1
/
5

音を用いて、誰もが暮らしやすい社会へ。ヤマハが取り組む次世代の“音エコシステム”、SoundUDが秘める可能性とは

音で、こんなことができるなんて――SoundUDを初めて知った人は、誰もがきっとそう思うだろう。

SoundUD(=音のユニバーサルデザイン)は、ヤマハが新規事業として取り組んでいる、音をデジタル化してあらゆるサービスへとつなげていく仕組みだ。駅の構内放送や商業施設のインフォメーションなど、これまでは音としてしか流れなかったアナウンスを文字化・多言語化する「おもてなしガイド」を開発し、増加するインバウンドニーズ、そして聴覚障害を持つ方に対応している。

今後はそうしたユニバーサルデザインだけではなく、テレビ・リアルタイムショーの字幕化や、音を用いたバスのチケットレス化など、あらゆるサービスにつなげていく予定だ。こうした音が持つ最新技術の可能性について、SoundUDグループの辻川と井本に話を聞いた。

辻川聡一
クラウドビジネス推進部SoundUD グループ おもてなしガイドチームプロデューサー
2007年、ヤマハに入社。オーディオなどの音響機器の電気設計を担当後、社内公募にて「SoundUD」事業に参画。メーカー各社とのSoundUD連携製品の開発・普及を担当。大阪府出身。修士(電子工学)。趣味は読書やバンドでのギター演奏。相棒のはんだごてを握りギターアンプを改造、音質調整もする。休日は2児のパパとしてとして育児に奮闘中


井本智大
クラウドビジネス推進部SoundUD グループ プラットフォームチームプロデューサー
学生時代に「おもてなしガイド」を知り、ヤマハに入社。初期配属で「SoundUD」事業に参画。SoundUD関連アプリやサービスの企画・開発を担当。京都府出身。修士(理工学)。趣味はアニメ鑑賞とバレーボール観戦、中華街での食べ歩き。相棒はポテチと炭酸飲料。仕事にも慣れたので、勇気を出して社会人サークル(バレーボール)に入ろうとしている

SoundUDに大幅な設備投資はいらない


SoundUDの世界を実現するためには、SoundUDに対応した音が流れる場所と、その音を受信できる対応スマホアプリの両方が欠かせない。このふたつが回ってはじめて、SoundUDエコシステムが出来上がる。

辻川「私は音の流れるあらゆるシーンで、SoundUDをご利用いただけるようにするため、対応スポットの拡大に努めています。空港や駅、電車やバスの中、ショッピングセンターなど、街中は音の情報で溢れています。家の中でも、テレビなどで音の情報は流れてきます。こうした様々なシーンを共通化された規格でユニバーサルデザイン化していくという活動です」

井本「私は、SoundUDの受信側の環境整備に努めています。SoundUDに対応したスマホのアプリやWEBサイトを開くと、日本語で流れる音声情報を自分のわかる言語の文字で読むことができるようになります。アナウンス情報を文字化するという事以外にも、日本人健常者にとっても便利なサービスをつくる仕事もしています」

SoundUDの普及には、ヤマハだけではなく、250社団体を超えるコンソーシアム会員が一体となって、オールジャパン体制で取り組んでいる。

辻川「SoundUD対応スポットを拡大するために、様々な業界の放送機器メーカーとの協働が必要不可欠です。この理念に賛同頂けるメーカーには、各放送機材から流れる音声をSoundUDにはじめから対応できるようにするため、組み込み用のSDK(開発キット)や設計図、特許使用権を無償で提供しています。

こうしたメーカー各社とは、SoundUDを安心安全に使えるようにするための啓蒙活動を一緒に行ったりもします。例えば、音響通信そのものは決して新しい技術ではありません。それだけに、音響通信の技術があっても、音響設備の知識がなく類似サービスを作ってしまうと大変なことになります。我々も会員であるJEITAからも注意文がでましたが、音響通信が放送機材に悪影響を与えてしまったり、それにより音響通信の品質や可能性に悪影響がでてしまっては本末転倒ですから、そうした意味でも共通規格化は非常に重要です」

井本「SoundUDを受信するアプリとして、ヤマハが提供する『おもてなしガイド』アプリがありますが、正直これ自体を広めていこうとは思っていません。使えるところが限定されている専用アプリをインストールしてもらうのはハードルが高いですし、必要な時にだけ専用アプリを立ち上げてもらうのは現実的ではない、と考えているからです。

