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映画製作のPDCAから考えるwerollのデジタルマーケティングとワークスタイル

werollの共同代表、浅野雄介と北原豪のクロストークVol.04。ふたりの現在点を知るうえで映画は欠かせない。werollは、クリエイティブ・ファームInclineの共同運営5社のうちの1社であり、マス型が主流だった映画広告の領域で、デジタル広告を開拓し成果を上げている。Inclineは、これまでに黒沢清監督の『スパイの妻』の製作、濱口竜介監督の『偶然と想像』の配給など、さまざまな映画作品をサポートしてきたほか、クリエイターの創造の機会創出に力を注いできたからだ。そんなふたりが普段なにを話しているのか? 今回は率直にそんな質問から訊ねてみた。
 話題は、濱口竜介監督の短編・長編映画のつくり方から考える「お金をかけること・時間をかけることの違い」から始まり、遊ぶように働く人のためのサービスPoolsideを通して実現したい「時間を共にしながらライフスタイルを尊重し合うワークスタイル」まで、世のなかをもっと良くするのは? と本気で考えているからこそ出てくるアイデアが尽きない。
 ーーーそもそもふたりが出会ったのは、下北沢のライブハウスGARAGE。「こんなこと考えているんだけど」「いいね、かたちにしようよ」と遊びが仕事になっていく感覚。常にふたりに漂ういい大人の空気を感じながら、werollにジョインすることを考えてみてほしい。

interview & text:editor Takashi Miduki(LEFT WRITE)

目次

01 濱口竜介監督のPDCAと「時間をかけるか、お金をかけるか」の世界
02 Poolsideに込めたこれからのワークスタイルとwerollのカルチャー

01 濱口竜介監督のPDCAと「時間をかけるか、お金をかけるか」の世界

「時間をかけた方が、ライフワーク的になってくるんですよね、きっと」

ーーー今回で4本目となるクロストーク。これまでには「クリエイティブ・ドリブンでビジネスグロースをめざすこと」「日本のビジネスプロデューサー不足への危機感」「werollが創造したいこれからの企業文化」などの話をお聞きしてきましたが、今日は率直に、最近おふたりがどんな話をしているのか、知りたいなと思っています。

浅野雄介(以下、浅野):最近話していて、やっぱりそうだなと思ったのが、「映画製作とPDCA」。werollは、濱口竜介監督の短編映画のデジタル広告を支援しているんですけど......

北原豪(以下、北原):僕が共同代表をやっているInclineの広告まわりの仕事をwerollが担っていて(*1)。


(*1)Inclineが配給や製作をサポートしてきた作品の一部(Incline公式サイトより)。映画製作や配給、アートなどのインディペンデントなチャレンジを事業面とコミュニティ面からサポートするクリエイティブ・ファームIncline。これまでに、黒沢清監督の『スパイの妻』、濱口竜介監督の『偶然と想像』などの製作支援に携わり、北原は下北沢のミニシアターK2の支配人も務めている


浅野:濱口監督って、それこそ『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞やカンヌ国際映画祭脚本賞など素晴らしい功績を残したんですけど、こうして脚光を浴びる前からずっと、短編を撮り続けてテストして、長編でアクションに仕立てるということをやってきた人なんですよね。まさにPDCAじゃないですか。「いい映画をつくるには、2方向しかない」という話があって。ひとつは「時間をかける」。もうひとつは「お金をかける」。基本的にはこのどちらかしかない。それでいうと、濱口監督の短編作品は「時間をかけている」と思うんです。
これまで濱口作品の短編映画で広告支援をいくつかやらせてもらってきたんですけど、広告支援も時間をかけてPDCAを繰り返すというやり方を選んでいて。「時間もお金もかけるから、いい仕事ができるわけではない」ということなんですよ。使い方が大切で。


werollの共同代表、北原豪(左)と浅野雄介(右)


浅野:闘い方として、お金をかけるやり方を選ぶと、どうしたって巨大資本に負けるわけじゃないですか。もちろん、そういう豪奢なつくり方を選ぶ映画もありますけど、そうじゃないところに、これからの日本のやり方ってあるんじゃないかなと僕は思っていて。これって、考え方がすごくWEBとつながっていくんですよね。プロモーションも基本的には、「時間をかけるか、お金をかけるか」だから。
とくにマーケティングは、うまく時間をかけたらいいものができる。たとえば、運用型の広告だったりするんですけど。運用型の広告って、時間をかけるしかないこともあって。特定のターゲットが出現する場所とか、出現するメディアとか時間とかって限られているから、広く時間の網をかけておいて、最適なタイミングを見計らって、低コストでもリーチしていくやり方をするんですね。
反対にお金をかければ、ターゲットとか関係なく、大きな資本を注いで一気に母数をとることもできる。ただしそうすると、地引網みたいなもので、大量に網に入れても魚が死んでしまったりするじゃないですか。だから長い目で見ると、時間をかけてPDCAを繰り返して、「良質なユーザーをどうとってくるか」が大事だと思っていて。

