クリエイターからの圧倒的な支持を得つつ、近年急速にユーザー数を伸ばしている国内最大級のポートフォリオプラットフォーム「foriio(フォリオ)」。2024年9月、追加の資金調達を実施し、海外展開や新規事業にこれから本格的に力を入れていくというフェーズにあります。
他企業にはない、foriio独自の強みとは。また、場のプロデュース、キャリア支援事業、海外展開など、ますます広がる今後の可能性とは。株式会社foriio代表の山田寛仁を取材しました。
(執筆:藤田マリ子 / 写真:後藤あゆみ)
リリース以来、地道に支持を集めてきた「foriio」急成長の要因
株式会社foriio 代表・山田寛仁
――クリエイターの実績やスキルを簡単かつ美しくまとめることのできるポートフォリオプラットフォーム「foriio」。近年目にする機会が増え、ユーザー数が急速に増えている印象がありますが、まずは現在の「foriio」の状況について教えていただけますか。
山田:現在、国内外合わせて約15万人を超えるクリエイターが登録しており、「国内最大級のポートフォリオサービスになった」と言える状況だと思います。ユーザー数が急速に伸びているのはまさに仰っていただいたとおりで、2、3年前までユーザー数は5万人程度でした。直近の1、2年で、一気に伸ばしてきたという感じです。
――なぜ、急速にユーザー数が伸びたのでしょう?
山田:ユーザー増の大きな追い風になったのはコロナ禍です。2010年代後半は、ちょうどリモートワークや副業が徐々に当たり前になってきていた時代で、2019年1月のβ版リリース以来、「foriio」の認知はじわじわと広がっていました。ただ、クリエイターの人脈はリアルな場でつながることの方が多かったため、そこまでの必要性を感じない人も多かったと思います。
ところが、2020年にコロナ禍で、リアルな場での営業機会がなくなり、オンラインポートフォリオのニーズが急速に高まりました。「知ってはいたけれど使っていなかった」ユーザーが一気に登録に転じ、緊急事態宣言発令の翌日からデイリーの登録者数が一気に2倍になりました。以来、資金調達などもおこないながら、事業と組織の拡大に力を入れてきました。
唯一無二の強みは膨大なクリエイターのポートフォリオ
――「foriio」の基本機能は無料で使えると思うのですが、どのようにしてマネタイズをおこなっているのでしょうか。
山田:「foriio」のマネタイズには、大きく分けて2つの方向性があります。1つはユーザー向けの課金システム「foriio PRO」、もう1つはtoB向けのビジネスサービスです。
有料版の「foriio PRO」では、ポートフォリオをより細かく管理できる機能を提供しています。たとえば、カスタムドメインの設定ができたり、ポートフォリオ全体にパスワードを設定できたり、作品に著作権を保護するためのウォーターマーク(透かし)を入れることができます。詳細なアクセス解析機能も付いており、個々の作品がどの程度閲覧されているかを確認できます。
企業向けのサービスとしては、「foriio」の15万人分のクリエイターネットワークを活用し、クリエイティブを用いたコンサルティングやクリエイターのマッチングなどをおこなっています。弊社では「パートナーシップ事業」と呼んでおり、現在のforiioの主軸になっている事業です。
――人材紹介ということですか?
山田:そうとも言えるのですが、どちらかというと、パートナーとして企業に深く関わり、上流工程から支援をおこなっています。たとえば、「採用サイトをつくりたい」というお問い合わせがあった場合、企業のニーズをヒアリングをし、必要に応じてデザイナー、インタビュアー、カメラマンなどのチームを編成します。お問い合わせの段階ではコンセプトがふわっとしていることも多いので、そうした場合は具体的な企画の立案からサポートしています。
――ずいぶんきめ細やかなサービスを提供されているんですね。
山田:そうですね。最近は特に大手企業さんからのお問い合わせが増えていまして、そうなると「クリエイターさんを紹介して終わり」とはなかなかならないんです。「細かいクリエイティブのチェックはforiioさんにお願いしたい」といったニーズも多く、foriioのスタッフが加わって、一気通貫でプロジェクトに伴走しています。大変な部分もありますが、企業との安定的な関係性を構築できているからこそ、クリエイターに多くの活躍の機会を提供できるんです。
――膨大なクリエイターの中から、どのようにしてプロジェクトに最適な人材を選ばれているのでしょうか?
