20年のキャリアを持つ金融のプロにFinTechの可能性を問う【三菱UFJキャピタル 理事 投資第二部長 田口順一氏】第7回 特別対談企画
2024年11月20日に、弊社STRACTが発表した資金調達を機に、弊社株主との対談記事を複数回にわたって展開してまいります。
今回、三菱UFJキャピタル株式会社 理事 投資第二部長 田口順一氏と、弊社代表・伊藤との対談を行いました。
目次
三菱UFJキャピタルの特徴・投資スタンス
投資の決め手となるものとは
田口氏のハードシングス
STRACTに投資を決めた理由
FinTech領域×PLUGの可能性
STRACTに期待していること
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三菱UFJキャピタルの特徴・投資スタンス
田口:三菱UFJキャピタルの田口と申します。
経歴はコンサルティング会社に入りまして、3年半後に銀行系キャピタルの今の弊社、三菱UFJキャピタルに入社しております。23年間、一貫して未上場のベンチャーのエクイティのご相談に乗って、ベンチャーの投資をさせていただいております。
現在の対象領域は、幅広くデジタル領域、B2BのSaaSのようなサービスとB2Cのエンタメ、あるいはヘルスケアのような領域に投資をしております。対象ステージはシードからレイターまでと幅広いですが、プレシリーズAと呼ばれるようなステージが一番件数としては多いです。
伊藤:早速ですが、株式会社三菱UFJキャピタルの特徴についてお伺いしたいのですが、教えていただけますか?
田口:はい、三菱UFJキャピタルは1974年設立で、長年にわたり銀行系キャピタルとして運営してきました。しかし、銀行出身者だけでなく、私も含め中途採用で入社した専門家が多く在籍しており、ライフサイエンスやデジタル分野など、さまざまな業種の専門家が集まったハイブリッドな組織となっています。そのため、シードからレイターステージまで、ディープテック、ライフサイエンス、デジタル、オルタナティブエネルギーなど、幅広いベンチャー企業を支援しています。
伊藤:投資先の企業数はどれくらいありますか?
田口:そうですね、幅広いベンチャー企業を支援していますが、パッと正確な数字は出せません。ただ、上場件数だけで累計900社を超えるほどの実績があります。全体の投資件数は、具体的な数字は出していませんが、三菱UFJキャピタル全体での年間投資件数は100社以上となっています。
伊藤:年間100社以上も投資されているということは、年間でかなり多くの起業家と会われるんですね。
田口:はい、そうですね。私自身も含め、会社全体では非常に多くの起業家の方々とお会いしていますが、私自身でいえば、年間500社から1000社の起業家の方と面談しています。
しっかり1on1でお話を伺うのが年間で300〜500社ほどだと思います。
ただ、さまざまなイベントやピッチイベントでの立ち話や名刺交換も含めると、年間500〜1000社に近い数の起業家とお会いしているかもしれませんね。
伊藤:なるほど。ちなみに、今日もどなたかとお会いする予定がありますか?
田口:はい、今日は銀行系VCによる450名ほどが集まるカンファレンスに参加予定です。
伊藤:そうなんですね、お忙しい中ありがとうございます。
三菱UFJキャピタルは銀行系VCということですが、他の銀行系VCと違う点や特徴的な部分はありますか?
田口:まず、私たちはキャピタリストの人数が多く、それぞれが専門性を持っている点が強みです。シードからレイターステージまで幅広く対応しており、特にライフサイエンス分野ではリード投資も積極的に行っています。
また、通常の分散投資にとどまらず、リード先には高いシェアでの投資を行うケースもあり、社内の人間が社外役員として関わるケースもあるのが特徴です。
伊藤:なるほど。ちなみに一社あたりの最大投資額はどのくらいですか?
