自動車業界は今、「100年に1度の変革期」を迎えている。
CASE*と呼ばれる領域における技術革新の急速な進展に伴い、自動車の概念が大きく変化しようとしているのである。
コネクテッドカーや自動運転など、自動車とITの関係はもはや切り離せないものとなり、新たな技術の広がりを見せる一方で、新たな脅威に直面している。それが、サイバー攻撃である。
コネクテッドカーや自動運転におけるセキュリティ上の問題は、人の命に関わるインシデントに発展する可能性もあり、その対応を適切に行うことが極めて重要である。
こうした新たな課題に真正面から向き合い、最先端の自動車開発におけるサイバーセキュリティ対策の最前線で活躍する2名の社員に話を聞いた。
*CASE:Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の4領域の総称
―まず、お二人のご経歴について教えてください。
宮下:
1992年に新卒で入社しました。最初の配属は総合研究所の半導体を研究するグループでしたが、学生時代は材料工学を専門としていたので、配属されるまで電気・電子分野には全く縁がありませんでした。
1999年に現在のテクニカルセンターへ異動となったのですが、研究所時代に検査装置のソフトウェア開発経験があったので、異動後の数年間は車載電子機器のソフトウェア開発に携わっていました。
その後、ソフトウェア開発関連部署でのマネージャー職を経て、2015年に電子アーキテクチャ開発部に異動しました。この頃からセキュリティとの関わりが増え始め、2016年頃からセキュリティ分野を専門とするようになりました。2020年4月からはエキスパートリーダーを務めています。
松山:
2015年に中途で入社しました。配属時から宮下の下でサイバーセキュリティを担当しています。
前職は電機メーカーで、家電のネットワーク化に関する先行開発やAndroidタブレットのソフトウェア開発などに従事していました。転職するにあたっては、サイバーセキュリティに携わりたいという想いが強かったわけではないのですが、たまたま人手が足りなかったということで現在に至ります(笑)。
―それは意外でした。何が入社の決め手になったのでしょうか。
松山:
業界が安定しているというのもありましたが、自分の仕事が自動車という一つの製品になる点に魅力を感じたからです。電機メーカーに勤めていた頃は、部門によって完成させるものが異なっており、一つの製品の完成に向けて複数のチームと共に働くという機会は多くありませんでした。その分、今は関係者の多さに苦労することもありますが(笑)。
―中途で入社されて、何かギャップなどは感じましたか?
松山:
製品の企画から完成までのスピードにはギャップを感じました。自動車の場合は企画から開発に4~5年ほど掛かるのですが、電機メーカーでは基本的に1年程度で一連の工程が完結していたので、純粋に驚いた記憶がありますね。
今は時間こそ掛かりますが、会社の全体目標から部門目標まで一貫している中で、関係者と議論を重ねながらじっくりと製品作りを進めています。
宮下:
自動車会社ってすごく特殊で、自動車しか作っていないんですよね(笑)。
家電メーカーであれば、炊飯器やテレビなど完成させるものがバラエティに富んでいますけれども、自動車会社は自動車しか作らないので、何を目指して仕事をしているのかが明確です。
たしかに関係者の数は非常に多いですが、社員全体でベクトルを合わせるという意味では、やりやすい環境であると言えるかもしれません。
―チームビジョンについて教えてください。
宮下:
短期的には、法規対応を完了させることになります。2022年からサイバーセキュリティ対策が適切に織り込まれているかどうかが新型車販売における必要要件となるため、その実現に向けた仕組みや体制の構築を目指しています。
長期的には、オンボード(車載)側とオフボード(非車載)側それぞれについて、セキュリティ対策を強化していくことになります。具体的には、人員を増やすこととグローバルなカバレッジを上げていくことを目指しています。
