海外進出とイノベーションのジレンマ。STRACTに期待するスケール感とは【デライト・ベンチャーズ Managing Partner・渡辺大氏 】第5回 特別対談企画
2024年11月20日に、弊社STRACTが発表した資金調達を機に、弊社株主との対談記事を複数回にわたって展開してまいります。
今回、デライト・ベンチャーズ Managing Partner 渡辺 大 氏と、弊社代表・伊藤との対談を行いました。
目次
渡辺氏のご経歴、国内事業の海外進出について
プラットフォームの変化、直面した海外進出の難しさ
シリーズAで投資いただいた理由
Eコマースのマーケット、そしてSTRACTに期待すること
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渡辺氏のご経歴、国内事業の海外進出について
渡辺氏(以下、渡辺):私は2000年にDeNAに入りまして、当時はまだ少数精鋭の、生き残れるかもわからないスタートアップだったのですが、一番最初にうまくいったビジネスがモバオクですね。
その頃から海外の1人担当者みたいになり、DeNAの事業を海外に持っていくというミッションを背負って、最初に行ったのが韓国です。その次に中国、そして2008年からアメリカに行きました。
今もアメリカにいるので、丸16年いることになるのですが、やっぱり色々苦労しましたね。
海外に持っていくビジネスはその都度色々変わったのですが、最終的にはDeNAのアメリカ事業は一番大きな投資で、全部で数百億円投資してゲーム事業・ゲームプラットフォーム事業となりました。ですが、様々な理由で苦戦して、2016年にシャットダウンすることになり、私はシャットダウンの最後まで片付けをしました。
その後、私はDeNAでの責任を取ってというのもあるし、ちょっと休みたかったこともあって、2016年以降は会社を離れようかなと思っていたのですが、ちょうどその時DeNA本社自体も色々な意味で新しいフェーズに入っていました。様々な新規事業、スポーツとかモビリティ、ヘルスケア、AIなどを日本で立ち上げようとしている中で、アメリカにおけるcorp dev、BizDevをやってくれっていう、なかなか断りにくい非常に面白そうなオファーをもらって。2016年から2、3年、アメリカで色々なスタートアップやスポーツチームなど様々な種類のcorp dev、BizDevというのをやっていました。
その末に、これも色々な経緯があって、デライト・ベンチャーズを立ち上げるという構想を作り始め、2019年にデライト・ベンチャーズを作りました。
伊藤:まさにDeNAの初期からいらっしゃったということで、DeNAは今や日本を代表するメガベンチャーの一つだと思うのですが、当時事業を海外に持っていくというのはとても大きな挑戦だったかと思います。
今振り返ってみて、中国や韓国をはじめとするアジアと、アメリカとではまた違った難しさがありますか?
渡辺:もう全然違いますね。
例えば中国とアメリカって、ビジネスの仕方もかなり違って、中国では事業をゼロから立ち上げて、チームを採用して、というのをやっていたのですが、費やしている時間の半分以上が政府対応なんです。免許を取るとか、免許を取る会社を作るのに6ヶ月かかったり。そういうものが大変でした。
アメリカでは免許もいらず、時間のほとんどをちゃんとビジネスに使えました。
元々の環境もやっぱり全然違いますし、事業のフェーズ的にも異なっていたというのもあります。その時はモバイルインターネットがものすごい勢いで変わっていっている時期で、実際には数年しか違わないのですが、モバイルインターネットというマーケットに関しては事業の競争環境や技術環境も違ったので、やっぱり色々な側面で違う部分がありましたね。
プラットフォームの変化、直面した海外進出の難しさ
伊藤:当時は最初、モバオクの事業を持っていこうとしていたのですか?
渡辺:韓国ではモバオクを持っていくことをしていて、中国もモバオクから始めようとしていたのですが、モバオクってロジスティックスがすごく絡んでくるので、中国はまだそれは難しいなと。あとはちょうどその頃アメリカでモバゲーができたので、ロジスティックスの必要のないオンラインのサービスとしてモバゲーを始めたんですよ。
当時の中国はオンラインのコミュニティ自体もまだまだ黎明期で、今ほど検閲もひどくなかったし、比較的自由にサービスはできました。ただサービスを拡大していくための免許取得というのは大変な悪夢で、色々な免許があるんですよ。
伊藤:許可が要るというのは大変ですね。
モバオクとモバゲーだと全く異なるプロダクトだと思うのですが、どちらの方が海外だとよりうまくいったのでしょうか?
