はじめまして、プランティオの芹澤と申します。社内でWantedlyをはじめとする採用に力を入れよう、という話が出た際、何を一番はじめにお伝えすべきか散々悩んだのですが、やはりここからお伝えする事にしました。結果的にものすごい長編になってしまいましたがお許しくださいませ。
わたしたちプランティオとしてみなさんに伝えたい事は他にもたくさんあります。このストーリーの他にも「農と農業の違い」や「アースコンシャスで持続可能な食と農の姿」、「わたしたちが考えるアグリテインメントとは?」などのテーマでも追々書いてみたいと考えています。
さて、まずは一体このタイトル何なの?とお思いの方もいらっしゃるかと思いますので、ご説明させて頂きますと、わたしの祖父である芹澤次郎が1949年に東京・渋谷で『プランター』という製品を開発致しました。
えっ?プランターって英語じゃないの?とお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、イギリスや、アメリカでは植物を栽培する容器は、通常、Pots(ポット)やContainer(コンテナー)という呼称が一般的で、英語ではPlants + er(人)という言い方はしません。(植物な人って変ですよね。)
余談ですが、PLANTIOという社名は、祖父はERを付けましたが、わたしたちはIOを付けました。これはデータのIn/Outという意味でもあり、PLANTIOはポルトガル語で”農耕”を意味しますし、日本語の”愛を”という3つの想いを込めています。
そんな”プランター”という名称を発案し、アメリカで見たポリプロピレンという当時最先端だった樹脂の特性に心を惹かれ、この特性は植物の育成に使える!と思い立ち、6年の歳月をかけて製品としては1955年にリリースしました。
当時の渋谷はどんどんとマンションが立ち並び、すごい勢いでみどりが失われて行っている時代でした。戦前に「芹澤製作所」というプラスチックを扱う会社を静岡で創業していた祖父は、そんなみどりが失われていく時代に、せめてベランダでだけでもみどりに触れてもらいたい、アグリカルチャーに触れてもらいたい、という一縷の願いを込めて製品を開発したそうです。
戦後、何を作っても”発明”になったあの時代に、祖父が 植物を育成するためにフォーカスしたプロダクトを6年もかけて開発しました。 そんな祖父の開発にかける情熱は、手記として遺した開発記録に書かれていた”プランター それは いのちの ゆりかご”という言葉にも表れていると思います。
※プランターを発明した会社「 セロン工業 」のリンクも貼っておきます。祖父が創業した会社です。このあたりのストーリーは、糸井重里さんの「ほぼ日」さんで詳しく取り上げて下さっていますのでそちらをご覧くださいませ。
さて、そんなルーツを持つわたしですが、2015年にこの プランティオ というスタートアップを創業しました。経済産業省 J-Startup 認定のスタートアップです。今振り返れば本当にダメダメと言いますか、不器用といいますか、本質が理解できていないというか、お恥ずかしい話し、創業当時、ハードウェア領域で、Smart XXXというものが流行っていたこともあり、創業当初はSmart PlanterなるIoTプランターを全力で開発しておりました。
あまりに全力過ぎてアメリカ・ラスベガスで行われる世界最大級の家電見本市「CES」にも出展しまして、大反響を頂きました。(後述しますが、すでにこの時プランターのみならず屋外の農園用に転用する準備は進めていたのですが、CES出展には間に合わずSmart Planterでの出展となりました。)
ソーラーパネルだけで半永久的に駆動するエナジーハーベストなデザインで、BLTとWi-Fiを通じ、ベランダのデータをクラウド上に送信し、クラウド上でAIが自動学習し、場所や環境に応じて最適な栽培方法をアドバイスする、というそれはそれは世にもすばらしいプランターでした。
もちろん、IoTプランターを作る事自体はダメではないと思います。中長期的には必要な手段であり、これを欲している方も現在でも多数いらっしゃいますし、GIGAスクール構想などとあいまり、 ICT食農教育 と言う文脈でいまでも学校からの問い合わせなども日々頂戴している状態です。
ですが、どうでしょうか?これではテクノロジードリブンではないでしょうか?世のハード系スタートアップあるあるで、「技術」や「できる事」が先行し、それを起点にビジネスを組み立てても、「手段」を作っているだけで、本当に創りたい社会や世界は作れないのではないでしょうか?
