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挑戦者に伴走することこそが自らの使命。生半可な気持ちでは取り組まない

(※この記事は2021年12月に公開したのものです。)

地方の4世代同居の家で育ち、隣近所もみんな代々の顔見知り。そんな温かくも息苦しい環境を飛び出し、何者かになりたいと進学した大学で、自分探しの末、志を持って何かをなそうとしている人をサポートすることが好きだと気づく――。そんな伊藤香奈(Ito Kana)はフォースタートアップス(以下、フォースタ)へ来るべくして来た人物だ。挑戦者たちの伴走者であるヒューマンキャピタリスト。この仕事に対して強い誇りと自負を持つ。

さまざまな活動に参加した学生時代。新卒の就職は圧倒的成長環境を選ぶ

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▲学生時代に携わった島おこしインターンでの様子

学生団体の立ち上げ、イベント運営、東南アジアでインターン、島おこしインターン。さまざまな活動に参加し、自分を探し続けた伊藤の大学時代。特に思い出深い活動の1つが、街の飲食店のオーナーと一緒に取り組んだ子ども食堂のような事業だ。働くお母さんをサポートするために、大学生が勉強を見て、子どもたちと一緒にごはんを食べながら放課後を過ごす場をつくるというものだった。

「お店のお昼と夜の営業の間の時間を利用した活動でした。“子育てのサポートをしたい。子どもにおいしいごはんを食べてほしい。勉強も基礎からきちんと学び、学ぶ楽しさを知ってほしい。そうやって、子どもにとっていいことと女性の就業を両立できる方法を増やすことで、女性が働きやすい社会にしたい”というオーナーさんの思いを、私たち学生が一緒になって形にしたものでした。そのときに、志を持って何かをやろうとしている人が素敵だと感じ、そのような人が増えたら社会がもっとよくなると思いました」と伊藤。

それまで「何者かになりたい」「自分らしい志を見つけなければ」という思いに駆られていたが、思いを持って何かをやろうとしている人の、作りたい未来の実現をサポートをすることが自分には向いているのかもしれないと気づいた出来事だった。その気づきがいずれフォースタへとつながるのだが、その前にワンクッションある。

新卒の就職先は、ERPシステムの提供をするワークスアプリケーションズ(以下、ワークス)。大学3回生の夏、同社創業者の牧野正幸氏のセミナーに参加し、強烈なインパクトを受けたからだ。「私たち大学生に向かって牧野さんが言いました。スタンフォードやハーバードの学生は、大学で必死に勉強する。在学中はGoogleなどでインターンをするのが当たり前で、卒業したら起業する。片や日本の大学は、入るのは難しく出るのは簡単。そこには圧倒的な差があり、日本の国際競争力が下がるのは当たり前だと。その通りだと思いました。続けて牧野さんは、ここから日本は地盤沈下する、沈みゆく船から次の船に泳ぎたどり着くためのキャリアが必要だ―とも言いました」。

それは、海外の友だちなど身近な人から見聞きする様子とも一致していた。牧野氏の言葉に深く共感した伊藤は、20代を圧倒的成長環境で過ごそうとワークスに入社した。

仕事は充実するも、変革に直結しないもどかしさ。偶然の重なりでフォースタと出会う

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▲ワークス入社前のインターンで、優秀層として認められ、シリコンバレーのキャリアツアーに参加

研修を終えて配属になると、1年目ながら伊藤はすぐに活躍する。「配属数カ月で深夜までお客様とトラブル対応をしたり、提案や大きなプロジェクトにも関わったり。圧倒的成長環境は間違いありませんでした」と振り返る。

が、予想と違うこともあった。ワークスのプロダクトは、負が大きいものをいかにシステムで効率化できるかを追求するもの。人事周りの煩雑なルーティンワークを減らし、そこで生まれた時間を、より創造的な業務や個人の生活の充実など何らかの益するものに費やされることを目指す。

「そのような変化の波は、大企業からでないと生まれません。そこから日本全体へ。実際に担当していたお客様は有名な大企業ばかりでした。大企業の人事部に切り込んでいくワークスのアプローチに魅力と可能性を感じていました。一方で、大企業は人事業務も細分化され、私たちが対面に立っている人に価値提供しても、その企業のすべてが変わるにはすごく時間がかかることに気づきました」と伊藤。いち早い成長を望んでいた伊藤にとって、変化に時間を要する状況は悩ましいものだったに違いない。

就職活動時、自身が牧野氏の言葉に激しく共感したように、「志」を起点に人が集まる組織にも憧れがあった。スタートアップを漠然とイメージし、転職活動を始めた。といっても仕事は忙しく、もどかしさはあっても目の前の仕事は楽しい。転職媒体に登録だけして放置していたところ、社名にスタートアップとつく会社からメールが来た。「社名が目についてたまたま開けたら隣のビルの会社(笑)。これなら仕事の合間をぬってすぐに話に行けると思いました」。

