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非ネイティブ留学経験無しで英語プレゼンに挑む! -MAMORIO CTO滞米日記-④

前回の記事
シリコンバレーに勝ちに行く -MAMORIO CTO滞米日記-①
ITが底上げする性悪説のサンフランシスコ -MAMORIO CTO滞米日記-②
モノは言語を越える -MAMORIO CTO滞米日記-③

「なぜ金沢市くらいの規模であるサンフランシスコとシリコンバレーが、これだけのイノベーションを生み出し、世界のテック業界に圧倒的な影響力を持っているのだろうか?」

そんな疑問を抱いてJETROさんのシリコンバレープログラムに応募した私は、競合製品であるTileの流行とIOT家電の隆盛、そしてその背後にある日米の人間観の違いを目の当たりにすることになりました。

活気に満ちたDisruptSFを成功裏に終えた私達は、英語で発表し英語の質問に答えるプレゼンを迎えることになりました。

1.ついにプレゼン!

はじめての海外出張は予定通りに行くものではありません。

出発前は、展示を終えたらコワーキングスペースで内容を練り直しホテルでプレゼンの練習を、と思っていましたが、展示会の後は足がパンパンで、何十人と話して喉が痛くなり、ついでに会社にその日あったことをレポートで書くことを自分に課していましたので、とてもそんな余裕はありませんでした。

ですので、3日間の展示会が終わった段階ではほとんど詰められておらず、頼れるのはそれまで練習で暗記した自分の頭の中のセンテンスだけでした。

発表の内容と、こういう質問が来るだろうとあらかじめ想定していた20個の想定問答集だけです。

そして6日目、ついにJETROさん主催のTechMatchのプレゼンが始まります。

プレゼン一日目はThe VAULTというサンフランシスコ市内のコワーキングスペースで開催されました。

地下にあるプレゼンルームのソファにはさっそく、発表する我々に対して容赦のない質問を投げかけてくるであろう現地の投資家達が談笑をしています。


本番が近づけば近づくほど、細かい内容が気になって仕方がなくなっていきます。

例えば、

最初のこのスライドに対しては

「落とし物の総数の統計、日本では2200万件という警察白書の統計があるのだけどアメリカにはそれがない。裏付けのある事実に基づくなら日本の統計の方を出すべきだけど、『日本の統計など出されても困る!』とか言われそうだし、であれば『人口比をかけあわせた上での我々の推計では』という前置きをした上で5900万件というアメリカの推測値をバーンと出したほうがいいだろうか?」

などと思ってしまいますし、

実績を誇るこのスライドに対しては

「あ〜〜〜、こんな2200%とかいかにもなグロースなんかじゃなく売上とか細かい数値聞かれそうだなあ。前期がいくらで今期の今日までがいくらだっけ?今期の残りが同じ成長率で推移すると予想値は。。。

と不安が尽きません。

ネイティブのスピーカーであればそういった表現はとっさに出てくるのでしょうが、私はたったそれだけの表現でもgoogle翻訳とweblioの例文検索で調べなければなりません。

そして、そうこうしているうちに発表の順番が決まり、我々は三番目に割り当てられました。

本当はもっと後ろの順番になって投資家達の雰囲気や質問の癖などを把握したかったのですが、決まってしまったものはどうしようにもありません。

そして他の方々のプレゼンがはじまり、英語プレゼンの内容と投資家による質問の内容が余り聞き取れなかったことがさらに私を悩ませます。

「え、この人今何て質問したの?今のってYes/Noでまず答える話?それとも5W1Hで返す質問?」

「あれ、この人今Stupidとか言った?めっちゃ辛辣じゃない?thirdなんちゃらって第三者機関の評価を求めろと?」

そしてついに私の番がまわってきます。

立ち上がってふらふらと壇上に上がる間も、私は自分の用意したスクリプトに対してあれこれ考えることをやめられませんでした。そして、皆の注目が私に集まります。

私はページめくりのスイッチを確認し、発表を開始しました。

私は暗記していたスクリプトを口にするその瞬間も、

「この最初のキャッチの部分。『統計によれば全ての人間は5年で40%の確率で貴重品を失くす可能性がある』というセリフの『可能性』って、直訳するとchanceだけど、chanceって肯定的な意味で使われる事が多い気がするし、ネガティブな場合はriskのほうがいいのでは?」

