生態学会ポスター発表
[発表タイトル]シカの食害が引き起こす森林動態のレジームシフト ニホンジカの個体数増加や分布拡大により、農林水産被害や自然植生破壊が深刻な問題となっている。こうした被害への防除として、シカを物理的に排除する防鹿柵の設置を行い、その後の経過モニタリング調査が積極的に行われてきた。その中でシカによる食圧から開放されたとしても、その林床のタイプによってその後の経過が異なることが報告されている。ミヤコザサ林床では、ササが生長し他の植物種を被陰させてしまうことで、更新を抑制することが報告されている。一方でスズタケ林床では、スズタケの密度によって実生の生存率は変化するとも報告されている。また実生の生存率や生長の度合いは光環境の影響を受けていることから、防鹿柵の設置の影響を考えるには林床のタイプと光環境の二つを考慮することが必要と考えられる。 本研究では奈良県大台ケ原の林分において防鹿柵内にプロットを設置し、全天写真から光の透過率(SOC)を求め、それに対するササと木本の生長における優劣関係を明らかにした。またササの高さ、出現頻度、Basal Areaの変化についての20年分のデータから、防鹿柵の設置が木本種の回復に有用であるかを検討した。 スズタケ林床では強い光強度のもとで木本優勢の結果となり、ミヤコザサ林床では光に関係なくササ優勢という結果となった。 この結果から、スズタケ林床では林冠木が倒木しギャップが形成されれば更新が促進されるため、柵設置が更新へ有用と考えられる。一方のミヤコザサ林床では光環境によらず木本種の回復が阻害され、柵設置だけでは更新が促進されないため、レジームシフトが生じていることが示唆された。