資金調達&プロダクト3周年記念noteリレー|RightTouch
シリーズAの資金調達とプロダクト3周年を記念して、RightTouchメンバーによるnoteリレーを開始します。
https://note.righttouch.co.jp/m/md84f0da0727f
※この記事は2025年6月に『RightTouch公式note』に掲載した記事を転載しています。
UNIQLOの接客スタイルは「話しかけない」。
この一見矛盾した戦略こそが、世界最強のカジュアル衣料ブランドを作り上げた秘密だった。
普通のアパレル店なら「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」から始まる。しかしUNIQLOは違う。商品を自由に手に取れる環境を整え、困った瞬間にだけスタッフが現れる。
これは単なる接客スタイルの違いではない。LifeWearという哲学を元に事業を運営するUNIQLOは「顧客感覚」を極限まで研ぎ澄ませた結果、従来のアパレル業界とは全く違う価値提供の形を発明したのだ。
では、彼らはどうやってその「顧客感覚」を身につけたのか?そして、なぜ多くの企業はデータに囲まれながらも、本当の顧客理解に辿り着けないのか?
本題に入る前に、これは自分が所属するRightTouchの資金調達を記念して始めた連載noteです。実は4月から1.5ヶ月ほど続けてきた連載も今日で閉幕。自社の話ながら、毎日楽しみにしていた一読者としては少しさみしいです。
RightTouchはエンタープライズのカスタマーサポート領域変革を目指してSaaSプロダクト群を開発・提供するスタートアップです。このAI時代へ急転換していく世の中で、カスタマーサポートがどのような地殻変動を起こすのか、そして企業と生活者の関係性がどう進化するのかについて、「顧客感覚」をテーマに紐解いてみます。
職種を問わず顧客に向き合うさまざまな人へ、この記事の要素が少しでも思考の刺激になれば嬉しいです。
佐瀬 ジェームズ幸輝 / Koki James Sase
中央大学法学部卒業後、新卒で博報堂に入社。
プランナーとしてDigital/Techを軸とした戦略〜企画制作に従事。
2016年からCXプラットフォーム『KARTE』を提供するプレイドに参画。BizDev、Brandを経てKARTEプラットフォーム内外の新規事業開発、プロダクトマネジメントを歴任。2023年秋よりRightTouchに参画、Product Marketing & Talent Experienceをリード。
前置き
鍵は顧客視点?
“視点”を”感覚”に昇華させるー「顧客感覚」の正体
AI時代の革命的な能力拡張と新しい活動サイクル
まとめ
さいごに: 仲間を探してます
生活者と企業の距離は、デジタル、スマホ、そしてAI時代を経てどんどん近くなっている。
近づくことで企業活動には計画の前に「観察」が生まれた。「OODAループ」はまず顧客を見て、課題を掴み、アクションする考え方だ。
PDCAからOODAへ
見えないものを見ようとして四苦八苦してた時代を経て、今では企業はすぐに顧客の実態を見れたり聞けたりする。何を求めているのか?が分かれば、提供するものは定まってくる。
では、世界は(まずは日本は)より豊かになったのだろうか?いいモノやコトは増えたが、まだまだ多くの日常に行き届いていない。困ることは多いし、想定と実態にギャップがあることばかりだ。
それは当然かもしれない。どれだけいいプロダクトやサービスを作っても、作り手の思う100%が価値として届くとは限らないからだ。
わかりやすい例として、沖縄旅行の話をしてみる。
A/Bで日々の過ごし方や得られる体験は大きく違った。初めての沖縄旅行だったら前者がいいかもしれない。一方、旅行が大好きな自分にとって後者は、旅行前も旅行中も困りごとがないどころか、自分一人では得られない面白さに溢れていた。体験価値の高い旅行だったと思う。
友人とだからできたことでしょう、と言われたらそれまでだが、これは企業の商品やサービスでも実現できる。
たとえば旅行代理店で働く人は得てして旅行好きが多い。つまずき点も熟知している。もし、大の旅行好きにフォーカスして100%振り切った体験を提供するのであれば、働く彼/彼女らのナレッジをフル活用したエッジの効いたプランを組むことで旅行代理店から新しいサービスが生まれる可能性がある。
いい顧客視点を持つことができると、体験が磨かれたり、より良いサービスが生まれる。
OODAループとはまさにいい顧客視点を持つための顧客観察・気づきを得る行為だが、ここで扱う「いい顧客視点」の1つの解釈としては、「自分が顧客(のように)になっている状態」ではないかと思う。
先の沖縄の例では、同行した友人は(本人はその意識はないと思うけど)旅行のコンダクターの役割を兼ねている。価値享受者(顧客)が価値提供者(企業)に変わるときに、いいサービスは生まれやすい。
しかし、陥りやすい落とし穴がある。ただただ顧客に寄り添えばいいのか?と思うと、きっとそうではない。
経済学者/哲学者のマイケル・ポランニーは「人は自分が本当に知っていることや欲していることを必ずしも言葉にできない」と暗黙知を説いた。プロダクト開発でよく語られるように、ユーザーヒアリングや表層的な観察から得た発見を開発に取り入れるだけでは、色のない商品になる。
顧客視点とは企業側が一方通行的に会得するものではなく、顧客の感覚とシンクロすること。
左も効果的だが、右がもっと大事
そうすれば、誰(どんな顧客)を大事にするべきかも見えるようになってくる。
顧客感覚の正体を理解するために、少し違う角度から考えてみたい。
なぜ一流のクリエイターは、自分とは全く異なる人物の心境をリアルに描写できるのだろうか?