とか

「あ、これから販売チャネルの説明だ。単にこれとこれとこういうチャンネルで売りたい、と列挙するだけではつまらないし『このチャネルではMAMORIOの小ささがポテンシャルを発揮するだろう』『このチャネルで販売するために我々はすでにAPIとSDKを準備している』って付け足してあげたほうが気が利いてるだろうな。

などと考え、口ぶりの方向性が継ぎ足し継ぎ足ししていく方向へ流れていきました。

すると、最後の1個手前の「私たちは聴衆の皆さんに何を望んでいるか?」のページの途中で突然、耳慣れない音が静かな室内に鳴り響きます。

ヤバイ!時間切れだーーー!

い、いや、これは残り1分の合図か?でもヤバイヤバイヤバイ!

「で、ですから、、、我々は、我々の、その、コンセプトを面白いと思っていただけ、かつ、あ、IO、我々の産業の未来について我々とTalk Withしたい投資の方と知り合いたいと思います! Feel flee to contact me! Thank you, Thank you for your .. (なんだっけ?Thank you for listening? それとも your time?)、せんきゅー!

うわー、失敗した!失敗や!何やっとんねん俺!なんで内容ばかり気にして4分以内に終わるかチェックしなかったんだー!!

室内を拍手が包み込みます。

そして、一瞬の静寂ののち、投資家から質問が始まります。

まずはアジア系の投資家の方から。

男性「あなたはMAMORIOはXXXXアップデートがXXXX、なぜそうなるのですか?」

.

.

.

.

聞き取れませんでした。

しかし、「アップデート」という単語を強調して使ったのは競合との比較のページだけですので、大体予想はつきました。また「なぜ」と問うたので、その根拠を述べることを求められていました。

「はい。MAMORIOはアップデートを必要としません。そのSimplicityは利用している通信のプロトコルが違うことに起因します。TileはBLEでの接続を用いているのに対して、MAMORIOはタグとスマホが相互に通信を行わずIDを周囲に一方的に発信するだけのiBeaconというシンプルな規格を用いています。ですので、アプリが落とし物防止タグの内部のファームウェアのバージョンを気にする必要がなく、製造とメンテナンスのコストが安くなります。」

男性は頷きました。

「なるほど。確かに、アプリとタグの互いのファームウェアの整合性を取ることはシステム管理を非常に難しくする。皆が頭を悩ませている。それはいいアイディアだ」

無事、質問に答えることが出来たようでした。

続きまして、先程辛辣な質問をしていた高齢の白人男性の方から。

「君は、LoraのようなXXXのXXXについて君はどう思う?」

Loraという電波の新しい規格の名前と、what aboutという単語だけ聞き取れました。

聞き取れなかった部分はサブギガヘルツ帯とか、そういうLoraについてこの人が知っていることの説明だろう、と思いました。

この人はおそらく自分の知識を試そうとしているのかもしれない、と思い、普段社内で仲間と話していることを述べることにしました。

「Loraは興味深い技術です。落とし物が発生する前に防止する、という我々の目的に対してはオーバースペックですが、それでも低コストで10km以上通信できるのは魅力的です。我々はLoraを先程お話したMAMORIOゲートウェイのセンサー同士の通信のために使いたいと考えています。」

「ふむ」

うーん、この反応はどうなんだろう?と思いましたが、もうここまで来てしまったら悩んでも仕方がないですし、とりあえず自分はCTOで、そういった今現在使っていない未来の技術に関してもアンテナを張っているんだぞ、ということをアピールすることは出来たっぽいので良しとします。

今度は、一番手前に座っていた女性。

「私、今これ使ってるの。ほら」

女性が取り上げたのはTrackRという落とし物防止タグでした。

「で、これはXXXX、XXXXなんだけど、MAMORIOは、TrackRやTileとはXXXX?」

ほとんど聞き取れませんでしたが、TrackRはTileよりもはやくクラウドファンディングで世に出た同業者のパイオニアであり、研究もしました。その単語からMAMORIO創立当初の様々な思い出が蘇り、気が和らぎます。

