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第1回:欲しいのは、住宅ローンに縛られない家|僕らが見つけた「タイニーハウス」という新しい住まい方

「小さい」からこそ、クリエイティブになれる。

 はじめまして。YADOKARI株式会社のさわだいっせいとウエスギセイタと申します。

 僕らは小さな家を作っています。

「小さい」という形容詞には、かわいい、扱いやすいというポジティブなイメージもあれば、とるに足らない、貧しいなどの、ネガティブなイメージもあります。

 特に家に関しては「大きければ大きい程良い」という価値観の方が、ごく一般的なのではないでしょうか? 確かに住まいが大きければ沢山のモノも置けますし、ゆったりと暮らせるでしょう。僕らも、それが悪いと言うつもりはありません。ただ、大きさと引き換えに、とんでもなく高額の住宅費を背負わなければならない現実を、どうにかしたいと考えているのです。今都心で家を買おうとすれば、ほとんどの人が即金では買えずローンを組むでしょう。それも何十年もの長きに渡って……。

 家が小さいことと、高額の住宅ローンを背負うこと。どちらかを選択するなら、僕らは断然小さな家を選びたい。なぜなら「小ささ」には創造性を発揮する余地があるからです。

 例えばiPhoneのようなデジタルガジェットを見てください。

 25年前には重さが3キロもあって、背中に背負わなければならないサイズだった携帯電話が、今はパソコン同様の機能を持ちながら、手のひらに収まるサイズになっている。それは実にクリエイティブではないでしょうか。

 iPhoneは様々な要素を極限まで切り詰めて、あのシンプルな形に行き着きました。入れ物が小さくても、詰め込まれた機能は無限大。もちろんそれは技術的なイノベーションの賜物ですが、同じことが家にも起こるとしたら? 家や暮らしだって、機能を最大化したままサイズダウンできると思うのです。

 例が個人的で恐縮ですが、YADOKARIユニットの片割れ、ウエスギの子供の頃のことをお話しさせてください。

 ウエスギの実家は長野県小諸市の町工場で、常に職人さん達が5人ぐらい住み込んでいるような家でした。家は5LDK。そこに祖父母と父母、そして僕と姉の家族6人、加えて年齢もさまざまな職人さんが5人、総勢11人も住んでいたのですから、人数に対して、かなり手狭だったといえるでしょう。寝るときは当然雑魚寝です。体を寄せ合っているので寝返りもままならず、夏になると、暑さに寝付けない夜もありました。

 自分の部屋なんて夢のまた夢。周りの友人は当たり前のように個室を持っていたので、子供の頃は手狭な家が嫌でした。

 ところが、大人になって一人暮らしを始めたら、あの小さくて家族や職人さん達でぎゅうぎゅうに暮らした家を、とても愛おしく感じたのです。都会では、みんな広くて高級な一戸建てやマンションに住むために、あくせく満員電車に乗って働いている。家でくつろぐ時間は少なく、若い子の多くはフルタイムで働いても家庭を持つ経済的余裕がない。もしくは、家族が居たとしても、親は仕事の疲れを癒すのに精一杯で、子供は部屋に引きこもってしまう。そんな状況をとても寂しく感じました。

 そして職住近接で、職人さんも含めた大家族で食卓を囲んでいた、実家の豊かさが身にしみたのです。

 今となっては、笑ってしまうのですが、子供の頃のウエスギは、職人さんたちに「皇太子」と呼ばれて、可愛がられていました。家内制手工業だったので両親とも忙しかったけれど、その分職人さんたちが「皇太子、どうした元気がないぞ!」「皇太子、いじめられたのか?」などと、声をかけてくれたものです。逆に一緒に食卓を囲む若い職人さんと親方である祖父との会話を自然と耳にして、仕事の哲学や、青年から大人への成長の過程ですべきことを、学んだりもしました。

 思い返すと、あれこそが団欒だったのだと思います。

 おそらく誰もが、大きな家に住みたいという希望を持った当初は、そこで集う家族の時間を夢見たはず。それなのに、いつの間にか家という上物に対する執着が大きくなり過ぎて、本当に欲しかったはずの団欒に費やす時間を犠牲にしなければならなくなってしまった……。それでは本末転倒だと思うのです。

 そろそろ立ち止まって、その事実に気がついてもいい頃ではないでしょうか。闇雲に大きさを求めるのを止めて、本当に大切にしたいことに目を向ければ、自然と暮らしは身の丈に合ったものになっていくはずです。そこでは「小さい」のイメージは、貧しいでも、取るに足らないでもなく、また、かわいい、扱いやすいということを越えて、今の時代に相応しい、身の丈に合った幸せのイメージになっていると思うのです。

311で知ったこと。モノは、一瞬で消えてしまう。

 最初に、僕らがYADOKARIの活動を始めたきっかけが、東日本大震災だったとお伝えしました。大事なことなので、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

 311直後、津波によって家がどんどん流されて行く光景がリアルタイムで報じられていました。黒い濁流が、塀や壁を破壊し、あるいは根こそぎ流していく。その映像を冷静に見られた人はいないのではないでしょうか? 僕は今でもその状景を思い出すと辛くてたまらない気持ちになります。

 多くの人が家とともに亡くなりました。また命は助かっても、全ての持ち物が流され、苦労して建てた住処は瓦礫の山になってしまった。どんなに建物を堅牢に作っても、何重にも対策をしていても、自然の力は抗えない。震災は、そう実感するのに充分なできごとでした。

 当時さわだは、結婚しようとしていたタイミングでした。周囲の友人も結婚する人が多く、皆当然のように家を買う計画を立てているという状況。ところがそんなときに震災が起き、従来のマイホームの概念に疑問を感じざるを得なくなったのです。

「あの家が流されている映像を見れば、モノは一瞬で流されてしまうと分かる。所有することでは、本当の意味で、人は豊かにならないんじゃないかな」

 ふとさわだが言いました。震災後の未来を、ワクワクする世界にするためにはどうすればいいのか? これからの幸せとは? と日々二人で語り合っていた頃でした。

 今まで家は高価で当たり前、数十年のローンを組んでようやく手に入れるのが普通でした。都心に家を買おうとすれば、安くても5000万円程。それを35年以上かけて返済していくのが一般的なプランと言われています。一生に一度の買い物だと思って、皆無理をしていたのです。でも震災のとき、津波で押し流されている家々を見た後では、「家」は本当に一生物なのか?と、疑問が湧いて来てしまう――。 

 一方で、災害で今までの常識が揺らいだからこそ、我々が、本当に大切にしなければならないことは何なのかも、見えたのです。自然と触れ合う、人とつながる、自分の夢を実現する……僕らが大切にしたいのは、全て物ではなく、関係性でした。いつ無くなるか分からない家という上物に多大な時間を費やすよりも、自然や、他者、そして自分自身としっかりと向き合うことに時間をかけたい。震災後、僕らは素直に思いました。

「だとしたら生活を組み替えないと。今のままでは家というモノに人生のリソースを割き過ぎている。だから俺達でこれから家を改革して。未来の豊さや幸せを探そう」

 そのさわだの一言で、今まで押してもビクともしなかった何かが、動き出した気がしたのです。結論にたどり着いた僕らは、そのときから、家にかかるスペースやコストをダウンサイジングする方法を探り始めました。

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