こんにちは、MAMORIOの泉水です。
「いつまでもCESが始まらない」などと言われたこの連載も残すところ2回となりました。
しかし実質的にはこれで最終回です!
今回は、CES閉幕にあたり総合的な所感を記載したいと思います。
しれっとタイトル変えています。笑
過去記事
HWスタートアップに夢は残っているか?海外初心者COOのCES2019訪問記(その1/開催を前にして)
HWスタートアップに夢は残っているか?海外初心者COOのCES2019訪問記(その2/いざ、ラスベガスへ)
HWスタートアップに夢は残っているか?海外初心者COOのCES2019訪問記(その3/土日の観光)
HWスタートアップに夢は残っているか?海外初心者COOのCES2019訪問記(その4/ついにCES開幕)
HWスタートアップに夢は残っているか?海外初心者COOのCES2019訪問記(その5/メイン会場へ)
CESは定点観測すべきイベントである
CESに限らずですが、展示会関係は毎年参加し、定点観測すべきというのが私の持論です。
非連続に見えるInnovationも実は大きな時代のうねりの中から生まれてきており、それはある時間の一点のみを観測しても感じ取ることが出来ないからです。
私自身は、CEATECに関しては2003年から15年に亘って毎年欠かさず参加してきました。
やはりこの15年間を振り返るとなんとなくでも、大きなトレンドの変化や数年前に展示されていた要素技術が、実際に製品化に至る過程などを様々な方面から目の当たりにしてきており、この継続性こそが時代を正しく読み解いていくことに役立っているという実感があります。
CESについても同様ですが、今回食事をご一緒した某大手企業のイノベーター方も私とほぼ同じことを仰っていました。
その方はCESについては今回が初参加ということでしたが、感想としてこう仰っていました。
「正直なところ、CESに来て色々な物を見ても、今まで知らなかったものが突然現れるというような衝撃ってのはないんですよ。日々情報収集はしてますからね。」
「ただ、会場の熱気やまとめ記事からはわからないブースの大小など、肌感覚として時代を感じたり、実際に目で見て、体験が出来る、これが重要なんです。そういう意味で毎年来ないとダメなイベントだなと思います。」
まさに仰る通り。
私も二度目のCESですがやはり、流れの変化というのを感じました。
私が感じた変化とは?
そもそもCESというイベントは家電の見本市から端を発するイベントですが、現在では自動車関係が1/3を占めるなど様相が変わってきています。
それだけモビリティに関する革命が起こりつつある途上に現在が位置しているということなのでしょう。
更にCESには山と谷があります。
おそらく今回は谷でした。
IntelのTick-Tack戦略のTickみたいなようなもので、昨年がVoice UIの世界への普及という大きなイノベーションの山がありました。
今回はそのイノベーションの種蒔きが一段落してより現実的な社会課題の解決策が提示されようとしていた、そんな印象を受けています。
そういう意味では昨年のCESの方が熱気に満ち溢れたというのが正直なところでしょう。
ただしビジネスという観点では、昨年の有象無象のソリューションから生き残った会社が展示を行っていたとも言えます。
相対的に「有名所」が多かったのも今回のCESでした。そういう意味で上述の「衝撃はなかった」という話も納得出来ます。
破滅の道を行く韓国メーカー?