田口:一社あたりの投資額としては、1000万円から5億円が標準的なケースですが、業界全体の投資額も大きくなってきており、5億円を超えるような大型案件にも対応できる仕組みになっています。例えば、過去には10億円規模で一社に投資したケースもあります。ただ、ほとんどの場合、上限は5億円程度で運営しています。
伊藤:5億円でもかなりの額ですね。
田口:そうですよね。近年では私たちも含め、ファンドサイズが拡大してきています。昔の銀行系キャピタルは3000万から5000万円の分散投資が主流でしたが、今では業界全体で投資規模が増加しています。これは、金融グループや各金融機関がスタートアップ支援に力を入れるようになってきた証拠でもありますね。
投資の決め手となるものとは
伊藤:VCとして20年以上の経験をお持ちで、年間数百社、多いときには1000社近くの企業家と面談されている中で、「この企業家は成功しそうだ」と感じる瞬間、あるいは光るものを感じるときはどんなときでしょうか?
田口:そうですね、一言でまとめると「巻き込み力」が大切だと感じます。もちろん事業の魅力も重要ですが、採用やパートナーシップの形成、投資家の興味を引き寄せる力があるかどうかがポイントになります。
経営者が自らのビジョンや目標を熱意を持って語り、その熱意で周囲を引き込めるかどうか、最終的には顧客も含めて巻き込みながら事業を推進できる力が成功に繋がることが多いです。
伊藤:投資を決定する際にもそういった点は見られているのかな、と思いますが、他に特徴的な検討材料はありますか?
田口:投資候補先によって異なりますが、最初にお会いしてからの変化率、過去のインタビューやSNSでの発信も参考にしています。その企業家がどういうプロセスや考えで事業を進めているか、そしてその間に事業や採用などがどのように進展しているかを見ています。
ベンチャーの世界では、変化が求められ、短期間で成長しなければならないので、経営者として、企業としての成長確度も重要なポイントになります。
伊藤:マーケットの話でいうと、最近注目しているマーケットなどはありますか?
田口:現在、国内の新規上場の規模が小さいのが課題だと感じているため、スケールの大きいベンチャー企業を支援したいと考えています。
具体的には、エンターテインメント分野で日本のIPを活用し、グローバル展開を目指している企業や、海外市場をターゲットにすることで大きなスケールが見込めるビジネスモデルには注目しています。
また、国内企業であっても対象領域が広く、新しい変革にチャレンジしている企業に惹かれます。例えば、SaaSを提供する企業でも、単一プロダクトではなく、複数のプロダクト開発ラインを展開する企業も注目しています。
最近では、M&Aを活用して成長していく企業も増えてきているのでそのあたりも注目しています。
伊藤:まさに我々の「PLUG」も、一見すると通常の価格比較アプリのようですが、実は様々な事業展開を考えているというのも特徴ですが、このあたりも今回の投資で検討いただけたところでしょうか。
田口:そうですね、PLUGの計画を伺う中で、ターゲット層の多様さやサービスの幅広さが特に評価ポイントの一つです。拡張性があることで、今後どう発展していくのかが非常に楽しみです。
田口氏のハードシングス
伊藤:VCのお仕事の中ではたくさんの“ハードシングス”に直面されてきたのではないかと思いますが、何か特に大変だったエピソードや“しくじり”のような経験があれば教えていただきたいです。
田口:そうですね、過去に何度かそういった経験をしていますが、特に経営チーム内で意見が対立し、共同創業者同士が仲違いしてしまう場面に立ち会うことがあります。その際、場合によってはどちらかが残り、どちらかが去るといった判断に至ることもあるので、支援者として非常に辛い局面です。こうした状況に対して、もっと早く予兆に気づき、対応できていたらと感じることもあります。
経験を重ねていく中で、そうした兆しに早く気づき、事前に対策を取ることや、創業時のパートナーシップの構築にアドバイスをすることもできるようになりました。しかし、若い頃はその見極めができず、十分にサポートできなかったケースもあり、それが組織内の軋轢を生んでしまうことがありましたね。そのあたりは今も振り返って、『もっと頑張れたかもしれない』と感じる部分です。
伊藤:やはり経営者同士の関係性や組織の構築も、重要になりますね。
田口:企業が成長しステージが上がっていくと、そのフェーズに応じて必要なスキルやマインド、仕事に対する熱量にも違いが出てきます。どんなに仲の良い共同創業者でも、こうした変化によって温度差が生じてしまうことは避けられません。そうした温度差が原因でトラブルに発展しないよう、適切な対処が求められますね。
伊藤:そういった状況を避けるためには、どのような点に気をつけておくとよいのでしょうか?
