株式会社水曜日の主力事業は、総合型選抜・推薦入試専門予備校「碧推薦学院」です。ところが、会社名には教育も受験も入っていません。社内のNotionを開くと、最初に並ぶのは事業計画ではなく、「目的・営み・約束・嗜み」という四つの言葉です。なぜ水曜日なのか。どのような会社をつくろうとしているのか。社内で実際に使っている言葉をもとに紹介します。
会社の入口に、売上目標ではなく「目的」がある
株式会社水曜日の社内Notionを開くと、最初に「わたしたちを定義するもの」というページがあります。
そこには、目的、営み、約束、嗜みの四つが並んでいます。
目的は、会社が存在する意味と、向かう方向です。営みは、事業、組織、目標管理など、目的を社会の中で実現するための活動。約束は、契約、規定、コンプライアンスなど、誰もが必ず守るルール。嗜みは、ルールにすべて書かれていなくても、日々の判断や振る舞いに自然に表れる文化です。
会社紹介では、事業内容や募集職種から説明するのが一般的です。しかし、私たちは、何を売っているかだけで会社を定義したくありません。事業は変わります。組織も変わります。使うツールや働き方も変わります。それでも、何のために存在し、どのような判断を美しいと考えるのかは、簡単に変わるべきではありません。
だから、株式会社水曜日の説明は、Purposeから始まります。
Always Sequence on Wednesday.
Purposeは「Always Sequence on Wednesday.」です。
仕事も、私生活も。家族も、恋人も。友人も、他人も。今日と、明日も。人は、それぞれを完全に切り離して生きているわけではありません。ある場所で得た経験が別の場所で判断を変え、今日の失敗が明日の仕事の仕組みを変えます。
一週間の真ん中にある水曜日は、始まりでも終わりでもありません。月曜日に立てた計画と、実際に起きていることのずれが見え始める日です。疲れは出ていても、まだ修正する時間は残っています。
私たちは、教育かビジネスか、理想か利益か、クリエイティブか数字かという二者択一を選びません。どちらか一方を正義にして、もう一方を切り捨てれば、判断は簡単になります。しかし、現実の事業も人生も、そこまで単純ではありません。
相反して見えるものを抱えたまま、より良く連なる構造へ組み直す。その姿勢を、社名とPurposeに込めています。
最初の営みが、碧推薦学院だった
株式会社水曜日の主力事業は、総合型選抜・推薦入試専門予備校「碧推薦学院」です。
総合型選抜では、学力だけではなく、これまでの経験、興味関心、志望理由、大学で取り組みたいことが問われます。本来は、本人の意志や過程に光が当たる入試です。
ところが、対策の仕方によっては、本人の人生が逆に薄くなります。合格者らしい活動を後から並べる。大人が考えた志望理由を暗記する。偏差値や知名度だけで大学を決める。本人の経験は、大学に評価されやすい部分だけ切り取られ、出願後には使われなくなります。
碧推薦学院は、これを「経験資産のアセットマネジメント」という考え方で変えようとしています。
学力、家庭環境、校内活動、趣味、興味、失敗、違和感。今あるものを棚卸しし、大学の評価軸と照合し、必要な経験を設計し、実践し、本人の言葉へ変える。出願書類をつくるだけではなく、思考の型、対話する力、挑戦した記憶を、合格後にも残る資産として育てます。
人の経験を、今日の合格と明日の人生へ連ならせる。この事業は、株式会社水曜日のPurposeを最も具体的に表しています。
正しさだけでは、良い教育は残らない
教育の現場には、生徒を本気で合格させたい人がいます。必要であれば予定より長く添削する。教材が足りなければ自分でつくる。連絡が遅れていれば代わりに対応する。
目の前の生徒にとって、その献身は大きな価値があります。しかし、誰か一人が無理をし続けなければ成立しないサービスは、組織としては弱いものです。担当者が変われば品質が変わり、繁忙期には連絡が遅れ、優秀な人ほど仕事を抱えます。
良い先生がいるだけでは、良い塾は続きません。
必要な人に情報を届けるマーケティング、現在地を整理する受験相談、約束を正確に引き継ぐセールス、教材と講師を育てるプロダクト、日々の支援を行うカスタマーサクセス、採用と評価、法務と経理。これらがつながって初めて、教育品質は再現されます。
私たちが教育事業をつくるとき、善意や情熱を否定するのではなく、善意が消耗しない構造へ変えます。正しいことを語るだけでなく、正しいサービスが事業として強く、長く残る状態をつくります。
「クリエイティブに、小さなビジネスを可愛くする」
