【Interview】重度訪問介護福祉業界を牽引する企業として、さらなる業界の発展のため、スタートアップとのオープンイノベーションを推進する
日本国内人口の少子高齢化に伴い介護福祉業界は慢性的な人材不足や、労働環境など様々な課題がある。その生々しい現場をケアワーカーとして当事者として向き合った結果、介護業界を変革しようと、会社を立ち上げ重度訪問介護福祉業界で、積極的にM&Aを活用し、短期間で国内最大手規模になった株式会社土屋が、さらなる成長と業界の発展のために、次に取り組んだのが、スタートアップとのオープンイノベーションの推進だ。
そしてパートナーとして、同じ介護業界の課題解決に取り組むスタートアップ企業である株式会社フェアテクノロジーズを手を組んだ。
両社はどのようにして出会ったのか。スタートアップ企業の株式会社フェアテクノロジーズ代表取締役社長の森本 勇貴様と、株式会社土屋 代表取締役 高浜 敏之様に、本件に対するこれまでの経緯と両社の将来像について伺った。
【プロフィール】
株式会社土屋 代表取締役 高浜 敏之様
1972年10月17日生まれ。
慶応義塾大学文学部哲学科 美学美術史学専攻卒。大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。現在は従業員2,200名以上
株式会社フェアテクノロジーズ代表取締役社長の森本 勇貴様
1993年5月16日生まれ。
大学卒業後、精神病院にて3年間勤務 看護師資格保有
ダウン症の妹のため、障がい者福祉業界の課題解決のため、フェアテクノロジーズを創業。
創業の経緯や解決したい課題を教えてください。
高浜社長
20年前、福祉業界にケアワーカーとして入り、初めて担ったのが重度訪問介護の仕事でした。この重度訪問介護の制度自体、障害を持つ人々による当事者運動によって生まれた歴史があるのですが、私は当時、当事者運動のパイオニア的団体の事務局も担っており、制度を作っていく側の立場でもありました。当事者には1960-70から活動されてきた方が多く、そのような長い歴史を創ってきた方々と歩む中で、ケアを受けたくても受けられないことが、どのような悲劇を巻き起こすのかを間近で見聞きしてきました。これは、生命・尊厳を脅かす問題であると考え、解決に取り組みたいという想いが、創業の背景にあります。
創業以前、私は「営利」に強い抵抗がありました。自分の給料は端に置き、社会貢献に邁進していました。同じような考えの方が介護福祉業界には多いですが、低賃金・キャリアアップが見込めない事から、結婚・出産を機に業界から人が離れて行ってしまう現実にも直面しました。その中で、「営利」であれば「スケールメリットを活かした社会課題の解決」と、「待遇改善、ベースアップとキャリア形成」が可能になる事に気が付きました。ムハマド・ユヌスやマイケル・ポーターなど、ソーシャルビジネスの提唱者の思想にも触れ、これからの社会課題を解決するにはNPOやNGOではなく「ビジネス」が必要だとの考えに至りました。
課題としては、重度訪問介護を必要とする、受けたいと思う人達がいて、受けられる制度があるにも関わらず、実際には受けられていない人達が多くいる「介護難民問題」を解決していきたいと考えています。
制度があるにも関わらず重度訪問介護を受けられない要因としては、2つ考えています。1つ目が我々のような事業所の不足。そして2つ目が人手不足です。人手不足に関しては、福祉業界全体の課題ではありますが、特に深刻な状況にある重度訪問介護の分野に注力していきたいと考えています。我々だけでなく、その他の事業所も重度訪問介護の分野に参入していける環境の醸成が現在の目標です。
社会全体としては、『障害者権利条約』が2006年に国連で可決、2014年に日本も批准しました。2022年、コロナ禍で延期されていた、権利委員会による「第1回の日本の建設的対話」がスイスの国連欧州本部で開催され、結果、日本は国連から以下2点の勧告を受けました。①インクルーシブ教育が遅れている。②現状、19条に準ずる「ノーマライゼーション」の理念に反している。つまりは、地域で暮らすはずの人が施設で過ごさなければいけない状況になっていると指摘を受けているのです。
この結果も踏まえ、我々の介護難民問題への取り組みは、国が国際条約を守る一助となる任務も担っていると考えています。
ゆくゆくは、我々の精神、魂、気合を以て、障害者だけでなく高齢者も含めてサポートできるトータルケアカンパニーに進化していきたいと考えています。
森本社長
私自身の経歴として、元々は看護士として勤めており、妹がダウン症であることをきっかけに、障害福祉の分野に入っていった経緯があります。また、家族で障害者のグループホームを運営しており、その中で、障害福祉教育には大きな格差があることを目の当たりにしてきました。福祉教育の不十分さは、妹含め、障害者の方々に十分なサービスを届けることができない事態を招いています。私はこの福祉教育格差問題を解決したく、創業しました。
今後の課題として、障害福祉業界の教育課題の解決、ひいては業界全体のサービス向上に繋がるようサービスを展開させていきたいと考えています。 法定研修で、福祉教育が必須となっているものの、利益追求型の事業会社の場合、教育に対して十分な資金・時間が充てられていない事が多いのが現状です。そこに、新たに教育担当者を置くなどの物理的な方法ではなく、弊社の「ウェルビーラーニング」を用いて、e-ラーニングを通じての教育という方法を提供していくことで、教育課題の解決をしていきたいと考えています。
