目次
SAND-X 代表インタビュー
宇宙では、ないものは全部、自分で作っていた
NASAへのレールを、手放した
一度目の起業が、残してくれたもの
なぜ、宇宙ではなく「地球の地下」だったのか
「調達してから本気を出す」のではない
ひとりでは、たどり着けない
地球の地下から、月・火星へ
SAND-X 代表インタビュー
JAXAで火星探査機を設計していたエンジニアが、いま挑んでいるのは「地球の地下を、まるごとデータ化する」こと。
しかもその足元は、受託で売上を立てながら、たった一人で開発も営業も経営も回す——という、どこまでも現実的な日々です。
夢の大きさと、足元の泥臭さ。その両方を、SAND-X代表・風間友哉さんに聞きました。
風間 友哉(かざま ともや)/代表取締役CEO
東京理科大学大学院、工学修士。学生時代にJAXA宇宙科学研究所で3年間、分散型火星ペネトレータ「MP-FANG」の設計開発。その後、金融領域のコンサルタント、製造業ITのPdM、ヘルスケア領域での起業を経て、SAND-X株式会社を開始。地下にセンサーを分散設置し、地中のデータをリアルタイムに可視化する事業を立ち上げています。
宇宙では、ないものは全部、自分で作っていた
――まずは、これまでの歩みから聞かせてください。
東京理科大学の大学院まで進んで、在学中の3年間は、JAXA宇宙科学研究所で火星探査機「MP-FANG」を設計していました。
ペネトレータは杭の形状をしていて、地面に突き刺さることで地中の観測をする探査機です。
開発していたのは「EDLシークエンス」。大気圏突入(Entry)から降下(Descent)、着陸(Landing)までを担う、過酷な環境を乗り越え設置をすることです。
たとえば、大気圏に突入すると、断熱圧縮によって機体は熱的に酷な状況になります。それを低減するためにさまざまな実験や、解析で火星に設置するとどうなるかを考える。一つひとつ積み上げていきました。
――降下や着陸も、ご自身で?
降下では、はやぶさにも使われたパラシュートを設計し直しドローンで機体を落として、姿勢が安定して着地できるかを検証しました。
着陸はもっと大変で……そもそも実験装置が日本になかったんです。だから、垂直に飛翔体を打ち出す装置から、組み上げました。
――装置から自作は大変ですね!
宇宙開発って、決まった製品がほとんど存在しないんですよ。だからゼロから考えて、必要なものは作る。機体も道具も計測器も。金属加工から始めることも多かったです。
ないものは、もう自分で作ってしまおう。
この感覚は、いまも私のいちばんの原動力になっています。
NASAへのレールを、手放した
――順調に見えますが、大きな分岐点があったとか。
ええ。東大の博士課程から、そこからNASAへインターンに行って、そのまま働く。そんなロードマップを描いていました。
でも、悩みのタネだった経済的な理由で、一次試験合格してからその道は手放すことになって。進んだ先が、金融のコンサルティングでした。
――宇宙から金融コンサルへ。思い切った転換ですよね。
金融のなかでも決済領域で、新規事業の立ち上げを支援していました。ちょうどQRコード決済が一気に広がっていた時期で。
どんな企業が抜け出して市場を勝ち取るのか、それを肌で体感したかったんです。同じことが、いずれ宇宙開発でも起こるはずだと思っていたので。
いずれ宇宙に戻るために、新規事業の感覚と、市場で勝つ戦略を、先に手に入れておく。回り道は、意図のある選択でした。
――宇宙開発の研究者を諦めたことに、後悔はありませんでしたか。
怖さというより「選択肢がないなら新しい選択肢を作ればいい」と考えていました。
なので、研究者になれなくてもビジネスから宇宙開発、特に惑星探査に乗り出そうと。
どんな道を歩んでも、次に自分が何をするかで、人生はまた変えられるので。
一度目の起業が、残してくれたもの
――その後、一度起業されていますよね。
はい。「MakeFamily」というブランドを立ち上げました。周産期と呼ばれる妊活から出産、産後にかけて夫婦の心と体をサポートするサービスです。
たくさんの感謝の声をいただきました。「無事妊娠できました」「夫婦のことを、お互いに考えるようになって気持ちが楽になった」と。
ただ、マーケティングのコストや販売戦略の課題があって、事業は畳むことになりました。
――つらい決断だったと思います。そこから得たものは。
お客様が「お互いを考えるようになった」と言ってくださったとき、自分たちの考えが、ちゃんと価値として伝わったんだと感じました。
失敗したのは事業の仕組みやマーケティングであって、課題の設定そのものは間違っていなかった。そう思えたんです。
だからいまも、お客様の声を大切に、仮説を検証しながら価値を届ける。
これは相手がインフラ事業者でも自治体でも、同じだと思っています。
なぜ、宇宙ではなく「地球の地下」だったのか
――宇宙に戻りたかった人が、なぜ「地下」に?
