こんにちは、クラビズの本郷です。
【クラビズの原点:代表・秋葉の軌跡】第3回となる今回のテーマは、「倉敷で挑戦する意味」です。
第1回では、秋葉がクラビズ社長になるまでの歩みを、第2回では、長い間大切にしている「仕事観」について聞きました。
では、なぜ今も倉敷で仕事を続けているのか。
東京で働いた経験から見えてきた倉敷の価値。地方でビジネスをする面白さと難しさ。そして、クラビズが掲げる「地方の新たな熱源となる」というビジョンに込められた意味。
今回は、「地方で生きること」「街をつくること」「未来に何を残すのか」について話を聞きました。
目次
- 1. 外に出て、初めて見えた。倉敷という街の価値
- 2. 地方には、地方だからこその強さがある
- 3. 「余剰」をどう使うか。まず、自分の生活を整える
- 4. 理想を押しつけるのではなく、自分の責任で変えていく
- 5. 「熱源」とは、未来に希望を持てる街をつくること
- 6. 街の価値を「吸い取る」のではなく、「上積み」する
- 7. 枠の外に出て、初めて見えるものがある
- 8. 「ここに生まれた」という事実を、どう生きるか
- 編集後記
1. 外に出て、初めて見えた。倉敷という街の価値
――子どもの頃に見ていた倉敷と、今見えている倉敷では、何か変わりましたか?
全然違いますね。
人間って、普段接している環境や身の回りにあるものを、当たり前だと思ってしまうものじゃないですか。でも、環境を変えると、「実は当たり前じゃなかったんだ」と気づくタイミングがある。
僕は18歳まで海外に行ったことがないどころか、飛行機にも乗ったことがありませんでした。
だから、小さい頃に大原美術館へ行っても、特別なことだとは思っていなかった。モネの『睡蓮』があっても「有名な絵なんだ」くらいの感覚で、それがどれほどすごい作品なのかも分かっていませんでした。
倉敷の古い街並みも同じです。あれだけの街並みが残っていることや、そこにどれだけ多くの人の思いが積み重なっているのか、全然知らなかった。
ただ、生まれ育った街だから好きだったんですよね。高校生の頃、駅前を歩いたり、大原美術館にふらっと行ってぼーっとしたり。意味を理解していたわけではないけれど、その場所が持つ居心地の良さは、直感的に感じていたんだと思います。
――それが、東京に出てから変わっていったんですか?
そうですね。東京で生活して、倉敷に戻ってきてから、少しずつ見え方が変わっていきました。
「なんで、この街にはこんな古い街並みが残っているんだろう」と。誰か一人が「残そう」と思っただけで、何十年、何百年もの間、街並みが残るわけではありません。いろんな人の思いや出来事が積み重なって、今の街がある。
そういうことを知るようになって、街の見え方が変わったんですよね。
僕の中では、最近やっている「テレパシーラジオ*」という番組も、少し近い感覚なんです。大原さんたちの思いや、昔この街を残そうとしていた人たちの思いが、街の中にふわふわ浮いているような感覚がある。それが経験を重ねる中で一つひとつつながって、自分に何か深いものを与えてくれる。
だから、自分から知識を取りに行くだけでなく、「感じる」ということも大切なんじゃないかと思っています。
*テレパシーラジオ:秋葉らが出演するラジオトーク番組。毎月第一日曜日に、エフエム倉敷にて放送中。
2. 地方には、地方だからこその強さがある
――東京と倉敷の両方を知った今、地方でビジネスをする面白さは何でしょうか?
どんなことにもメリットとデメリットがあるので、どちらが良いという話ではないと思います。
ただ、地方は人との距離が近いですよね。行政との距離も、企業同士のつながりも近い。東京都知事に会おうと思っても簡単には会えないでしょうけど、倉敷市長なら、動けば会える可能性がある。
行政の人たちとも、単なる仕事上の関係だけではなく、「この街を良くしたい」という思いでつながれる。そういうところは地方ならではの面白さだと思います。
一方で、会社の規模だけを大きくしようと思ったら、東京の方がやりやすいでしょうね。
――会社の規模を大きくすること自体は、秋葉さんにとってどのくらい重要なんでしょうか?