北原:これって重要な話ですよね。

浅野:「そもそも、お金をかけても、良いクリエイターとできるとは限らない」ということにも例えられるんですけど。お金をかけるという選択は、ベストなタイミングを、投資で補填していくやり方じゃないですか。当然そういうやり方で得られるものもあるけど、時間をかけた方が「今はできないけど、このタイミングだったらできる」みたいに好機を待てるんです。「じゃあ、待つんで、時間ができたらやりましょうよ」と。

北原:お金が増えるほど、制約も同じように増えていく。お金ってやっぱり期間とかリターンとか、いろんな意味を抱えちゃっているので。そうするとたぶん、「個性ではない定量的なところ」に着地して、作家性ではなくなっていくんでしょうね。

浅野:そんな気がしますよね。

北原:映画監督にどれだけ予算を渡したとしても、2年という制約で縛ってしまったら、2年という年月のなかでアップデートされた考えとか作家性から生まれるものづくりになる。一方で、5年間待てる状況をつくれたら、2年間では辿り着けないところまでいくかもしれない。だから、お金を第一義として2年の投資に対するリターンを求めちゃうと、たぶん結果的には、薄く広いもので終わってしまうんじゃないかなと思うんです。

浅野:お金をかける方を選ぶと、リターンの期日で区切られる。ここがけっこう重要なポイントですね。もちろん、期日がある以上「ちゃんと仕上げなくちゃいけない」という制約が何かを生むこともあるけど、時間をかけるとそれとは違う結果になっていくというか。時間をかけた方が、ライフワーク的になってくるんですよね、きっと。

北原:より作家性が出てくるでしょうね。『ドライブ・マイ・カー』は、テストしてきた結果で、塊ができたんだろうなと。そこがすごいなと思っていて。
短編でテストしながら、ちゃんとお金をかけるところもやっている。マニアックな自分ごとだけに終わらせてないですからね。そこって両方やり通せる人は、なかなかいないと思うんですよ、「コアであること」と「ポップさ」のせめぎ合いというか。

浅野:すごいですよね。「作家性として表現したいところ」と「ポップさ」とのギリギリのラインを綱渡りしているというか。両方に振り幅をもっていて、両方をやってるフリをしてるけど、実はしっかり自分の言いたいことをメッセージとして詰め込んでいる。

北原:『偶然と想像』みたいなものもやりながら、インディーズで終わらせないで、『ドライブ・マイ・カー』みたいに色んな人に届くものにもしていく。ほんとすごいことだと思いましたね。

浅野:小さくテストして勝ちパターンをみつけて、そこに集中させるみたいなところは、デジタルマーケティングに繋がる価値観ですね。
それこそ、Amazonとかでやってきた「PDCAを何度も回して、そのなかで出てきた勝ち筋にコストを注ぐ」みたいなところは似ています。しっかりPDCAしたうえで、1億円かけるところを見定めて注入すると、何倍にもなる。
そのやり方を映画でやっているのが、濱口監督なんだなと。お金をかけるやり方もちゃんとやりつつ、短編でPDCAして時間をかけていくみたいなこともやって、自分の作家性やメッセージも薄めない。並大抵のことではないなと思いますね。

北原:映画のつくり方、考え方を変えた感じですよね。

浅野:いつか対談させてもらいたいですね。「映画のPDCA」って大事なことだと思うんで。



02 Poolsideに込めたこれからのワークスタイルとwerollのカルチャー

「もっと継続的な関係性を企業と人で、しかもライフスタイルで繋がるやり方があるんじゃないか」

ーーー「映画製作のPDCA」と「時間をかける・お金をかける」という話でいうと、あらためて働き方を考えるヒントもあると思っていて。たとえば今、求職側と企業側にあるのは、労働と賃金の交換というか、お金と時間で合意していくみたいなことが基本じゃないですか。その点、werollはPoolsideを展開して、ライフワーク的に仕事をしていく関係を、日本の新しい文化にしていこうとしている。そのあたりのことも、お金と時間の話に繋がりそうですが、どうでしょう?