小説家の辻村深月は、思春期の女性の心理描写で知られている。男性である私が彼女の作品を読むと、なぜか圧倒的に共感してしまう。
"私は『どこでもドア』なんか持ってなかったんだと思い知る。
どの友達にも合わせて溶け込める。どこにでも入っていけると思っていたけど、それは間違いだった。"
(辻村深月『凍りのくじら』)
"ずっと話し続けていること、義務のように頻繁に会うばかりが友達でないこと、それがわかる年になったことが感慨深かった。"
(辻村深月『ゼロ・ハチ・ゼロ・ナナ』)
この文章を読んだとき、性別も年代も違う自分がなぜこんなにも「わかる」と感じるのか不思議だった。
答えは、彼女が持つ「超高解像度ペルソナ」にある。表面的な観察ではなく、その人の感情や行動の根源まで理解できるレベルまで相手に同期している状態だ。
漫画『左利きのエレン』では、天才クリエイターの特徴をこう表現している:
「相手をめちゃくちゃ高い解像度で理解すること。そこまでできたら、その人が何を求めているかがわかる」
まさにこれだ。一流のクリエイターは、ターゲットとなる人物を自分の中で完全に再現できるほど深く理解している。だからこそ、経験がなくとも追体験できるような、心に刺さる作品を生み出せる。
これこそが、企業が顧客に対して持つべき感覚なのではないか?
データで「20代女性の購買行動」は分析できる。しかし、「なぜその瞬間にその商品を手に取ったのか」「購入後にどんな気持ちになったのか」「どこで困ってしまうのか」まで理解できているだろうか?
顧客感覚とは、この「超高解像度ペルソナ」をビジネスの現場で実装することなのだと思う。自分のなかで相手自身を高精度で理解できるくらいの共鳴状態になれば、おのずと価値とそれを届けたい相手は決められるはずで、そのレベルで思考した先では痺れるようなwowのある体験が生まれやすい。
では、この考え方は企業活動では活かせないだろうか?あるいは、身につけられないだろうか?
あるとき、エンタープライズ企業の事業企画の方と雑談しているときに興味深い話があった。
マーケティング・キャンペーンや新商品に関しては企画段階で、社内で長年オペレーター(カスタマーサポート)をやっている人に相談するようにしている。その方は、企画がどういう顧客に好まれそうか、どこで顧客がつまずきそうか、(市場や社会的に)炎上しそうなリスクがどこにあるかなどをすぐに返答してくれるらしい。その感覚も取り入れて企画を練り直す。このプロセスを経るからこそ、企画はいいものになるのだと。
自分も含め、ユーザーリサーチやABテストをがんばって回して立証している人からすると、とても羨ましいシーンに感じると思う。これまでの手法ではコンバージョンや需要性の検証はできても、体験の検証は極めて難しい。
なぜ先の例のオペレーターは実現できたのだろうか?
