東京駅の3Dプロジェクションマッピング『TOKYO HIKARI VISION』、東京国立博物館 特別展「京都-洛中洛外図と障壁画の美」プロジェクションマッピング『KARAKURI』、「新江ノ島水族館ナイトアクアリウム」 など話題の作品を数多く手がけるクリエイター村松 亮太郎さんにインタビューしています。
前編では、村松さんの作品への思いと、NAKEDを設立した意外な経緯についてご紹介しました。後半では、村松さんが19年という年月をかけて育ててきたNAKEDの現在と未来について伺っていきます。
▶︎前編:自分が信じたものをやりきることで、『100人にひとり』が現れる。NAKEDを立ち上げ、人生にとって大切な人に出会うこととは
何でも屋「NAKED」
クリエイターであり、経営者という顔も持つ村松さんですが、村松さんにとってNAKEDは一体どのような存在なのでしょうか。
「会社は、僕にとって世の中とのつなぎ目になってくれています。NAKEDがないとふらふら〜っとどこか行って消えちゃうと思う。でもまさか19年間も社長をするなんて思ってもみませんでしたよ。元々会社経営の夢もなかったですし、最初も立ち上げメンバーで話していて『赤レンジャーっぽいからお前が代表じゃん?』というノリで代表に決まったので。NAKEDはずっと社長募集中です(笑)」
−NAKEDの大きな特徴として、今までの実績を見ると一言で「○○の会社」と表現できないところがありますよね。それは村松さんが代表を務めているならではの社風かと思いました。
「まさに、うちはプロジェクションマッピング屋でもないし、テクノロジー屋でもありません。たまたまプロジェクションマッピングで名前が売れたのですがそれはあくまで結果論。テクノロジーを使うのが前提じゃなくて、『感覚を裸にする』というのがNAKEDの仕事です。しいて言うなら『なんでも屋』といったところなので、競合もいないんですよね。
僕たちは、たとえるならジャズのセッションみたいなもので、最低限のルールだけ決めてあとはシンプルに反応してきただけなんです。仮に誰かが模倣しようとしてまねできる性質ではない。でもそれって見て感じていただかないとなかなか伝わらないものなので、説明は難しいんですけど」
村松さんいわく、「何者でもない」というスタイルは、ご自身のクリエイティブにも共通のテーマなんだとか。
「僕自身、作品を『メディアアート』と形容されることが多いけど、本人はそんなつもりないですからね(笑)。自分はたとえるならミキサー。いろいろなものを入れてぐるぐる〜って回したらこんなものが出ました、というのが僕のスタイルです。映画もやりながらテクノロジーも扱うという亜種がたまたま僕の強みだったというだけ。よくいえばオンリーワンですけど、言い換えれば何者でもない。僕自身は空っぽなんですよ」
−非常にフレキシブルな考え方、そして組織という印象なのですが、チームで共有している全体のビジョンというのはあるでしょうか?
「それもあまりないですね。僕の発言や考え方を『村松語録』として社員が再編してくれていたりはしますけど。
NAKEDは映画を作りたくて始めた会社ですが、今はレストランもやってたり、だったらオリジナルのワインを作りたいね、となってブドウ農園をやろうかと考えていたり…あらゆることが予定外の方向に進むんですよね。ほかにも、立ち上げは4人で始めて少数精鋭でいこうって言ってたのに気づけば100人規模になっていたりとか、そういう予想外の連続なので細かくいろいろ決めても無駄かなという思いもあります」
そんなNAKEDに集まるのは個性派揃いのクリエイターたち。NAKEDが求めるのは、
NAKEDに属する以前にひとりのクリエイターとして生きられるかということ。
「ビートルズのように、グループでありながらひとりひとりが“ヒーローである”のが理想です。実力がないと生きていけない世界なので、形だけ与えても仕方がない。誰を切り取っても活躍できて、かといって輪を乱さない、そんなふうにNAKEDの根になってほしいんです。今のNAKEDは、そういうキャラクターが集まっていると思っていますし、そういう集団であり続けたいとは思っています。
うちはいわゆる縦割り組織的な役職もほとんどありませんし、案件ごとに流動性を持って動いているので、会社というよりはまさに『チーム』という感じ。一見無秩序なんですけど、『カオティックの中で調和している』という絶妙なバランス感はありますね」
−100人規模の組織でありながら、フレキシブルな体制を保てているんですね。
