去る3月24日、THECOO株式会社開発部にて、ChatGPTを使用した社内ハッカソンを行いました。3月1日にChatGPT APIが公開され、GPT-3.5の機能を自社プロダクトに実装可能になったということで、社内エンジニアの技術理解を深めるついでにコンテストにしてしまおう!と開催されたイベントです。
4日間を通じて、通常業務と並行でハッカソン用のデモ開発を行い、毎月定例のTGIF(全社交流会)で発表・投票を行いました。社内イベントなのでささやかな催しではありますが、エンジニアの技術理解や交流、そしてビジネスサイドとの技術交流会として、非常に有意義な場になりました。
本記事では実際に発表されたデモ内容に加え、会場の反響や、社内における効果等をレポートしたいと思います。ChatGPTを使用したエンタメプロダクトにご興味のある方、あるいはTHECOO開発部の雰囲気が気になる方は、ぜひご一読いただければと思います。
Hackathon(ハッカソン)とは?
「高い技術力を駆使して開発する」という意味の“Hack(ハック)“と”Marathon(マラソン)“を掛け合わせて作られた造語で、短期間でなにかモノを開発し、そのスキルやアイデアを競うイベントのこと。今回は社内開催ということで、社員投票・CEO賞の二つの賞を目標に、2人1組・5グループが競いました。
ChatGPTとは?
ChatGPTとは、OpenAIにより開発された、ユーザーが入力した質問に対してまるで人間のように自然な対話形式でAIが答えるチャットサービスです。2022年11月に公開されてから、回答精度の高さが話題となり利用者が増加しています。
ハッカソンの概要
ハッカソンのテーマはChatGPT APIを用いて、「自社サービスである『ファンコミュニティアプリFanicon』で活用可能な新プロダクトを作ること」。基幹プロダクトがエンタメテックのため、芸能人やそのファンが利用できるプロダクトが対象になります。
開発期間は4日間。通常業務がある場合は、調整しつつ並行で行いますので、実働としては2〜3日程度のチームがほとんどだった印象です。
THECOOでは通常、プロダクトマネジメント部が開発の企画部分を、開発本部がエンジニアリングを担当する分担型の組織体制を採用していますが、今回は交流・発散も兼ねて2人1組のタッグを組み、明示的な分業をせずに開発することをルールに
しました。
Faniconとは?
ファンコミュニティづくりに特化したサービス。 完全有料会員制の安心安全な空間で、チャット・ライブ配信・チケッティング・オンラインショップなど多彩な機能でファンとのコミュニケーションをアプリ一つで完結させることができます。ミュージシャン・俳優・スポーツ選手など、多種多様な方々にご活用いただいております。
https://fanicon.net/icon
チーム分け
今回のハッカソンは任意参加で、希望するメンバー9名が手を上げた後、CTOが2人1組・合計5組に振り分ける形式で開催いたしました。
- 1組目:テックリード × 若手PMチーム
- 2組目:PMひとりチーム ※2人1組で余ったため
- 3組目:サーバーサイドエンジニア × フロントエンドエンジニアチーム
- 4組目:フロントエンドエンジニア × PdM兼デザインリードチーム
- 5組目:CTO × デザイナーチーム
チーム分けはCTOが恣意的に行いました。各チーム、あえて完璧ではないチーム体制を行い、デザイナーが不足していたり、サーバーサイドが不足していたり、そもそもPM1人しかいなかったりと、限りあるリソース・日程で何を作るかが焦点になりました。
ハッカソン当日(発表内容)
発表はTHECOO本社のフリースペースにて、毎月定例のTGIF(全社交流会)での催しとして行いました。THECOOのTGIFは任意参加で、普段関わりのない他部署との交流会として、毎月月末に開催されています。軽食や飲食物が出ることに加え、今回はハッカソン開催が告知されていたこともあり、かなり賑わっていました。
ここからは実際のプレゼンテーション内容や、反響も踏まえてレポートを行います。
「ファン同士でリアルタイム対戦、みんなで早押しクイズ」
- メンバー:テックリード × 若手PM
- プロダクト名:ファン同士でリアルタイム対戦、みんなで早押しクイズ
- ChatGPT APIの使用用途:前提情報を与え、芸能人に関わるクイズをランダムに生成する