「TrackRやTileとの違いは、一言で言うと、それらのタグはインドアでの紛失に特化しているのに対し、MAMORIOはアウトドアでの落とし物を主要なターゲットにしていることです。Tileは音を鳴らすなどの室内での紛失で役に立つ機能に特化していますが、MAMORIOはアプリがバックグラウンドで24時間動いてそもそも落としものが発生する前に知らせることにSpecialized in しています。

ワオ!なるほどね!」

「はい!私は、TrackRは良い製品として尊敬していますが、アプローチとしては我々のほうが正しいと思っています」

そして、最後に質問をしたのは投資家の若い白人男性。

「とはいえ、Tileは巨大な相手だよ。実際。どういうストラテジーで彼らに勝つの?」

こちらはほぼ聞き取れました。鉄板の質問です。

しかし、販売チャンネルの選択と集中の話をすればいいのはわかっていたものの、本音を言うと、我々は小売もECサイトもBtoBも全部切り捨てるつもりはなく、一方で全部のチャネルで頑張ります!ではこの人は納得しないだろうなあとも思いました。

渋々、一部を切り捨てる方向で返答をします。

「はい。私は、アメリカのような成熟した市場で我々が勝負する場合、ECやディストリビューターを買いしたtoC向けの販売よりも、ブランド製品へのアタッチメントというBtoBtoCと、BtoBが筋が良いと考えています。マーケティングにおける我々のアドバンテージは、MAMORIOが小さいサイズに特化していて何にでも付随させられることと、実際に日本でハリスツイードさんやSubaruさんとアタッチメントの協業や、航空会社向けにtoBのシステムを構築行ったという経験があることです。顧客への認知という勝負では勝てなくとも、そうではない形でMAMORIOを普及させられることがこれらのチャンネルの強みです」

「ふむ…ふん。BtoBか。それは、いいアイディアだね。」

「ありがとう!素晴らしい発表だった。ありがとう!」

私は笑顔で皆にお辞儀をすると、席に戻りました。そして、隣にいた泉水に「ねえ、俺のプレゼンどうだった?ねえ、どうだった?」と尋ねました。

「いや、まあ、良かったですよ。今の発表全部撮ってましたんであとでSlackでみんなに共有しますね!

私はその後もずっと自分が時間切れになってしまったことが頭からはなれませんでした。そして最後のプレゼンが終わり、皆が立ち上がってワインが置いているテーブルへ向かう中、私はとにかく1人になりたくてトイレに向かおうとしました。すると、後ろから声が。

「ちょっといいですか?今、あなたとぜひ話したいという方がいらっしゃるんですけど」

2.再挑戦

翌日のプレゼンはパロアルトで行われたのですが、こちらは前日のそれよりも遥かにうまくいきました。

うまく行えた理由は、ホテルに返って一通りLinkedInでの挨拶を終えたあとに、泉水が撮った自分のプレゼンのビデオを見ることにしたからです。

それは全く癒えていない恥の記憶をグサグサ刺すものであり、とてもきつかったのですが、1つ明らかになったのは私の喋りが常に大声で声が上ずっていることでした

その動画を見るまで私は「余計なことまで雄弁に話しすぎて時間を超過してしまった」という認識だったのですが、動画に映っていたのは自信のなさゆえにひたすら相手を畳み掛けようとする自分の姿でした。

なので、翌日はとにかく、ゆっくり、低いトーンで話そうと決意しました。

また、ゆっくり話すには内容を削らなければならないので、まずはプレゼンの画面をみれば明らかなことは話さず、また「smaller で flexibleなアタッチメント用のMAMORIOを作ります」のような形容詞がずらずら続く文を「sticker likeなMAMORIOを作ります」のように一語にまとめました。

さらに「我々は過去一年ですでに、国内最大手の鉄道会社や、航空会社や、テレビ局や、製薬会社とコラボを行いました」のように、自慢したくなる部分はどうしても長くなりがちなのですが、そこをあえて「様々な産業の企業とコラボを行った実績があります」と削ることにしました。