いま盛り上がっているロケット系の宇宙領域って今、巨大な資本を投下して一気に形にするフェーズなんです。多くの企業が資本力と非常にクイックな開発体制で挑んでいる。
QRコード決済でPayPayが急成長したのと、同じ構図ですね。
多くの企業がいま手が届く範囲で事業化していますが、私はまだ事業にすらなっていない惑星探査をビジネスにしたかった。
私も本音では、周回軌道を飛び出して月や火星にビジネスを広げたい。でも、起業するにあたって、大きな資本も人脈もない。同じ土俵で資本力勝負をしても、勝てません。
そこで、足元を見た。
そうなんです。まだ誰も目を向けていない「地球の地下」。これを広域のデータマップとして企業や国に提供する——そんなサービスは、どこにもありませんでした。
しかも、そこなら宇宙開発で培った技能も考え方も、活かせることが多いのではと。
決定打は、自分が設計してきた火星ペネトレータでした。地面に高速で突き刺さって、地中の状態を観測する探査機。その発想を、そっくり地球に持ち込めばいい。
火星でやろうとしていたことを、地球の足元で先にやる。そういうイメージです。
――「自分が組織を作る」と決めたきっかけは。
特別な出来事があったわけではないんです。ただ、自分のやりたいことに挑んでいる企業が、見当たらなかった。
ダイナミックに事業を動かして、本当の意味で人類に価値を届けたい。そのミッションを描いたとき、自分で組織を立ち上げるのは、ごく自然な結論でした。
「調達してから本気を出す」のではない
――いまは代表お一人で、どこまで担っているんですか。
文字どおり、全部です(笑)。システムだけでも、センサー / 筐体 / 電源 / 通信 / クラウド / Web開発。そこに営業、広報、経営。デザインなんかも。
日々はんだごてを握ったり、材料力学や電子工学で数式を組み立てたり、合間にステークホルダーや関係者と議論しながらコンサルの受託をしています。
- 資金安定化のため金融コンサルの仕事に、稼働を割く
- ビジネス側では、事業者への提案や商談を重ねる
- 空いた時間に、フィードバックを反映しながら設計を見直す
- 週のどこかで、経営の状況を見て戦略を考える
――正直、しんどくないですか。
スピードが出ないのが、いちばんの課題ですね。本当はもっと多くのお客様と話したいのに、時間を当てきれていない。
それでも、芯は手放していません。経営は自分でやり切っているし、開発も設計してビジネスにつなげるところまでできている。そこは譲れないです。
――資金は、いまコンサルの受託が支えていると。
ええ。でも、これを仮の姿だとは思っていません。
経営をしていると、手元の資金だけでは回らない場面が必ず来ます。それを資金調達だけで賄うのは健全じゃない。受託で売上を立てながら、本丸を作る。両方できるのは、すごくいい取り組みだと思っています。
――「調達してから本気を出す」では、ダメですか。
順番が逆だと、調達がメインになって、肝心の事業が止まってしまうんです。
まず売上を立てて、それを事業に回す。その基盤づくりが、結果として大きな調達にもつながると思っています。
――泥臭いフェーズを、あえて隠さないのはなぜ。
ハードもソフトも作るし、いろんな事業者にも会いに行く。本当に幅広いんです。
都合のいい言葉を並べても、来てくれた人とミスマッチになるだけ。好き嫌いせず、何にでも本気で取り組んでやりきれる人に来てほしいから、リアルをそのまま伝えています。
ひとりでは、たどり着けない
――1人体制とはいえ、支えてくれる方もいるんですよね。
