株式会社MIMIGURI / Art Educator
創造性を育むファシリテーション:他者を理解し、受け入れる土壌をつくる理論と技法 | CULTIBASE
・創造性の定義は、様々な研究者が多様に提唱しているが、代表的な研究者であるM.チクセントミハイは創造性を「領域」「場」「個人」の3要素によって構成される体系的な現象として捉え、モデル化した上で、「歴史に刻まれる創造性とは、既存の領域を変化させ、新しい領域へと変容させる行為、思想、あるいは成果である」と述べている。 ・創造性教育の対象として、(1)個人レベルの創造(小文字の創造性:creativity)と、(2)公共における創造(大文字の創造性:Creativity))の2種類がある。この二つが両方発揮されることが創造性教育の目的となる。 ・夏川が専門としてきたのは創造造形(創造性を育む造形活動)。現実にはできないことを造形を通じて体験させることで、新たな視点や考え方の獲得を促していく。人間に元来備わっているイマジネーションをいかに引き出していくか。そのためには、個人を取り巻く関係性に着目することが大切である。 ・英国の演出家・キースジョンソンは、創造性の発揮においては、周囲からの評価(検閲)の恐れをいかに軽減するかが重要だと指摘し、そのために、「勝とうとしない」「独創的になろうとしない」などの逆(pradoxical)の考え方を身につけることが有効だと述べている。 ・夏川はこの逆(pradoxical)の考え方に基づいた「創造性を育む関わり方」に着目し、評価への恐れを増幅してしまいがちな何気ない一言をNGワード集としてまとめ、クライアントである現職の保育士でも実践できるように一般化するなどの取り組みを行っている。 ・臼井はまた別の観点として、現代芸術における創造性育成の知見に着目し、誰しもがそれぞれの生活の中で育み、実践可能な「mini-C」の創造性を今回の話題提供の対象として紹介。また、「mini-C」の創造性を育む方法として、臼井は「認知的徒弟制による技術と熟達のための練習」と「ズラしと省察による新しいアイデアを練る探索的練習」の二つがあると述べる。 ・「認知的徒弟制による練習」では、一般的に7つのステップを段階的に行う。ただし、創造性を育む上で認知的徒弟制を活用する上では、熟達者のやり方を参照しながら、その知をいかに自分なりにズラし、独自の知として確立するがポイントとなる。 ・「ズラし方」を身につける上では探索的練習が有効である。臼井は横地(2021)などによる先行研究をもとに、探索的練習と省察、妥当なフィードバックなどを通じて創作活動の基盤となる「創作ビジョン」が獲得されるまでの発達プロセスを解説。また、そのための関わり方として、学習者の創造性の面白さや新規性に驚き、ズラしを推奨することが重要だと述べる。 現代の組織が直面する複雑な問題を解決するためには、「個人」「チーム」「組織」の創造性の発揮が不可欠であるーーそのような仮説のもと、CULTIBASEでは人や組織の創造性の発揮を促す知見の探究と発信を行っています。そのため、「創造性の育成はどのように可能か?」を問いとして掲げる本イベントは、CULTIBASEの根幹にストレートに切り込むテーマ設定といえるでしょう。 重要な前提として、「創造性」と一口に言っても、その本質を捉えることは困難を極めます。だからこそ、これまでCULTIBASEでは「イノベーション」「経営・マネジメント」「デザイン」「学習・人材育成」、そして「ファシリテーション」といった5つのカテゴリを切り口として、多角的に創造性の本質を照射し、探究的にその輪郭を浮かび上がらせることに務めてきました。 今回のイベントでも、夏川は自身が受けてきた創造造形を中心とした創造性教育を、臼井は発達心理学や現代美術におけるアーティストの熟達プロセスの理論を手がかりにして、「関わり方」という切り口のもと、「創造性の育成はどのように可能か?」という問いに肉薄しています。語られる内容もさることながら、「創造性」という根幹のテーマに対して普段のイベントよりも近い立ち位置を取りながら、それでも理論と実践、手法と思想といった複数の観点を緩やかに横断する2人の姿勢から、複雑性と向き合う基本スタンスとしての「探究」のあり方に触れられる点も、今回のイベントの大きな見どころと言えるでしょう。 また、後半のディスカッションでは「社会性教育と創造性教育をいかに両立するか?」という問いがトピックとして挙げられていますが、「自身の創造性を活かすため、社会や組織のルールとどう向き合うか?」という問いについて理解を深める上で、こちらのアーカイブ動画が参考になるかと思います。