その上で「事前に言うと決めたこと以外は一切いわないようにしよう」と決めてプレゼンを行った結果、無事、4分ちょうどでプレゼンが終えることができたのです。

プレゼンの後のテーブルでのトークではアメリカ国内外から来た様々な人から声をかけていただきました。

「いつになったらMAMORIOをアメリカで購入することができるの?」

「航空会社とのコラボの話をもう少し聞かせてくれないか?私の工場をMAMORIOを使って効率化するソリューションを考えてみたい」

「君が話していた、将来出す予定のもう少し大きくて長寿命なエンタープライズ向けMAMORIOというのはどういうものなの?」

その後我々はかなりの枚数の名刺を交換し、持ってきたMAMORIOを全て配り終えました。

英語でプレゼンを行うこと自体はあくまで市場進出のきっかけであり、それをうまく終えられたからといって何かを成し遂げたことにはなりません。

ただ、それは大前提として出来なければならないことであり、そのためには準備といくつかのコツが必要です。

まず、それをうまく行うにはネイティブのように話せる必要はおそらくありません。重要なのは臨機応変に英語で対応できる能力を身につけることよりも、緻密な論理を組み立てることです。

私が書いたプレゼンの各ページの内容は以下の通りですが、それらを作り込み、意地悪な20個ほど想定問答集を用意すればアメリカ人との質問やそこで使われる語彙も自ずとその範疇に収まります。

  1. Cover slide
  2. The problem we solve and market size
  3. What is the solution
  4. Sales and Accomplishment
  5. Competitors
  6. business model & go to market plan
  7. Product road map
  8. The ask
  9. Contact info

また、私が躓いたのは時間切れとプレゼンをしている自己のイメージの違いですが、これを克服するためにはかならず自分のプレゼンを撮って確認する必要があります。

3.アメリカで得たもの

今回の訪米とプレゼンで我々は多くのものを得ることができました。まず、今回の訪米で会話をした人々は100人以上におよび、その中で意気投合した方とはLinkedInやFacebookでつながり今でも定期的にコンタクトをとっています。

また、展示会やプレゼンで配ったMAMORIOもちゃんと封を開けられアメリカで使われているようであり、MAMORIOのFacebookページにも外国人からの反応が増えました。

さらに、日本よりも懐疑的でストレートなシリコンバレー出身のメンターからの指導は、単によいプレゼンを作るというだけでなく、我々自身のビジネスや企業としての存在価値を見直すきっかけになりました。

前から海外の競合は認識しており、実際に購入してユーザビリティを確かめたりしてはいたのですが、単に調べて学ぶことと彼らを打ち倒すにはどうすればいいかという目的をもって、我々のほうが優れているというロジックを組み立て、それを自分自身が信じられるようになるよう訓練することは次元が違います。

加えて、アメリカの市場をこの目で見ることと、そこの人々に自分たちの製品の感触を確かめてもらうことも重要です。

日本からインターネットで確認できる数値や記事はあくまで各企業の活動やユーザーの行動の結果であり、その前段階にある、業界のムードや技術のトレンド、競合の存在感うわさ自分たちの製品を目にして触れた時の個々人の表情や感想は現地にいかないとわかりません。

そして最後に、社内の意識の変化です。

まず、ユーザーの手元にモノとして残るMAMORIOのような製品は、海外の展示会でもつぎつぎと手に取られ、文化が異なる地域でもwebサービスやアプリより広まりやすいという事実は社員の目を海外に向けさせることになりました。

中には今回の訪米の社内報告会をきっかけに本格的に英語の個人的レッスンを毎週数回いれることにしたメンバーもいます。

日本のテック業界に務める私にとって、アメリカは世界にいくつかある地域の1つではなく、結婚やキャリアと同じような、人生をかけて何らかの答えをださなければならない難問の1つでした。

我々が普段依存しているwebサービスやiPhoneなどのデバイスはいつもアメリカからやってきますし、何がかっこよくて何がダサいかという価値観自体も彼の国のそれに規定されています。

翻訳文化が確立しており、主要なアメリカ企業の支社があり、本屋の本の半分以上が英語で書かれているような東南アジアのように言語で社会が分断されていない日本では、その存在をないことにして生活を営むことは可能ではあります。

しかし一方で、昨今の人口減や、科学や日本企業の世界市場での存在感の低下など、果たしてそれをいつまで維持できるのか?と思わせるような兆候も見られます。

今回の訪米で、私はCTOとしてMAMORIOをアメリカで勝てる製品に仕上げなければならず、そうでなければベンチャーに関わった意味がないと確信しました。

それこそが、私が個人として、今回の訪米で得られた一番の収穫でした。

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