渡辺:モバオクは結局立ち上げられなかったです、ロジスティックスの面も色々あって。結局モバゲーと、アメリカでいうとゲーム事業の立ち上げですね。
一応それなりに中国もアメリカも立ち上げはしました。
中国では1バージョン立ち上げて、日本では2、3バージョン立ち上げて、それなりには立ち上がったのですが、ちょうどその時ってインターネットがデスクトップからモバイルに移っていって、モバイルもフィーチャーフォンからスマホに変わるという、プラットフォームが変わってくる、色々なパラダイムが変わる時だったので、やっぱりプレイヤーがすごく注目して、競争環境も激しかったです。
伊藤:海外ですごく難しかった要因の一つは、やっぱり競争環境ということですかね。
渡辺:競争環境もそうだし、その競争環境の中で日本のプロダクト、日本のマーケットに最適化されたものをそのまま持っていこうとした、そこも一つあります。
かつ、アメリカの場合では、日本ですごくうまくいっているプロダクトをアメリカに持っていっているうちに、日本でフィーチャーフォンの上ですごく強かったプロダクトも、プラットフォームがスマホに変わっていったことで僕たちの元々の強みもディスラプトされていったんですよ。
これもまさにイノベーションのジレンマで、日本でうまくいっていたことを強みとしてアメリカで展開しようとしていたので、なかなかその根源的な強みがディスラプトされるのを認めるのに時間がかかったんです。それで組織的にも次の手が遅れてしまったというか。
伊藤:スマホシフトのジレンマというのはたくさんありますよね。国内のスタートアップの海外進出も難しいと言われていて、メルカリだったり、GREEもかつて挑戦していたと思うのですが、あまりうまくいっているケースはないのでしょうか?
渡辺:そうですね。DeNAが海外に挑戦していた当時、携帯・インターネットでは日本が世界の最先端を行っていたんですよね、定性的にも定量的にも。
その数十年前、トヨタやホンダ、ソニー、パナソニックなど、ハードウェアでは日本の会社がどんどん世界進出していたじゃないですか。その次に、デスクトップのインターネットでは、日本のマーケットはアメリカの競合に取られてきたわけですね。
モバイルプラットフォーム自体は日本が最先端を行っていて、その中でもDeNAが最先端を行っていて、このまま世界に出ていくしかないでしょうという、それしか選択肢がなかったんです。
かつ、DeNA以外の周りの産業全体や投資家も、DeNAの海外進出にはすごく注目していて、期待値が非常に上がっていました。
日本でうまくいったモデルというのを強みとして海外に出ていくべきだという意識がすごく強かったし、その中で我々が想像もしなかったようなディスラプトが起こったというのは意外でもありました。
そして、元々過去の事例を見ていると、日本企業がアメリカに行った時、もしくはアメリカのテック系企業が日本に進出してきた時のルールブックではちょっとよく分からないぐらいの市場の変化の度合いや早さに直面したのは大きいですね。
伊藤:今振り返って、もしもう一度やるのであれば、一番最初の段階から海外を見据えた設計を取り入れていくべき、ということでしょうか?
渡辺:色々ありますね、それももちろんあります。
一つすごく難しかったのは、日本のマーケットに最適化されたプロダクトを持っていったということだけが原因かというとそうではなくて、例えば海外に出ていった時、DeNAが未上場企業から上場企業に変わると、会社におけるタイムラインや期待値も変わります。
あとは海外に進出する時に、じゃあまずどこを拠点にしようかみたいなことを結構時間をかけて考えたんですが、結局選んだのがシリコンバレーだったんですよ。
海外の上場企業としてシリコンバレーに拠点を置くというのは、非常にデメリットの方が大きいことが、やっぱりやってみると分かって、それにも気づくのに時間がかかりました。
また、戦略上もやっぱりiOS、Androidというプラットフォーム上にモバゲーというプラットフォームを乗っけるというところがいかに難しいかという悟りもありましたし、色々複合的な要因がありますね。
伊藤:今我々もコンシューマー向けサービスをやっているわけですが、海外進出についてよく言われるんですよね。当然考えてはいるのですが、まだ国内でも小さな規模なので、これから海外進出を目指す上で今のうちにできることってどんなことがあるでしょうか?