田口:しっかりコミュニケーションを絶えず図ることが大切だと思います。また、どれだけ忙しくても、定期的に時間を作って一緒に食事をする、など、リラックスした雰囲気で意見を交わせる時間を持つことを工夫されている会社さんがうまくいっているように感じますね。
伊藤:そうですね。今のところ、うちの会社のチームは良い状態にあると思いますが、やはり人が増えてくると、どうしても組織としての方向性や、事業の進め方が多様になってくる瞬間があると思います。 そのときに、しっかりとコミュニケーションをとることが大切だと思いました。いざというときには田口さんにも相談させていただけたらと思います(笑)。
田口:はい、わかりました(笑)。
STRACTに投資を決めた理由
伊藤:今回、ストラクトのシリーズAでの資金調達に当たって、三菱UFJキャピタルとしてご支援いただいていますが、なぜ今回ストラクトに投資を決めたのか、その背景についてお伺いしたいです。
田口:そうですね。ECの普及は進んでいますが、実際の購買体験はそれほど大きく変わっていないように思います。動画メディアの活発化に伴い、検索からではなく、さまざまな経路で購買に繋がる流れが生まれているとはいえ、まだ新しい技術やサービスで「ECが変わった」と感じられるようなものは多くはないかもしれません。
今回支援させていただくに当たっては、やはりそこにチャレンジしている姿勢が非常に楽しみだなと感じています。単純な価格比較に留まらず、パーソナライズされた提案や利便性の高いユーザー体験を提供しており、ECサイト自体の見せ方にも工夫がされている点が、ユーザー体験として大きく異なってくるのではないかと感じています。
伊藤:ありがとうございます。まさに私たちも、eコマースの体験をまるごと変えていきたいと思っています。インターネットビジネスの中心にはやはりECがあると思いますが、日本の何十兆円規模の大きい市場に対して、モバイルとパーソナライズを起点に新たな価値を提供していきたいと思っています。
伊藤:田口さんからみたeコマースのマーケットの魅力はどういったところにありますか。
田口:EC市場にはさまざまな関連事業者が存在していますが、プラットフォームやインフラに近いポジションを取る企業は、10年に一度、あるいは二度ほどのスパンで登場し、大きな成長を遂げるケースがあります。このように、非常にスケールのある領域だと感じています。
伊藤:そうですね。まさに楽天が90年代に登場し、その後2000年代にはZOZOTOWNが出て、続いて2010年代にはメルカリが登場しました。私たちは2020年代における次のメガプレイヤーを目指して、ECに革命を起こしたいと考えています。そのための高い目標を掲げていますので、ぜひ応援いただければと思います。
FinTech領域×PLUGの可能性
伊藤:我々のサービスは、ECだけでなく金融との相性も非常に良いと感じています。特にユーザーの購買における決済、後払い、貸金といったような部分で親和性が高いと思っているんですが、FinTech領域(金融×技術の新たな事業領域)に対してどのように見ていらっしゃいますか。
田口:ユーザーがあまり意識せずに、シームレスに使える利便性の高い金融サービスがどんどん広がっていると感じます。例えば、わざわざ何か変遷があったり、どこかに登録をして、と煩雑なプロセスを挟まずに体験できるような、いろいろなサービスが出てきているな、という風には感じています。
伊藤:PLUGの事業はeコマースで大きく存在感を出せるような気がしているんですけども、STRACTという会社について、どのように見えていますか?
