※この記事は2025年6月に『RightTouch公式note』に掲載した記事を転載しています。

1. はじめに

はじめまして。RightTouchでプロダクトエンジニア（PdE）を務めているtakkenです。現在はLLMを活用したVoC（Voice of Customer）分析プロダクト「RightVoC」の開発を担当しています。RightVoCのリリースから半年間、PMF（プロダクト・マーケット・フィット）を目指して取り組んできた実経験をもとに、「どのようなマインドセットで動き、どのようなプロセスを回したのか」「その結果、どんな成果があったのか」「今後どのように進めていくのか」をまとめました。PdMの役割を兼任しながら事業成長に貢献したいエンジニアや、顧客に深く入り込んで課題解決を目指すエンジニアの参考になれば幸いです。

RightTouchは先日、ファーストプロダクトであるRightSupportが3周年記念を迎え、この度シリーズAの資金調達を行いました。

3周年記念と資金調達を記念して、RightTouchではリレー形式でのブログ投稿を行っています。

2. カルチャーとマインドセット

2.1 顧客解像度を高める

RightTouchでは、エンジニアがプロダクトの方向性決定に関与しやすい文化があります。そのため、専任のPdMはいません。エンジニア自身が顧客課題を理解し、企画から実装までリードすることが期待されています。

• 顧客ミーティングへの積極的な参加
  RightVoCチームでは、最初のクライアントとの打ち合わせには基本的に全員で参加し、業務フローや抱えている課題を徹底的にヒアリングしていました。参加ができない場合などは後から議事録や動画でキャッチアップすることも多いです。しかし、気になることがあったときにその場で質問をしたり、今後、顧客と直接やり取りするための関係性を構築するというメリットは大きいと思っています。
• 1顧客・1エンジニアのアサイン体制
  クライアントが増え始めてからは、基本的に1顧客に1エンジニアをアサインし、担当エンジニアが顧客との対話を通じて最新状況をキャッチアップしたり、生成AIプロンプトの最適化などカスタマーエンジニアやカスタマーサクセスのようにオーナーシップを持って対応しました。場合によっては、一人で顧客オフィスに赴き、4時間以上かけて直接ヒアリングを行い、仕様や改善ポイントを深掘りしてきました。
  この体制になったタイミングで、RightVoCチームでは「VoC Time」と呼ぶ毎朝1時間程度のディスカッションの時間を設け、各顧客の要望やフィードバックをチーム全体で共有・議論する仕組みを整えました。これにより、各エンジニアが常に顧客の声をアップデートし、プロダクトに反映し続ける体制を構築しています。

2.2 成果（アウトカム）を最優先する

多くの企業では「どれだけ多くのタスクを消化できたか＝アウトプット量」で評価されがちですが、RightTouchではエンジニア自身もPdM的な役割を担うため、事業価値に直結するアウトカムを最優先することを常に意識しています。

• 事業指標へのコミット
  リリースからPMFを目指すフェーズでは、新規顧客獲得や既存顧客のアップセル、チャーンリスクの低減など、具体的な事業指標を常に意識して開発の優先順位を決定します。
• 新規顧客獲得を意識した優先度判断
  今回はリリース直後のプロダクトであったため、新規顧客獲得という点を重視していました。例えば既存顧客から上がってきた要望のうち「商談のデモ映えしそうな機能」は比較的優先度を上げて開発しました。これによって営業チームがデモを活用して効率的に商談を進められる環境を整え、短期間での検証と受注につなげています。

商談も既存顧客とのミーティングもほぼ毎日あるため、状況は日に日に変わっていきます。それに伴って「VoC Time」のなかで機能開発の優先度や仕様についても議論し、毎日アップデートをおこなっていました。ここでの意思決定が的確でなければ、どんなに開発を頑張っても事業は成長しないという状況になってしまうので、全員が納得いくまで徹底的に議論することを心がけています。

3. 高速で回す開発プロセス

3.1 リファレンスカスタマーとの短いPDCAサイクル

RightVoCでは、プロトタイプを素早く作って実装し、即デモを行い、フィードバックをもらって改修するというPDCAサイクルを可能な限り短期間で回すことに注力しました。

