2014年5月12日。この日は、クッポグラフィーにとって特別な日。お客さまといつでも気軽に会えるように、撮影でもそうでなくても“再会できる場”となるスタジオを初めてつくった日です。それまでは、ウェディングフォトを中心とした結婚式会場での撮影が主でしたが、スタジオができたことによって、ファミリーフォトなど多岐に渡る撮影ができるようになりました。今では、沖縄、駒沢公園、福岡とスタジオは増えていき、お客さまと再会する機会も増えました。
クッポグラフィーの歩みをともに支えてくれたお客さまに感謝の気持ちを伝える日をつくりたい。そんな思いで、5月12日を「kuppo day」と称して、2023年、全スタジオで初めてイベントを開催しました。
今回は、イベントを企画したフォトアートディレクター・久井唯花にこの日への思いを伺いながら、イベント当日の様子もご紹介します。
久井唯花(ひさい ゆいか)フォトアートディレクター。大阪芸術大学大学院 芸術研究科卒業後、キッズフォトスタジオでフォトグラファーとして勤務。2021年 クッポグラフィー入社。現在は、フォトアートディレクターとして、クッポグラフィーのWEBサイトや広告を始め、写真やデザイン全般のディレクションを担当している。
大人も子どもも 自分で選んで自分でつくる “体感型イベント”
ーー今回のイベント内容は、主に久井さんが企画されたと伺いました。
そうですね。色んな人の意見は聞きましたが、主に私が内容を考えて進めました。
ーーフォトスタジオのイベントというと、写真展などの写真を見に行くようなイベントであったり、撮影体験ができるような内容を想像していましたが、全く違いました。
せっかくの特別な機会なので、クッポグラフィーらしさを体感してもらえるような内容にしようと考えていました。撮影のときは、「ありのままの姿」「自分らしさ」というものを大事にしていて、イベントでもそれぞれが思うままに楽しんでもらえるような内容にしたいなと思って。
お客さまの多くは子どもがいるご家族なので、お子さまにも楽しんでもらえるような内容でないと休日に参加しづらいということも意識して、親子で楽しめる内容にすることも大切にしました。
ーーコンテンツの一つ、光を使ったインスタレーションでは、子どもたちが歓声をあげて楽しんでいましたね。
久井:想定していた以上に大人も子どもも楽しんでくれていて、一度その空間を出た後も何度も戻ってきてくださったり。その姿を見てとても嬉しかったです。
赤・青・緑、3色の光の中で、自由に動いて光で遊べる空間。3色が交わると白になる光の原理も取り入れた、フォトグラファーならではの視点を活用した光のインスタレーション。
ーー撮影のプロならではのアイディアが盛り込まれていて新しい発見にも繋がりました。
クッポグラフィーが開催するイベントを考える上で、やはり写真は切っても切れないものだなと思って。光は写真を撮影する上で必要不可欠なものなので、光を使って大人から子どもまで楽しめるようなものにしてみようと考えてみました。そこで思いついたのが、フォトグラファーであれば誰もが知っている、赤・青・緑、光の三原色を利用したインスタレーションでした。
光は被写体の動きによって様々に形を変えたり、光があると影も生まれて、その影が動く様子も楽しんでもらえるかなと。普段私たちが撮影時に考えていることを体を使って感じてもらうことで、より写真に興味を持ってもらえると嬉しいなと思いました。
ーー光の三原色と遊びの可能性を掛け合わせた結果、今回の空間が生まれたということですね。私も体験してみてとても面白かったです。お客さまの反応はいかがでしたか?