浅野:従来の採用って、企業側がスキルシートや経歴を見せられても、その人がどんな人なのかよくわからないじゃないですか。趣味を書く欄、一行しかないですし(笑)。でも本来は「こういうライフスタイルで、子どもが何人いて、残業はできなくて、でもこういうところなら私のパフォーマンスを出せます」みたいなことがわかって、「飲み会とか超得意です!」みたいなことでもいいですし、その人のライフスタイルが見えることが大事なんじゃないかって思うんですよね。将来どうなりたいか、とか。
企業側も、1回の面接でそこを判断するには、かなりレベルの高いことが求められるから、結果取りこぼしてしまうみたいなことがあると思うんです。
だから「もっと、継続的な関係性を企業と人で、しかもライフスタイルで繋がるやり方」があるんじゃないかと思ったんです。これを「ライフスタイル・フィットという考えで進めたいね」と経営陣で話しながら事業化していきました。

北原:なんか今って、リモートとかフレックスとか、フレキシブルに働くとか、ありますけど。従来の「お金と時間」という対価交換的な働き方がずっと根底にあって、あまり変わっていないどころか、よりドライになっている気がしていて。まずライフスタイルが合ってから「じゃあ条件どうする?」みたいな採用があってもいいと思うんですよ。

ーーー対談のVol.02でも話にあがりましたが、おふたりが下北沢のライブハウスGARAGEで出会って、音楽もカルチャーも通ずるものがあって、一緒に仕事をするようになったみたいな。それが仕組みとしてあったらいいですよね。

北原:そうですね(笑)。

浅野:あ、でも、本来そうあるべきなんじゃないかって思うんですよ。僕とハイロックさんの関係もそうかなと思っていて(*2)。「こういう条件で、金額これで、やりますか?」みたいなこと、1回も言ったことがなくて。「こういうコンセプトなんですけど」「それ、面白そうだね」ってところからアートディレクターとして関わってくださっていて。
そのベースって何? と考えたら「お互いにライフスタイルが、包み隠さずわかっている」ということなんですよ。さっきのお金と時間の話じゃないですけど、「この金額でこの期日までにこれやってください」みたいな関わり方はつくってなくて、「どういう仕事ぶりか」「そのためにはどれくらい時間がかかるか」ってことをお互いに理解していて、そのうえで仕事を一緒にしている。
werollも基本的に「9時から18時で働け」みたいなことを言ったことがない(笑)。何をどのくらいのペースでやれるか聞いたうえで、その人なりの進め方をわかっておくというか。単純な労働力として見ることはしないです。


(*2)werollとマルチクリエイター・ハイロックさんとの関わりについてーーーハイロックさんは多岐にわたるwerollのビジネスフィールドをアートディレクションしている。ビジネスフィールドの事業ロゴ、クリエイティブ・プロダクションのマーチャンダイズやマガジンのデザインなど、〈A BATHING APE〉のグラフィックをはじめ豊富な経験と圧倒的にわかりやすいデザインでwerollのクリエイティブ全般をディレクション。
上記の写真はwerollが展開する、統合型マーケティングサービス〈WEROLL ONE〉、広告代理事業〈weroll Ads〉、ライフスタイルに結びついたカルチャーとショップを再編集するクリエイティブ・プロダクションサービス〈weroll Productions〉のロゴマーク。いずれもハイロックさんによるデザイン


北原:そもそも、時間とお金の話だけで対価交換して、単なる労働力として参加するみたいな働き方や価値観はつまらない。仮にちょっと単価のいい仕事を求めても、それって額面だけのことであって幸福指数は上がらない。Poolsideをきっかけにライフスタイルがマッチしたうえで仕事ができるようになるのは、なにかそういう無機質な「人と労働の問題」を解決できるんじゃないかと思っているんです。そのうえで、お金ももちろん大事。バランスですね。


Poolsideは、「フリーランスの方のプライベートをもっと充実させる」ことをミッションに、仕事の提供や遊び方の提案をしていくサービス。ただ、それだけでは面白くないので、サービスを通じて仕事をしてもらった方のなかから、ベストパフォーマーを表彰。リゾートホテルのプールサイドにも招待。フリーランスの方のサービス利用料は無料(Poolside公式サイトより)