そこで我々は、すでに普及しているアプリやサイトにSoundUDをひとつの機能として簡単に組み込んでもらえるための受信SDKを用意していて、音のユニバーサルデザイン化に賛同いただける方々にこれを無償提供しています。これから様々な対応アプリやサービスがでてくるので、楽しみにしていてください!」

益々広がるSoundUDの世界とサービス


辻川と井本はこれまで、業界問わずさまざまな企業と共同でSoundUDの実証実験やサービス実装に取り組んできた。

辻川「最近ですと、例えば、京三製作所製の列車案内表示システムがSoundUDに対応し、京急品川駅に導入されました。このシステムは、2018年度グッドデザイン賞も受賞しました。他にも、JAL・パナソニックと共同で、受信したアナウンスをサイネージで流すという、音×光のユニバーサルデザインに取り組みました。来るスポーツ大会にむけて、秩父宮ラグビー場やエコパなどの競技会場でも、総務省と一緒に実証実験を行いました。

普段は入ることができない電車やバスの車両基地、飛行機の格納庫に入ったり、乗客のいない新幹線を走らせて実験をしたり…。色々な経験ができるので、そういう意味でもワクワクします」

井本「ユーザー側が受信することができる情報にも様々なものがあります。音声アナウンスの内容が多言語の文字になって読むことができるという基本機能に加え、サンリオピューロランドやJ-WORLD TOKYO、東映太秦映画村などのテーマパークではシアターモードといって観劇に対応していたり、競技会場ではルールがわからなくても試合の実況を解説付きで表示させたり、博物館や美術館では音声ガイド代わりになったり…ということもしています。

加えて、火災などの有事の際にはポップアップ形式でインターネットを使わなくても、スマホに情報を送れる機能も実装させています。先ほどの競技会場の実証実験では、SoundUDを使ったときと使わなかったときとで、外国人や障がい者の方々の行動があきらかに変化するという結果もでています」

SoundUDの普及にあたっては、まずSoundUDが目指す世界観を丁寧に伝え、その上で誰もが導入しやすい環境を整備している。

井本「IT企業にSoundUDのアプリ導入の話を持っていくときは、実際に導入したときのスマホ画面や動きをつくっているのですが、その際にしっかりとSoundUDの理念や実現したい世界観を伝えるようにしています。そうすることで、たとえすぐには実用化・事業化につながらなくても、一緒に未来を見て開発していくことができ、ゆくゆくは互いのメリットにもなるという考えからです」

辻川「今、音のユニバーサルデザイン化は様々な業界で注目されています。訪日外国人は年々増えており、高齢化は進み、耳の不自由な方への情報保証も重要です。業界を問わず、みんなにとって住みやすい社会にしようという動きが活発になってきており、SoundUDはまさにそうした世界を実現する要のひとつです。

普段はライバル関係にある音響機器メーカー同士も、SoundUDにおいてはお互いに協力してこの世界を実現していこうと同じ方向を向いています。このように、従来の関係性や業界を超えてみんなでひとつになれることが、この仕事の一番の醍醐味ですね」

井本「音を拾う機能と画面さえあればSoundUDには対応できますので、将来的には、スマホだけでなくスマートグラスやサイネージ、ゲーム機器と連携するなど、新たな業界の方々とも連携をしていき、SoundUDの実現できる世界を広げていきたいです」

ユニバーサルデザインのその先へ


SoundUDは今後、ユニバーサルデザインを超えて、音のプラットフォームを形成していくことで、さまざまなサービスを展開できる可能性を秘めている。

辻川「これまでは主に空港、鉄道、バス、商業施設といった街中の音を対象に、SoundUDを普及させてきましたが、今年からテレビやラジオ放送の世界でも音のユニバーサルデザイン化の取組みを行っています。現在16の放送局が賛同してくれ、共同で開発しています。

ニュースを読んでいるアナウンサーの方の音声データを自然言語解析によって文字化して、番組からは今どの番組を見ているのかをSoundUDトリガーで判別させるという仕組みです。これによって、例えば耳の不自由な方は対応アプリを開くだけで、番組の字幕情報を自宅ではもちろん、友人宅でも外泊先でもパブリックビューイングでも手元で確認できるようになります。