田口:伊藤社長がエンジニアのバックグラウンドをお持ちということもあり、プロダクトのUIやUXに非常にこだわりが感じられます。トップの方がそのような思考を持っているため、組織全体としてもプロダクトに対して高い意識を持って取り組んでいる印象です。また、エンジニアや開発だけでなく、各ポジションでその分野に経験豊富な方を採用されていて、チームとしての力も順調に成長していると感じています。
伊藤:ありがとうございます。それはとても嬉しいお言葉ですね。 やはり、エンジニアを中心に、プロダクトドリブンかつユーザーファーストの精神を貫くことが私たちのミッションです。今回、ミッション・ビジョン・バリューの中に「インタフェース」という言葉を用いていますが、これは技術とユーザーの距離を縮め、誰でも技術を使いやすくすることを目指しているからです。これが僕たちのミッションの核となっています。
田口:初めての面談のときも、その後のIVS(最大級国際スタートアップカンファレンスの1つ)のサイドイベントでお会いしたときも、いろいろお話をさせていただきました。その中で感じたのは、伊藤社長がご自身のビジョンを非常に大きなスケールで考えていらっしゃるという点です。
目指しているものが壮大で、具体的にどのようにそこに到達するかという計画もきちんと考えられているという印象でした。 ピッチイベントでも、少し言い換えれば“野心家”という印象もあるかもしれませんが、やはりそうした大きな目標に向かって進んでいるベンチャーでないと、なかなかそのスケールの実現は難しいと思っているので、そういった部分が非常に頼もしいと感じています。
伊藤:ありがとうございます。よく“野心家”とも言われるのですが、実は本気で考えているんです。このビジョンを掲げることで、会社全体にそのエネルギーが伝わり、メンバー一人ひとりが「自分は何のために働いているのか」と感じられるように意識しています。全員が同じ船に乗って、大海原を目指して進んでいるという思いを共有しながら、大きな目標に向かってやっています。
アイコンのロケット、ご存知かと思いますが、私たちの会社は次のインフラを築くビジョナリーカンパニーとして成長したいと考えています。このロケットは、衛星事業を次にやろうという大きな目標に向かっていくための象徴です。こうしたビジョンを共有できていることが本当に良かったと思います。
STRACTに期待していること
伊藤「今後ストラクトに期待すること、またどのような成長を望んでいるかについてもお伺いできますでしょうか?」
田口「そうですね。まずコンシューマー向けのサービスは、日常的に使ってもらうことが鍵です。そのため、利便性の高さを多くの方に認知してもらうためのマーケティングが非常に重要だと思います。今回の資金調達で、その部分に資金をうまく活用いただき、さらに多くのユーザーに届けられることを期待しています。 事業パートナーとしての側面でいうと、御社のサービスは金融機関やEC企業など、多様な業態との協力が必要になると思います。私たちのような新しい株主も含めて、みんなでサポートしていければと思っています。」
伊藤「こちらこそ感謝しています。田口さんの“ハンズイフ”(投資先企業の必要に応じて関与する投資手法)の投資スタンスを感じる中で、特にメンタリングをお願いしたいと考えています(笑)。 創業者としての悩みは、お金の問題、組織の問題、事業の悩みなどいろいろありますが、特に精神状態は非常に大事だと思っています。ビジネスのご経験が長く豊富な田口さんに、辛いことがあればぜひ相談させていただきたいと思っています。」
田口「はい、いつでもご連絡ください。」
STRACTでは現在多くのポジションで採用活動を行なっています。
ご興味のある方は、ぜひカジュアルにお話ししましょう!
https://career.stract.co.jp/
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▼代表伊藤のnote
https://note.com/hkrit0/n/nc1175b2a6039
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