2025年7月8日、福岡証券取引所 Fukuoka PRO Market重複上場。九州から示す「二重の信頼」
目次
問いの前に、立ち止まった
なぜ、福証でなければならなかったのか
互友会——九州という地域の重力
問われる苦しさが、変わった
認められた、ではなく、迎えられた
二重の信頼
証明は、終わらない
問いの前に、立ち止まった
「また上場するんですか?」
福岡証券取引所 Fukuoka PRO Marketへの重複上場を検討していた頃、何度かそう聞かれました。
その問いに、私はすぐには答えられませんでした。
正しい問いだったからです。
一度、東京証券取引所 TOKYO PRO Marketへ上場している。開示もしている。外部から問われる場にも立っている。それでも、なぜもう一度、別の市場に上場する必要があるのか。
答えを探すうちに、一つの考えに辿り着きました。
信頼には、場所があるのではないか。
■前回記事
2022年11月18日、東京証券取引所 TOKYO PRO Market上場。「公の器」になる覚悟
なぜ、福証でなければならなかったのか
私たちテクノクリエイティブの事業の根は、九州にあります。
熊本を本社に、九州地区で事業を積み上げてきた会社です。九州の金融機関、地域の取引先、地元で働く社員たち。その人たちの前で、「東京の市場に名を連ねている」という事実は、どこまで信頼の証明になるのか。
私は、それだけでは足りないと感じていました。
九州で事業を営む企業にとって、地域の信頼は地域との関わりの中で積み上がっていくものです。地域の金融機関や事業会社が取引先を選ぶとき、見るのは数字だけではありません。この会社は、この地域で腰を据えて事業を続ける意思があるのか。地域の経済圏の中で、責任ある存在であろうとしているのか。
東証TPMへの上場が「日本市場への開示」だとすれば、福証FPMへの上場は「九州への宣言」です。
この二つは対立しません。射程が違うのです。
地域の信頼は、地域の場でしか積み上げられない。
それが、私たちが福証FPMへの重複上場を決めた理由でした。
互友会——九州という地域の重力
九州で事業をしていると、避けて通れない存在があります。
互友会、通称・七社会です。
九州電力、クラフティア(旧・九電工)、西部ガスホールディングス、福岡銀行、西日本シティ銀行、西日本鉄道、九州旅客鉄道。九州経済の骨格を支え、雇用を生み、産業をつくり、この土地を長年にわたって形づくってきた企業群です。
重力とは、意識せずとも引き寄せられる力のことです。
七社会は、九州で事業を営む者なら誰もが向き合わなければならない存在として、この地域に静かに作用し続けています。直接の取引の有無にかかわらず、その企業群がつくってきた信用の基準、地域への責任感は、九州全体に染み込んでいる。
その存在に対して、私たちはどう向き合うのか。
敬意だけでは、距離は縮まりません。「いつか認められたい」と思っているだけでは、地域経済の中で責任ある存在にはなれない。必要なのは、客観的な証明です。
自分たちは信頼できる取引相手である。問われても答えられる経営をしている。地域の市場に対して、継続的に開示する覚悟がある。
それを示す場が、福証FPMでした。
重力に抗うのではなく、重力の中に入る。それが、私たちの選んだ道でした。
福証FPMへの上場後、変化は静かに、しかし確実に現れました。
互友会各社との接点が生まれ始めた。既存の取引先との関係は深耕し、これまで接点のなかった企業との新規取引にもつながった。「開示している会社」として先方から議題を持ち込んでくれる場が増えた。距離を縮めようとこちらから動くのではなく、信頼関係の中で自然に入っていける。
重力の中に、入っていた。
問われる苦しさが、変わった
一度上場を経験していれば、少しは楽になる。正直、どこかでそう思っていました。
その油断は、すぐに砕かれました。
上場日から逆算した審査準備期間は約1カ月。回答書は最終的に10万字を超えました。一問一問、自社の経営判断を言語化し、根拠を示し、整合性を確認し、また書き直す。
今回も、F-Adviserとして伴走してくださったのは、東証TPM上場時からお世話になっている株式会社日本M&AセンターのTOKYO PRO Market事業部の皆様でした。
東証TPM上場時の文脈を熟知したうえで、福証FPMの審査基準と照らし合わせながら問いを立ててくださる。その問いの立て方が、鋭かった。「当時の判断は正しかった。では、その判断が今も組織に実装されているか」——過去の正しさではなく、現在の機能を問われる。東証TPM上場時の文書を熟知しているからこそ、誤魔化しが一切きかない。私たちだけでは見えなかった死角が、次々と浮かび上がりました。
