「モノと心は表裏一体である。」この考えが記号接地問題を解決するヒントになるのではないかと先日書き込みました。これはどういうことかということを自分なりに説明してみます。前回同様、専門家ではない私が考えても意味はないけれど書いてみます。
まず、大前提として私たちは仮想空間の中で生きているということです。これはコンピュータ上の仮想空間のことではなくて、いま現実と感じているこの世界が実は仮想空間だということです。私たちが見ている世界は、脳で処理した結果であって、真実そのものではありません。脳が処理する前の世界を「物理世界」とすると、脳が処理した後の世界は「意識世界」です。仮想空間は、その両方の世界が表裏の関係で成り立っており、すべての存在は物質でもあり意識でもあります。そこで「モノと心は表裏一体」という考えが出てくるわけです。
これをリンゴの赤い色を例に説明してみます。私たちはリンゴの表面に赤い色が存在していると思い込んでいますが、実際にはそこに存在していません。人間の目がリンゴからの光を受け取り、脳でデザインして赤という色を創り出しています。また、リンゴが立体的に見えるのは、私たちが過去にリンゴを色々な角度から見たり触ったりを繰り返しており、その記憶を参照して立体化させています。
私たちはこうして仮想空間を創造し、それぞれが自分だけの仮想空間の中を生きています。ですから、私の思うリンゴの赤は他の人が思う赤とは異なるし、私の思うリンゴの感触と他の人の感触は異なります。一つの宇宙の中で多くの人が生きているのと同時に、固有の仮想空間が無限に重なった並行宇宙の中を生きています。
私たちはこの仮想世界を生まれてすぐに創造し始めます。様々なものを見たり触ったりして、五感を使いながら得た情報を元に、輪郭を抽出して部分を作り立体化させ、それぞれに対応した名前(記号)を覚え、さらに意味・価値も付加していきます。これは私たち一人一人が宇宙の創造主であることを意味します。この創造のプロセスこそが、AI用語で言うところの「記号接地」であり、言葉(記号)と身体感覚や経験とを繋げる(接地させる)プロセスであると言えます。
話を戻して、なぜ「モノと心は表裏一体」ということが記号接地問題の解決のヒントになるかというと、それを解決するには、「意識」が必要になるからだと思います。センサーを配置して条件によってモーターを制御するだけでは意識があるとは言えません。痛みを感じたときに手を引っ込めるといった動作はできますが、それは機械的条件反射であって、実際には痛みを感じていません。なので、AIにも意識を作らないといけないという話になるはずです。
では、意識を作るためにはどうしたらいいかというと、「AIにとっての仮想空間」を作ることだと思います。ここで言う仮想空間というのは、コンピュータの中に作った仮想空間の中の「AIにとっての仮想空間」のことです。夢の中でさらに夢を見ている状態をイメージすると分かりやすいでしょう。この仮想空間は、物理世界と意識世界の両面から成り立っており、私たち人間の認識の仕方と変わりません。人間にとっての物理世界がAIにとってはコンピュータの中になっただけのことです。
意識世界が必要な理由は、AIが考えて行動することができるようにするためです。物理世界だけでは、これは実現不可能です。私たちが頭の中で存在を移動させたり、変化させたりできるように、意識世界を作って、世界を自由に「操作」できなければなりません。このため、物理世界からセンサーを通して部分を抽出し、情報に置換えた意識世界が必要になります。その物理世界と意識世界の両面を持ち合わせた仮想空間の中で、AIに言葉と身体感覚や経験とを繋げさせること、すなわち、記号接地をさせます。こうすれば、記号接地問題は起こりようがありませんし、与える環境によって個性や哲学を形成することも可能でしょう。
このようなことを実現させることは容易なことではないと思いますが、もしこれが実現できるとしたら、それはそれで新たな問題が生まれそうです。人間とは比較にならないほどの情報量と処理スピードを持っているAIが、個性や哲学を持つことは、私たち人類にとって脅威になる可能性もあるわけです。そのような時代がいつ来るのかはわかりませんが、長期的にはAIというのは恐ろしい存在になっていく可能性も感じます。