渡辺:こうやったら失敗する、というのは色々言えるんですよ。結構いろんな罠があって、失敗って再現性が高いんですが、成功ってなかなか再現性が低いんですよね。
それを無理やりハイレベルで一般化して言うならば、やっぱり一つ一つあまりルールブックに縛られずに、その都度正しい意思決定をするってことをしないといけないと。
我々もシリコンバレーっていうテック系の会社の集積地だったので短略的にそこから始めるべきだと言ったのですが、それってもっとプロコンを考えるとそうするべきじゃなかった。
全体のマーケットの熱や固定観念に引っ張られて正しい意思決定ができなかったというのがあるので、そういった失敗パターンはたくさんお伝えできます。それを踏まえて、その都度自身で正しい意思決定をしていくことですかね。
伊藤:なるほど、失敗から学んでいってということですね。成功はアート、失敗はサイエンスだと良く言われますが、まさにそうだなと思っています。
僕たちの場合だとEコマースの領域になりますが、日本の商品を買いたい海外の人って本当に多いと思っていて、事業提携をしている会社さんにも本当によく言われるんですよね。
現状日本のEコマースの商品について、ものすごく高いレベルでデータを持っていて、かつそれに対するユーザーの購買等の行動データを持っているのは、現状弊社なのかなと思っています。
それを武器に、海外のユーザーがしっかり日本で物を買える、というような戦い方というのは、一つ海外進出になるんじゃないかと思っています。そうするとある種、外貨を稼げると思いますし、その切り口でまずやってみようかなと思うのですが、どう思われますか?
渡辺:アジアはすごくありだと思いますね。
伊藤:本当ですか?最近街を歩いていると、日本人の方が少ないじゃないかっていうことがあるじゃないですか。多分これはオンラインもそうなのかなと。同じように日本の物が欲しいというのも、アジアを筆頭としてあるのかなと思っています。
渡辺:そうですね。あとやっぱりマーケットが成熟していないので課題がいっぱいあるし、成熟していないなりにマーケット環境も色々変わるので、失敗しても何度も調整しやすいというのはあると思いますね。
伊藤:アジアでいうとどの国から攻めるべきですかね?
渡辺:どうでしょうね。インドネシアとかインドとか。
インドネシアはマーケットが大きくて、成長していて、それなりにビジネスがしやすいというのはありますね。インドはマーケットが大きいのは間違いないです。大きさというのが一番最初の重要な基準かなと思います。
伊藤:アメリカとかは相当難しいですよね。
渡辺:アメリカはやっぱりマーケットが成熟しているので、相当正しい戦略で行かないといけない。マーケットが成熟しているから、そこまでレッドオーシャンではないというのと、あとはお金がかかるんですよ。
その2つを考えると、アジアのマーケットの方が魅力的なんじゃないかなと思います。
伊藤:そうですね。生活圏も近いですし、カルチャーも若干近いのかなと。まずはアジアから、と僕たちも考えています
シリーズAで投資いただいた理由
伊藤:今回シリーズAで新規投資家としてデライト・ベンチャーズさんに大きく投資いただいたのですが、投資いただいた理由をぜひお伺いしたいです。
渡辺:そうですね、二つありまして。まず一つはこのEコマースの領域、実は私も個人的にHoneyを使っていたというのもあって、日本でEコマースユーザーの体験に寄り添ったこの手のサービスは、ディスカウントやクーポンに限らず、あり得るはずだと思っていて、実はデライト・ベンチャーズを立ち上げた直後のベンチャービルダーでも、その事業の立ち上げを検討していたことがあるんですよ。
個人的にすごく興味のあるテーマだったので、何度か検討したのですが、やっぱりなかなか日本では馴染みにくいのかなとか、クーポン文化じゃないしなとか、色々議論があり、結局私の熱意ほどは事業化させることはできませんでした。
ただ、やっぱりそこの日米のギャップというのをずっと意識していて、興味を持っている分野ではあったということです。
そんな中で伊藤さんと大川さんのお二人に出会って、伊藤さんがものづくりに非常にこだわったファウンダーであるということ、特にこの領域はユーザーエクスペリエンスがすごく重要で、機微というのがものを言うところなので、本当の意味でものづくりをしている人がリードしている会社だと感じました。
なので、すごく自分自身が興味のある領域に対して、非常に適切な強みを持ったチームだなと感じたという、その二つが理由です。
伊藤:ありがとうございます。まさにプロダクトづくりの部分に関しては、本当に自信があるので、そこを魅力と捉えてもらえることには、とても良いシナジーを感じます。
デライト・ベンチャーズさんとのお付き合いとしては、シードの資金調達が終わった直後ぐらいに、知人経由で南場さんをご紹介いただいて一番最初にお話しさせていただきました。
南場さんの人柄に感銘を受けましたし、我々の事業の話もちゃんと理解いただいて、そこではまだシリーズA前のお話だったのですが、そこからコミュニケーションを取り続けさせていただいて、今回早い意思決定をしていただき、会社としても本当に助かりました。
渡辺:ありがとうございます。とてもラッキーな出会いだったなと思います。
Eコマースのマーケット、そしてSTRACTに期待すること
伊藤:改めて、日本におけるEコマースというマーケットについて、渡辺さんにはどう映っていますか?