普段は業務上ほとんど関わらない2人(担当プロダクトが違うため、一緒に動くことがほぼない)のタッグということで、開発メンバーも興味深そうな面持ち。プレゼンテーションは若手のPMが行い、テックリードが後ろで微笑みながら見守る形式で進みます。
このチームの開発したプロダクトは「クイズ機能」。実はFaniconには既にクイズ機能がありますが、この既存機能にはいくつか課題があり、
- 非同期的に対戦することが前提の機能のため、同期的にコミュニティ全体が盛り上がるような用途には使用できない
- ユーザーが能動的に問題を作成する必要があり、主体的なユーザーの有無で、コンテンツの多寡が決まってしまう
などの課題を抱えています。
こうした課題への一つの解答として作成されたのが本プロダクト。芸能人等の情報をChatGPTに与え、それに基づいて問題と回答を自動生成してもらうことで、ランダムかつ大量のクイズ作成を可能にします。
事前にコンテンツを用意しなくとも、自動・リアルタイムでクイズが作成されることから、運営の稼働をかけずにイベントが可能になるというのが肝です。
勝手に芸能人の方々の情報を利用する訳にはいかないため、今回はデモとして弊社代表・平良の情報を用意。プレゼン開始と同時にフリースペースの各テーブルへQRコードが配られ、リンクにアクセスをするとクイズ解答フォームが開きます。
平良の好きな言葉、好きな食べ物など、正直どうでもいいクイズをリアルタイムで生成し、解答の正答率を競うという、視聴者参加型のデモンストレーションを行うようです。アクセス過多への対策として、同時に10名しかアクセスできないなど、妙に可用性に気を配られた設計がされています。ここはさすがテックリードの開発といったところでしょうか。普段の苦労が垣間見えます。
PMの開始の合図と共に、その場にいる社員全員でデモプレイが始まりました。終了後にはランキングが出るなど、凝った作りで大盛り上がり! 1位になった社員には2人が自腹で用意した景品の贈呈が行われました。参加者の楽しさに配慮されたプレゼンテーションでした。
「アーティストの名前を書いたら、そのアーティストに向けたファンレターをAIが代筆してくれるアプリ」
- メンバー:若手PMひとり
- プロダクト名:ファンレター代筆アプリ
- chatGPT APIの使用用途:前提情報を与え、ファンレターをリアルタイムに生成する
エンジニアが足らず、ひとりで余ってしまったPMのチームです。彼はエンジニアリング出身ではないため、そもそも開発ができるのか?という問題がありましたが、どうやらGPT-4にほぼ全てのコードを書かせることで何かを開発できたようです。
コードの生成にGPT-4をフル使用してプロダクトを作ったという意味では、今回の趣旨に最も合致したチームだったかもしれません。
※当日の16時頃に「コードが動かない!!」とVScodeを前に唸っていたのでどうなることかと思いましたが、なんとか間に合わせてきたようで安心しました。
彼のプロダクトは、「アーティストの名前を入力したら、AIがファンレターを代筆してくれるアプリ」。作りとしてはシンプルで、事前にChatGPTに与えた情報を元に、整った文章をAIが提供してくれるというものです。
デモンストレーションでは、実際にAIに芸能人へのファンレターを書いてもらうシーンが。ファンレターを書くにあたって文章力に自信のないファンは助けられるかもしれません。
前述の通り、本サービスはインターフェースから裏側まで、全てをGPT-3.5とGPT-4が作成しています。サービスだけでなくサービスロゴもDALL-E(画像生成AI)に作成させるというこだわりよう。エディタ/ターミナル/ChatGPTの3つのみで非エンジニアでも一定クオリティのアプリ作成が出来る、という点に感銘を受けたビジネスサイドの社員も多くいました。
エンジニアリングというと、ビジネスサイドのメンバーはどこか縁遠く感じてしまうものですが、彼が元々ビジネス出身ということもあり、「自分も何かやってみよう」という声がそこかしこから聞こえてきます。
たった1人で開発からデザイン、プレゼンまで行ったガッツに、大きな拍手が起こった発表でした。
AIが自動で演じるYoutuber「AI Tuber」
- メンバー:サーバーサイドエンジニア × フロントエンドエンジニア
- プロダクト名:AITuber
- ChatGPT APIの使用用途:あらかじめ設定した人格に基づいて、AItuberに発言を行わせる
エンジニア × エンジニアで、今回最も開発力のあったチームです。同い年の2人で何やら朝方まで真剣に開発をしており、事前にモニターを用意してプレゼンテーションに望むという本格ぶり。
