株式会社常光では、SDGsやD&I活動に積極的に取り組んでいます。その一環として、力を入れ始めたのが障がい者雇用の推進です。「誰もが働きやすい職場づくり」を目指し、職場づくりの中核を担う人事部で障がい者雇用を開始しました。
障がいのある方々と共に働く中で見えてきた課題や気づき、そして組織に起きた前向きな変化とは――。本記事では、障がい者と共に働く現場のリアルをご紹介します。
※本記事の内容は2025年8月公開時点のものです。
▼対談メンバー
人事部 副部長 F.H
2008年、常光へ中途入社。入社以降、総務部・人事部に所属し、人事総務機能の中核を担う。
現在は人事部 副部長として人事制度設計・採用・労務などに注力。障がい者雇用の推進を牽引。
人事部 Y.M
派遣事業のキャリアアドバイザーを経て、2023年に常光へ中途入社。採用に関する母集団形成から入社後の研修まで幅広く人事業務を担当。障がい者雇用時の環境構築や日々のコミュニケーションを担当。
障がい者雇用は、D&I推進の第一歩
ーー常光が障がい者雇用に力を入れることになった背景を教えてください。
F.H:きっかけは、SDGsのSXプロジェクト(*1)の一環として、D&I活動(*2)を推進し始めたことでした。女性・外国人・短時間労働者と並び、障がいのある方の雇用も視野に入れるようになったのです。常光では以前から障がい者の方を採用してきた歴史はあるものの、それはあくまでも一般職の採用枠と同等の扱いでした。障がい者の方が働きやすい職場づくりや業務内容の切り出しといった工夫があったとは言えず、共に働く上でのハードルは高かったと思います。今までの体制を改善し、誰もが働きやすい環境をつくる必要性があったんです。
また、障がい者雇用は企業の義務という側面を持つだけでなく、優秀な方を迎える絶好の機会を得られる取り組みだと捉えています。
ーーまずは、人事部で障がい者雇用枠をつくったそうですね。
F.H:そうです。まずは人事部で実績をつくり、受け入れ時の注意点などを他の部門にも共有できればと考えていました。実際に2名の方をお迎えし、人事経験豊富なプロフェッショナルとしてご活躍いただいています。
*1)企業が持続可能な社会の実現と自社の企業価値向上を両立させるために、経営や事業を変革する取り組みのこと
*2)ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)を推進する取り組みのこと
できることから一緒に整える──受け入れ準備の舞台裏
ーー採用プロセスや配属準備には、特別な配慮が必要だったと思います。どのように進めたのでしょうか?
F.H:自社内に障がい者雇用に関する確固たるノウハウがなかったため、障がい者特化の人材紹介会社にお力を借りました。選考において重視したのは、「どんな配慮が必要なのか」「何ができて何が難しいのか」のすり合わせです。入社後に行き違いが起きないように、お互いに「できること・できないこと」を理解し、なるべく心理的安全性に配慮する形で選考を進めました。
ーー実際の業務準備や環境整備はいかがでしたか?
F.H:入社までの2か月間を費やし、Y.Mさんが中心となって受け入れの準備を進めてくれました。必要なマニュアルやPC環境の整備を行い、「これで準備万端!」と入社日を迎えたのですが、実際に働き始めていただいてから至らない部分に気づかされることも多かったですね。
Y.M:もともと私たちが使っていたマニュアルは「目で見てパッとわかる」ように、スクリーンショットを用いた画像中心の構成でした。しかし、視覚障害のある方にとっては、読み上げソフトが反応しない画像中心のマニュアルは意味を成しません。そこまでは事前に理解しており、マニュアルのテキスト化には対応していたのですが、いざマニュアルを使ってもらうと、単にテキスト化するだけでは不十分だったことがわかったんです。
F.H:入社後「何か困っていることはないですか?」とお聞きしたところ、「実は情報を探すこと自体に時間がかかってしまっている」とご相談をいただきました。マニュアルに見出しがなかったり、フォルダの命名規則が曖昧だったりと、一つひとつデータを開いてみないとわからないことが多かったんです。
Y.M:たしかに見出しやフォルダ名が適切でなければ、必要な情報にたどり着くまでソフトが延々と読み上げ続けることになります。普段自分たちが「読み飛ばす」部分まで意識が及んでいなかったことに、言われてから初めて気づきました。
F.H:オンボーディングのタイミングも工夫が必要でしたよね。通常であれば、入社日はなるべく一緒に研修を受けてもらうことが多いのですが、たとえば視覚障害なのか、聴覚障害なのかによって、適切なインプット方法は異なります。実際に受け入れてみたことで、一人ひとりの特性に合わせたオンボーディングの必要性も実感しました。
共に働くことで、業務設計が進化した──人事部の今
ーー実際に働いてもらいながら調整することも多かったんですね。一緒に仕事をしてみて、人事部にはどのような変化がありましたか?
