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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

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「演劇で食べていく」憧れと好奇心が生んだ転職から23年。日本一のロングラン公演をつくりだす劇団四季の仕事とは

「人生は素晴らしい。人生は生きるに値する」を体感できる仕事と演劇への思い

2016/07/11

年間の総ステージ数、3,000回以上。日本全国に8つの専用劇場を持ち、多くのファンに愛され続ける「劇団四季」。60年を超える歴史の中で生まれた数々の人気作はもちろん、『キャッツ』『ライオンキング』をはじめとする記録的なロングラン公演はあまりにも有名です。

今回は、そんな「劇団四季」を運営する四季株式会社の本社である「四季芸術センター」にお邪魔してきました。稽古場も備わる、この建物では、日夜、俳優のみなさんが切磋琢磨しステージづくりに励んでいます。気持ちの良い挨拶が響く稽古場前の廊下と、いくつも連なる稽古部屋。すべての作品はここからスタートするのです。

現場で迎えてくれたのは、専務取締役(営業・広報宣伝担当) の越智 幸紀(おち こうき)さんです。「演劇」にかける深い思いと、「劇団四季」の魅力をたっぷりと伺ってきました。

「満席」をつくり続ける

入社23年目という越智さん。数々の役割を遂行されてきましたが、まずは現在のお仕事内容について教えていただきました。

「現在は、営業と広報宣伝の管理業務を担当しています。どちらも、劇場にお客様を呼ぶ仕事ですね。劇団四季の専用劇場は全国に8個。それ以外にも福岡・広島・静岡・仙台に各拠点があります。これらの公演と全国のツアー公演を合わせると、年間で3,000ステージ以上を行っています。1つ1つすべての公演で満席をつくるための具体的な方法を考えるのが、日々の役割ですね」

驚くべきステージ数と集客力を誇る「劇団四季」。全国で販売されるチケットのうち、約3分の1は越智さん率いる営業活動によるものだそうです。

「営業担当は、北海道から福岡まで、各拠点に全体で100人程です。学校や企業に出向き、様々な目的でチケットを買っていただく仕事です。学校は、芸術鑑賞や修学旅行の観光の一環として。企業は福利厚生としての利用や、販売促進の一環としての使用、社員のご家族にプレゼント、など目的が非常に多岐にわたります。多くの利用方法があるので、それぞれに適したかたちで提案させていただいております」

たとえば、人気作『ライオンキング』の上演は今年で18年目。各地で常に満席をつくり続ける、その極意はどのようなものなのでしょうか。

越智さんは言います、

「劇団四季には、新しいお客様を常に掘り起こしてきた歴史があるんです」

マーケットを見つける嗅覚

ロングラン公演は、まさに新しいお客様を劇場に招き続けることができた結果。しかしそのマーケット開拓の術には、意外な地道さがありました。

「来場者の小さな傾向を探るようにしています。『今までこの演目に、こういったお客様はいらっしゃらなかったのになぜだろう』といった疑問からはじまるんです。時にはそのお客様に直接伺うこともあります。『こういった背景があって見に来たんです』という答えの中には大きなヒントが隠れていますから。そこから、そういったお客様がもっといらっしゃるかもしれないと積極的に開拓を検討するわけです。お客様が劇場にお越しいただく理由を理解すれば、お客様の流れがわかるものです。営業活動の中でも、『学校の先生がこう話していました』『企業の方が、こんなことを仰っていました』とメンバー間で日々共有して“流れ”を捉えていくことの繰り返しでやってきました」

経験で鍛えた嗅覚と地道なヒアリング。お客様ひとりひとりの「理由」と向き合うことで、それが限定的なシーンではなく時代の「流れ」「傾向」だと気づくことができるのだそうです。

「長年ロングラン公演をやっていると、この月は売れる、この月は苦労する、といった具合に販売傾向がわかってきます。その苦労する月に、いかに新しいマーケットを見つけて開拓することができるか。常に新しいマーケット・販路を問い続けた結果がロングラン公演であり、それが私の23年かなと思います」

