったアプローチが有効なのか?」話し合いを繰り返したことで、ある一つの方針が定まってきました。 

それは、林さんが前々から興味を持っていた「食」というキーワードでした。

「台湾だけに限らず、海外でデザインの仕事をする場合に、どの国の人にも通じるのが“食”だなって気づいたんです。自分の実家もラムネ工場で、昔から食に関連する仕事は馴染みがありましたし、ここで色々と点と線がつながった。当時スキーマではデジタル作品の実績が多かったんですが『食に関するパッケージなどアナログのデザインをやっていくのも良いのではないか?』と、話し合ううちに辿り着きました」

台湾でも多くの食品がスーパーマーケットに並んでいます。「食品自体のクオリティは日本に負けず劣らず良くなってきているんですけどね」と前置きした上で、母国の商品の課題をこう分析しました。

「リサーチしてみると、パッケージの部分で台湾人以外、例えば観光で訪れた外国人の方々にウケていないことが多かったんです。それなら食品自体の品質は良いのだから、パッケージでも他国と劣らないものを作りたいと思いましたし、それが売り上げにも繋がるのでは? と考えたんです」

続けて林さんは、9年間にわたる日本での留学生活で見えてきた、日本のデザインについて語ります。

「日本のデザインには繊細さがありますよね。ディティールにもすごくこだわる。もちろんスキーマは日本のデザイン会社なので、モノに対するコンセプトやストーリーは、かなり細かく求めていきます。だから僕は、スキーマの作る日本のデザインを活かして、台湾と日本のつなぎ役ができれば面白いんじゃないかなと思ったんです。“作る” と “売る” をつなぐ仕事です。今実際に僕たちが考えたコンセプトを台湾企業の担当者に話すと『私たちは今までこういったことを考えたことはなかった』と喜んでくれるんですよ。日本人的な感覚や直感を理解してくれることが、とてもうれしいですね」

林さんの予想は的中。幼少の頃から父親が工場を稼働しつつ、営業活動に励む姿を目にしていたため「ものづくりだけではなく、営業の大切さは体に染みついています」と積極的に取り組みます。

様々なやり甲斐がかみ合ったことで、1年足らずで約100社の企業と関係を構築。ディレクターとして台湾の台北オフィス設立に大きく貢献しています。

留学生、そして軍隊生活で考えた自由と責任感のバランス

このように充実した日々を送る林さん。彼にとってスキーマの企業風土はどのように映っているのでしょうか。

「スキーマはクリエイティブな仕事をしているので、正直、一般企業みたいな堅苦しさや規則はないです。ただ何をやりたいのか、どんなデザインを作っていきたいのか、自分の中に決めておかないと、仕事の未来を作れない。自由度は高いけど、その反面厳しさも同時に存在していると思います」

自由の中にある責任感。彼がこの言葉を意識するのは、留学生時代の途中に “軍隊生活” を経験したことが大きかったそうです。台湾では18歳以上の男子は1年間の徴兵期間が存在します。(※1994年の出生以降は4か月の奉仕活動)

そのため、林さんも明治大学在学中に軍隊に入りました。

はたして軍隊での生活は仕事とリンクするものなのか。

「直接つながっているということはなかったですけど……」

こう前置きした上で、続けます。

「兵役中は意外と“空白の時間” がたくさんありました。訓練以外の時間がすごく長く感じて、暇だったんです(笑)。空いた時間にテレビを見ることなどは禁止だったので『この時間を利用しなければな』と心の中で思うようになって『自分の人生を築き上げていくために、今後自分は何をしたいのか、何をすれば良いのか』と、将来についていろいろと考えましたね」

自主的に仕事を進める。規律がすべての軍隊だからこそ、その緊張感の中で真逆の視点に気づけたのかもしれません。

「いち社会人としてスキーマで働いていると『今はちょうどいいバランスで生活できているな』と思えるんです。自由度が大きい分だけ、自分の頭で自発的に考えていかないといけない。ただ、規律がすべての軍隊に比べたら、自由に仕事を楽しめる環境にいれるのはすごく幸せですね」

「スキーマでの仕事が楽しいなと思うのは、仕事が生活の一部とつながるところですね。例えばコンビニに行ってお弁当を買おうとするじゃないですか。そこで『あ!このデザインはこんな意図を持って、お客の目を引っ張っていこうとしているんだな』って気づき、考えるようになりました」

今後の目標について聞くと、目を輝かせてこう語ります。

「日本人の繊細さを象徴するのは、名刺を渡すときに現れているなと思います。名刺の高さ位置にもマナーがあるじゃないですか。ここまで徹底している国は日本ぐらいですよね。正直、今の台湾にはないものです(苦笑)。小さなことですが、そうやって日本で得た気づきを活用し、台湾やアジア各国、アメリカやヨーロッパでも通用するデザインを作りたいですね」

「この目標を実現するために一緒に働く人に求めたいのは……とにかく自発性が高く自由が好きな人がいいと思います!その気持ちを持って、毎日面白いものを作っていきたいです」

ちなみに自由度の高さを象徴するエピソードとして、代表である志連さんとの関係性があります。入社前の話し合いで林さんが志連さんに抱いた第一印象を聞いてみたところ、

「挙動不審」

とのこと。でも、1年間働いてみたら、イメージが変わったんじゃないですか?

「うーん……挙動不審(笑)」

このやり取りを聞いた志連さん。あわてるどころか満面の笑みを浮かべました。

「僕が林と一緒に仕事をしようと思ったきっかけは、こういう部分なんですよね。日本での生活が長いのもあるのか日本人の笑いのツボをよく分かっているんです。正直なところ、林より留学経験が浅くても、綺麗な言葉で流暢に日本語を話す台湾人もいるんです。けれど、デザインの仕事をしていく上では文法や語彙力は関係ない。コミュニケーションが全てなので、価値観や面白いと思う感覚を言葉で共有できることが必須条件です。そういう意味では、彼のデザインスキルは非常に高い」

「デザインの仕事というのは、依頼者がどういったイメージを求めていて何をして欲しいのか、密にコミュニケーションをとらなければいけないんです。例えば『もっと格好良くして欲しいな』という抽象的な要望を受けたとすると、その企業や人の価値観を踏まえて提案することになります。だからこそ、一緒に仕事をしていくにあたり、一番重要なスキルというのは、お互いが伝えたいニュアンスをスムーズに変換できる感覚が必要だったんです」

志連さんの思惑を聞いた林さん。少しはにかみながらも、スキーマで働く喜びを噛みしめていたように映りました。

留学先の日本で見つけた仕事によって、母国である台湾に貢献する林さん。

「今後はスキーマの作る高品質のデザインを、台湾人に理解してもらえるかどうかがポイントで、それが台湾企業の活性化に直結すると考えています。その責任感の大きさを感じつつも、一つ一つ自分自身が自発的に開拓していこうと思っています」

新たな働き方を模索しているのは日本人だけではない。ワールドワイドな活躍を目指している人材は世界中に存在していることを実感する言葉でした。

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