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こんにちは。
今回のテックブログも、AIエンジニアの劉が担当します。
前回の記事では、AI活用を「基礎・応用・戦略・価値」の4層に分け、これからは単なるツール利用者ではなく、AIに何を任せ、どこを人が担うかを判断する“AI統括者”が必要になると書きました。
2026年、AIを「高度なGoogle検索」で終わらせない、ツール利用者から「AI統括者」へ | Tech.blog
今回は、その続きです。
では、実際の企業業務で「AIに仕事を任せる」とは、どういうことなのでしょうか。
7月末に参加したGoogle Cloud Next Tokyo 2026と、その後に行ったGemini Enterpriseの検証を通じて、少し具体的に見えてきたことがあります。
今回、私が一番面白いと感じたのは、Agentが動いた瞬間だけではありません。
むしろ、最初の依頼ではAgentが動かなかったことでした。
Google Drive上の資料を使った「次回商談の提案準備」を例に、Assistant、専門Agent、そして人が、それぞれどこを担当したのかを紹介します。
なお、記事内の企業名、顧客情報、サービス、価格、導入事例は、すべて今回の検証用に作成した架空データです。当社では現在、Gemini Enterpriseの活用可能性を調査・検証している段階です。
Google Cloud Next Tokyo 2026で感じた「回答」の次
Google Cloud Next Tokyo 2026では、AIエージェントを作ることだけでなく、Build・Scale・Govern・Optimizeの視点で継続的に運用する考え方が繰り返し紹介されていました。
印象に残ったのは、AIを情報分析のための「System of Intelligence」だけでなく、実際の業務を動かす「System of Action」として捉える方向性です。
モデルが自然な文章を書けることは、もう珍しくありません。企業で本当に難しいのは、その先です。
- 必要な社内データへアクセスできるか
- 新旧の情報や条件を正しく見分けられるか
- 必要なツールやAgentへ仕事を渡せるか
- 結果を人が確認できる形で返せるか
会場でさまざまなセッションを見ながら、私は「どのモデルが一番賢いか」よりも、AIとデータと人の仕事をどうつなぐかが次の課題になると感じました。そこで、会場から戻ったあと、Gemini Enterpriseで一つの業務を試してみることにしました。
Gemini Enterprise Agent Platformのガバナンス構成(Google Cloud Next Tokyo 2026 Day 2基調講演)
なぜ今回はGemini Enterpriseを選んだのか
理由は、単純なモデル性能の比較ではありません。
今回使いたい資料がGoogle Driveにあり、普段の業務もGoogle Workspaceを中心に動いているためです。Gemini Enterpriseなら、まずローカル環境へ資料をダウンロードして実行基盤を用意しなくても、ブラウザ上のAssistantから権限のあるDrive資料を検索し、参照元を確認できます。
さらに、その先にAgent Registry、Agent Gateway、Agent Identity、Observabilityといった管理の仕組みが同じ構想の中に置かれています。今回確認したかったのは、モデル単体の賢さよりも、Googleのデータ環境からAgentによる処理までを、どこまで一つの流れとして扱えるかでした。
もちろん、他のAI製品にもクラウド実行やGoogle Driveとの連携機能はあります。今回はClaudeやCodexとの性能比較を行ったわけではなく、既存環境と検証目的への相性からGemini Enterpriseを選んでいます。
今回試したのは「次回商談の提案準備」
選んだのは、営業担当が次回商談に向けて提案を準備する場面です。
検証用のGoogle Driveには、次の7種類の資料を置きました。
- 顧客基本情報
- 過去の商談履歴
- 現状課題
- 自社サービス一覧
- 料金・契約条件
- ナレッジ検索の導入事例
- AIエージェントの導入事例
単にファイルを要約するだけなら、今のLLMでもできます。
そのため、資料にはあえて判断が必要な条件を入れました。
初期の商談では全社利用も検討していた一方、最新の商談ではカスタマーサポート部門の20~30名に対象を絞っています。予算も途中で変わっており、ライセンス費用、正式なKPI、Driveの権限責任者などは未確定です。
つまり、正解は一つのファイルにはありません。
最新の商談内容を優先しながら、顧客課題、サービス、価格、期間、導入事例を照合する。分からないことは勝手に補わず、次回確認する質問へ変える。ここまでできて、初めて「商談準備」として使える状態になります。
Gemini EnterpriseでGoogle Driveを検索。でもAgentは動かなかった
最初に、Gemini Enterpriseの普通のチャット画面からGoogle Driveを選び、次のような依頼をしました。
最新の商談情報を優先し、顧客課題、提案候補、価格・期間との適合性、リスク、不足情報を整理する。最後に、営業担当が5分で確認できる次回商談Briefを作成し、判断の根拠となるファイル名を付ける。
Gemini EnterpriseはGoogle Driveを何度か検索し、最新情報を使って提案内容をまとめました。
対象人数と期間に合うサービスを第一候補に選び、税込198万円という価格と予算を照合。近い導入事例を探し、権限、個人情報、旧版文書、KPI、ライセンス費用を確認事項として抽出しました。最後には、参照ファイル名付きの5分間Briefも生成しています。
ここまでできれば、十分にAgentらしく見えます。
ところが、画面に表示されたのは、はっきりとした「Agent委譲:なし」でした。
1回目の検証では、Drive検索とBrief作成をAssistantが完結し、「Agent委譲:なし」と表示された画面(筆者検証環境)
正直、最初は少し拍子抜けしました。でも、考えてみれば自然な結果です。