仕事帰りに『ライオンキング』

その「流れ」を促進させる施策にも工夫が凝らされています。「仕事帰りに『ライオンキング』キャンペーン」もその 1 つ。

「この 6 月から、ビジネスマンの方向けに『仕事帰りにライオンキングを見ませんか?』というキャンペーンを実施しています。『ライオンキング』は、仕事やビジネスをするうえでも共感できるセリフがたくさん詰まっています。演劇は比較的女性のお客様が多いのですが、そういったことも影響してこの作品は他の作品に比べると男性が多いんです。それが今回の企画の元。ビジネスシーンでも使えそうなセリフが描かれたステッカーを持ち帰っていただけるキャンペーンですので、是非たくさんの方にお越しいただきたいですね。あらゆる層の方に、演劇の楽しさを知ってもらいたいと思っています」

© Disney

感動のステージとステッカーが、仕事帰りの少し疲れた背中を「心配ないさ」と一押ししてくれるというものだそう。越智さんにとっても、この『ライオンキング』は特別な作品です。

「私は四季株式会社に中途で入社しています。入社 5 年目で、『ライオンキング』の立ち上げを担当したのですが、まさかここまでロングランが続くとは思ってもみませんでした。本当にありがたいです」

演目のお話をされる越智さんからは、溢れんばかりの愛情が伝わってきます。

「演劇」に触れていたい、という思い

ー 四季株式会社に入社される前から、演劇はお好きだったんですか?

「私は、大学生の頃に演劇サークルに入っていたのですが、自分たちで台本を書き、道具も作り、自分で演じて。それが本当に楽しかったんです。卒業後は一般企業に入社しましたが、自分の生活の中に『演劇』がなくなってしまったことがすごく寂しく、転職を決意しました。誰かに相談すれば反対されることはわかっていたので、自分だけで決断しました」

どうしても「演劇」に触れていたい、という強い気持ちから転職を決意した越智さん。当時 25 歳、「劇団四季」には憧れと 1 つの好奇心を持っていたそうです。

「学生時代に劇団を経験していたこともあり、四季が『演劇で生活ができる劇団』であるところに偉大さを感じていました。しっかりと収益をあげていることに興味を持ち、どうすればそのようなことができるんだろう、と好奇心を持ちました。その後、入社試験を受け、気が付けば20数年が経ちましたね」

入社後は、「演劇」に触れる幸せ・喜びを噛みしめる毎日だったと言います。

「すぐに東京営業に配属されました。当時はまだ専用劇場もなく、いくつかの劇場を数ヶ月ずつ借りて公演をおこなっていた時代。私は、朝から夕方までは営業活動をして、夕方からは劇場に入り、お客様対応などの当番業務を。公演後は、グッズの売上を計算し、夜間銀行に入金するという業務も行っていました。22:00ごろ仕事がようやく片付くと、終電まで同僚たちと飲んで帰る毎日でしたね。現在の四季は、組織として整い残業するような体質でもないですが、当時は少人数で多くの業務を兼任していたので大変ではありました。しかし、私にとっては『朝から晩まで芝居に包まれている!』という喜びを感じると共に楽しんで業務を行っていました。1 日の終わりの数時間には同僚とお酒を飲みながら仕事や芝居の話をし、それが何よりも幸せだったので。充実感に包まれながら毎日を過ごしていました」

“人生は素晴らしい。人生は生きるに値する”

「演劇」を仕事にすることができた幸せで、胸がいっぱいだったという越智さん。決意のもと飛び込んだ世界は大正解だったようです。

ー 入社時に抱いていた「劇団四季の収益性」に関しては、すぐに理解することができましたか?