山田:そこがまさに、ポートフォリオが力を発揮するところでして、「foriio」に登録されている情報をもとに、プロジェクトに最適な人材を選んでいます。ファッション系なのか、テック系なのか、大手企業の案件が多いのか、中小企業向けの案件が多いのか。「foriio」では、すべてのユーザーのポートフォリオが同じフォーマットで登録されているため、そうしたクリエイターの傾向や強みを容易に掴むことができます。また、プロフィールの完成度によって、ユーザーの真剣さを判断することもできます。
一般公開はしていないのですが、社内にはこうしたクリエイターのポートフォリオ情報を横断的に検索できるシステムがあり、それぞれの案件に最適な人材を素早く抽出することができるのです。
――膨大なクリエイターのデータが、foriioの強みの源泉になっているというわけですね。
山田:そうですね。言ってみれば、“クリエイターの電話帳”のようなイメージです。それをこの規模で持っている会社が他にないため、私たちのところにさまざまなご相談が舞い込むんです。
最初はロゴやウェブサイトの制作といった一般的な受託案件から始まりましたが、ここ2、3年では、「場のプロデュース」のような案件も増えています。
たとえば昨年は、東急の「東急歌舞伎町タワー」のプロジェクトで、「歌舞伎町をエンタメの聖地にしたい。foriioのクリエイターと一緒に何かできないか」というご要望をいただき、「Kabukicho Creator’s Gallery Project」という企画をプロデュースしました。「個のクリエイターのエンパワーメント」という私たちのミッションを実現するうえでも、クリエイターの方たちが活躍できるリアルな場づくりは絶対的にやっていきたいことなので、今後はこうした「場のプロデュース」にも力を入れていきたいと考えています。
また、もうひとつの新たな試みとして、企業への就職・転職を希望しているクリエイターさんと企業をマッチングする「キャリア支援事業」も新たにスタートしたところです。これも、「国内最大級」と言えるような規模になってきたからこそ生まれてきた可能性で、今後は「マッチング」「場のプロデュース」「キャリア支援」といったさまざまな領域で、クリエイターが活躍できる機会を創出していきたいと考えています。
海外展開の突破口は「エンターテイメント×クリエイター」
――最近は、海外ユーザーの数も増えていると伺いましたが、海外ユーザーの割合はどのくらいなのでしょうか?
山田:現在、1日あたり150〜170人ほどのクリエイターの方が新規で「foriio」に登録してくださっているのですが、そのうち10%から20%が海外からの登録です。意図的に海外展開を進めているというより、クチコミでオーガニックに増えています。当初から英語と日本語でリリースしてはいたのですが、「foriio」が国境を越えて使って頂けるサービスであることを実感しているところです。
――どこの国のユーザーが多いのでしょうか?
山田:インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムなど、東南アジアのユーザーが圧倒的に多いですね。詳しく分析してみると、日本のエンターテインメントやポップカルチャーが好きなクリエイターの方が使ってくださっており、特にVTuber関連のクリエイターが多いです。モーショングラフィックスやCGアバターなどを制作している方々ですね。
背景には、日本のVTuber関連企業が海外展開を始めたことによる、東南アジア地域でのVTuber文化が広がりがあります。海外のVTuberファンの方が日本のVTuberコンテンツに触れ、「このコンテンツは誰がつくっているのだろう?」と調べる中で、「foriio」のクリエイターページに辿り着き、自身がコンテンツを制作するときにも「foriio」を使ってくださっているのではないかと分析しています。パートナーシップ事業においても、VTuber関連のクリエイターさんと企業とのマッチングは多く手掛けてきたため、この領域で「foriio」を使ってくださっている方は多いのです。
――今後は、より積極的に海外展開をされていくのでしょうか?
山田:リソースの都合上、まずは国内を優先することにはなりますが、ユーザー数30万人を突破次第、海外展開にも本格的に力を入れていこうと考えているところです。具体的には、まずはアニメ、漫画、ゲーム、VTuberなどのエンターテインメント領域のクリエイターたちに訴求したいと考えています。「この領域のクリエイターだったら『foriio』でポートフォリオつくるよね」という状態にまで持っていければ、海外でも十分に戦えるポジションを築けるのではないかと考えています。
「一歩踏み込んだ努力」が業界を変える
――組織とカルチャーについてもお伺いしたいと思います。現在は、何名ぐらいの組織で事業を運営されているのでしょうか。
山田:社員は3名、業務委託の方が10名で、13名の組織です。女性のメンバーはうち4名で、年齢は30代から50代までさまざまです。エンジニアなどプロダクトチームのメンバーについては、創業時から海外の方を採用しており、13名のうち4名が外国人です。
――インターナショナルなチームで開発しているからこそ、海外ユーザーにも自然と受け入れられるんですね。どんな雰囲気の方が多いと感じますか?