規模を大きくすること自体は、目的ではありません。
100億円企業になるという目標を掲げていますが、100億円にすることがゴールだとは全く思っていない。何でもいいからM&Aを繰り返して、会社の規模だけを大きくすることも不可能ではないと思うのですが、別にそれがしたいわけではないんです。
では、何のために100億円なのか。
僕は、地方がこれからも残っていくためには、地方にちゃんと利益を生み出せる企業が必要だと思っています。
効率面だけを見れば、地方の小さな企業やコミュニティを集約すべきという考え方もあるかもしれません。でも、僕はそれだけが正解だとは思わない。
小さなものが残っていくからこそ、人類の未来がある。地方も都市も、規模の異なる企業も、いろんな生き方も存在している。そういう多様性が残ることが大切なんじゃないでしょうか。
ただ、地方が残っていくためには、綺麗ごとだけでは駄目なんです。何かを実現するにはお金が必要ですし、補助金や国の政策に頼るだけでは、地域が自立することは難しい。
だからこそ、利益を生み出せる企業が必要になる。例えば、売上100億円で営業利益率が10%なら、10億円の利益が生まれる。その規模になれば、街に対してできることも増えてくるはずです。
100億円は、達成すること自体が目的なのではなく、実現できることを増やすための手段なんですよね。
3. 「余剰」をどう使うか。まず、自分の生活を整える
――地方を良くすることを考えたとき、すべての人が同じ方向を向くのは難しいですよね。
そうなんです。どれだけ良いことを言っても、それが誰にとっても幸せとは限りません。
例えば、年間売上が1,000万円くらいの一人親方に、「利益を社会のために使いましょう」と言っても、簡単には納得できないと思うんです。
要は、自分の子どもがお腹を空かせているのに、他の子どもにご飯を食べさせられるのか、という話に近いと思います。
だから、まず自分の生活を整えることが必要なんです。そのうえで、自分の中に「ここまであれば満たされる」というラインをつくる。
年収1,000万円で十分だと思う人もいれば、1億円必要だと思う人もいる。それは人それぞれなので、どれが正しいという話ではありません。
ただ、どこまでが自分に必要なもので、どこからが「余剰」なのかを理解しておくことが大切だと思います。
人間は、放っておくと「まだ足りない」と思い続けてしまう。1億円持っている人が、10億円持っている人を見て「自分はまだ足りない」と感じることもある。
だから、貧しさはお金を持っていないことだけではないんですよね。本当は足りているのに、まだ足りないと思ってしまう。その心自体が苦しさを生むこともある。
自分がどこまで満たされればいいのかを考え、それを超えた余剰があるのなら、社会に還元していく。今の僕は、そう考えています。
もちろん、会社にとっての余剰とは何なのか、どこまで売上を伸ばせばいいのか、まだ明確な答えが出ているわけではありません。でも、考え続けているテーマです。
4. 理想を押しつけるのではなく、自分の責任で変えていく
――経営者として、社員一人ひとりが求めるものの違いを感じる場面はあ
りますか?
そうですね。責任ある立場の人なら、誰もが感じることだと思います。
例えば、会社の売上が100億円になり、社会貢献活動を使えるお金が増えたとしても、「素晴らしい」と思う人もいれば、「それより給料を1円でも上げてほしい」と思う人もいる。それは当然のことです。
だから、自分の理想を声高に叫んでいるだけでは何も変わらない。どう伝えれば実現できるのか、どうすれば一人ひとりに届くのか。そこまで考えなければいけません。
――僕自身も、自分の理想があるからこそ、「なんで分かってくれないんだろう」と思ってしまうことがあります。
分かります。僕もずっと思っていました。僕も人間ですから、「なんで理解してくれないんだろう」って思うこともゼロではありません。
でも、そこで「あの人たちが悪い」と言った瞬間に、問題を棚上げしてしまうんですよね。
「あの人は何も分かっていない」と批判するだけでは、状況は変わらない。
だから、自分の責任において、自分にできることをやっていくしかないんです。
理想を掲げるだけでなく、「どうしたら伝わるのか」「何か方法はないか」と考え続ける。それが、組織を背負う立場の責任なんじゃないかなと思います。
5. 「熱源」とは、未来に希望を持てる街をつくること
――クラビズが掲げる「地方の新たな熱源となる」というビジョン。秋葉さんにとって、それはどういう状態なんでしょうか?
まず、みんなが生き生きと暮らしていることですね。笑顔で暮らし、自分の意見や思いを表現できる。人と違う意見を言ってもいいし、ちゃんと議論もできる。そして、子どもたちが夢を見られる。
「俺たちの未来なんて……」と悲観するのではなく、「未来が楽しみだ」「生きていて良かった」と思える。
熱があり、未来に希望を持っている街。 僕がつくりたいのは、そういうものなんだと思います。
――クラビズ自身が、そういう組織になるということでしょうか?
クラビズだけで完結する話ではないと思っています。地域にいる一人ひとりに、全員「熱源」を持ってほしいというわけでもない。
僕たちが、そういうものを感じられる場所や機会をつくり、何かを実践していく。その結果として、「この街、いいな」「この社会には希望があるな」「子どもたちが生き生きしているな」と感じる人が増えていく。
そういうことだと思います。だから、すごく長い時間軸の話なんですよ。
6. 街の価値を「吸い取る」のではなく、「上積み」する
――倉敷の街を見ていて、「熱源」という考え方とつながるものはありますか?