「こういう変わった会社なので、新しく入ってくる人は戸惑うかもしれないですね。でもやっぱり面接までくる人というのは、意外とNAKEDの理念を理解してくれている人が多い印象です。以前、面接に来た人に『NAKEDってパンクですね! Webサイトもちゃんとしてないし』って言われて『その通りだ!』みたいな(笑)。
聞いた話では、クリエイティブカンパニーに行くと、社員がみんな似たような趣味やファッションだということが多いみたいです。でもうちは個性の強い社員が集まっているので、見た目や性格、センスもばらばら。それがおもしろいとよく言われるんですよ」
目指すのは「目立つ田舎企業」
デジタル映像第一世代として立ち上がってから19年。いわば老舗ともいえるクリエイティブカンパニーへNAKEDは今、「会社として良い時期にある」と言います。
「NAKEDは元々、『いかにブレイクしないか』ということを考えながら活動してきたんです。ブレイクによって『○○の会社』というイメージがついて消費されていくのがいやだったので、水面下で好きなことをやってきました。
あと僕は俳優だったこともあって、何十年も売れ続けるのがいかに大変なことかわかっていたというのもあります。なので、いたずらにブレイクしない方がいいなと思っていたんですよね。これを永作博美戦法って言ってるんですけど(笑)。なので東京駅の3Dマッピングで一気に注目されたときは『やばい! 見つかっちゃった!』っていう気持ちでした。
ただ、売れたら売れたで行けるところまで行くしかないので、今はその勢いにのって大きく動いていこうというフェーズですね」
−この先NAKEDをどういう組織に育てたいと考えていますか?
「目指しているのは、『目立つ田舎企業』です。センスはモダンだけどハートはレトロ。社員も、正月には家族をつれて帰ってくるような会社にしたいですね。
そもそもの考えとして、僕は非合理の中に価値を見出したいタイプなんです。会社というのは人が集まるところなので、コミュニティとして機能していてほしい。今も派閥なんて全くないし、行けば何かを学べる人がいるような環境です。自分でもあったかい会社だなと思いますよ。
それから、しんどくなったときに結束できる会社でいたいですね。彼氏彼女といっしょ。うまくいっているときはいいんですよ。問題は、つらいときに一緒に乗り越えられるかだと思います。ただ、今のメンバーなら、突然『会社が倒産しました』ってなっても大丈夫じゃないかと。そのくらいの事が起きても心配ないというか、信頼していますね」
−今までに一番しんどかった時期はいつ頃ですか?
「いやもう、ずっとですよ! でもうちは危機に燃えるやつが多いですからね。むしろ『あえて土俵際行ってない?』みたいなことも多いですよ。そろそろピンチは招きたくないので、やめてほしいんですけどね(笑)」
「ピンチは招きたくない」と言いつつ、少年のような笑顔を見せる村松さん。ギリギリの挑戦をしていくという村松さんの姿勢は、すっかりNAKEDに根付いているようです。
さらに話は、村松さんの見据える「クリエイティブの未来」についても広がっていきました。
「日本にとって『未来』は希望のイメージが強いんですが、海外では『未来』は暗いイメージで語られることが多いんです。侵略の歴史があるからかもしれません。僕は未来について話すとき、『ただの未来』ではなく『過去と現代を含んだ未来』を見据えるべきだと考えています。闇雲に夢物語を描くのはあんまり好きじゃないんですよ。たとえば、シャッター街で暮らすの人々の未来を無視して、都会だけでスマートシティの構想を練るのってどうなんですかね?」
「ほかにも、音響データを圧縮したMP3の登場を、進化といえるかどうかはわからないわけです。データが小さくなって、大量に持ち運べるようになった一方で、削ぎ落とされた部分は必ずあるんですから。リッチさが違いますよね。豊かさがかけた音楽を大量に持ち歩いて、果たして価値はあるんだろうかと。
ただこれはMP3批判をしたいわけではなくて、わかった上で使い分けていく必要があるよねという意見です。僕もテクノロジーの恩恵を受けてここまでやってこれたし、テクノロジーを軽視するようなことはありません。ですが、『デジタルだからすごい』という安易な考えで飛びついて、削がれたものの存在に気づかず大切なものを失っていくのはもったいないなと思います」
全てを引っくるめて「シンプル」でありたい
やりたいことに突き動かされて、思うままに創作を続けてきた村松さん。生粋のクリエイターである村松さんにとって、仕事を「仕事」として認識する機会はほとんどないと言います。
