7つの実例で学ぶ「ワイヤーフレーム通り」のデザインから脱却する具体的な方法
「ちょっと〇〇君!これワイヤーフレームそのままじゃない!」 Webデザイナーなら、できることなら聞きたくないセリフですよね。私自身ももれなく、こう言われた経験はありますし、逆に後輩に対して同じく「これだとワイヤーフレームのまんますぎるね。。」と伝えたこともあります。 この「ワイヤーフレーム通り問題」は、Webデザイナーなら誰しも一度は経験するあるあるの一つと言えますが、なぜ「ワイヤーフレーム通り」と言われてしまうのでしょうか。また具体的に何をすれば、ワイヤーフレーム通りではなくなるのでしょうか。今回はそのあたりの原因と対処方法を考えてみたいと思います。 「ビジュアルを作る力」と「情報を理解・提案する力」 ズバリ結論を言いますが、ワイヤーフレーム通りじゃん…と言われてしまう人は「ビジュアルを作る力」と「情報を理解・提案する力」が弱いと言えます。 ビジュアルを作る力は幅広い表現の中から適切な手法を選んで絵に落とし込む力のことで、情報を理解・提案する力は誰に・何を・どのように伝え・どうなってほしいのか?を考える力のことを指します。 これだけだと分かりにくいので、この2つの力が制作の結果にどう影響するのかを、経験度別に3人のデザイナーのモデルケースに当てはめてみたいと思います。 新入社員 Aさん ステータス ビジュアルを作る力 × / 情報を理解・提案する力 × 状況 デザインの引き出しが少なく、時間内に間に合わせようとするあまり、ワイヤーフレームで簡易的に作られた絵を参考にして、デザインを仕上げてしまう。内容も深く理解せずに決められた絵を作ろうとするため、ワイヤーフレームに描かれた配置や言葉、すべてを疑うことなく正として信じ、デザインに反映する。 結果 ディレクターがパワーポイントなどで簡易的に作ったレイアウトや配置がそのままデザインに反映されるため、設計からデザインに進んだ段階でUIのクオリティが上がらない。加えて、指示された内容以上の+αの提案はないため、提案物としての全体的なクオリティも低い。 ディレクターからの一言 うーん、ワイヤーフレームのままですね。。。 経験1年目 Bさん ステータス ビジュアルを作る力 ◯ / 情報を理解・提案する力 △ 状況 実務でさまざまな案件を担当して経験を積んだことで、ある程度柔軟に、ビジュアルを作ることができる。しかし情報設計への理解力・提案力はまだ乏しいため、ワイヤーフレームで決められた要件は満たしつつ、より最適な見せ方を提案したりはできない。 結果 絵的にはそこそこ綺麗なものに仕上げるのでとりあえず提出はできるが、情報設計への理解を踏まえたデザイナーならではのアイデアが無いため、ワイヤーフレーム設計者やクライアントの期待値を超えることができず、フィードバックが重なる。 ディレクターからの一言 えーっと、、まぁとりあえず一旦、これで提出してみますかね。ありがとうございまーす。 経験5年目 Cさん ステータス ビジュアルを作る力 ◎ / 情報を理解・提案する力 ◎ 状況 多くのデザインの引き出しの中から、伝えたい内容に対して適切なUIの表現を選定し、綺麗なビジュアルを作ることができる。ワイヤーフレームは要素と重要度を示したものと理解した上、そこに記された内容が本当にユーザに対して伝わる内容かどうかを精査し「ユーザにとってこうあるべき」という強い主張をデザインに盛り込むことができる。 結果 ワイヤーフレーム段階では詰め切らない詳細な表現が、しっかりと作り込まれたデザインが出来上がる。また、情報設計の視点からワイヤーフレームに記された方法以外の可能性も探り、現実的な選択肢をデザインバリエーションとして作ることもできるので、提案物としてのトータルクオリティが高い。 ディレクターからの一言 ありがとうございます!!!これで提案してみます!!! 3人の能力の比較 このように「ビジュアルを作る力」と「情報を理解・提案する力」が伴うほど、ワイヤーフレームから何を読み取り、どういった表現でデザインすべきかを、柔軟かつ適切に判断できるようになります。これらが盛り込まれたデザインこそが「ワイヤーフレーム通り」でないデザインですね。 しかしながら、この2つの力は短期間で身につくものではなく、コツコツと地道に経験を積み重ねていくことで少しずつ磨かれていくものです。そういった「近道は無い」という前提はありつつも、ここからは具体的にどんな点に気を付けていけば良いのか?何をすればより早く力がつくのか?を考えてみたいと思います。 STEP(1)ビジュアルを作る力を伸ばす 2つの力が大切と伝えましたが、まず先にデザイナーに求められるのはビジュアルを作る力です。