最近、地域で商売をする人の中には、街の価値を吸い取って、自分たちの商売に利用している人も少なくないと感じます。。
例えば、美観地区で商売をしたい理由を聞けば、「儲かるから」と答える。観光客が来るからカフェをつくる。他の観光地で流行っているものを持ってくる。街が持つ力を、自分たちの商売に使っているわけですよね。
別に、それが悪いと言っているわけではありません。マーケットを調べて、売れそうなものを持ってくること自体が悪いわけではない。
だから僕は、「吸い取る人たちをなくそう」とするのではなく、「吸い取られても、それ以上に価値を上積みできる街にしよう」と考えています。
例えば、当社で開催している盆踊りがもっと良くなって、たくさんの人が集まるようになれば、街に新しい価値が積みあがっていく。
今、立ち上げ準備をしている豚まんの店もそうです。僕たちは観光客だけに買ってほしいわけではない。地元の人たちが誇りに思い、日常的に買って帰るようなものをつくりたい。結果として観光客が買ってくれるのは、もちろん歓迎です。でも、最初から観光客だけに向けてつくるつもりはありません。
そういう人たちが増えていけば、街に新しい価値が積み重なっていく。誰かに価値を使われたとしても、それ以上の価値が生まれていく。
それが、僕の言う「熱源をつくる」ということなのかもしれません。
街の価値を利用する人がいても構わない。でも、それ以上にプラスを生み出す人たちが増えれば、街は残っていく。社会全体にも、同じことが言えるんじゃないかと思います。
7. 枠の外に出て、初めて見えるものがある
――岡山や倉敷に住む学生の中には、「岡山には何もない」と言う人もいます。地元の魅力を知るには、外に出た方がいいのでしょうか?
それは間違いなく一つの方法だと思います。ただ、県外に住まなければいけないという意味ではありません。旅をするだけでもいい。
僕は旅が好きなんですけど、自分を今いる枠の外に置くことで、今の自分や環境を客観的に見られるからなんですよね。
ただ、外に出れば必ず何かを感じるわけでもありません。感じるかどうかは、その人次第です。想像力や好奇心、感受性も関係していると思います。
別に、何も感じなくてもいいんです。今いる場所で幸せに生きている人もいる。それは素晴らしいことです。
昔は、今のようにさまざまな情報に触れる機会も少なく、村の中で一生を終える人もたくさんいました。家族とご飯を食べ、時には近所の人に腹を立て、好きな人と結婚する。それだけで十分幸せだった人もいるわけですよね。
だから、みんながみんな、外の世界を知る必要があるわけではない。
むしろ今の社会では、本来なら知らなくてもよかったはずの外の世界が簡単に見えてしまうことが、苦しさにつながっているのかもしれません。SNSを見れば、何十億円も持っている人が目に入る。「自分もああなりたい」「なぜ自分はこんな生活なんだ」と、他人と比べて苦しくなってしまう。
地元で暮らし、家庭を持ち、そこで一生を終える。そんな人生だって、ものすごく素晴らしいと思います。
結局は、自分がどうなりたいのか、自分はどう生きたいのか。 そこを自分自身としっかり向き合って考えることが大事なのではないでしょうか。
8. 「ここに生まれた」という事実を、どう生きるか
――もし秋葉さんが倉敷で生まれ育っていなかったら、今とは違う人生になっていたと思いますか?
それは分からないですね。
置かれた環境によって学ぶことは違う。東京で生まれていたら、別のことを学んでいた可能性はあると思います。
でも、今ここに生まれたという事実がある。そうでなければ違う人生だったでしょうけど、それ以外の人生は、今の自分には存在しないんですよね。
だから、ここにいるからこそ、自分の今を全うしたい。
人生なんてあっという間に終わってしまうものだと思っているので。だったら、自分が今いる場所で、自分にできることをやっていきたいですね。
編集後記
今回のインタビューで印象に残ったのは、秋葉が語る倉敷への思いが、単純な郷土愛ではなかったことです。
東京で暮らした経験を経て、当たり前だった街並みの価値に気づいた。そして、その価値をただ守るのではなく、さらに積み重ねていこうとしている。
特に印象的だったのが、「街の価値を吸い取る人がいても、それ以上に新しい価値を生み出していけばいい」という考え方です。誰かを排除するのではなく、自分たちに何ができるのかを考え、実践する。その積み重ねが、街の未来をつくっていくのだと思います。
その先にあるのが、クラビズの掲げる「地方の新たな熱源となる」というビジョンです。
人々が生き生きと暮らし、未来に希望を持てる街をつくる。そのために、自分たちは何を生み出し、何を残せるのか。今回の話を通じて、このビジョンが単なるスローガンではなく、日々の事業の先にある目標なのだと感じました。
そして、最後に語られた「ここにいるからこそ、自分の今を全うしたい」という言葉。
生まれた場所や環境は選べなくても、そこで何をするかは自分で選べます。
「地方だからできない」ではなく、「この場所で何ができるのか」。
クラビズはこれからも、その問いを持ちながら、倉敷という街で挑戦を続けていきます。