渡辺:私はアメリカにずっと長く住んでいて、成熟した領域だなと思った割に、2、3年に一回くらいとんでもないところで大きなイノベーションや新しいプレイヤーが出てくると思っています。Honeyもそうだったし、最近だったらTemuもそうだし、成熟しているようでまだまだ色々チャンスがあるなと思っていて。
日本のマーケットは、DeNAがEコマースの領域でやっていた頃からそんなに大きく変わっていないのと、マーケットも大きく国が小さいのでロジスティックスにかかるお金も小さい。アメリカに比べても、Eコマースがすごく発展する理由がより強い中で、非常に大きなチャンスがまだまだあるマーケットだなと思います。
伊藤:まさにそうだなと思います。数年おきに国内でEコマースの大きなプレイヤーが生まれるなと思っていて、楽天ができて、次にZOZOTOWNができて、メルカリができて。その次は僕たちでいきたいなと気持ち的には思っています。
今後、弊社に期待していること、期待しているスタートアップとしてのスケール感はどのようにお考えですか。
渡辺:スタートアップのスケール感ってすごく大事で、我々としては本当に日本を代表するような、またそれだけではなく海外のEコマースの習慣も変えるくらいの大きなインパクトを起こす、日本のイノベーションを引っ張っていく大きな会社になりうると思う会社にしか投資していないので、だからこそ投資の意思決定をさせていただいたというのはあります。
一方でスタートアップってどちらかというと失敗する可能性が高いわけですよね。
なのでその都度その都度、優先順位の高いこと、今だとしっかり今成功しているモデルでスケールさせることとか、今のユーザーエクスペリエンスを最適化させること、ユーザーエクスペリエンスのところがまさに最優先の課題・ポイントだと思うので、そこに正しく向き合ってエクスキューションしていく。
バランスはなかなか難しいですが、ものづくりに対するこだわりがあるので、長期的な視点を持ちつつ、毎四半期ごとに正しい優先順位をもって執行されることを期待していますし、そういうふうにできるんだろうなという感覚を持っています。
伊藤:ありがとうございます。僕たちはプロダクトとデータに強みがあると思っているので、会社としてもデータを見るカルチャー、ビジネスサイドも含めて全員がSQLを書けるような状態、今だと普通かもしれないですけど、そういったことには徹底的にこだわりたいなと思っています。
渡辺:そうですね、それはできるんじゃないかと思います。特にエクスキューションがすごく上手なチームであればあるほど、経営の戦略に基づいて出てきたKPIがあって、そのKPIの達成速度を最大化すると少しずつずれていったりするんですよね。
そのチーム全体が本質的に今目指していることは何なのかという、KPI以上の経営上の目的を常に意識していかないと、どんな会社でもどんどんずれていくことはよくあります。その辺りは御社はなかなか上手なチームなんじゃないかなと、見ていて思います。
伊藤:ありがとうございます。ぜひ今後もご指導いただければと思います。
STRACTでは現在多くのポジションで採用活動を行なっています。
ご興味のある方は、ぜひカジュアルにお話ししましょう!
https://career.stract.co.jp/
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▼代表伊藤のnote
https://note.com/hkrit0/n/nc1175b2a6039
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