Y.M:新しいメンバーを迎えるにあたって「誰にでもわかる」マニュアルの準備に力を注いだことで、結果的に業務の標準化や整理が進んだことは良い変化でしたよね。
F.H:そうですね。業務の最適化が大幅に進んだと思います。これまでの人事部は少数精鋭。一人ひとりがあらゆる業務を兼任しており、担当範囲が曖昧になりがちでした。それゆえの業務負荷も少なくなかったと思います。しかし、今回お二人にご入社いただき、特定の業務をお任せしたことで、既存メンバーの役割分担も明確になりました。任せる範囲や業務内容自体を見直すことを重ねた結果、組織全体の業務設計が改善され、より柔軟で合理的な体制に近づいたと感じています。
Y.M:お二人とも的確なフィードバックをくださるので、それも良かったなと思います。こちらの至らない部分もある中で「もっとこうしたほうが良い」と忌憚なく意見を出していただけるので、非常に学びが多いです。「チームで良い職場」をつくれている実感がありますね。
特別扱いではなく、適切な配慮を──これからの“働く”かたち
ーー今後、全社的に障がい者雇用を広げていくことになりますよね。その際に意識すべき点はなんでしょうか?
F.H:まずはモデルケースを社内に示すことが大切だと思っています。もちろん、現場によって「最適解」は異なりますが、人事部を一例として「それならうちの部署でもできるかもしれない」と感じてもらうことに意義があると思うんです。
Y.M:障がい者雇用においては「配慮」と「特別扱い」の違いを明確にすることも重要だと思います。配慮はその人が公平に働けるようにするための前提であって、特別扱いとは異なる。環境に適した配慮があってこそ、その人の力が発揮されるのだと思います。
F.H:誰にどんな役割を任せるのか、それを明確にすれば必要な支援も自然と見えてきます。「できること・できないこと」を整理することで、お互いに心地良く働ける職場がつくれるのではないでしょうか。これから全社的に障がい者雇用を推進するにあたっては、部署ごとに適した形を人事部も一緒に考えていければと思っています。
新メンバーの声──障がいが“特別”にならない配慮に溢れた職場
障がい者雇用枠で新たに人事部に入社したお二人からメッセージをいただきました!
入社前は「職場の雰囲気はどんな感じだろう」「業務内容は自分に合っているのかな」と、不安がなかったと言えば嘘になります。しかし、内定承諾後から入社までの間に、副部長から丁寧な業務案内の連絡があり、具体的な仕事内容やサポート体制を事前に教えていただけて、とても安心しました。常光への転職は、自信を持って“成功”だと思っています。業務は完全在宅ですが、孤独を感じることはほとんどありません。定期的なミーティングがあり、自分が担当していない業務についても情報共有される風通しの良さがあります。
とくにありがたいのは、自分の希望に合わせた勤務時間で働かせていただけていることです。 使用するPC環境についても入社前から確認・配慮があり、細かな点にも丁寧に対応してくださったことに感謝しています。常光では、障がいがあるからといって“特別扱い”をされることもなければ、逆に情報共有から除かれるようなこともありません。研修制度や上司との面談機会など、制度がしっかり整っている会社だと感じますし、目に見えないところでもたくさんの気遣いをしてもらっていることを日々実感しています。私自身は「障がいがあるから配慮してもらって当然」とは思っていません。感謝の気持ちを忘れず、自らも工夫し、前向きに仕事に向き合う姿勢が大切だと考えています。情報も技術も進歩した今、どんな状況であっても働くことはできる。そう実感できる環境が、ここにはあります。従業員を大切にしてくれるこの会社で、これからも長く働き続けたいと思っています。
初めての転職ということもあり、新しい職場に飛び込むことへの緊張感は少なからずありました。
視覚に障がいのある私にとって、パソコンに補助ソフトを入れる設定や、使用する社内システムの構造を把握するといった“業務を始める前の準備”は欠かせません。そうした点が、キャッチアップの壁になるのではないかと不安を感じていました。ですが、常光の皆さんが事前にしっかりと準備してくださっていたおかげで、スムーズに業務に取り組むことができました。PC環境の整備やシステム確認など、お願いしていた配慮事項にもきめ細かく対応していただき、引継ぎも余裕を持って進めていただけたことに感謝しています。
アサインされた業務も、前職での経験を活かせる内容が多く、安心感を持って業務に取り組めました。とくにありがたく感じているのは、チーム全体の柔軟で協力的な姿勢です。
業務を割り振る際には、補助ソフトが問題なく使えるかを確認する時間をいただけますし、もし使用が難しいシステムがあれば、その業務以外を担うように切り分けていただける。 “できないこと”ではなく、“できること”を起点に業務を調整してくださる姿勢に、とても助けられています。
また、私は完全リモートで勤務していますが、チャットや定例ミーティングを通じて質問や相談がしやすい環境が整っており、物理的な距離を感じることなく、チームと連携しながら働けていることも大きな安心材料です。
いかがでしたか?障がい者雇用は「制度」ではなく「共に働く選択」 です。常光では、障がいを理由に隔たりをつくらない職場づくりを目指しています。この記事が、障がい者雇用促進の一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。