「徐々にですね。『ライオンキング』の立ち上げを経験したころからでしょうか、マーケットをつくる仕事とソフトを提供する仕事は『常に重要な両輪である』ということがわかってきました。どちらが欠けても大成功は得られません。マーケットの面では、勉強していく中で『ブロードウェイも、ニューヨークのお客様だけではロングランは成し得ない』という考え方をするようになりました。世界中からのツーリストが訪れることでロングランが達成できるので、東京の劇場は東京のお客様、大阪の劇場は大阪のお客様、という決め付けを排除することで、幅が広がったように感じます。いかに広い範囲の人を巻き込んで新しいマーケットを見つけていくか、そこに対して真剣に取り組んでいるところも四季の強みだと思います」

そしてもう 1 つ、「ソフト提供(=ステージ)」の魅力は多くの人が知るところですが、その「肝(キモ)」を越智さんは「テーマとメッセージ性」だと語ってくれました。

「一流のエンタテインメント作りに甘えがありません。俳優もスタッフも舞台に真剣に向き合っているので、そこがお客様にも伝わっているのだと思います。劇団四季の作品には、すべてに共通して『人生は素晴らしい。人生は生きるに値する。』というテーマを持って上演しています。ご観劇いただいたお客様が、自分が生きているということに喜びを感じ、『また明日からも頑張っていこう』と思えるような作品ばかりなのです。そこがやはり、この劇団の「肝(キモ)」だと思うんです。そこにお客様も胸を熱くし、何度も観劇いただき支えてくださるんだと感じています」

「人生は素晴らしい。人生は生きるに値する」という大きなテーマのもと、それぞれの作品でそれぞれの「熱いメッセージ」を発信し続けている劇団四季。そのメッセージが見る人の心を震わせ、「また味わいたい」体験となっているのでした。

「メッセージ」は伝わり、糧になる

東日本大震災があった2011年。越智さんには大きな気づきがあったと言います。

「例年、4月・5月には東北から2万人近くの修学旅行生が劇場にいらっしゃいますが、2011 年は震災の影響で全てキャンセルとなりました。数カ月後、福島に出向き学校関係者と翌年以降の修学旅行の話をしたのですが『どうしても来年は、ライオンキングを子どもたちに見せたい。もしも東京が満席であれば、大阪に修学旅行の行き先を変更しても良い』とまで仰いました。東京には劇場が5つもありますし、当然『ライオンキング』以外にも演目はたくさんあるんです。それでも、『ライオンキングじゃなきゃだめなんだ』と。理由を伺うと、思いがけない答えが返ってきました」

『ライオンキング』のストーリーは、主人公である仔ライオンシンバが自身の故郷を叔父 スカーに追われ、まったく知らない土地で友人と共に暮らし、成長していく姿を描いています。そして成長したシンバは故郷に戻り・・・

「『シンバのようなたくましい姿を、今の福島の子どもたちに見せたいんです。』と先生は仰ったのです。当時、子どもたちは震災・原発の問題の中で自分たちの家ではないところに住み、同級生とも散り散りになっていました。来年こそはみんなで故郷に戻り、修学旅行で『ライオンキングが観たい。そしてシンバの姿を見せたい。』ということだったんです。この演目が有名だから、日本一のロングラン作品だから、という理由ではなく、先生は『作品のメッセージ』を今の状況に重ね合わせ、子どもたちに伝えたいと心から願っていたのです。その思いを知ったとき、私の中でも熱い気持ちが溢れ、胸が震えました」

語る越智さんの様子に、その思いの深さが現れていました。そして、何度も何度も「これは、ほんの一例なんです」と繰り返します。

「私自身、四季で働いてることで『人生の素晴らしさ』を知る出来事にたくさん出会わせていただいているんです。本当に幸せな仕事です」

福島の生徒たちは無事、東京で翌年「ライオンキング」を観劇できたとのこと。「劇団四季」が伝えるメッセージは見る人の心の糧になる、これこそがこの劇団のステージの価値であり最大の強みなのでした。

後編では、そんな感動の舞台を全国で上演することができているその「仕組み」と、公演地域拡大に向ける「劇団四季」のある思いについて迫ります。

後編▶「劇団四季」が愛される理由は、舞台の持つメッセージとそれを伝えるクオリティ

Interviewee Profiles

越智 幸紀
1967年9月28日生まれ。愛媛県出身。 1990年上智大学・経済学部 経営学科卒業後、1993年四季株式会社に入団。 2008年取締役 東京公演本部部長就任。現在は専務取締役として営業部・広報宣伝部の管理業務を担当。

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