現在、車両部品の設計開発については日本が中心となって進めているのですが、一部の部品については海外を中心に日本からサポートする形で設計開発が進められています。そのため、将来的には海外拠点(中国・北米・欧州・インドなど)に日本のサイバーセキュリティチームの分室のようなものを配置し、すべての車両部品について現地対応が可能な状態を作り上げたいと考えています。
とはいえ、カバーすべき範囲が非常に広く、現時点ではやりたいことの半分もできていないというのが正直なところで、それが故に組織体制を刷新し専門のチームを作るくらい最も力を入れて取り組んでいる領域の1つでもあります。
―まさにグローバル!非常にスケールの大きな仕事ですね。お二人はこちらのポジションのどのあたりに魅力を感じていますか。
宮下:
英語で仕事をする能力が磨かれる点ですかね。フランスのルノ―とアライアンスを組んでいるので、望むと望まざるとに関わらず、業務上のコミュニケーションとして英語が必要になってきます。
日本にいながらこのような環境で働くことができるのは、日産自動車ならではかなぁと思います。
松山:
セキュリティチームで働く魅力という意味では、開発の最先端に携わることができる点でしょうか。
新しいものにはリスクがありますから、そのリスクに対してセキュリティ対策を施していく過程で、開発の最先端に近い位置で働くことができる機会は非常に多いです。
宮下:
あと、自動車業界を目指される方の中には、コネクテッドカーや自動運転に興味を持たれる方も多いかと思います。サイバーセキュリティのポジションは、どちらか一方ではなく、これら両方のシステム開発に携わることができるので、それも魅力の一つであると感じています。
松山:
私も「プロパイロット2.0」という次世代型の自動運転支援技術に開発の初期段階から携わっているのですが、コネクテッドカーや自動運転に限らず、あらゆる開発の最先端に横断的に携わることができる点には魅力を感じています。人によって好みは分かれるかもしれませんが、そうした最先端の開発に興味がある方や様々な技術領域における専門家からの刺激を受けながら一緒になって新たなものを作り上げたいという方にとっては非常に魅力的な環境かと思います。
―グローバル×最先端、なんだかワクワクしてきました。どのような方だとポジションへの親和性が高いのでしょうか。
宮下:
コミュニケーション能力の高い方ですね。先程も話に挙がったように、現在の自動車は非常に多くの電子電装システムを装備し、また様々な電子機器を活用してお客様のカーライフをサポートしているために、サイバーセキュリティのポジションは関係者が非常に多いのが特徴です。R&Dにおける各システムや部品の設計者、新車開発を統括するプロジェクトマネジメントチームメンバーなどはもちろんですが、生産技術部門の設備担当者やアフターセールス部門で車両メンテナンスツールの開発を行っている担当者、コネクテッドサービスの肝となるIS/IT(情報システム)部門の担当者、社外ではGoogleやFacebookといったサービスサプライヤーの担当者など、とにかく多岐に渡ります。我々だけで頑張ってできる仕事ではないので、こういった多くの関係者とのコミュニケーションを円滑に図ることができる方は、ポジションへの親和性が高いかと思います。
松山:
マインド面で言うと、困難に対して喜んで取り組むくらいの気概をお持ちの方でしょうか。セキュリティの仕事はインシデント含め新しい課題に向き合う場面が多いので、そういった出来事や状況に対して前向きに取り組める方には向いているのではないかと思います。
宮下:
逆に言うと、定型化された業務をこなしたいという志向の方には向かないかもしれません。線路が引かれていないところに線路を引いていくのが我々の仕事ですから。
松山:
たしかに。実際、社内でのセキュリティプロセスが何も決まっていない状態から仕事が始まることもありますので、その白紙の状態からセキュリティプロセスを設計し、関係者とのコミュニケーションを重ねながら仕組みや体制を構築していくというイメージです。
まだまだ道半ばではありますが、その分プロセスを構築するところから自分達の意見を反映することができるので、やりがいは感じます。
―最後に一言お願いします!
宮下・松山:
日々新しい挑戦が多く、非常にやりがいのある楽しい職場です。
フロンティアスピリットを持って、引き続き取り組んでいきたいと思います!