• とりあえず動くものをすぐ用意
  顧客から要望をヒアリングしたら、最短で「動作確認できる簡易実装」を用意し、その場で動かしてもらいました。
• 定例ミーティング頻度
  初期フェーズでは週2回の定例ミーティングを行い、必要に応じて追加ミーティングも設定しました。
• コミュニケーション体制の強化
  コーディングエージェントの導入により、実装そのもののスピードは飛躍的に向上しました。その分、顧客との要望の擦り合わせがボトルネックになりやすかったため、チャットツールを用いてやり取りしたり、「今日10分くらい話せますか？」とこちらからラフに連絡をして定例以外でもサイクルを途切れさせないようなコミュニケーション体制を意識しました。

3.2 リスクを受け入れて素早くリリースする

PMFフェーズでは「すぐ出して、すぐ直す」という判断基準を重視し、過度な内製テストやレビュー工程は極力省きました。

• 完璧よりまずリリース
  機能が完全に動作するかという不安がある場合でも、重大なリスクが存在しないと判断した際には即座にリリースし、万一バグが見つかればすぐに修正しました。
• リスク許容度を高めることでスピードを担保
  PMFを狙う段階では、むしろ「リスクを恐れて開発速度を落とすこと」が最大のリスクです。エンジニア全員が「まず仮説検証」「問題があれば即対応」というマインドセットを共有し、「PMFを阻害しないリスク」と判断できる場合は、リスクを取って進めました。

4. 得られた成果と学び

4.1 クライアントからの高評価

高速でPDCAを回し続けた結果、顧客からは「要望を伝えた翌日には動くデモを見せてもらえる」という体験に好意的なフィードバックを多数いただきました。実際に「昨日リリースした機能が商談の決め手となって受注につながった」ケースもありました。PMFという軸はぶらさずに、スピードを優先したことによる大きな手応えを感じています。

4.2 ビジネスメンバーとの相互リスペクト

開発チームが新機能を頻繁にリリースする中で、全ての情報を共有しきれない状況や不具合の発生などもありました。しかし、ビジネスメンバーは一切文句を言わずに臨機応変に対応し続け契約を決めてきてくれるため、スピードを落とさず開発を続けることができました。一方で、ビジネスメンバーも「要望がすぐに反映される」「新機能がどんどん増える」というスピード感に対してエンジニアにいつもリスペクトの気持ちを示してくれました。こうした相互の信頼とリスペクトによって、両者が楽しく働ける環境が生まれモチベーションの向上にも大きくつながったと思います。
ある日の商談中のSlackスレなのですが、良好な関係性が少しでも伝わればと思います。

5. これからの展望

5.1 クライアント数急増への対応強化

この数ヶ月で想定を大きく超える数の契約が決まっており、これから一気に利用が始まるフェーズに突入しています。これまでのような限られたコストを攻撃力に全振りしたバーサーカースタイルの開発はかなり限界にきました。

• 顧客サポート体制の拡充
  利用者が増えるほど問い合わせや要望が増えるため、カスタマーサクセスとの連携を強化し、開発チームがコア開発に集中できる環境を整える。
• ドキュメント整備とガイドライン化
  クライアント数が増えるにつれてナレッジ共有の重要度が高まるため、社内外に向けた技術ドキュメントや利用ガイドを整備し、スケーラブルなサポート体制を構築する。

5.2 安定稼働のための“守り”の体制づくり

利用ユーザーが増えるにつれ、「高速リリースだけではなく安定稼働も欠かせない」というフェーズになりました。これまでのような攻撃力に全振りしたバーサーカースタイルの開発はかなり限界になってきたので、今後は以下のような守りのタスクの優先度を上げつつ開発していきます。

• 自動化テスト/監視の強化
  単体テスト・結合テストを自動化するとともに、本番環境の監視・アラート体制を整備し、障害発生時に即座に対応できる仕組みを構築する。
• インフラとセキュリティの堅牢化
  エンタープライズ向けサービスとして、インフラの冗長化やセキュリティレビューを徹底し、ミッションクリティカルな要件を満たす運用体制を整える。
• 保守性を意識した設計リファクタリング
  高速開発フェーズで優先した簡易実装を、徐々にリファクタリングして可読性・保守性を高め、将来の機能追加やトラブル対応を容易にする。

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