今後も、災害時にインターネットが使えなくなったとしてもテレビの音を使ってスマホに情報を送ったり、外国人の方のために自動翻訳技術を活用した多言語字幕配信などをしたりという活用はもちろん、バラエティ番組やCM連動を行うなど、さらに活用方法をどんどん広げていけたらと考えています」



井本「SoundUDトリガーができることは音声情報の文字化だけではありません。一例としてジョルダンと組んだ、バスのチケットレス化の実験があります。これは、バスの乗降時に対応アプリを起動していれば、自分がいつ乗っていつ降りたかを自動的に記録してくれるシステムです。バス車内で流れているトリガーを拾ったタイミング、拾わなくなったタイミングで乗降を識別できるんですが、こうすることでチケットなしでバスに乗ることができるんです。実際に試してくれた乗客にはすごく好評で、『音でこんなことができるんだ』と驚いてくれました。

将来的には、ユニバーサルデザインで広げたSoundUDトリガーを音のプラットフォームとして、3rdパーティーにも広く開放し、2次活用を推進していく予定です。すると、このように対応スポットに応じた販促や広告、コンテンツ販売などを、SDKを導入するだけですぐに簡単に実現できる世界が実現します。

ユニバーサルデザイン以外の活用方法によって、我々はもちろん、導入される施設の皆様も収益化が図れる仕組みも用意しています。ユニバーサルデザインをコストとしてとらえることなく、ビジネスにも活用できるようにすることが、持続可能なユニバーサルデザインの実現に役立つと信じています」

辻川「11月末に開催する『SoundUDカンファレンス2018』では、こうした事例を実際に手に取って実感してもらうことができます。アプリをダウンロードし、『こんな風に音を拾って次のサービスにつなげられるのか』と、ありありとわかってもらえるかと思います。

他にも、先ほど話にあった京急やジョルダン、テレビ東京、JAL、バンダイナムコアミューズメント、総務省等がセッションを開きます。SoundUDがどのような業界でどのように活用されているのか、ぜひリアルな声を聞きにきてください」


<SoundUDカンファレンス2018>
2018年11月28日(水)
東京国際交流館(船の科学館駅 または 東京テレポート駅)
13:30~18:00(受付13:00~)
概要:https://soundud.org/images/sud_conference2018.pdf
お申し込みはこちらから


コンサルティング営業
ヤマハの新規事業! 音のプラットフォームをつくり、世の中に貢献したいプロフェッショナルをWANTED
ヤマハ株式会社では、創業以来130年以上にわたって培ってきた音に関する技術を生かし、世の中の音をICT化・ユニバーサルデザイン化していく新規事業「SoundUD」の普及に取り組んでいます。音に新たな情報を付加する「SoundUD」の技術を用いて、駅の構内放送や商業施設のインフォメーション、テレビのニュースなど、これまで一方通行に流れて終わっていたアナウンスなどの音声をスマホ上で文字化・多言語化する音のユニバーサルデザイン化支援システム「おもてなしガイド」を開発し、増加するインバウンドニーズ、そして聴覚障がいを持つ方への情報提供支援にも貢献しています。 左:音とクラウドをつなぐ「SoundUD」概念図 右:音のユニバーサルデザイン化支援システム「おもてなしガイド」 わずか数人の若手社員から始まった「SoundUD」プロジェクトは現在、社内外30名を超えるメンバーが集まり、250もの自治体・企業と協働し、さまざまなところで活用されはじめています。今後はさらに音のICT化を促進させ、鉄道や施設、テレビなどのリアル世界とITの世界を、音を機軸につないでいくことで、音のプラットフォームを築いていきます。 この活動を持続可能なものとし、拡大していくためには、事業としての更なる成功も欠かせません。 そこで今回は、ITや広告、コンサルなど、各業界で活躍されてきたプロフェッショナルの方々を対象に「SoundUD」プロジェクトに加わってくださるコンサルティング営業の方を募集します。
ヤマハ株式会社

(一緒に働く仲間も募集中です...!!)

ヤマハ株式会社's job postings
8 Likes
8 Likes

Weekly ranking

Show other rankings
Like Hiroyuki Iwase's Story
Let Hiroyuki Iwase's company know you're interested in their content