参加者が動くと空間にも動きが出るといった、仕組みはとてもシンプルなものだったのですが、皆さんが自分自身で動きをつけて遊び方を考えてくれたり工夫をされていました。「あの色は何色だね」「こうすると大きさが変わるね」と考察してくれたお子さまもいて、個性豊かな楽しみ方にこちらが驚かされるほどでした。
ーー光で遊びながら、その姿をスマホなどで自由に撮影できるところも楽しいですね。フォトスタジオで敢えてフォトグラファーが撮影をしないところも新鮮です。
久井:プロが撮影しないことによって、お客さまには自分で自由に撮影することも楽しんでもらえたらいいなと思って。スタッフは撮影をしない分、お客さまと久しぶりの会話を楽しんだり、子どもたちと思い切り遊んだり。すごく良い時間が流れていました。
クッポグラフィーは、撮影をしなくても気軽に立ち寄ってもらえるフォトスタジオを目指していて、スタジオ内のカフェにもそんな思いが込められています。今回のイベントも、再会できることを一番の目的としていたので、敢えて撮影をしない内容にしました。
もう一方のスペースには、鏡や風を利用して光の揺らめきを加え、まるで水中にいるような空間に。日常では出会うことがないような光を体感できて非現実空間を楽しむことができる。
ーーそしてもう一つ。お子さま向けに手づくりの木製カメラをつくるワークショップも、大盛況でしたね。
皆さんに喜んでいただいたようでよかったです。ご自宅に帰っても、クッポグラフィーで遊んだことを思い出せるようなものをプレゼントしたいなと思っていたので。今回、光のインスタレーションでは、お子さまが遊んでご両親が写真を撮ってあげるといった場面が多くなるだろうなと考える中で、子どもたち自身もカメラを構えてみるような遊びができたら面白いかなと思ったんです。そこで、ファインダーを覗けるような、手づくりのカメラをつくるワークショップを企画しました。
レンズ、紐、飾りのシールは好きな色を選べる。いくつかの部品を自分で組み立ててつくり、オリジナリティーを出せるように、デザイナーと久井は打ち合わせを重ねた。
素材にもこだわりました。手触り感の良い木材を選んで、使えば使うほど味が出てくるような、経年変化を楽しめるような素材にしました。実はスタッフみんなで、危ない箇所がないようにやすりをかけたり、部品を入れ込む穴を開けたりしたんですよ。
ーースタッフの皆さんで!700個以上用意したと聞いていますが…。大変でしたね。
その時間も楽しみました。あの子喜ぶかなぁとか、大きくなっただろうなぁと、各々がお子さまとの再会を思い浮かべながら。
当日は、子どもたちが、どの色にしようかなとそれぞれ好きな色を選んだり、自分が好きなように飾り付けをしてみたり。出来上がった時の満足した表情は、嬉しさと自信に満ち溢れていて忘れられないですね。自分で選んでつくったものを、みんなに素敵だね、いいねって言ってもらえるような体験になって、カメラと一緒に達成感も持ち帰ってもらって。
色んな場所に一緒にカメラを持って行ってくれたら、大きくなってから、小さいときにこれでよく遊んでいたよねって思い出を振り返ってもらえたりもするのかなと想像しています。その子にとって一生モノのカメラになればいいなぁと思ったので、自宅に置いておいても邪魔にならないようなナチュラルな素材にこだわりました。
ーー大人も子どもも与えられるだけではなく、自分の意思で遊んでみたり、自分の手を動かしてつくるといった体験は、記憶に残る思い出になりそうですね。
久井:そうなってくれると嬉しいです。木製カメラづくりは、子どもたちのためにと思って企画した部分も大きかったのですが、始まってみると、家族みんなで参加するイベントだったんだなと感じました。
子どもたちが挑戦することを、ご両親が一緒に喜んだり、小さなお子さまには難しい仕上げなどをお父さまお母さまが手伝ってくれることを、スタッフと子どもたちで一緒に応援したり。子どもたちからご両親へ「ありがとう」「かっこいい」と声が上がっている姿を見て、私もあたたかい気持ちになりました。
見本通りにきっちり作ることよりも、自分たちで選んで、みんなで一緒に作ることを楽しんでくださっていて。自分ひとりで作りきれないことが悔しくて涙が出てしまう子もいて、その意志の強さにスタッフみんなが感動する場面もありました。
カメラを気に入って、後日撮影の日に自分で作ったカメラを持ってきてくれた子もいた。
5月12日に込めた “ありがとう”と“これからよろしく”の思い
ーー5月12日をクッポグラフィーの記念日「kuppo day」としたのはどういった思いがあったのですか?
久井:クッポグラフィーで初めてのスタジオが誕生したのが、2014年5月12日、横浜港北スタジオでした。スタジオができるまでは、ウェディングフォトを中心に活動をしていて、スタッフもフォトグラファーが中心の小さな組織でした。でも、スタジオができたことによって、ヘアメイクアーティストやカフェのバリスタ、写真の編集を担当する人などが加わっていって。多種多様な業種の人たちが一つのチームとなって、一組一組のお客さまをお迎えするといった流れができていったんですよね。
今、72名のスタッフ、4つのスタジオが存在することで、たくさんのお客さまをお迎えすることができるようになったのも、これまで支えてくださったお客さまたちのおかげで…。その感謝の気持ちを何かの形にして伝えたいと思い、毎年5月12日を記念日にして、お客さまに直接会って「ありがとう」を伝える機会をつくりました。
ーー駒沢公園、横浜港北、福岡、沖縄、すべてのスタジオで行うイベントはこれまで開催していたのですか?