今回の日本企業の展示の仕方がかなり大人びていた、悪い言い方ではつまらなかったというのは多くの方が感じたところでしょう。
しかしSamsungやLGなど韓国企業は派手な展示の一方で一昔前の日本のようなスペック競争に陥っていてその栄華が長続きしないのではないかと感じられたのも事実です。
パッと見の印象では元気な韓国企業と閑古鳥が鳴く日本企業という構図は昨年同様ですが、そこに違和感を覚えたのが今回のCESです。
韓国勢の展示は、旧き良き時代の東芝、NECあたりに近い「総合家電メーカー」として物量で攻めるスタイルです。
「我らこそがあなた方の生活を便利にする者也」といったイメージでしょうか。
これはこれで壮大ですし、目を引くのですが、物量の中身を見てみるとOLEDを薄くしてみたり、大きくしてみたり、はたまた巻物のように巻いてみたり、という姿が目立ちました。
冷蔵庫をコネクトしたりした展示なんかもありました。
スマホ、テレビ、ロボット、社会インフラ、なんでもアリな展示でした。
ただこの展示の仕方って、まさに苦境に陥る直前の15年前のSHARPが液晶や白物家電でやっていたことと、どこか被って見えるのです。
キーデバイスであるハードウェアを全面に押し出した戦略というのは本当に成功する時代なのでしょうか。
Samsungは音声UIとしてBixbyを持っていますが、本当にGoogleアシスタントやAlexaよりも普及することはありえるのでしょうか。Tizen OSみたいなことにならないでしょうか。
ハードウェアに価値を持たせたら必ず次に現れる新興国に追い抜かれるというのは、イギリスの産業革命以降、多くの産業が辿ってきた道です。
今回の韓国メーカーの派手さは、バブル期の日本の展示に近いものがありそうです(当時を生きてませんが笑)
私は5年以内に新興メーカーに追い抜かれる彼らの姿が浮かぶ気がします。まさに日本の家電メーカーが辿ったように。
一方で、今回の一部の日本の大手企業は地味ながらもある程度の「意思表示」をしていたのではないかと思います。
SONYであれば、「真のエンターテイメント会社になる」という意思表示であったと思いますし、PANASONICであれば、「BtoBの生活インフラ企業になっていく」という意思表示です。
そこに大きな野望が見えるかは別としても、成熟した企業として、より深いマーケットインサイトを持って実利を取りにいく。
私にはそんな風に見えました。
もちろん未来はわかりませんが、この辺の動きも定点観測していきたいものです。
もっと人間らしく生きたいという人々の願い
更にもう一つ感じた大きなトピックスが、明らかに展示されているものの性質が変わってきたということです。
この傾向はSANDS EXPOで顕著だったように思えます。
私には、世界の動きがこう見えました。
"便利"はもういい!もっと人間らしく、心身共に健やかに生きていきたいんだ!!
例えば、ここ数年を牽引してきた便利ガジェットやスマートホームが昨年よりも奥に追いやられ、出展量が多かったのが、Healthcare、Sleeptech、Lifetechです。
健康や、睡眠といった「人が人らしく生きるため」のソリューションが多く展示されていたわけです。
この流れ自体は今に始まったわけではありません。今までだってFitbitを始め多くの企業がコレに向けてやってきたわけですが、何故か今回はこの領域の展示が多くなっていたのです。
つまり、本格的にこのあたりの領域がテック界隈だけでなく世界中の人々の当たり前になろうとしているのではないかと思うのです。
[いたるところで展示されるSleeptech関連展示]
一方でまだ未熟であると感じたのがソリューションの多くが「センシング止まり」になっていたことです。
自分の状態を正しく把握できるようにはなるが、それだけということです。
例えば、「最近寝れていない」というデータが取れたとして、”睡眠時間を伸ばす” or "睡眠の質を改善する"という2つのアプローチがあるはずですが、多くの企業が「最近寝れていない」ことを明らかにすることで止まってしまっているというのが非常に気になりました。
おそらく、2019年には有象無象の解決策が生まれ、2020年のCESは関連するカオスな製品群が提示され、2021~22年あたりに生き残った大きなヘルスケア関連企業が猛威を振るうようになるのでしょう。
次世代のユニコーンはここに生まれる。
こうした流れをきちんとウォッチしていく場としてこれからもCESには参加し続けていきたいなと思った次第でした。
HWスタートアップに夢は残っているのか?
さて、最初に掲げたこのテーマについて私の感じた一つ答えを書いておきましょう。
HWスタートアップに夢は"ありません"
はい、明らかにモノ自体に価値がなくなってきています。どんなにいいモノを作ったって模倣され、改良され、安価になり、淘汰されていきます。
LVCC Southの中国製品を見れば嫌でもこういった印象になります。
そういう意味でHWスタートアップに夢はない。
しかしHWがなければ解決できない"課題"があります。
"課題解決"にHWが必要であれば作ればいい。
でも、HWだけで解決出来る課題は決して多くないのではないかと思わされるのです。
HWが作りたくて作るのでは、ダメ。
重要なことは、人々の"課題にフォーカスし続けること"
結局どんなビジネスもこれに尽きるという当たり前の事実を痛感させられました。
なくすを、なくす。
世界から紛失で困る人をなくす社会、を掲げて日々奮闘している我々も知らず知らずのうちにMAMORIOというBluetoothタグに囚われそうになります。
そうならない為にも、世界のトレンドを掴みながら課題ドリブンなスタートアップであり続けたいと思います。
以上、CES本番の訪問記でした。長文を読んでいただきましてありがとうございました。
次回は番外編。
ラスベガスでTesla Model3を1日借りてみたレポートをしてみたいと思います。