マンガを読むことが大好きで、「いつかはマンガに携わりたい」と思いつつも、気がつけばまったく別の道を歩んでいる……そんな経験はないでしょうか。taskey株式会社のマンガ編集者、落合さんも同じように別業界でキャリアを積んできた一人。バラエティ番組のAD(アシスタントディレクター)やマンションの現場監督という異なる職業を経て、最終的に「マンガ編集の世界」に飛び込みました。
「やる気とマンガ愛があれば、未経験でも数ヶ月で作品を担当できる」と語る落合さんですが、同時に「好きなだけでは足りない」とも言います。豊富なインプットや、市場を読む視点が不可欠で、それらはアイドルに熱中していた学生時代や、多様な人たちと接した前職の経験から培われたそうです。
本記事では、落合さんが未経験からマンガ編集者になるまでの道のりや、連載中の作品、新たな企画などを徹底取材。好きなものを仕事に変えたいと考える人へのヒントが詰まったインタビューを、どうぞご覧ください。
落合 奏/メディア・エンターテインメント本部スタジオ事業部マンガ・Webtoon制作チーム
専門学校で放送芸術や音楽編集を学んだ後、テレビ番組のADを経験。その後マンションの現場監督を約2年担い、2023年にtaskey株式会社へ入社。未経験ながらマンガ編集者として複数の作品を手がけ、現在は作品の連載や新企画の立ち上げにも積極的に関わる。多様な業務背景で培ったコミュニケーション力と、市場分析を軸にした作品づくりを得意とする。
幅広い経験から掴んだ「本当に好きなこと」への原点回帰
ーーまずは簡単に、これまでのご経歴を教えていただけますか?
放送芸術科がある専門学校で映像や音楽編集を学んだのち、新卒でバラエティ番組制作会社に入りADをしていました。リサーチをしたり、ロケに同行したりと、なんでも屋のような形で働いていたんです。番組制作の仕事は刺激的でやりがいがありましたが、全力で打ち込む中で、長期的なキャリアや新しいスキルの習得も意識するようになりました。今後の自分の可能性をさらに広げたいという思いから、転職を決意しました。
そこで選んだのがマンションの現場監督です。ゼロから形あるものを創り上げる工程に純粋な好奇心を持って飛び込みましたが、多くの職人さんたちと対話を重ねながら、一つのゴールを目指すプロセスに、大きな面白さを感じていました。
二つの異なる職種を経験し、それぞれの面白さを知る一方で、「自分が本当に好きなものは何か」と自問自答するように。その結果、エンタメへの情熱、特に幼い頃から大好きだった“マンガ”の世界へ挑戦したいという気持ちに立ち返ったんです。
ーーそこからtaskey株式会社へ行き着いたきっかけとは?
転職サイトで「マンガ編集」の求人を探していたら、未経験可で募集しているtaskeyを見つけました。ちょうど自社アプリのヒットで注目されていた頃だったので興味が湧き、さらに代表のインタビューやSNS発信を見て「今後面白い展開を仕掛けていきそうだ」と直感したんです。実際に応募し、面接を受けてみると、気軽に髪色や服装の話もできるようなフランクさがあって。自分が思い描く“エンタメ企業らしさ”を感じましたね。
今思えば、ADを辞めた後も「やっぱりエンタメが好き」という熱が自分の中で冷めていなかったのが大きかったと思います。現場監督で得た経験やコミュニケーション力を持ちながらも、最終的には「好き」に戻ってきた、という感じです。
未経験から多くの作品を担当!入社後の成長と業務内容
ーー入社から今までの業務内容について、実際に未経験からどのように独り立ちしたのか教えてください。
入社後は先輩社員のもとで作品づくりの基本を学びつつ、3ヶ月ほどで新規作品の立ち上げから携わり、その後、連載中の作品も引き継がせてもらいました。最初は右も左もわからない状態でしたが、「わからないことはすぐに質問してOK」という社風のおかげで、未経験でも動きやすかったですね。実際、想像していた以上に早い段階で作品を持たせてもらったなと感じています。先輩の打ち合わせに同席させてもらうことで学べることが多かったし、やる気さえあれば主体的に動いてOKという雰囲気があるんです。最初は戸惑うこともありましたが、先輩に相談すれば丁寧に教えてくれるし、打ち合わせ中に疑問が出たらその場で訊くこともできる。そうやって実践を通じて成長する環境が整っていると感じました。
そのうち実践的に任されるパートが増えてきて、気づけば自分の担当作品がどんどん増えていきました。今では複数の連載を抱えつつ、新企画の立ち上げにも参加しています。作品ごとにターゲットやジャンルが異なるので、さまざまな演出や表現を吸収できるのが面白いですね。自分のアイデアがダイレクトに反映される場面も増えましたが、先輩やチームメンバーに相談すればいつでも助けてもらえる。そういった環境が、未経験者でも早期に独り立ちしやすい理由だと思います。
▼落合さんの担当作品一覧
・ぬらりひょんの棲む家 ・復讐同盟 ・未来の最強ヤンデレ魔術師に執着されています ・Dr.虻野のイケナイ病 ・偽装出産 ・バイト先の雪翔さんはなぜか私に甘すぎる ・10年後、夫に捨てられる
読者の心を掴む鍵は“市場感覚”にあり
ーー早い段階で作品を持たせてもらえるのですね!マンガへの熱意とやる気さえあれば、編集者を目指せるのでしょうか?
