My Social Issue
ウェルモ社員それぞれが強烈に意識をしている社会課題について語るインタビュー企画です。
――市川さんにとっての "My Social Issue" とはなんでしょうか。
市川:人的資源と経済面における健全な雇用の実現です。具体的には、介護サービス従事者を斡旋する人材紹介会社が正しく健全に機能し、事業会社が自ら高い採用力をもつ世界を実現できればと思います。
――まず介護サービスを提供する事業者と介護職希望者との間をとりもつ人材紹介会社、これが正しく健全に機能していない状況について詳しく教えてください。
市川:前提としてお伝えしたいのは、人材紹介会社は介護業界において必要不可欠なステークホルダーであることです。今後もなくなることはないでしょう。介護事業所における採用力、つまり自分たちの設備や魅力を言語化したり、求職者の面接を行うノウハウをもつ事業所は数えるほどですし、現場はいつでも逼迫していますから人事に割けるリソースも限られます。そうした事業者の代わりに人材紹介会社が客観的な情報を求職者に提案し、それぞれのキャリアや要望に合うところを探しやすい窓口となっているのです。
その役割自体に問題はありませんが、現在ほとんどの人材紹介会社のゴールは入職(事業所で採用が決まること)に設定されています。これの何が問題か。それはミスマッチが発生しやすく短期離職が大量に出やすい点です。紹介会社のキャッシュポイントは入職にあり、この売り上げを立てるために紹介会社は納期を決め、その日までに○人必ず紹介します、と契約を交わします。そうなると決まりやすい人が決まりやすい事業所に斡旋される。ですが、介護とは人です。数字のために採用された求職者の短期離職率は高い上、無責任に事業所の空気や組織を壊すケースをしばしば見てきました。そうした「人から生まれる不幸」に対して、エージェントが痛みを感じられているのかというと必ずしもありません。これは由々しき事態です。
――事業を運営する以上利益の追求はやむを得ませんが、それが業界全体への悪循環に直結しているのですね。
市川:そうです。問題視すべきは紹介料の相場と出所です。介護職員ひとりを紹介するごとに、当人の年収20〜30%、およそ60万円を人材会社は得ることができます。お金の出所は税金と私設利用者の介護保険料。これらの費用は介護の現場で働く人への対価や設備の充実などではなく、紹介会社へと流れているのです。率直に言えば儲かる仕事ですから、紹介斡旋を行う個人事業主も数多くいます。
――しかし手の足りない介護事業所はお金を払ってでも人材を確保しなくてはいけないと。
市川:人材を採用したいニーズがある以上、採用費用がかかってもしょうがないと事業所は判断します。けれども事業所の財務状況や総合的な人材戦略を考えると、場合によっては不健全な出費になりかねません。事業所の健全な運営のために人材紹介会社が手数料を軽減させるなど、必要に応じて歩み寄っていくべきなんです。
――人材さえしっかり定着すればいいのですが。
市川:実際のところ入職後までの責任を担う事業会社は私の知る限り大手1社しかありません。その会社は入職以降半年から1年後の「定着」するまでの制度設計を導入していて、離職率は業界随一低い。これを横展開できないかと他の紹介会社にも伝えているんですが「大手だからできるんでしょう」と。なかなか実現及ばずです。
一方で、事業者側も旧態依然のスタンスであることが多く、これもまた課題の一つです。例えば複数の事業所を面接希望する人は最初からお断り、という事業所もいまだにあります。事業所の比較は求職者の方が納得感をもって入職するためのプロセスですが、なかなか理解されにくいようです。
また短期離職が発生しても、事業所がイニシアチブをもって原因究明、振り返り、対策などのアクションプランを練られる事業所は全体の3割にも満たないでしょう。おおよそは自分たちが悪くない前提で、問題の抜本的解決が見込めないまま曖昧に流れてしまいますから。採用する、採用されるという責任は双方にあるわけですが、第三者視点で改善に取り組める事業所は少ないですね。
――人材紹介会社、事業所ともにボトルネックを抱えているのですね。
市川:根本原因を辿れば少子高齢化で人がどんどん減っているからの一言に尽きるのですが、介護施設は減らせませんし労働力もどうにか担保していかなくてはいけません。そのためにウェルモをはじめとする、紹介事業だけではない俯瞰的な視点をもつプレイヤーが各所へ働きかける必要があります。
先ほどご紹介した大手紹介会社は、社内の報酬体系を変え、入職後の離職率を大幅に減らすことに成功しました。東京都足立区では事業所が中心となり、離職者についてどこのエージェントから紹介されたか、またエージェントのどの担当者からの紹介だったかをデータにまとめています。今、介護業界は以前のようにブラックボックス化しにくい動きが出てきています。
繰り返しになりますが、介護とは人です。求職者も事業所も、人こそが宝です。サービスに関わる方々がいきいきと働けることが肝要なのです。だからこそ彼ら彼女たちにとって自分たちの仕事こそ「世の中で最も価値のある仕事」であり、「少子高齢化の中で当たり前の幸せを維持、継続するために私たちは非常に大きなインフラを支えている」のだと誇っていただきたいのです。そして、その想いを私自身しっかり拾って結んでいきたい。心からそう思いますし、理想とする社会実現のため惜しみなく働きかけていきたいです。