社内の求人原稿では、株式会社水曜日を「クリエイティブに小さなびじねすを、可愛くすること」を掲げる会社と説明しています。
ここでいう「可愛い」は、装飾的で甘いものをつくるという意味ではありません。
複雑な情報が整理され、重要なものが自然に目に入り、使う人が迷わない。顧客に誇張をせず、働く人にも無理が集中しない。数字が見え、責任が明確で、改善できる余白がある。そのような事業は、構造として可愛く、美しく見えます。
反対に、Webサイトが洗練されていても、料金が分かりにくい、広告と実態が違う、運用する人に過剰な負担がかかるなら、私たちはそれを美しい仕事とは考えません。
文章、教材、Webサイト、広告、社内アプリ、顧客管理、採用資料。クリエイティブは制作物の一部ではなく、事業全体を理解しやすく、信頼できる形へ編集する仕事です。
約束は、BEAUTY・DIGNITY・INTEGRITY
株式会社水曜日には、BEAUTY、DIGNITY、INTEGRITYという三つのPromiseがあります。
BEAUTYは、内面から表れる美しさと、構造を洗練させる強さです。DIGNITYは、誇張に頼らず、相手の尊厳と自分の品位を守ること。INTEGRITYは、好奇心と知性を持ち、利他的な行動を諦めないことです。
これらは、採用広報用の言葉ではありません。
広告にどこまで強い表現を使うか。相談者へどの事実を伝えるか。生徒の文章をどこまで直すか。仕事のミスをどう共有するか。社内の誰かと意見が割れたとき、何を基準に決めるか。
日常の小さな判断で、三つの約束を参照します。売上が増えるかだけでも、相手が喜ぶかだけでもなく、その判断は美しいか、品位があるか、誠実かを考えます。
嗜みは、マニュアルの外側に表れる
約束が明文化されたルールなら、嗜みはマニュアルに書き切れない判断です。
連絡の冒頭で、相手が何を決めればよいかを示す。資料を開いた人が迷わないよう、情報の順番を整える。担当外の問題に気づいたとき、放置せず、解決できる人へ事実を運ぶ。分からないまま進めず、仮説と質問をセットで共有する。
どれも小さなことですが、積み重なると、会社の空気になります。
私たちは、この嗜みを「センス」という言葉でも表現します。高価なものを知っていることや、見た目がおしゃれなことだけではありません。目的、相手、事実、時間、影響範囲を捉え、より良い判断を自然に選べることです。
センスは、生まれつきの才能だけではありません。良い仕事に触れ、顧客の反応を見て、判断を振り返り、次の仕事へ反映することで磨かれます。
AIを前提に、人の仕事を濃くする
株式会社水曜日では、AIを業務の中核に置いています。
文章のたたき台、情報整理、調査、社内ツールの開発、定型業務の自動化。人がやらなくてもよいことは、積極的にAIと仕組みへ移します。
目的は、人数を減らすことではありません。人が、判断、対話、創造、責任に使える時間を増やすことです。
AIが文章を書いても、事実が正しいかは人が確認します。AIが分析しても、何を優先するかは人が決めます。AIがサービスを効率化しても、生徒の人生や顧客への約束に責任を持つのは人です。
私たちは、AIを使うことと、人間らしい仕事を守ることを対立させません。AIを使い倒すほど、人にしかできない仕事の基準を高くします。
未完成な会社へ入るということ
株式会社水曜日は、まだ完成された会社ではありません。
決められた役割、完成した制度、きれいな仕様書がすべて揃っているわけではありません。事業も社内の仕組みも、つくりたいものが次々に生まれます。
だからこそ、入社した人が見るのは、用意された仕事だけではありません。広告と受験相談の反応がずれていれば、マーケティングとセールスをつなぎ直す。同じ問い合わせが続けば、回答するだけでなく、教材や案内を変える。手作業が残っていれば、AIや開発で仕組みへ移す。
自分の担当領域に専門性を持ちながら、顧客の問題を担当外で止めない。代表の指示を正確に再現するだけでなく、代表が見えていない事実を持ち込み、会社の判断を更新する。
未完成さを不便として見るか、自分の仕事が会社の標準になる機会として見るか。創業期の株式会社水曜日では、その人の仕事観がはっきり表れます。
そういう水曜日を、一緒につくる
仕事と生活を完全に切り離す会社ではありません。仕事のために人生を差し出す会社でもありません。
一人ひとりの人生と、顧客の人生と、事業の持続性が、無理なく連なっていく構造をつくります。そのために、必要な責任は引き受け、不要な作業は仕組みへ移し、誠実なサービスが成長できる会社をつくります。