【審査法務マネージャー 榊原かれん】知財の仕事はものづくりと同じくクリエイティブ要素が満載。ものが生まれる瞬間から関われるのが楽しい。
・絵を描くのが好きだったから、ものを作っている人の助けになりたい
・法律の知識でクリエイティブな仕事ができる、という気づき
・法律は時代の後追い。向かう方向を決めるのは実際のビジネス
――品質保証本部 実現性審査チームマネージャー 榊原かれん
「絵」と「法律」で進路に迷い、どちらにも関われる知財の道へ
物心つく前から絵を描くのが好きでした。水彩やアクリル、スケッチなど美術で描くような絵はもちろん、漫画やイラストも。暇があると紙と鉛筆で遊んでいて、いつからか、絵で食べていきたい、と思うようになりました。
ただ、絵と同じくらい法律にも興味があったんです。子どものころから、弁護士が主人公のような、法律のドラマが好き。「選ばれし者が担うかっこいい職業」というイメージで、将来の夢を考えたときの選択肢のひとつにありました。
大学受験で進路をじっくり考えたとき、どんな時でもテンションに左右されずコンスタントに作品を作り続けるのは難しい、と思いました。それまでは好きで描いているだけだったので、職業として続ける覚悟ができなかった。同時に、その覚悟を決めて職業にしている人は本当にすごい、とも実感して。法律に興味があったので、作品を作り続ける人の助けになるような職業に就けたらと、知財に興味を持ち、法学部へ進みました。
一度は弁護士を目指したが、知財の研究に方向転換
大学は知財の勉強ができる法学部を選びました。大学3年生のとき、学校の勉強をしながら予備校に通い司法試験の勉強をしましたが、司法試験には合格できず。今の段階で行けるところではないんだ、と客観的にとらえていました。
一方、知財が学びたくて大学に入ったのに、振り返ると1単位しか学んでいませんでした。そこで知財のゼミに入り、ゼミの先生とも相談してさらに知財を学ぶために大学院へ進みます。
今思えば学部の時は、周囲の人が当然のように弁護士を目指していたのと、私自身も弁護士に憧れていた気持ちが重なり、深く考えずに司法試験のルートに乗っていたんだと思います。もう少し知財を勉強して、最初から弁理士試験を受ければよかったのかもしれません。
大学院で勉強すると、知財はとてもおもしろい。私の専門は「不正競争防止法」で、明確に権利範囲が定まっていないものも扱いました。それらを法律で守るには、いくらでも工夫のしようがある。例えば、登録されていない権利でも、実際の市場で「そのブランドのもの」と広く認知されていれば「独占を認めてもいいのではないか」と主張するような戦い方ができるんです。
事業会社の中の人たちが、ブランドの世界観を大切にして守っていく。そのために戦略を立てていくのが、非常にクリエイティブな仕事だと実感しました。法律を使って戦い、守る際に思想を入れる余地があると知ったのです。
大好きだった絵を描くのに、どこか似ています。法律はものづくりの対極にあるようで、ルールを作り出す、というものづくりに似た仕事だと知りました。
アパレルメーカーで知財を扱う部署に
就職は弁護士の道とも迷いましたが、事業会社のほうが楽しそうだと思えました。法律は結局、時代の進歩の後追いでしかない。法律の向かう方向を決めているのは実際のビジネスなんです。
就活では、夢中になっていた知財以外をやりたいと思えず、知財分野の募集がある事業会社5~6社にエントリーしました。何十社とエントリーして、受かってから選ぶようなスタイルが就活のスタンダードでしたが、保険を掛けることにあまり意味を感じなかった。また、人生は最終的にいいように進む、という根拠のない自信があったように思います。
ご縁があったのはアパレルブランドの法務担当です。入社してみると、社内のデザイナーチームが日々切磋琢磨して服を作り、さらには店舗のデザインや広報の打ち出し方に至るまで、あらゆる人たちが世界観を作り、守ろうとしていました。私は偽ブランド品対策の担当で、法律の力で世界観を守っていくわけです。
淡々と偽ブランド品のパトロールをしたり、警告書を作ったり、税関の方に偽ブランド品を止めてもらうよう依頼したりする仕事。地味ではありましたが、工夫の余地があり楽しかった。