はい。専門領域を持つサポートメンバーが、それぞれの立場から支えてくれています。知見を分けてくれたり、つながりのある事業者を紹介してくれたり。
自分が想像もしていなかったところで、事業が広がっていくんです。一人では見つけられなかった道が、仲間との会話から見えてくる。
――これから迎える仲間に、求めるものは。
スキルや肩書き以上に、姿勢ですね。私は、より好みをしないタイプなんです。どんなことにも壁を作らない。
小さいことでも、難しいことでも、取り組む意義を見出してやっていける人。それが積もり積もって、大きなことにつながると思っています。
――どこまで任せるつもりですか。
事業を前に進める判断の多くは、本人に委ねたいです。営業先も、提案先も、どこと組むかも。
いちいち確認を挟んでいたら、スピードが出ないので。日々の判断は、どんどん自分で進めてほしいです。もちろん、経営に大きく関わることや戦略の転換点は、一緒にとことん議論します。丸投げではなく、大きな裁量をもって肝心なところは並走する、という感覚ですね。
ただ、ひとつだけ。裁量そのものは、目的じゃないんです。自由に動けること自体が魅力という人より、その裁量を使って事業を伸ばすことに本気になれる人と組みたい。
――任せることに、迷いは。
ないですね。一人で成し遂げられることなんて、ほとんどないので。みんなの特性や専門性を活かして、どんどん託していきたいんです。
――今このタイミングで入る面白さは、どこに。
カルチャーも、ビジョンも、まだ"これから"なんです。会社としてどうあるべきか、というところから一緒に考えて、基礎を作っていける。
会社のベクトルそのものを、一緒に定めていける。これはかなりダイナミックで、自分の心にも熱い火がつくことだと思っています。
地球の地下から、月・火星へ
――この事業がうまくいったら、世の中の何が変わりますか。
まず、災害への備えが変わります。人口減少や気候変動で、民間を含む社会インフラの保守はどんどん難しくなっている。
地下の状態がわかると、その上に建つインフラの状態も見えてくるんです。斜面の土に雨で水分が溜まって水圧が上がると、崩壊して人的リスクや事業リスクがでてくる。そういうことを未然に防ぎたい。
川の増水や氾濫、堤防の決壊も、地中を測ればリアルタイムで兆候をつかんでいけると考えてます。
――その先に見ているものは。
これが面的に広がると、地球上すべての地下の情報がわかるようになります。
広域をリアルタイムで監視して、気づいていなかったリスクから事故を防いだり、より効率的なインフラの事業運営が可能になったり。
はたまた、センサの搭載やAIによる処理によって、まだ見つかっていない資源が見つかったり。人類の持続可能性そのものにつながると思っています。
そして最後は、また宇宙に還ります。月や火星にこのデバイスを大量に設置すれば、基地を作るときの基礎データをすべて供給できる。惑星規模で、独自のインフラを作れるんです。
イーロン・マスクが月にデータセンターを作るときに必要な基礎データはSAND-Xが提供するーー
――5年後、10年後は。
5年後には、日本全国広域にSAND-Nodeを設置していたい。10年後には、もう月や火星にアプローチを始めて、実際にデータを取れているところまで持っていきたいですね。
冒頭の「火星に刺す探査機」は、比喩じゃないんです。地球の地下を経て、また宇宙へ続く一本の道のり。その途中に、いまのSAND-Xがあります。
夢の大きさと、足元の泥臭さ。その両方を、同じ熱量で本気で語れる人は、そう多くありません。
きれいごとを削っても、それでも残るワクワク。
少しでも心が動いたら、まずは気軽に話を聞きに来てください。