資金調達の検討背景を教えてください。
森本社長
e-ラーニングのサービスを充実させる為のシステム費、コンテンツ費の調達が大きな検討背景です。
ただし、出資いただけるのなら誰でも、という訳ではなく、共に同じ業界を盛り上げてくれ、共に拡大していけるような、近い展望の方々からの出資を求めていました。
今回ご紹介いただいた土屋さんはまさに求めていた事業会社様で、つい先日、さっそく岡山の事業所にお伺いして出資をしていただくだけではなく、どのように連携していくことができるかなどビジネス面での打ち合わせをしてきました。
イノベーションブーストを利用いただいた感想はいかがでしょうか。
高浜社長
そもそも3か月ほど前から、ソーシャルベンチャー、特にITベンチャーとの協創、共に社会課題を解決していくことを目標にしていたので、ソーシング・ブラザーズ株式会社のイノベーションブーストを利用しておりました。
その中で、フェアテクノロジーズさんを紹介いただいた時には短期間で自社と親和性の高い求めていたスターとアップとの出会いが実現し、感動すら覚えました。
初回のご面談の両社の印象を教えてください。
高浜社長
法定研修の義務付けもあり、現場の教育・リテラシーの向上と標準化を目指し、これまでも社内での研修は実施してきましたが、コロナ渦の今、現場を担う人達からのクラスター発生は、深刻な事態を招く為、なるべく現場でのケア以外では、オフラインで会わないようにしようという流れが、この数年社内ではありました。研修・ミーティングは全国統一で全てオンラインやっていますが、現在登録ベースで二千数百名の従業員がおり、同時に集まるのはなかなか難しいのが現状です。当初、研修に参加できない方には録画したものを視聴してもらう方法をとっていましたが、YouTubeの平均時間が7-8分、飛ばし見での動画視聴が当たり前となっているこの時流の中で、1時間の録画を見てもらうのは現実感がなく、現場からの反発も強かった為、オンラインでの教育体制の確立方法には困っている状況でした。
その矢先でしたので、簡便かつ従業員の視聴管理もできるフェアテクノロジーズさんのサービスは素晴らしいなと思いました。
まさに求めていたサービスで、「あ!」という感じがありました(笑)
森本社長
高浜社長と初めてお会いした際には、考え方の柔軟性に感動しました。
障害福祉系はトップダウン型の経営が多い中で、高浜社長は従業員とともに創りあげてきたというのが、節々から感じ取れました。 また、先日岡山の事務所にお伺いした際、別会社からのスピンアウト時、殆どの従業員が高浜社長に付いてきたという背景を聞き、それを可能にした高浜社長の人間味・人間力に強く魅力を感じました。短期間で土屋をここまで伸ばすことができた理由はそこにもあるのだろうなと、率直に素敵だなと感じました。
宮本様(株式会社土屋 経営企画)
提携業務のフロントに立ち、様々な会社さんと対話してきていますが、森本社長とお会いした時、まず、誠実な方だなと感じました。社会福祉の教育格差問題に取り組む本気度がにじみ出ており、信頼できる方だと感じました。
今回の出資(提携)の決め手を教えてください。
高浜社長
事業買収や譲渡での株式100%取得の形は何度も経験していますが、部分出資の形をとったのは今回が初めてです。大きな理由はやってみたかったから、ですね(笑)
やってみたかった背景としては、経営者としての自分の経験があります。土屋をスタートした時、信用金庫を始めとする金融機関や個人投資家からの経済的サポートがなければ、今の私たちはありませんでした。私自身は社会運動家やケアワーカー出身の為、経済には疎い立場でしたが、経営者の立場になったことで、経済的サポートの有難味を強く実感しました。だから、「恩送り」じゃないですけど、自分が別の方から戴いた恩を、別の方に返したいという想いがあり、今回出資をさせていただくに至りました。
また、我々にとって今回の出資は試験的な意味合いも含んでいます。今後森本社長たちとどんなことをやっていけるのかが、今後、意欲的に出資の対象を広げていけるかどうかに繋がると考えています。
出資決定の過程としては、取締役並び執行役員ほとんどの方が、「これは良いね」と前のめりでした。即断即決で検討の余地すらなかったですね(笑) 今回の出資は、「私の」ではなく、「みんなの」意見を聞いて、是非やりましょうとの反応を受けての決定ですね。
今後どのように協業していきたいかなど、お考えをお聞かせください。
高浜社長
社会に対して、「一人ではできなかったこと」を共に実現していきたいと思っています。
ただ、若い方の活躍の場を社内外問わず設けていきたいと常々考えていたので、今回の提携は、弊社本社管理部長の大庭(30)に主軸として担当してもらおうと考えています。私は期待しながら、見守らせてもらいたいと思っています。
森本社長
業界最大手の土屋さんが抱える教育課題に対して、満足度の高いサービスを提供することができれば、土屋さんと我々の発展は表裏一体の関係になれると思っています。
今後は、業界全体の課題解決に繋がるよう、サービス品質の向上を加速していきたいと思っています。