信頼できる伴走者とは、正解を教えてくれる人ではありません。自分たちが目を背けていた問いを、丁寧に突きつけてくれる人のことだと、今回改めて思いました。
問いは、現在形で届きます。
「東証TPM上場時につくった仕組みは、今も機能しているか」「形だけになっていないか」——審査が問うのは、過去の努力ではありません。今この瞬間の組織の状態です。
苦しさの種類が変わっていました。
東証TPM上場時は「何を問われているのかがわからない」苦しさでした。今回は違いました。「問われていることはわかる。だから、答えから逃げられない」苦しさです。
組織の解像度が上がったからこそ、見えてしまうものがある。内側の論理では正しいと思っていたことも、外部から問われると、まだ不十分だったと気づかされる。
経営の外部規律とは、本質的にそういうものだと思います。内側にいる限り、自分たちの現在地は正確にはわからない。外から問われて初めて、自分たちの輪郭が見える。
残ったのは、達成感ではありませんでした。静かな戒めでした。
認められた、ではなく、迎えられた
(写真)上場式打鐘
重複上場を社内に発表したとき、福岡支社の技術社員がこう言いました。
「地元で認められた、という感じがします」
私はその言葉を聞いて、自分がまだ言語化できていなかったものを渡されたような気がしました。
東証TPMへの上場は、全国の市場に対して会社が評価される出来事でした。しかし福証FPMへの上場は、九州で働く社員にとって少し違う意味を持っていた。
会社が評価された、だけではない。自分たちが立っている場所が、認められた。
上場セレモニー後の祝賀会で、三嶋社長はこう言いました。
「やっと福岡の商圏に迎えられたといえる」
認められた、ではなく、迎えられた。
この一語の差が、私には最も正確に感じられました。
九州の拠点に所属する社員の多くは、九州で生まれ、九州で育ち、九州で働くことを選んだ人たちです。その人たちにとって、福証への上場は会社のニュースであると同時に、自分たちの場所のニュースでもあった。
上場を「会社の出来事」として受け取る人と、「自分の出来事」として受け取る人。その差は、組織の強度に直結します。
CFOとして数字を見る立場にいます。しかし数字だけでは測れない確かなものがある。社員が「この会社は、自分たちの地域で本気で勝負しようとしている」と感じること。その感覚は、組織の中に静かに、しかし確実に効いていきます。
信頼は、数字より先に、チームの中に生まれることがある。
(写真)上場式記念撮影
二重の信頼
二重とは、二つの市場のことではありません。
二つの場に立つことで初めて生まれる、二種類の信頼のことです。
一つは、市場からの信頼。開示し、問われ、答え続けることで積み上げる、外部との信頼。
もう一つは、組織からの信頼。「この会社は逃げない」という事実を、社員が自分の言葉で語れるようになることで生まれる、内部の信頼。
この二つは表と裏です。
市場への開示が、社員に「この会社は逃げない」という事実を示す。その事実が組織の信頼を高め、開示の中身に誠実さが宿る。外に対する姿勢と、内側の組織文化は切り離せません。
東証TPMだけでは、この構造は完成しませんでした。九州の社員が「地元で認められた」と感じるためには、九州の場に立つ必要があった。福証FPMへの上場は、市場への宣言であると同時に、組織の内側に働きかける行為でもありました。
CFOとして、私が守るべきものはここにあります。
問われ続ける場に、会社を置き続けること。居心地の悪い場所に、自らの意思で立ち続けること。その緊張を手放さないこと。
それが、経営の誠実さの最低条件だと思っています。
この会社で働くとは、問われ続ける場所に自分を置くことでもある。それを苦しいと感じる人もいるかもしれない。私は、それ以上に誠実でいられる場所を、他に知らない。
証明は、終わらない
第1回で、私は東証TPMへの上場について「上場はゴールではなく、スタートだ」と書きました。
福証FPMへの重複上場も、同じです。
東京の証明が九州の証明にならないように、昨日の証明は今日の証明にならない。問われる場に立ち続けること。答え続けること。そのたびに、自分たちの現在地を見直すこと。
それが、私たちの経営の姿勢です。
「また上場するんですか?」
あの問いへの答えが、今ならわかります。
信頼には、場所がある。だから私たちは、問われる場所を選び続ける。
次に見ているのは、一般市場への指定替え上場です。プロ投資家向けの市場から、より広い投資家が参加できる市場へ。問われる相手を増やすこと。それは規模の拡大ではありません。信頼の射程を、さらに広げることです。
その先に、私たちはどんな景色を創ろうとしているのか。次回は、その未来について書きます。
次回:その先へ——一般市場への指定替え上場への挑戦と、私たちが創る未来の景色