たまたまが重なって出会ったフォースタを訪ねると、「日本は地盤沈下している。それを我々が食い止める」という話をされた。どこかで聞いたことがある。しかも、その手段がわかりやすかった。「日本を強くするために、成長企業に人とお金を投じる。我々はそれがどこかを知っているから、成長の可能性が高い企業を順に支援するのだと。その考え方はとても納得がいきました。課題感は牧野さんと一緒。ただし、フォースタのほうがより直接的に課題解決できると思いました」(伊藤)。

点の支援ではなく、伴走して企業価値の向上を目指す。対企業の活動に注力

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▲CICラジオでゲストナビゲーターとして起業家をお迎えしている伊藤(写真左)

2020年3月に入社。コロナ禍でも伊藤はスムーズに結果を出した。だが、伊藤は点の成功事例に満足しなかった。牧野氏の言葉やフォースタのビジョンを反すうすると「ヒューマンキャピタリストの価値は1つの支援ではなく、支援がつながった先にその会社をどれだけ成長させられるかにかかっている」と考えたからだ。「たとえばA社に1人支援することも意味がありますが、わたしたちの真の価値はフォースタ全体で中長期でA社に何十人と支援し、企業価値を上げることだと。となると対個人より、企業への価値を最大化するべきと思いました」(伊藤)。

伊藤は早々に、対企業に活動の軸足を移した。最初に担当したのが、とあるBtoBのスタートアップ。もともとフォースタとはリレーションがある企業だったが、コロナで市場環境の変化が大きい中、「いま、このチームに行くべき魅力」が常にアップデートされなければ社内を巻き込んだご支援はできない。そう思った伊藤は粘り強く企業側とリレーションを構築し、組織や事情について情報のキャッチアップをし、採用について意見交換した。得た情報は社内で発信し、CEOを招いての勉強会も実現。より包括的な採用コンサルティングの提携契約を結ぶに至った。

伊藤の努力が一定の形になった。ここまでで1年強。点の支援と比べると当然、スパンは長く、フェーズごとに課題もあるべき姿も変わる。だが、これこそが伴走であり、ヒューマンキャピタリストの醍醐味だと感じた。そして、ここからさらに伴走は続く。

一方でシード期の企業も担当し、まったく違う課題にも向き合う。「その会社とは創業数カ月からのつきあい。プロダクトも何もない、未来を語るだけのチームにどう採用支援するか。議論もたくさんして、人数やポジションを出す以前に、一緒にチームが大きくなることを楽しむ感じです」と、ワクワクを隠せない口ぶりで伊藤はいう。

嬉しい反応もあった。「その起業家さんがご自身のSNSでフォースタや担当のわたしについてポジティブなコメントを書いてくれて」と伊藤。それはまさに、学生時代の子ども食堂的活動で見つけた夢の実現に寄り添う楽しさ、手応えだ。

起業家と同じ土俵に立つために自らも経営層を目指す。生半可な気持ちでは取り組めない

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このようにフェーズの異なる複数社に伴走し、結果を出している伊藤は「素晴らしいチャンスボールをもらっていると思います」という。が、「もらっている」は正しくない。伊藤が積極的にもらいに、あるいは拾いにいくのだ。ヒューマンキャピタリストという仕事への誇りは増すばかり。同時に新たな決意も芽生えている。

「日本を成長させるために、我々のやっていることは絶対に必要なこと。私はヒューマンキャピタリストという新しい仕事を、人々から憧れられる、例えば医者のようなみんなから尊いと思われる仕事にしたいのです。そうなれたら、日本は絶対によくなると思います。そのためにはフォースタが、スタートアップ支援集団に留まることなく、スタートアップに価値提供しつづけるバリューアップチームにならなければいけない。私自身ももっと大きくならないといけません」。

強烈な課題感を抱き、想いをもって数々の大変なことを現在進行形で乗り越えている起業家たち。生半可な気持ちで「伴走したい」とはいえない。その姿を間近に見るうちに、伊藤は、自分自身がフォースタの経営にタッチできる立場を目指すべきだと思うに至った。

「えらくなりたいわけではなく、同じ土俵に立つには不可欠だから。伴走という言葉の解像度を上げるためには、私自身が経営の視点を持たなければいけないと思うのです」。起業家が背負う重い荷物。その重さを理解したうえで伴走したい。この1年半強で得たもの、成長は大きいが、その分、伊藤は、今の自分には見えないものの存在にも気づいた。

「こうありたい」と思うヒューマンキャピタリストの像は、追えば追うほど遠ざかる。解像度が上がれば上がるほど、その差分を突きつけられる。だが差分に絶望することはない。学生時代のいろいろな活動に手を出す精力的な伊藤も魅力的だが、目標を定めてひた走る、迷いのない今の伊藤もまた尊い。

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