お恥ずかしいことに、猪突猛進型の性格もあり、しばらくそれに気が付かなかったんですね。それに、周囲もそれすごいね!!という反応もあり、まったく本質に気が付いていませんでした。
って、エラそうに言っていますが、当時は本当に気が付いていなく、ある日、共同創業者の孫泰蔵さんハードウェアのプロトタイプを見せに行った際に、「いつまでもそんな手段に拘ってるんですか?そんなに手段に拘っているなら出資したお金引き上げますよ、だって、おじい様の発明の本質は、人々にアグリカルチャーに触れる機会を創ったことでしょう?」と諭されました。当時は正直、衝撃過ぎて、その泰蔵さんとの打ち合わせ以来、あたまが真っ白になり、数か月こもりっきりでずっと自宅にいたのを覚えています。
いまでもその気付きを下さった泰蔵さんには頭が上がりませんし、あの時の愛ある𠮟咤は生涯忘れません。そのあたりのエピソードはForbesさんや、ライフハッカーさんが特集して下さっていますのでよろしければこちらをご覧くださいませ。
そんなあたまが真っ白になり、数か月なにもできなかったわたしですが、ある日転機が訪れます。それは、知人から参加してみなよと勧められたクックパッドさんのアクセラレータープログラムに参加した事でした。
2012年に とある仕事 でオランダに赴任させて頂いた際、「アーバンファーミング」という言葉を知りました。アーバンファーミングとは、従来の農業(マクロ・ファーミング)に対して、どこでもだれでもできる、一般の方の農的な活動(マイクロ・ファーミング)を都市部(アーバン)で行う事を指します。わたしたちは、このクックパッドさんのアクセラレータープログラムを通じ、孫泰蔵さんがくれた”祖父の発明の本質は食と農に触れる機会を創った事でしょ?”というヒントと、かつて2012年にオランダで見たあのアーバンファーミングの光景が繋がり、この時代に於いて本質的に何を成すべきかが見えてきました。
そして、2018年1月、わたしたちは従来開発していた野菜の栽培ナビゲーションシステム(Crowd Farming System)を軸に、一般の方々が食と農に触れる機会は、なにもプランターだけではなく、グローバルで急加速するアーバンファーミングや、将来的には屋内で野菜を栽培する「 インドアファーミング 」というあらゆるところで農に触れるタッチポイントを創出し、持続可能な食と農を営むという壮大なVISIONへアップデートしたプレゼンテーションを行い、130社の応募の中から13社のプレゼンテーションに漕ぎつけ、そして最終選考の結果、最後の5社に選抜されました。
ここで、簡単ではありますが、グローバルで加速するアーバンファーミングについてお伝えしますと、イギリス・ロンドン、アメリカ・ニューヨーク、ドイツ、オランダ、デンマークといわゆる環境先進国と呼ばれる国々はどんどん民主的な野菜栽培、持続可能なスタイルの食と農を推奨し、社会実装を進めています。
▼アメリカの事例
こちらの記事と、Brooklyn GrangeのWebサイトをご覧いただくと様子が分かると思いますが、ニューヨークではこのムーブメントを火付け役に屋上や公園、空いているスペースに多くのコミュニティ農園が数多く出来ています。
▼フランスの事例
フランスでも2020年に「NATURE URBAINE(ナチュール・ユベンヌ)」というヨーロッパ最大級の屋上農園がオープンしています。遠くにエッフェル塔が見えるのですが、パリの中心地から近い都市部のど真ん中にこういった農園があるのです。パリの市長は 2024の五輪へ向けてパリを”地産地消の都にしたい”と意気込んでいます。
▼イギリスの事例
そして、驚くべきはイギリス・ロンドンの事例です。なんとロンドンの市内には3000か所を超えるコミュニティ農園があり、120万トンの野菜が一般の方の手によって栽培されているそうです。このサイトでは農園の情報や、ボランティアの呼びかけなどが行え、同時にアーバンファーミングのノウハウも寄付をすることでPDFなどでもらえる、という仕組みです。
▼デンマークの事例
そしてとうとうデンマークでは、デンマークの首都コペンハーゲンの市議会で、誰もが自由に取って食べることができる「公共の果樹」を市内に植えることを決定しています。国家レベルでの取り組みです。
とりわけ、コペンハーゲンではこちらのレストランが人気で、レストランのすぐそばに農園があります。このスタイルを”Farm to Table(農場から食卓まで)”といい、世界では爆発的にお店が増えています。ミシュランでも 審査の基準にエシカルという概念が盛り込まれ 、環境にやさしいお店でないと星が取れない世界へ突入しています。
合わせて、EUではJETROさんのまとめにもあるように、このFarm to Tableを 戦略的に進めています 。