久井:初めてです。スタッフのほぼ全員が参加するような大規模なイベントも初めてです。お客さまともう一度再会したいという思いは、スタッフみんなが共通して持っているもので、一組一組のご家族と会えることを楽しみにこの日を迎えました。
クッポグラフィーで撮影をしたことがある方には、担当スタッフからの手書きメッセージと写真を添えた「welcomeカード」を渡しました。カードに添えた当時の写真を見ながら思い出を話すことができたり、その後のお子さまの成長について教えてもらったり。思いがけず楽しい時間が生まれました。私自身、写真を納品する際に「いつか今日の写真を囲んで思い出話がしたいです」と伝え続けていた願いが叶って、本当に嬉しかったです。
ーー素敵な再会の数々が目に浮かびます…。クッポグラフィーを訪れるのが初めてのお客さまも参加してくださったみたいですね。
そうなんです。クッポグラフィーのことが気になっているけれどまだ撮影をされていない方であったり、また今度でいいかなと思っている方にも気軽に知っていただく機会になればと思い、どなたでも申し込みいただけるイベントにしました。スタジオで遊んで雰囲気を知っていただいたり、どんなスタッフが撮影をしているのかを知ってもらえる機会になればと思って。
いつも来てくださっている方にも、初めての方にも、クッポグラフィーの写真が生まれる舞台裏を知っていただく「ストーリールーム」という部屋も用意しました。
スタジオをつくる過程や工夫、オリジナルの着物や花束をつくることへの思いや秘話。クッポグラフィーの数々の舞台裏を伝えるストーリールーム。
私たちは写真を撮るときに、子どもやパートナーへの思いなど、家族の裏側にあるストーリーを1枚の写真の中で感じられるようなものになるように、なるべく一組一組の背景を知った上で撮影ができるようにお話を伺っています。例えば家族写真を撮るときにも、ちょっとしたことなんですが、お子さまの背中にお父さまがそっと手を添えられているような場面があったとき。ただそれだけで、1枚の写真の中で子どもを大切に思っていることがにじみ出たりすることがあって。撮影をしながらお子さまへの思いなど、お客さまのストーリーを知ることで、ちょっとした瞬間を見逃さないようにしています。
お客さまにもクッポグラフィーの写真が生まれる裏側も知っていただくことで、次の撮影に来るときには、またちょっと違う気持ちで楽しんでもらえるのかなと思って準備をしました。スタジオをつくる過程で実は困難があったことや、オリジナルの花束や七五三の着物に込められた思いや願い。オリジナル着物を直接触っていただく機会もつくり、初めて知って驚いたり、発見を楽しんでくださっているお客さまもいらっしゃいました。
心に残る1日と 心の支えになる1枚を
ーー実際に、来てくださったお客さまの反響はいかがでしたか?
久井:2日間に渡り、274組のお客さまが来てくださって。
ーー274組ですか!すごいですね。
久井:遠方から足を運んでくださった方もいて、ありがたかったですね。これまで、再会できる日を心待ちにしてお客さまの背中を見送ってきましたが、こうした形でまたお会いできることに感動して。毎年再会の機会を作っていきたいなと改めて思いました。
撮影のお客さまがご来店された際に、準備していたwelcomeカードをお渡しするヘアメイクアップアーティストの塚田(塚田を取材した以前のmagazine記事はこちら)
久井:クッポグラフィーでは、多くの人たちのもとに「心の支えになる写真」が生まれることを願って撮影をしていますが、何気ない1枚が数年後に、心の支えになることもあって。今回、子どもたちが思い切り遊んだりつくったり楽しむ様子を、ご家族が写真をたくさん撮っている姿が印象的でしたが、その1枚が心の支えになることもあるのかもしれません。小さい頃、休日に家族で立ち寄ったフォトスタジオで、パパとママがたくさん遊んでくれたな。僕が作った木のカメラをたくさん褒めてくれたなって。親からもらった愛情を何気ない日常の一コマとしてふっと思い出すような写真になるかもしれないですよね。
実は私自身も、何気ない1枚の写真が心の支えになっていて…。
ーーどんな1枚なんですか?
久井:私の家族はみんな仲は良いですが、休日に家族で遊園地や動物園など、一緒にお出かけをしたような記憶が今はもう残っていなくて。自宅に家族の思い出を振り返れるような写真もないし、一緒に出かけたときのお土産のようなものもなくて。
大学時代に、課題で家族写真を探さないといけないタイミングがあって、自宅でアルバムを探していたら、1枚の写真が出てきました。そこに写っていたのは、昔住んでいた家の近くの小さな公園で、父に遊んでもらっている私だったんです。小さなパンダの乗り物に、父と私が一緒に座っていて。おそらく星が見えていて、空に向かって父が指をさしているような写真でした。
父は仕事で家にいないことが多くて、母と過ごした時間のほうがこれまで思い出すことが多くて。父との思い出はほとんど覚えていなかったのですが、この写真のおかげで、父にもちゃんと遊んでもらって愛されていたことを感じることができて、今でも心の支えになっている1枚です。
ーー写真がなかったら、お父さんに遊んでもらったことを思い出すこともなかったのかもしれませんね。
そうなんですよね。この1枚のおかげで父への思いも変わりました。今の自分に繋がるような貴重な体験ができて、改めて写真ってすごいなと。そんな写真をクッポグラフィーのお客さまにも提供できるといいなと思いながら撮影やデザインを続けています。
今回の「kuppo day」が、参加してくださったご家族の皆さんにとって、記憶に残る1日になっていたら…。感謝の気持ちを伝えたいと企画したイベントでしたが、皆さんの楽しむ姿を見ることができて、私自身にとっても心に残る1日となりました。お越しいただきありがとうございました。
取材・文:石垣藍子
撮影:クッポグラフィー