これは日々の顧客コミュニケーション(問い合わせ応対)の反復により、顧客感覚が備わっているからできることだと思う。毎日カフェやアパレルショップの店頭に立って接客したり会話をしていると、曜日時間帯・性年代・外見などから顧客の考えや求めるものの嗜好性を掴めるようになったりするような変化と同じことがカスタマーサポートに起きている。
顧客感覚は観察→洞察→行動→観察..を繰り返すなかで脳内で構築されるものだと考える。そこで、強い追体験と自分の感覚を重ねて、血肉になる、つまり感覚を身につけていく。
顧客感覚を身につけるサイクル
このUIに変えたら顧客はこう行動してくれるはず、このクリエイティブはこれくらいのCTRを出すだろう...デザイナーやマーケターでも日々の反復から作られる感覚はある。その「顧客版」がカスタマーサポートの環境では育まれやすい。
顧客感覚を駆使した価値の予測的な検証(Value Prediction)はあらゆる企業活動を好転させるように思えるが、長期間の反復を要する一種の職人芸的なものなのであればすぐに取り入れるのは難しい。
しかしながら、AIは一足飛びで私たちの能力拡張を促してくれる可能性を秘めている。
顧客感覚を身につける鍵は、顧客の声に触れること。これまでは圧倒的な反復量を必要としていたが、これまでの数倍、数十倍のスピードで実現できる状態へAIは自分たちを連れていってくれる。
生成AI時代において「声」は非構造化状態のバラバラな文字情報から、Google Analyticsで取得できるWebトラフィックのようにスキーマが統一された構造化データに変化していく。これまで反復を通じて人の脳内でサマライズ・解釈されてきたような顧客感覚は、観察→洞察部分を中心にデータとして可視化できるようになる。
顧客のつまずきやインサイト、大事にすべき顧客像を瞬時にインストールして活動につなげられる。そしてそれがまた学習になる。
弊社プロダクトUIですが、あくまでこの話のイメージとして
さらには、Voice Interfaceはデジタルのリテラシーに依存せず、一足飛びであらゆる人の第一義的な受け口にもなり得る。その世界では活用できる「声」の総量は想像もつかないくらい増えそうだ。
顧客感覚を高速で身につけられる、超高解像度ペルソナを体現できる人が増えたら、PDCA→OODAと歩んできた企業のバリューチェーンは大きく進化するはず。自分の妄想でしかないが、それを”OVAL”というサイクルで表してみた。
顧客感覚を取り入れた活動サイクル"OVAL"
- Observe/Orient: 顧客を観察して、示唆を得る
- Verify: 顧客感覚と照らし合わせる(定量/n1)
- Action: 検証を元に実行する
- Listen: 実行への反応(声)を得る、聴く
「Verify」と「Listen」がまさにカスタマーサポート的な感覚:顧客感覚を表す特徴となる。AI時代ではO→Vの速度を圧倒的に上げられるため、得た仮説を顧客感覚のある人に当てることもできるし、声から定量的な確度と照らし合わせることもできる。O→V自体を自動化することもあり得る。実行後はすぐに結果としての声が貯まり、次のサイクルにシームレスに活かされる。
カスタマーサポート出身者やそのデータ群が「顧客感覚をもつ顧客の専門家」として企業活動のサイクルに大きく入っていくことができれば、どういう顧客とどういう関係性を作っていきたいのか、そこにはどんなギャップがあるのか、何倍、何十倍の解像度で進められるようになる。
冒頭のUNIQLOに立ち返ると、彼らは良い意味で顧客を選び、自分たちの価値提供スタンスを明確に示している。そこにカスタマーサポートが絡んでいるのかは現時点では定かではないが、顧客感覚に優れ続けている人がきっといるのだろう。
多くの産業でコモディティ化が進み、AI時代で各企業が没個性化するなかで、「顧客感覚」は新たに生活者と企業の関係性を変える可能性を秘めている。それは、カスタマーサポートという接点をハブに始まるかもしれない。
なぜエンタープライズでカスタマーサポートから変革が始まるのか?
理由は明確だ。エンタープライズ企業のカスタマーサポートには、最も濃密で多様な顧客の声が集積している。一般的な企業とは比較にならないほど複雑で深い顧客課題が、毎日のように舞い込んでくる。この「顧客感覚の源泉」を活用できれば、企業全体の意思決定は根本から変わってくる。
爆発的に増える声と文字ベースの声をAIが蓄積・構造化し、瞬時に企業の意思決定層まで行き届く。そうすれば、クリエイターが超高解像度ペルソナで心に響く体験を生むように、カスタマーサポートからマーケティング、プロダクト開発、経営戦略まで、すべてが顧客感覚に基づいて動き価値を作るような企業が台頭するのではないか。
UNIQLOレベルの顧客感覚を、あらゆる企業が持つことができれば、AI時代の人の創造性はこれまでよりも圧倒的に発展するはずだ。
最後までお読みいただき本当にありがとうございました。
後半に出てきた「OVAL」は直訳で「卵」の意味があります。この新しい卵が、生活者と企業の関係性を大きく変えるほどのすごい存在として孵(かえ)ってほしいなと思っています。
AIによる進化への強制は本当に人を高めてくれるのか、正直まだわからないと思います。結局、近道はなくて時間と共に培われた肌感が最強かもしれない。でも、そういった感覚を持てるプレイヤーが増えればそれは世の中にとっていいことになると信じたい。
RightTouchはそう信じてエンタープライズの領域からカスタマーサポートの変革にDataとAIの力でチャレンジしている会社です。
記事のどこかでちょっとでもいいなと思ってくれたら、ぜひお話しましょう。やれることの多さに対してまだまだ進捗は作れていないんです。一緒に挑戦できる仲間を常に探しています。
<採用強化中:RightTouch採用概要>
資金調達に伴い、カスタマーサポート領域全体の変革に向けた事業をさらに推進すべく全職種で積極採用中です。
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