今回の仕事は検索、比較、文章化までで、外部ツールによる処理は求めていません。Assistant自身で完結できる仕事だったのです。
Google Cloudの公式ドキュメントでも、Assistantは一回限りのオープンな作業、Agentは複雑なマルチステップのプロセスをエンドツーエンドで実行する場合に使う、と整理されています。
工程が多く見えるからといって、何でもAgent化すればよいわけではない。
これが、今回の一つ目の発見でした。
AIエージェントが動いたのは「Excelを作って」と頼んだとき
次に、同じ会話の中で依頼を一段進めました。
文章の提案Briefだけではなく、営業担当が商談中に条件を入力して使える「PoC投資判断シミュレーション.xlsx」を作ってほしい、と依頼したのです。
Excelには、次の3つのシートを指定しました。
- 資料から確認できた値と、未確認の入力項目を分ける「入力条件」
- 20名・30名のケースで削減時間、削減金額、総費用、投資回収月数を計算する「効果試算」
- 権限、個人情報、KPI、費用などを管理する「リスク・確認事項」
すると今度は、画面に「Agent委譲:あり/file_and_coding_agent」と表示されました。
Assistantは、Google Driveから調べた情報をそのまま丸投げしたわけではありません。
- 確定している数値
- まだ分からない数値
- 根拠となるファイル名
- Excelに必要なシートと計算条件
これらを一度整理し、ファイル作成を担当する専門Agentへ渡していました。
Google Driveの情報を整理し、file_and_coding_agentへExcel作成を委譲した画面(筆者検証環境)
専門Agentは数式を持つExcelを生成し、ダウンロード可能なファイルとして返しました。今回呼び出されたのは自作Agentではなく、依頼内容に応じてGemini Enterpriseが選んだ内蔵Agentです。
流れを簡単にすると、次のようになります。
Google Driveを検索
→ Assistantが判断材料を整理
→ 専門Agentへ委譲
→ Excelを生成
→ 人が確認
ここまで来ると、単なる「ファイルを読めるAI」とは役割が変わってきます。
正直、最初のExcelはそのまま使えなかった
ただし、Agentがファイルを作ったからといって、そこで仕事が終わったわけではありません。
初回に生成されたExcelを確認すると、一部の数式で参照するセルがずれていました。見た目はきれいでも、そのまま商談で使える状態ではありません。
そこで、正しいセルの位置と計算関係を具体的に伝え、もう一度同じ専門Agentへ修正を依頼しました。
修正版では、入力値が足りない場合に「要入力」と表示され、Excel上の数式エラーがないことを確認できました。さらに検証用の数字を一時的に入れ、20名・30名それぞれの検索時間、削減金額、総費用、投資回収月数を手計算と照合しました。
修正版Excelの「効果試算」シート。未確定値は「要入力」と表示(検証用の架空データ)
この確認は、AIが失敗したから仕方なく行ったものではありません。企業で使う以上、最初から業務フローに入れておくべき工程です。
人が見るべきなのは、文章が自然かどうかだけではありません。
- 出典と使用した条件は正しいか
- 未確定情報を勝手に埋めていないか
- 数式とセル参照は正しいか
- 導入事例の効果を保証値として扱っていないか
- 最終的に、この成果物を判断材料として使ってよいか
前回の記事で書いた「AIに何を任せ、どこを人が担うか」という話は、まさにこの部分だと思います。
Gemini Enterpriseの企業活用で見えた3つのポイント
1. 「読める」「判断できる」「実行できる」は別の段階
Google Driveへのアクセス、複数資料の理解と判断、専門Agentによる処理、成果物の生成は、それぞれ別の段階です。一つが動いたからといって、業務全体が自動化できたとは限りません。
2. Agentの数より、仕事の渡し方が重要
今回、提案BriefまではAssistantが担当し、Excel生成で初めて専門Agentへ仕事が渡されました。大切なのはAgentの数ではなく、どの仕事を、どのタイミングで、どんな条件と一緒に渡すかです。
3. 最終判断だけでなく「途中の確認」も人の仕事
Human-in-the-loopは、最後に承認ボタンを押すだけではありません。データ、前提、計算、例外を途中で確認し、必要ならAgentへ仕事を戻すことも含まれます。
AIが強くなるほど、人の仕事は減るというより、作業から設計・確認・判断へ移っていくのだと思います。
おわりに
前回の記事で触れた「AI統括者」の役割が、今回の検証を通して少し具体的になりました。
AI統括者とは、たくさんのAIツールを知っている人ではありません。
Assistantに任せる仕事。
専門Agentへ渡す仕事。
人が確認し、責任を持つ仕事。
この境界を設計し、結果を検証できる人です。
Gemini Enterpriseは、Google Drive上の資料を横断して判断材料を整理し、必要に応じて専門Agentへ仕事を渡せる可能性を見せてくれました。
一方で、権限、データの鮮度、計算の正しさ、費用、運用方法など、企業で継続利用するために確認すべきことはまだ多くあります。
当社でも現在は調査・検証の段階ですが、単に「AIに何ができるか」ではなく、人とAIでどのような仕事の流れを作れるかという視点で、引き続き試していきたいと思います。
Google Cloud Next Tokyo 2026で感じた「回答から実行へ」という変化を、自分の手元でも確かめられたこと。
それが、今回の一番の収穫でした。
参考資料
- Gemini Enterpriseを使ってみる(Google Cloud公式ドキュメント)
- アシスタントとチャットする(Google Cloud公式ドキュメント)
- Agent Designerの概要(Google Cloud公式ドキュメント)
- Codex Use Cases(OpenAI公式)
- ClaudeのGoogle Drive連携(Anthropic公式)
※本記事の内容および画面は2026年8月時点の検証結果です。機能、提供条件、画面構成は今後変更される可能性があります。