デザインの基本原則(近接・整列・コントラスト・反復)を使いこなせること、表現の引出しを増やすこと、数多くのWebサイトを見てUIの作法(セオリー・決まり・しきたり)を徹底的に身に付けることが重要です。どれも短い時間で身に付くものではありませんが「コレを意識するとより早く身につくよ」という4つのコツをご紹介したいと思います。 1)細かい要素のサイズや配置は自由に決める ワイヤーフレームは、ナビゲーションの位置や要素の順序など、大きな要件は固められているものですが、モジュール内の細かなレイアウトまでは深く考えられていないことが多いと思います。どんなレイアウトにすれば、ユーザにとって見やすく、使いやすいUIになるのかは、デザイナーがデザインする際に自らの知見を基に考える必要があります。まずはワイヤーフレームの姿形そのままをデザインに落とし込もうとせず、これらの要素を分かりやすく伝えることができる良いレイアウト方法はないか?をゼロベースで考えてみてください。 NO GOODでは、タイトルやアイコンの位置、それぞれの要素のサイズ感など、ほぼワイヤーフレームと同じです。しかしGOODでは、電話とメールを左右に並べてバランスをとったり、メールはボタンにしたり、情報の優先度がより分かりやすいよう考慮されています。 NO GOODは要素全体が安定するよう、中央に揃えられていますが、メニューを横に並べる形はワイヤーフレームから変更されていません。GOODは情報の階層構造が分かりやすいよう文字の大きさとレイアウトを変え、メリハリをつけています。 NO GOODはワイヤーフレームのレイアウトのままで、今ひとつ魅力に欠けます。GOODは英語を大胆に配置してインパクトを出しつつ、ボタンの体裁もやめ、より洗練されたイメージにしています。このくらい思い切ってワイヤーフレームから変更しても良いのです。 2)作成するデザインの参考を必ず複数探す UIや図版の表現方法は一つではありません。大切なのは、パッと頭の中に浮かぶ表現をすぐに採用してしまわず「もっと全体のテイストと合った表現はないか?」を粘り強く探ることです。デザインポータルやGoogle検索から自分のプロジェクトと質の近い表現を探して、作成時の参考にすると良いでしょう。それも一つだけを見るのでなく、必ず2つ以上探すのがポイントです。そうすることで、多角的にデザイン表現を考えられるようになります。 タブひとつでも様々な表現があります。吹き出し風な表現もあれば、四角の色の違いだけで表現する方法もあります。自身のプロジェクトの全体のトンマナに近いものはどういった表現でしょうか。 5つの丸をつないだ事業図を作る指示ですが、1)のように商品写真を加えてリッチに見せる方法もあれば、2)のように半透明の丸が重なり合ったシンプルなイメージも検討できます。どちらの表現がユーザに響くのか、もしくはもっと違った表現なのか、作成する前によく検討しましょう。 3)参考デザインをモジュール別に毎日クリップする 先ほどの「参考を複数探す」という話ともつながりますが、見つけたデザインはどんな手法でも構わないので必ずクリップしておきましょう。PinterestやTumblrでスクリーンショットをポストするのもアリですし、スプレッドシートにURLを蓄積して整理する方法もあります。日々コツコツとネタを貯めておくことで、いざデザインを作り始めた際に参考探しに時間を割く必要が無くなります。 例として、私は参考になりそうなモーションの表現をスプレッドシートで管理しています。一部実際のシートをこちらからご覧いただけます。 4)優れたデザインのサイトを週に1サイト模写する 模写をコツコツ続けるのが、表現の幅を広げる上で「最も効果的」です。表現の参考になるサイトのスクリーンショットをとり、それを上からトレースすることなく、テクスチャや文字のサイズなども完全再現を目標に、見比べながら、マージンを一つ一つ測りながら、全く同じものを作ってみましょう。非常に手間はかかりますが、3ヶ月続けるだけで、驚くほど自分の表現手法が増えていることに気が付くでしょう。大事なので2回言いますが、この方法が「最も効果的」です。 こちらは私が過去に模写していたものです。写真はストックフォトから似た画像を探して使っています。実際に見比べて作ることで、様々な表現手法、レイアウト感覚を体得することができます。 STEP(2)情報を理解・解釈して+αを提案する ビジュアルを作る力を付けつつ次に意識するのは、情報を理解・解釈して+αを提案することです。+αとは、ビジュアル作りの担当範囲を超えた設計に対する提案や、インタラクションに対する提案などです。ワイヤーフレームの中の情報を解釈し、ターゲットは誰なのか、何を、どのように伝え、どうなってほしいのか?という考察に基づく提案ができると理想的です。手法は様々ですが、ここでは簡単にできる3つの実践例をご紹介します。 ...