バングラデシュの栄養失調問題解決という原点
2012年12月の東証マザーズ上場に向けた準備が佳境に差し掛かっていたとある日、永田は、チームメンバーの一言に虚を突かれた。
「ユーグレナ社はいつになったらバングラデシュの子供たちにユーグレナを配るんですか」
永田は2008年に取締役に就任した以降、事業パートナー構築、組織整備、事業戦略立案などに取り組み、東証マザーズ上場の実現に向けて全速力で走っていた。もちろん、創業のきっかけがバングラデシュの子供たちの栄養失調問題を解決したいという出雲の想いにあることは知っていたし、その想いに強く共感していた。しかし上場準備に忙殺される日々の中、それはまだ長期的に実現すべき漠然とした目標に過ぎなかった。メンバーの素朴な一言は、そんな永田の目を覚まさせた。「東証マザーズ上場という目標を達成した後に、何に取り組むべきか。もちろん更なる事業拡大もバイオジェット燃料の実現も大事だが、今こそバングラデシュ事業にも取り組む時ではないか」。
上場準備の激務の合間を縫って、バングラデシュでの事業化検討に取り組み始めた。
「まず現地に行ってバングラデシュの現状に関する情報と実体験を得なければ始まらない」
さっそく外務省のODA案件化調査に応募し、無事採択された“ユーグレナを用いた母子保健事業案件化調査”のプロジェクトマネジャーとして、東証マザーズ上場日(2012年12月20日)の翌日にバングラデシュに飛んだ。
そして、確信した。
「ミドリムシを子供たちに届けて、バングラデシュの栄養失調問題を解決したい。でもそれだけではもったいない。バングラデシュは必ずもっと経済成長して、大きな市場となる。まだ日本企業が進出していない今こそ、身軽なベンチャーであるユーグレナ社がいち早く進出して、ユーグレナをバングラデシュの人々に浸透させるべきだ」
そこから永田とチームメンバーによる、日本とバングラデシュの往復の日々が始まった。そして、現地での情報収集や意見交換を経て、一つのアイディアにたどりついた。
「バングラデシュには給食が無い小学校も多く、貧しくて弁当もないので、子供たちはお腹を空かせながら勉強している。ユーグレナ入りのクッキーを給食の代わりに食べてもらえば、子供たちも勉強に専念でき、発育も良くなる。そして、将来大人になった時に日本人にとっての給食の牛乳のような、原体験における栄養がある食べ物として将来のお客様になってもらえる可能性がある」
方針が決まった後は、事業化に向けた準備に取り組んだ。現地の協力パートナー探し、クッキー製造委託先の確保、現地運営メンバーの確保、現地事務所の設立…そして、遂に準備が整った。
ついにユーグレナ入りクッキーの配布が始まる
2013年10月、ユーグレナ社としては初の海外拠点となるバングラデシュ事務所が開設した。そして、2014年4月、「ユーグレナGENKIプログラム」と命名されたユーグレナ・クッキー配布事業がダッカ市内の小学校を対象に開始された。永田は社長の出雲とともにダッカ市内で開催されたオープニング・セレモニーに出席し、その足で配布先の小学校を訪問した。笑顔で駆け寄ってきて、クッキーを美味しそうに食べる子供達…永田の熱が実を結んだ瞬間であった。
GENKIプログラムの初年度のクッキー配布予定は8校で2,500人。2017年3月末までで約7000人に年間160万食を配布するまでとなった。将来の目標は、バングラデシュの全ての小学校に給食を導入し、100万人の子供たちにユーグレナを食べてもらうこと。バングラデシュの栄養失調問題解決に向けたチャレンジは、未来への一歩を踏み出した。