いえ、実際にマンガが好きという気持ちだけだと、読者が求めるものとはズレてしまう場合があるんです。どんな内容やキャラクターが求められているか、常にリサーチする姿勢が欠かせないというか。僕はAD時代から、周囲の行動や流行を観察したり、映画やマンガを幅広く見たりするのが好きでした。そうした経験のおかげで「この設定は読者の反応がよさそうだな」「こういう展開が刺さるかもしれない」という直感が働く部分はありますが、その直感を裏付けるためにも、今ヒットしている作品を地道に調べ続けることが大切だと感じています。
ーー詳しく聞きたいのですが、市場感覚やインプットの具体的なプロセスはどういった形で進めるのでしょう?
たとえば“恋愛ドラマ”や“ホラー”“ファンタジー”など、あるジャンルが盛り上がっていれば、まず人気作やランキング上位を集中的に読み込みます。読者が「どこに魅力を感じているか」「どういうキャラクターに惹かれているか」を分析するんです。SNSのコメント欄で「ここが面白い」という声を見極めるのも大事ですね。そのうえで作家さんと相談しながら、物語の構成やネームの展開を調整していきます。
僕は学生時代、アイドルのライブに頻繁に通っていて、そこで広い世代のファンと交流した経験が大きかったですね。現場監督やAD時代も、いろんな立場の人と関わる機会が多かったので、「この層にはこういうアプローチが響くかも」と想像しやすいんです。マンガ編集では、読者の年齢や好みを考慮して作品の方向性を決めるケースが多いので、多角的な視点を得られたのは本当に助かっています。
ーー作品づくりの現場では、落合さんの経験や“らしさ”がどのように活きていますか?
一つは「複数の視点を取り入れる柔軟さ」です。ADや現場監督で多様な人と接してきたおかげで、「自分が好きなもの=みんなも好き」とは限らない、という意識が自然と身につきました。作家さんと打ち合わせするときも、「この展開は若い読者向けにはいいけど、もう少し上の世代だとどう受け止められるかな」といった議論を重ねるんです。
もう一つは「作品への熱量を惜しまない」というところですね。たとえば、どこで物語を区切れば次話への引きが強まるか、キャラクターの台詞や表情をどう見せれば読者の興味を引きやすいかなど、より良い作品になるために思いつく限りの提案をしています。作家さんの表現や個性を最優先に考えつつ、「ここを変えたらもっと面白くなるかも」というアイデアが浮かんだら、積極的にお渡しするようにしているんです。大変ではありますが、一緒に試行錯誤しているうちに面白さがどんどん引き立っていく瞬間があって、そうやって作家さんと共に、一つの作品をより面白いものへと仕上げていく過程が、編集者としての大きなやりがいになっています。
IP展開で新たな読者へ──これからの挑戦と、共に切り拓く仲間たちへ
ーー今後の目標を教えてください。
短期的には、担当している複数の連載作品をより多くの読者に届けることが大きな目標です。具体的には、作家さんとキャラクターの魅力をさらに引き出す演出を考えたり、マーケティングチームと連携しながらSNSや広告施策を工夫して認知度を高めていきたいと思っています。作品自体の世界観を強化して、今後はさらに作品内の各キャラクターを「推して」もらえるような、愛着を深める仕掛けづくりに力を入れていきたいです。
長期的には、マンガを軸にしながらアニメ化やグッズ化など、多方面に広がるIPを生み出すことを視野に入れています。taskeyはベンチャーならではのスピード感と、作品制作からマーケティングまで自社で一貫して行える強みがあるので、そこを最大限に活かしたいです。さまざまなジャンルや企画に挑戦しながら、いずれは大規模なメディアミックスも目指せる体制を築いていけたらと思っています。
ーー最後に、これからマンガ編集者を目指す方に向けてメッセージをお願いします。
僕が体験してきたように、taskey株式会社には未経験でも「マンガが好きだ!」という気持ちと「市場を知ろうとする姿勢」があれば、しっかりと作品に関われるチャンスがあります。最初に任された作品が数ヶ月後に世に出たり、作家さんから「一緒に面白いものを作りたい」と言われたりすると、本当にやりがいを感じます。
ただし、好きという感情だけで突き進むのは難しい世界でもあるので、「どんな作品が人気を得ているか」「読者は何を面白いと思うのか」を地道に調べることも欠かせません。インプットの量と質を意識し、あらゆる価値観を理解することができれば、マンガ編集は十分に挑戦できる分野だと思います。ITなどの専門技術がなくても、やる気と愛で作品を立ち上げられるのは大きな魅力。ぜひ一緒に多くの読者をワクワクさせる作品を作りましょう!