目次
社内役員で集まった夜
「今の延長線上には、ない。」
なぜ、言葉にするのか
強い企業とは何か
それでも、やるのか
問われる場を、自ら選ぶ理由
終わりに——上場は、終わらない問いである
社内役員で集まった夜
2025年5月。
社長から連絡が入りました。社内役員で食事をしながら話したいことがある、近くで場を設定してほしいと。
特別な前置きはありませんでした。ただ、その一言が持っていた重さは、今も覚えています。
食事をしながら、気づけば話は会社の未来に向いていました。
「次のステージを目指す」
三嶋社長の言葉でした。
驚きではありませんでした。社長がそう考えていることは、以前から感じていた。だが、言葉として聞いたのは、その夜が初めてでした。
その瞬間に思ったのは、一つだけです。
——今のままでは、届かない。
不安はなかった。やるべきことが、急に輪郭を持ち始めた夜でした。
「今の延長線上には、ない。」
これまでとは次元の違う目標は、今の私たちの規模から見れば途方もないものです。
ただ、その夜に私が感じた衝撃は、数字の大きさではありませんでした。
今のやり方を積み上げれば、いつかたどり着けるかもしれない。そういう話ではないということへの気づきでした。
延長線上にはない。だとすれば、何かを変える必要があった。
当時の私が真っ先に考えたのは、「信頼の器」のことでした。
東証TPM上場、福証FPM重複上場を経て、私たちの組織には確かに「型」が生まれました。しかしその型は、今の規模に合わせて作られたものです。
CFOとして数字を見れば、現状は明確です。開示資料の粒度、管理会計の解像度、投資家が判断材料として使える情報の精度——いずれも、さらに高められる余地がある。大きな成長目標を持つ会社の基盤として、今の私たちは十分か。
答えは、明らかでした。今の基盤では、届かない。
より広い市場に立ち、より厳しい基準にさらされ続けることで、組織の基盤を作り直す。
その夜を境に、私の中で「いつかやること」が「今やること」に変わりました。
なぜ、言葉にするのか
大きな成長目標を外に向けて書くことには、正直、ためらいがありました。
大きなことを言う会社だと思われないか。根拠もなく夢を語っているだけではないか。
それでも、書くことにしました。
理由は一つです。言葉にしない目標は、目標ではないからです。
東証TPM上場のときも、福証FPM上場のときも、私たちは言葉を先に置いてきました。結果を出してから語る、という誠実さもある。だが私は、語ることで、結果に縛られる誠実さを選んだ。宣言が、組織への誠実な圧力になる。その経験が、私たちにはある。
私たちが掲げているのは、売上1000億円という目標です。上場のたびに私たちは、言葉が先行することを選んできた。1000億円も、同じ選択の上にある。ただし、道筋はまだ見えていない。
それでも言葉にする。なぜなら、言葉にした瞬間から、問いが始まるからです。何をすべきか。どう実現するか。その夜に社長が言葉にしたことの意味は、そこにあったと思っています。
数字は、夢ではありません。実現すべき責任の単位です。
強い企業とは何か
大きな成長を目指すとなったとき、私は改めて考えました。
強い企業とは何かと。
私が思う「強い企業」とは、どんな外部環境の変化の中でも、社員一人ひとりが当事者として立ち続けられる組織です。
リーマンショックがあった。コロナショックがあった。そのたびに、組織の実力が試されました。数字が悪化したとき、誰かのせいにせず自分にできることを考え直せるか。ビジョンを共有して、指示を待たずに動けるか。技術への確信を、焦りの中でも手放さずにいられるか。
そういう組織が、私の考える「強い企業」です。
その条件を満たすために不可欠なのが、外部から継続的に見られ続けることだと、確信しています。
内側だけにいると、自分たちの現在地は正確には見えない。上場という構造は、その盲点を外から照らし続けてくれるものです。