プロダクト名は「AItuber」。AIによるVTuberを作成し、雑談/ゲーム配信を非人力で行うというサービスです。「AItuber」自体は彼らが新しく作り出した概念ではなく、既に同じようなサービスが実用化している中で、自分達でもChatGPT APIを用いて配信にトライするというもの。
元々THECOOとFaniconのビジネスモデルは、既存の芸能人やブランドなどをサポートするというプラットフォーム型で提供しており、現状、コンテンツプロバイダー型のプロダクトは存在していません。そこに対して一石を投じることができないか?という問題提起の上でデモンストレーションが始まります。
デモンストレーションは実際のYoutube配信を用いて行われ、視聴者(社員)が配信にコメントするとAIが関西弁の可愛らしい口調で解答してくれます。AItuberのモデルにはフリーの2Dモーションモデル「アイリス」が使用されており、本物のYoutuberさながらのクオリティに、会場の至る所から「すごい!」の声が上がります。
さすがエンジニアタッグというべきか、ChatGPTだけでなく音声認識、配信への接続、2Dモーションモデルの挙動、そのほかさまざまな技術を繋ぎ込み、非常に凝ったアーキテクチャのプロダクトを作り上げてきていました。めちゃくちゃ楽しんで作ったのであろうことが伝わってきます。(本当に四日間しか使わなかったんだろうか?)
実は双方とも個人でプロダクト制作を行っており、片方は配信アプリ、片方はVtuberの動画キュレーションアプリを運営している2人。2人が個人制作で培ったノウハウ、得意なこと、好きなことが詰まった、素晴らしい発表でした。
コミュニケーションを円滑化するAIファシリテーター「FAN FUSION」
- メンバー: フロントエンドエンジニア × PdM兼デザインリード
- プロダクト名:FAN FUSION
- ChatGPT APIの使用用途:アイコンやファンの発言に対してChatGPTが動的に相槌をうち、コミュニケーションを円滑化する
フロントエンド × PdM兼デザイナーで、元々業務上の関わりも強いふたり。普段はフロントへのデザインシステムの実装などを協議していて、見た目を美しくすることは得意なチームです。
PdMからは「スライド綺麗にしとけばそれっぽく見えるだろ」などという舐め腐った発言が聞こえてきます。そううまくいくのでしょうか?
プロダクトは「コミュニケーションを円滑化するAIファシリテーター FAN FUSION」。
FaniconのリテンションレートはコミュニティのDAUやMAUと密接に関連しています。アクティブレートの改善を行いたいものの、既存の手法は労働集約型のものが多く、多角化・スケールには不向きという課題も。ここに対してAIを活用し、最小限の稼働でコミュニティを活性化できないかというものです。
デモンストレーションではファン側・アイコン側からの発言に対して、AIが「それっぽい相槌をうつ」というもの。ファシリテーターは周囲の発言を促しコミュニケーションを円滑化する立場のため、AIが積極的に発言をすることはなく、あくまで受動的に回答が行われます。
このチームは「AIとの開発工程がどこまで自動化できるのか」に対しても言及していました。サービス名やタグラインの生成、ロゴの生成までをAIプロダクトに任せ、デザインからフロントエンドのコード生成にも自動生成プロダクトを利用したとのこと。
労働集約型の運用をシステムに移管することは経営的な命題でもあるため、役員から実際に実装可能性がないか、と声がかかるシーンもありました。人件費に対してのアプローチを行うという観点は、プロダクト全体を見るPdMのチームらしい特徴でした。
ファンと芸能人の思い出を振り返るプロダクト「Look Back」
- メンバー: CTO × デザイナー
- プロダクト名:Look Back
- ChatGPT APIの使用用途:アイコンやファンのこれまでのデータを読ませ、その中でハイライトとなる情報を抽出する
Faniconの創立を担ったエンジニアであるCTOと、今年2月に入社したばかりのデザイナーのチームです。長くプロダクトを見てきた視点と、新鮮な視点とが組み合わさり、どのようなものが生まれたのか気になります。
※当日17:30頃(開催1時間前)に突然ChatGPTが前日までと異なる挙動を始めたらしく、ギリギリまでCTOは「反抗期か?」などと言いながら机で唸っていました。果たしてデモンストレーションで無事動くのでしょうか?