山田:真面目で、自立したメンバーが多いです。やるべきことを淡々とこなすタイプが多いというか、みんな落ち着いていますね。
スタートアップなので、ある日ガラリと方針が変わるなど、柔軟に動かなくてはならない場面もあります。そうした場面においても、そのときどきでやらなければならないことに一人ひとりがきちんと向き合えている点が、私たちのチームの特徴だと思います。
また、社内イベントなどが特別多いわけではありませんが、チームのメンバーでランチに行ったり、終業後にご飯に行くことはあります。仲は普通にいいですね。
――行動指針としてのバリューについても教えていただけますか。
山田:6つのバリューを設定しているのですが、特に私たちの価値観を反映しているバリューが、「クリエイターのために、一歩踏み込んだ努力をする」というバリューです。
クリエイター向けのビジネスって、面倒くさいこともいっぱいあるんです。たとえば、「クリエイターが自分の実績をポートフォリオに載せてよいか」という点は、この業界でしばしば問題になります。特に広告業界では、基本的にNGになることが多いのですが、私たちのパートナーシップ事業では、1件1件クライアントと交渉して契約を締結しています。
なぜそこまでするかというと、こうした面倒くさいことをやらないと、クリエイターの働く環境は変わっていかないからです。
もちろん、私たちにも売上の目標がありますし、そうした交渉で揉めた結果、案件を失うというリスクもあります。でも、そこで「一歩踏み込んだ努力」をしなければ、クリエイターの活躍の場は広がっていきません。クリエイターたちの活躍の場を広げるために、粘り強い努力を重ね、業界の慣習を少しずつ変えていく。これは私たちが、非常に大切にしているマインドなのです。
新規事業を牽引し、「世界を獲る」という気概のある人に来てほしい
――追加の資金調達も発表されましたが、今後の事業展開のビジョンについて教えてください。
山田:まずは、1年以内にユーザー数を30万人まで伸ばし、国内トッププラットフォームとしてのポジションを確立したいと考えています。同時に、海外ユーザーも増えてきているところなので、海外展開も積極的に進めつつ、次の1〜2年で世界100万ユーザーを目指したいと考えているところです。
並行して、弊社の売上の大部分を構成しているパートナーシップ事業にさらに力を入れていきます。具体的には、近年伸びてきている「場のプロデュース」に関するプロジェクトや、新たに立ち上げたキャリア支援事業に注力し、事業の柱として育てていきたいと考えています。
――そのビジョンを実現するうえで、どのような課題を解決する必要がありますか。
山田:組織の拡充は急務です。具体的には、パートナーシップ事業のディレクターやプロデューサーとして働いていただける方と、リクルーティングアドバイザーやキャリアアドバイザーのような立ち位置で、キャリア支援事業を担当してくださる方を探しています。
私自身を含め、広告の企画制作の経験があるメンバーはいるのですが、リアルな場のプロデュースとなると、やはりその領域のプロフェッショナルの方がいらっしゃると思うので。商業施設で企画や運営を担当されていた方や、ポップアップやイベントのプロモーションを担当されていた方に加わっていただけたら、非常に心強いですね。キャリア支援事業についても、採用や人事などのバックグラウンドのある方に加わっていただけたら助かります。
また、これから30万、50万、100万と急ピッチでユーザーを伸ばしていくフェーズにあるので、「我こそが、『foriio』で世界を獲るんだ」という気概のある方に来ていただけると嬉しいです。
――最後に、このタイミングでforiioに参加する面白さについて教えてください。
山田:この規模とスピード感で成長している、さらに海外を獲れる可能性のあるクリエイター向けのウェブサービスに関われる機会って、なかなかないと思うんです。中でもポートフォリオは、クリエイターにとってマストのツールであり、将来的に大手企業が本格的に参入してくる可能性はあります。でも、いまならまだ十分に勝てる余地が残されている。そこが面白いポイントだと思っています。
また、デジタルなプラットフォームを軸に働くということは、国境を越えて働けるということでもあります。日本のクリエイティブの強みを活かして世界に出ていくことや、海外のメンバーと働くことに魅力を感じてもらえる人にとっては、非常に面白い環境なのではないかと思います。