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「ファッション領域のクリエイティビティ」はAIにとって最高の教科書となる


自動運転技術への各社の投資が加熱する一方で、完全自動化に至るには技術的にも法的にも道のりが険しいことが指摘されています。

一方、ファッション業界には既に様々なAIが導入されています。画像解析、画像検索、パーソナライズやリコメンデーション、チャットボット、スタイリングの提案にトレンド予測などなど。「ファッション領域はテック化が遅れている」と業界内の自虐的な言葉を耳にすることがありますが、意外とそうでもないのです。

背景には、業界とAIとの相性の良さ、業界の危機感など様々な複合要因が絡んでいます。

ファッション領域でAI活用が進む背景1 – 技術的な障壁の低さ

ファッション領域でのAIの社会実装が進んでいる理由として、ファッションが人の生死に関わらない分野であることが挙げられます。

自動運転や医療といった分野ではミスが許されません。99.8%の精度を99.9%にまで高めるのには大変な研究開発が求められますが、ファッション分野では必ずしもそこまでの精度が求められるわけではありません。80%の精度であっても、利用者がベネフィットを感じてくれるようなサービス体系を組むことができれば、リリースする価値は十分にあります。

例えば好きなインスタグラマーの着用アイテムに似たアイテムを探すために画像検索のサービスを使うとき、一覧に出てきた20点のアイテムのうち2割が期待していたものと違っていたとしても、機能としての利便性を大きく損なうわけではありません。


.st「画像でアイテム検索」

これはファッション領域に限った話ではなく、そこそこの精度でも利便性を生むためのサービスの立て付けを考えることが、直近的なAI活用には欠かせません。

ファッション領域でAI活用が進む背景2 – ファッションの持つ多様性

「AIは最適化を導くのでファッションの画一化を招くのではないか」というご指摘をいただくことが少なくありません。

この指摘は的を射たもので、何も考えずにAIを開発するとファッションの同質化を加速させる装置をまた1つ増やすことになります。

一方で、AIはインプットを多様にすることでアウトプットを多様にすることができるという性質を持っています。

cubki.jp

ファッションは多様性に満ちています。

好きなテイスト、年齢・職業・シーンなどにまつわるTPO、似合わせ、着合わせ、トレンド、機能性などが複雑に絡み合い、街には様々なプロダクトとスタイリングが溢れています。

肝要なのは、これらのテイスト・TPO・着合わせなどのメタ情報を潰さずAIに学習させることです。あらゆる変数を織り込むことで、AIはアウトプットを収束させるどころか、オリジナルには存在しない新しい提案をクリエイトすることができるようになります。

分かりやすい例を挙げると「取引先とのちょっとカジュアルなイタリアンでの会食に着ていく、私に合うスタイリング」というような複雑なリクエストに対して、AIで無数の提案を出力するというようなことが原理的には可能です。

多様性はAIにとって最高の教材となるのです。

ファッション領域でAI活用が進む背景3 – 多様性がもたらす複雑性

先述した多様性は、裏を返すとオペレーションの複雑性をもたらします。

シーズンごとにほぼすべての商品が入れ替わって、多品種が企画され、少量ずつ生産され、EC用にささげ業務(撮影・採寸・原稿)が行われ、SKU単位(型番×カラーバリエーション×サイズ展開)で在庫管理や物流が組まれ、各店舗のスタッフがアイテムを組み合わせてスタイリングを提案しながらセールストークを練り上げるという、「気の遠くなるような非効率」を価値の源泉としています。

洗剤やカミソリといった最終消費財では考えられないことです。

この複雑なオペレーションに伴う販管費は商品価格に反映されることになりますが、必ずしも否定すべきものではありません。職場で同僚とファッションが丸かぶりすることを歓迎する人は稀有でしょう。

複雑でルールベースでは解決できないとなると、問題はマンパワーかAIに託されることになります。

カミソリを買う人にシェービングクリームをおすすめすることはルールベースでも十分にできますが、ベージュシルエットのペプラムのブラウスに対して、常に入れ替わり続ける数千点のアイテムから何を勧めるべきかをルールベースで特定するのは容易ではありません。

N:Nの関係が膨大になるとき、AIが活躍する余地は大いにあると言えます。

ファッション領域でAI活用が進む背景4 – 業界の抱く危機感

農業用トラクターが普及したのは、その技術が実用化されたタイミングではありません。農業就業人口がシュリンクして、労働力が不足するタイミングを待つことになります。人の強烈なモチベーションは危機感から生まれるようです。

筆者は日々ブランド、メーカー、小売、商社、通販など様々なファッション業界の方々とお話させていただいていますが、中に危機感をお持ちの方が少なくありません。

ファッションの小売市場は横ばいが続いているものの、インバウンド需要に支えられている側面が大きく、2020年以降の大きな凹みが懸念されているのです。

その危機感から、ファッションレンタル、D to C(Direct to Consumer)、サブスクリプション、スタイリング、クラウドファンディング、サイズソリューションなど様々な取り組みがベンチャー・大企業を問わずに次々と打ち出されています。

同様の文脈の中でAI活用に積極的な企業が多く、筆者が代表を務めるニューロープもその期待に応えるべく日々AI開発に取り組んでいます。


求められる技術的な精度の最低ラインが相対的に低く、多様性に溢れ、複雑性を極め、プレイヤーに危機感が募るファッション業界において、AIの活用はこれから更に進んでいくことが予想されます。

ファッション業界はAIの領域において、様々な実例を生み、社会実装を重ね、金融や広告に引けを取らず業界をリードしていくポジションにあるものと考えています。

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