農業とは違うアーバンファーミングには「地域活性」「食農教育」「環境貢献」「食糧自給」という4つのよい点があり、特にEUでは大量生産大量消費から脱却し、地産地消型へシフトすることでフードマイレージの削減や、食品ロスを減らしたり、生ごみをたい肥化して使ったりと環境負荷が低い食糧生産をするだけではなく、昨今のウクライナ情勢などを鑑み、食糧安全保障の文脈で、自分たちでも安心・安全な食と農を自ら担保し、アクセス可能な状態にしよう、という取り組みなのです。農業一択のみに依存するのではない、自分たちで担保する”食のインフラ”、世界では各国自国内で「グリーン・フード・インフラ」の構築が急務となっています。このあたりは、お話ししだすとものすごく長くなりますので、ぼくの大好きな新保さんの著書をご紹介させて頂きますね。
このようなマクロトレンドの中、わたしたちは祖父の「一般の方々が食と農に触れる機会を創出したい」という想いを現代にアップデートし、”grow”というプラットフォームを開発しています。
わたしたちが元々Smart Planter向けに開発したIoTアグリセンサーを、プランター部を分離し、スティック型に変更、このIoTセンサーを農園や、プランター、インドアファーミングに挿すことで、野菜の方から「水やりして下さい。」とか「そろそろ間引きのタイミングですね!」や「そろそろ収穫時期です!」というのをベストタイミングで教えてくれるシステムです。
スマホアプリに通知が来ますので、通知を見たら、農園やベランダに行って頂き、アプリを起動、そうすると未読バッジが出てくるのでそこをタップするとナビゲーションが起動、『今しなければならないお手入れ』を教えてくれる仕組みです。
さらには、野菜が収穫できるようになったら、近隣の飲食店とマッチングし、上記にご紹介したようなFarm to Tableが実際にこの日本でもできるようなプロダクトです。
そして、EUをはじめとする環境先進国ではもはや常識となりつつあるアーバンファーミングによる環境貢献、まだまだ海外ではアナログなアーバンファーミングが先行しているので、デジタライズ(DX)はされていませんが、わたしたちのgrowシステムであれば、すべて同一のセンサーが挿さっているため、みどりが増えることによるヒートアイランド現象への貢献度や、食の生産量、農業ではありませんので地産地消型になった際のCO2削減量(理論値)、生ごみをどれだけ削減できたか?などもICTやIoT、AIのパワーがあれば可視化する事ができます。まさに、ITの持つ”可視化”という側面の本領発揮です。
さらには、都市DXの流れを受け、どんどん地域通貨や仮想通貨、暗号通貨が台頭してきていますが、わたしたちの"grow"では、一部エリアで地域の都市OSと連携し、みなさんがgrowを使い「水やり」や「間引き」、「誘引」などのお手入れ(農的活動)を行って頂くとポイントがもらえ、それをクーポンに変換して使えるというトライアルも推進しています。
ちなみにこのgrowシステムを使ったわたしたち直営の農園は東京・大手町のど真ん中、大手町ビルの屋上にございますので、すぐにでも体験して、メンバーにJOINすることができます。
※ご入園はtheedibleparkotemachi@plantio.comへメール頂くか、実際大手町の農園に行っていただき、わたしたちのスマホアプリ「grow GO」をダウンロード頂くとご入園が可能です。
このように、世界で急拡大するアーバンファーミング、わたしたちは野菜が育てられる場所を提供し、そしてIoTアグリセンサーで栽培をサポート、みなさんの農的活動を通じて環境がよくなることを可視化し、誰かの為に野菜のお手入れをして下さった方にトークンやポイントという形でリワードを差し上げる、という仕組みを開発し、社会実装を進めています。
これは エンターテインメント業界出身 のわたしの持論なのですが、たのしい事が最も持続可能であると考えています。社会が大変だから、環境に貢献しないと!ではなく、とにかく種を蒔く事、芽吹いた植物を愛でる事、収穫した野菜を食べるよろこび、そのすべてが”たのしい!”ので、もっともっとみなさんに食と農に触れて頂きたいのです。
それゆえに、プランティオのVISIONを『持続可能な食農をアグリテインメントな世界へ』としています。
1949年の祖父のプランターの発明から端を発したわたしたちですが、その発明の本質である「食と農に触れる機会を創出する」という意味のアップデートをし、”たのしく育てて、たのしく食べる。”事を通じ、みなさんが安心・安全な食と農にアクセス可能な環境を提供し、再び多様な食文化が花開く、そんな未来を目指しています。