TPMやFPMは、私たちが自ら開示の姿勢を選べる市場でした。一般市場は違う。基準が外から課され、逃げ場がない。その緊張の中でしか、育たない組織の実力がある。
だから私たちは、より厳しい場を選ぶ。
外から照らされ続けることは、コストではなく、組織を鍛える力です。その確信とともに、私たちは進みます。
それでも、やるのか
一般市場への移行は、容易ではない。その重さは、十分に認識しています。
社員からも、率直な声が届きました。
「大きな目標を掲げて、何を目指しているのか。本当にできるのか。」
その言葉を、私は正直に受け止めました。もっともな声だと。
どうすれば必ず達成できるか。より広い市場への移行をいつ実現できるか。今の私には確かな答えがありません。CFOとして数字を見る立場でも、見えていないものがある。不確かなことを、確かなように語るつもりはありません。
それでも、わからないまま、止まるつもりはない。
東証TPM上場の審査中も、福証FPM上場の審査中も、同じ感覚がありました。答えが見えないまま進んだ時間があった。それでも、その時間の中でしか整えられないものがあった。
数字を預かる者として、不確実性から目を逸らさない。それでも、前に進む。その覚悟だけは、揺らがない。
問われる場を、自ら選ぶ理由
熊本が、変わろうとしています。
TSMCの進出を機に、九州全体が新しいステージへと動き出しました。製造業の裾野が広がり、技術者の需要が増し、地域の産業構造そのものが新しい形へ変わりつつある。
私たちは今、その変化の只中にいます。
外部環境が変わるとき、問われるのは組織の基盤です。九州の製造業が世界から注目されるとき、その中にいる私たちも、これまでとは違う基準で見られる。だからこそ自ら、厳しい場を選ぶ必要がある。組織の基盤を、今のうちに整えなければならない。
より広い市場への移行が実現したとき、何が変わるか。負荷は増します。開示の頻度が上がり、説明責任の重さが変わり、これまで内側で済んでいた判断が外側の目に開かれる。それは組織にとって、試練であると同時に、鍛錬でもある。その重さを、私たちは引き受ける。
TSMCがもたらす需要の波を、技術力だけで取りに行くのか。それとも、厳しい基準の中で鍛えた組織として取りに行くのか。
私たちは、後者を選ぶ。
それが、より広い市場という厳しい場を自ら選ぶ理由です。
終わりに——上場は、終わらない問いである
全3回を書き終えて、今、思うことがあります。
私は、問いから逃げなかったか。
2025年5月の夜、社長の言葉を聞いたとき、自分がどういう覚悟でこの会社に立つか、その輪郭が初めて生まれた気がしました。やるべきことが見えただけではなかった。自分自身が問われていた。
東証TPM上場のとき。福証FPM上場のとき。そしてこれから向かうより広い市場への道。そのたびに、自分の中の弱さが試されました。数字が届かないとき。仕組みが追いつかないとき。社員の顔が思い浮かんだとき。
立ち止まりたくなった夜は、あった。
上場とは、終わりのある目標ではありません。問われ続けることへの、終わりのない覚悟です。区分が変わっても、規模が大きくなっても、その本質は変わらない。
テクノクリエイティブで働くとは、問われ続ける場所に自分を置くことでもあると、私は思っています。そういう組織は、制度だけでは作れません。「この会社は逃げない」という事実の積み重ねが、そういう組織をつくっていく。
問いに向き合い続けることが、私たちの誠実さの証明です。その一点において、この組織は前に進み続ける。
連載:株式会社テクノクリエイティブの上場の軌跡
第1回:2022年11月18日、東京証券取引所 TOKYO PRO Market上場。「公の器」になる覚悟
第2回:2025年7月8日、福岡証券取引所 Fukuoka PRO Market重複上場。九州から示す「二重の信頼」
第3回:その先へ——一般市場への指定替えを目指して、私たちが創る未来の景色(本記事)