「9時5時のクリエイターなんていないですよね。もう創作は人生そのものなので、プライベートと分けて考えることもなくて、365日24時間クリエイターです。そもそも『クリエイターになりたい』という意識を持ったこともなくて、振り返ってみればクリエイターとしての人生を歩んできたのかなという感じです。
でも、プロフェッショナリズムにはうるさいかもしれない。『FLOWERS BY NAKED』もそうですが、10万人を超えるお客さんに来てもらえるというのはすごいこと。それに対して自分がどれだけのものを出せるのかというのはいつも考えています。今は技術も進んで、YouTubeなどのプラットフォームも充実していて、プロにならなくてもクリエイションができる時代じゃないですか。そういう中で、プロとして作っていくというのがどういうことか考えないといけないなと思います。
作品に『by NAKED』と表記することも、品質保証の一部なんです。『NAKEDなら間違いないだろう』と信じて来ていただくことで、自らハードルを上げプレッシャーをかけています」
また、村松さんは仕事をするにあたって、「歪んだ“自分らしさ”」を嫌います。
「いまどきの若い人は『自分らしさ』を大事にしたがる人が多いと感じるときがあります。でも、お金を頂いて仕事をするときに、自分らしさがファーストにくるのはおかしいと思うんです。だって仮に自分が1000万払って誰かに仕事を依頼したとき、相手が真っ先に自分らしさを突き詰めてたらどう思いますか? それより先に考えるべきことがいろいろあると思うんです。
これは、若い子がだめなんじゃなくて、いまの社会が過剰に“個”に振りすぎなんじゃないかと思っています。海外に比べれば日本は個性が叫ばれ出してまだ浅いので、社会の成熟度とも言えるかもしれません。でもみんながとにかく『自分自分』って言ってる社会ってどうなんでしょうか。
僕はNAKEDは大志で結ばれていないといけないなと思っていて、みんなが同じものを『良い』と思ってやっていかなければ会社として成立しないですから」
−村松さんにとって、理想的な仕事への取り組み方はどのようなものですか?
「フラットに物事を受け入れていくスタンスがいいかな。仕事のできる人というのはあんまり文句も言わないじゃないですか。文句言う前に自分で考えるし、文句を言っても解決にはつながらないとわかっているから、前向きに処理していくという能力がありますよね。
そういう意味では素直さやシンプルさというのは大事だなと思っています。今、僕は代表という立場ですし、いろいろな経験も積んで責任も背負ってきたなかで、それらを単純に切り取ってしまうことはできない。でも、“切り取って”シンプルになることは無理でも、“全部含めて”シンプルになることはできるかなと思っていて。そうしたらまた、昔みたいにまっすぐになれるかなって思ってるんです」
村松さんのお話は、ロジカルでありつつも、情熱的。また、経験も知識も豊富なのに、時折子供らしい無邪気さも覗かせるので、その豊かな人間性にすっかり引き込まれてしまいました。中でも印象に残ったのは、「365日24時間クリエイターでいる」という村松さんの言葉。村松さんがプロデュースしている一番大きな作品は、ご自身の人生なのかもしれないと思いました。
EVENT INFORMATION
TOKYO ART CITY by NAKED
http://tokyoartcity.tokyo
会期:2016.12.21 - 2017.01.12
開催時間:全日11:00〜20:00
※最終日1月12日は11:00〜18:00までとなります。
※入場は閉館30分前までとなります。
開催場所:渋谷ヒカリエ 9階 ヒカリエホール ホールB
住所:150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1 9F
アクセス:東急東横線・田園都市線、東京メトロ 半蔵門線・副都心線「渋谷駅」15番出 口と直結。
主催:TOKYO ART CITY by NAKED 実行委員会
企画/演出:NAKED Inc.
お問い合わせ:TOKYO ART CITY by NAKED
事務局:03-6380-9910
(会期前 平日11時~18時/会期中 開場時間に準ずる)
CAUTION
※駐車料金サービス券は取り扱っておりません。ご来場の際は公共交通機関をご利用ください。
※会場で購入する当日券につきましては、クレジットカードの使用は不可となります。