浅野:たぶん、こういう仕組みを事業としてやれるのは、werollしかなくて。普通の仕事マッチングサイトとかがやっても、編プロにつくらせて終わるだけ。僕が20代からライフスタイルメディアの編集をやってきて、ライフスタイルを定義できるから「こうマッチをするべきだ」って価値提供していけるんです。どこのどういう価値観がどのジャンルにあって、どう交わればいいのかは、ほかの誰にも明示できないと思います。

北原:考えようにも、価値定義できないでしょうね。

浅野:werollでこういうサービスを始めれば、ライフスタイルと働き方を記事化したりもして、メディアとしての価値を創出して、そのうえでプラットフォームとして機能させられると思うので。
たとえば、ある人のライフスタイルを取材した記事を読んだら、こういう仕事がありますってレコメンドされて、お金とか時間の対価交換では生まれない仕事のマッチングが起きて、その仕事も双方の価値観を理解したうえでやるわけだから、つくり出されるクリエイティブの価値も高いものになっていくと思うんですよ。

ーーーその点でいうと、werollのライフスタイルというか価値観は、どのようなものですか?

浅野:メンバーの個性や価値観から組み立てていくのが、werollだと思っていて。そういう意味でいうと、ライフスタイルをマッチさせていくというよりは、いるメンバーのライフスタイルからwerollのカルチャーを育てていく感じですかね。

北原:みんな遊びから仕事まで、シームレスに全部楽しんでやっているよね。

浅野:「僕らに言われたから、こうしました」って人はいなくて、自分からやりたいことをみつけて、自律思考できる人が多いですね。

北原:案件が少なくなって手が空きそうになってくると、「次の仕事ください!」って自分から深掘りしていくというかね。熱量あるよね(笑)。

浅野:待ちのスタンスじゃない感じですよね。僕らも「次どんなことしてみたい?」って、将来どうありたいかをメンバーと1on1しながら聞いているので。
あとは、興味関心が広い人にはwerollは面白いと思います。僕がライフスタイルメディアの編集をやってきたから、編集やライティング、撮影のスキルセットも共有できますし、デジタルマーケティング領域でいえば、Amazonで経験してきたノウハウもかなりアカデミックに体系化してあるので。学びたい人には、すごく幅広く学べる環境になっていると思います。

北原:あと、マネージャーたちとは毎週ミーティングをしていて。そこで盛り上がる話題だけでひとつの事業が立ち上がるくらいスピード感があるし、色々な知見とアイデアが有機的に積み上がっていくから面白いと思います。

浅野:そのなかでwerollはこれからどこをめざすのかという話もしていて、メンバーの力をベースにしながら「会社の体幹みたいなもの」をちょっとずつ形成していけたらいいなと思っています。

What Books weroll Read? 04

weroll Book recommendation
〜werollが考える「マーケティング仕事」の原点〜

『ファストアンドスロー』ダニエル・カーネマン
https://www.amazon.co.jp/dp/B0716S2Z29

”人間のファストな「直感」とスローな「論理」” via:松井彰彦氏(東京大学経済学部教授)をどう捉えるか。不合理な人間の判断をとらえておくのはマーケティング思考に重要。実はビジネスそれ自体にもシステム1(ファスト)、システム2(スロー)があるのだと思っています。
(weroll CEO 浅野雄介)

PROFILE

浅野雄介
『HOUYHNHNM』や『EYESCREAM』などのライフスタイル雑誌/WEBマガジンの編集者・広告営業から、一転、AmazonのWEBプロデューサーに。その後、独立し、2019年デジタルマーケティング会社〈weroll Inc.〉設立。マーケターはDJのようなものだと考えているが、DJ自体はあまり上手くない。PDCAを含め、自転車、レコード、スケートボードなど、回るものが大好物。気持ちは生涯編集者。青山学院大学卒、中央大学法科大学院中退。千葉県出身。
https://www.wantedly.com/id/asano_yusuke_weroll

北原豪
大学在学中から音楽活動を始め20代をインディーズのバンドシーンに捧げる。このときに、作品や見え方にこだわり過ぎて周りが見えなくなる間違いや、限りある中でもこだわり抜いて最善を尽くす喜びを学ぶ。そのモノづくりの経験や挫折から、現在は企業やサービスの「伝えたい」ことを「伝わる」に変えることを信条に活動。WEBサービス・アプリの構築からグロースまで支援する〈株式会社Sunborn〉代表、マーケティングの力で企業のグロースを支援する〈weroll Inc.〉共同代表、ロープとボルダリングを併設した総合クライミングジム〈ROCKLANDS〉代表。2022年1月20日にオープンした〈シモキタ - エキマエ - シネマ K2〉支配人。クライマーです。
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