ある時、大学院で研究していた法律を使って訴訟をする機会がありました。研究していたところと同じような工夫と、事業会社で戦うときの発見があり、とてもやりがいがあって面白かった。研究していた分野で訴訟までするのは非常に貴重な経験で、やり切った後に「ひと段落付いた」という気持ちにもなりました。
視野を広げられて、ものが生まれる瞬間に立ち会えるマクアケへ
アパレル業界を好きになり、人や仕事にも恵まれましたが、ひとつのことに特化していて、使う法律や関わる人たちも固定されていきます。もっと広い分野も知りたいと考えて転職活動したところ、マクアケに出会いました。
興味を持ったのは、何も決まった枠がないところ。まったく新しいプロジェクトの審査をする際、自分たちで調べ、「ここさえ担保できれば適法に商品を出せる」という勘所を押さえなくてはなりません。うんうんとうなって工夫し、何かを生み出す手助けをするというところに魅力を感じました。
また、偽ブランド品対策は、すでにある世界観を守る仕事なので、ものが生まれる瞬間からは遠かった。でも、マクアケの審査法務で扱うのは、ものが生まれる直前であり、生まれる現場そのものなんですね。その現場で法律を使っていろいろできると考えるとわくわくしました。
ものごとが動くスピードがとにかく早く、何でもやらせてもらえる
入社前に「やりたいと言ったら何でもできる」と聞いていましたが、実際には想像の30倍くらいでした(笑)。新しいことが好きなので、いろいろなことに手を上げたら本当に全部やらせてもらえるんです。
例えば、「Makuake」のグローバル版である「Makuake Global」。立ち上げるタイミングで手を上げて、法律の立場からさまざまな決めごとをしていきました。「このジャンルの商品はあらゆる国と地域に発送していいのか」「お酒はどこで売れてどこで売れないのか」「環境分野に厳しいEUでこの樹脂は使ってもいいのか」など多岐にわたります。
すべてをクリアにはできないので、リスクを取れる範囲を決める必要があります。入社1年にも満たない私が、どんどん意見を出させてもらいました。本当に大変だったけど、すごく楽しかった。リリース後も、毎週の定例会議に参加して、さまざまな観点でアドバイスさせてもらっています。
他に、私からの発案で動いたこともあります。少し前まで、「Makuake」のページには生産国などを記載するルールがありませんでした。でも、製造国の表記や、「正規輸入代理店」といった記載があったほうが購入する際に安心できますよね。「Makuake」を実施する実行者のサポート役であるキュレーターと一緒に、新規のプロジェクトにはすべて適用するようルールを作成しました。
並行して、プロジェクトページに「クラウドファンディング」の言葉を使わないというルールも設けました。「Makuake」は新商品や新サービスが誕生する、まさに「アタラシイものや体験の応援購入」のプラットフォームであり、一般的なクラウドファンディングという言葉の意味や価値とは異なるのですが、実行者側で作成されるプロジェクトページにはこの言葉が使われるケースがあったんです。一方、「Makuake」の世界観を伝える相手であるサポーターの方たちは、プロジェクトページを参照することが多いので、そのプロジェクトページに「クラウドファンディング」という言葉が使われるのは好ましくない。そこに伝えるべき本当の価値や世界観を反映させなくてはならないと考えたんです。
審査法務は、守りの部署です。実行者の方から見たら「これでは通せません」という門番のようなもの。でも、新しいものを出すときに「『Makuake』を使えば、適法に商品を出していける」という安心感につながるといいなと思います。初めての場所で学んでいただくイメージですね。一度「Makuake」の審査に通ったら、自信を持って商品が出せると思っていただきたいですね。
日々の業務改善の中で、「『Makuake』の審査法務のチェックが通れば安心」と思ってもらえるような雰囲気が少しずつできているかなと思います。適法の中で確実に世の中に商品を出していける、という認知がもっと広まるように、これからも情報発信していきたいと考えています。
取材・執筆:栃尾江美 Website