プロダクトはファンと芸能人のコミュニティ内でのやりとりを、1年間の思い出として要約し自動的に出力する、思い出のアルバムのような機能です。ChatGPTには一年間のやりとりの情報を渡し、その中から「よさそうな」思い出を選択して、要約してもらいます。
機能は複数あり、
- 芸能人からチャットで思い出に関するメッセージが届く
- 1年間の思い出をアイコンとファンが一緒に振り返っているようなローディング演出
- 読み込み後、月ごとに思い出が自動的に生成
- その月の代表的な出来事やコメント。さらに、その月のファンとアイコンの一対一のやりとりをピックアップして表示する。
などさまざま。実際に動くデモンストレーションも用意されており、この機能を喜ぶユーザーの姿をしっかりイメージできたように感じます。
機能のみに留まらず、実際のローディング演出にまで配慮された設計は、さすがデザイナーがチームにいるなと感じるものでした。また、プレゼンテーションの最後には、本機能を製造と繋ぎこむなど、将来的なビジネス展望に対しての言及も行われ、会場からは関心の声が上がっていました。
結果発表
全グループの発表終了後、CEO 平良とオーディエンス社員で1社ずつ優勝チームの選定を行いました。
CEO 平良賞を獲得したのはosushi「AI Tuber」🎉 🎉
完成度の高さに加え事業化についてある程度方向性が定まっており、実現性が高い作品であったこと。さらに技術面では、外部APIをうまく活用しマッシュアップされていたこと、またデモのインパクトの強さがオーディエンスに受けていた点も評価されました。
社員賞を獲得したのは小PMとChatGPT「アーティストの名前を書いたら、そのアーティストに向けたファンレターをAIが代筆してくれるアプリ。」🎉 🎉
参加していた社員が1人1票を持ち投票した結果、大接戦の末ハッカソンに1人で参加した勇気とガッツあるPMが選ばれました。
2チームには優勝商品として、平良が自腹で食事に連れて行く特典が贈られました。(負けたチームはそのまま安い回転寿司に向かい、悔し紛れに寿司の写真を優勝者に送り続けました)
振り返り
会終了後は参加社員から「感動した」「自分の業務にもAIを活用できないか?」等のポジティブな反響があり、大きな盛り上がりのもと幕を閉じました。
閉会後もビジネスサイド、プロダクトサイドがそこかしこで集まって、自然発生的な会議が開かれており、会社全体にとって良い刺激になったと感じています。成果物に興味を持った社員が、発表者の周りに集まっている一幕も見られました。
また、全チームが動くプロトタイプを用意し披露したことによって、開発に対しての基礎知識がないビジネスサイドにも、ChatGPT等のAIプロダクトがどのようなものか理解が深まる機会になりました。
おわりに
非常にポジティブな雰囲気の中幕を閉じた、第一回THECOOハッカソン。通常業務と別途で時間を取る必要があるため、頻繁には開催できませんが、最新技術を吸収し、プロダクトに対して還元するという意味では、意義のある会になったと感じています。
THECOOでは先日、AIサービス利用ガイドラインを策定し、業務における利用ポリシーの制定を行いました。実際にプロダクトにAIを活用するにあたっては、情報保護の観点、学習データの信頼性の観点、倫理上の観点などさまざまな視点への配慮が必要です。
今後、今回議題に上がった機能が実装される可能性もありますし、全く別の形で提供されるかもしれません。いずれにせよ、最新技術を適切にキャッチアップし、継続的なプロダクトの改善に努めたいと考えております。
この記事でTHECOO開発部の雰囲気が少しでも伝われば幸いです。
開発部では、現在エンジニア・デザイナーを募集しています。本記事を読んで気になった方は、ぜひカジュアルにお話しさせていただければと存じます。